ガギンッ!と耳を覆いたくなるような金属音が鳴り響いた。それは開戦の狼煙であり、鈴の双天我月と一夏の雪片弐型が火花を散らしてぶつかり合ったのだ。
二人は鍔迫り合いの状態から同時に離れるが、
「初撃を防ぐなんてやるじゃない!けどね!」
双天我月を軽々と回しながら、遠心力を伴って幾度も斬り込んでいく。
斬るという概念の元に生まれた日本刀型の一夏の雪片弐型では、力で押し斬る薙刀の鈴とは圧倒的にパワーが足りない。このままだとジリ貧だ。
本人も気付いたらしく、一度距離を取り始めたが、その瞬間を代表候補生は逃さない。
「甘い!」
「ぐあっ!?」
肩のスパイク状の球体がスライドして開き、中の銃身が光った瞬間、一夏は殴られたかのように後ろへ吹き飛んだ。
なるほど、アレが衝撃砲か。
空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲撃化して撃ち出す、だったか?
『(衝撃そのものを飛ばされると、中々視認しにくいな)』
俺が解析していると、連鎖的に重い音がアリーナから響いてくる。
まるで城の壁から放たれる大砲、それを彷彿させる爆音と砲弾が、一夏を追い詰めていく。
数分の後、二人の攻防が止んだ時、一夏がニヤリと笑った。
「鈴」
「………何よ」
「本気で行くからな」
技術や経験、ISを操縦するのに必要な経験値が圧倒的に劣っている今、一夏に残っているものは。
『(それだけは、負けるワケにはいかねぇよな)』
意志だけは、心だけは負けてはいけない。ひたむきに、ひたすらに心を信じる意志の強さが、暗闇に包まれた状況に一筋の光明を差す。
瞬時加速―イグニッションブースト―
後部スラスター翼からエネルギーを放出、その内部に一度取り込み、圧縮して放出する。その際に得られる慣性エネルギーを利用して、爆発的な加速を可能にする。
上手く使えば、代表候補生が相手だろうと充分に渡り合えるだろう。
「当たり前よ!格の違いを見せてあげるわ!」
鈴が双天我月を構え、一夏が瞬時加速の準備に入る。
そして、動いた。
「うぉおおおぉおおおお!!!」
一夏の刃が届きそうになった瞬間、
『……っ!?』
ズドォン!!と轟音が炸裂した。
アリーナの中央に降ってきたそれは大きなクレーターを作り、砂塵を盛大に焚いてゆっくりと動き出す。
『…残念ながら、警備に回って正解だったな』
だが問題はそこではない。一番の問題は、”ISのシールドバリアと同じ強度を持つはずのアリーナのシールドを壊された”事だった。
つまり一発でも食らえば問答無用で絶対防御が発動し、二発目で最悪死に至る。
俺はハイパーセンサーでその黒い塊を視認しつつ千冬さんに連絡した。
『千冬さん、アレは一体なんですか?』
「私にもわからん」
俺のハイパーセンサーでもUnknownで一切のデータが判明しない。
そこで突然、けたたましい警告音と共に出入口が全てロックされ、観客席にはシェルターが展開され覆われ始めていた。
セキュリティ設定はC。本来なら全ての避難誘導が終わってからでないと完全な隔離状態にされてしまう為、脱出も救援もできない。
生徒が大勢いる中でこの対応はハッキングか。俺は出入口に向かって避難誘導されている人波を突き抜け、
『一年一組、御剣彰だ。緊急事態の為、ISの使用を許可願いたい』
「わ、わかりました!」
避難誘導をしていた先生に許可を貰い、俺はアトを叩き起す。
『千冬さん』
「何だ」
『扉、ぶった斬ります』
通信先の千冬さんが何か言っていたが、俺は右耳に付けたインカムを投げ捨てる。
どんな状況であれ、まずは生徒の安全を確保しなければいけない。
『応援部隊、及びに生徒の皆さんは離れていてください』
アトも緊急事態に気付いたのか、パニッシュメントを用意してくれた。俺は出入口の前に立つと、肘のスラスターを全開で吹かし、縦横無尽に剣を振るう。
出入口の向こう側にいた三年生達が驚いて少しの間固まっていたが、呼びかけるとすぐに生徒達の避難誘導に移り始めた。
ドゴォン!と腹に響く轟音がアリーナ全体を揺るがし、逃げるように誘導が加速する。
俺達の時間を稼ぐ為に、あいつらが戦ってくれている音だ。
「君も早く!」
『悪いが、ここからが俺の任務でね』
轟ッと暴風を撒き散らし、俺は推進翼の全てで瞬時加速の準備をする。
『一夏を守る。それが俺に与えられた特別任務なんだ』
カチリ、とパニッシュメントの引き金を引き、峰から短い炸裂音が渦巻く。
『おォオオオオオオオオオ!!』
パニッシュメントのブーストと瞬時加速の速度を攻撃力に転換。つんざく破砕音を置き去りにする勢いで、俺はアリーナのシールドを破り、一夏達の元へ飛んだ。