あの後、一夏が千冬さんの弟だと発覚した事により一層騒がしくなったりと色々あったが、クラスメイト全員分の自己紹介は無事に終わった。
『(IS学園か…面倒だな…)』
口に出さずに呟く俺は、周囲からの女子の視線が俺達に集中している事に溜め息をつく。
「なぁ彰。何か視線が強くなってる気がすんだけど………」
『……………気のせいだろ』
半分諦めながら溜息と一緒に吐き捨てる。半分、というのは既に自分達がある程度の知名度を持ってしまっているからだ。
“世界で唯一ISが使える男達”とニュースや新聞等で大々的に広報されてしまっているのである。見つかってしまった宇宙人のようなものだ。
故にこの学園全体が知っているわけで、今も廊下の窓やらドアやらから他のクラスの女子や二、三年生達が通勤ラッシュのように詰めかけている。
しかし、一夏が言ったのは「そういった物見遊山な視線じゃない」との事だろう。実際に、クラスメイトから送られてくる視線は稀有の眼差しから突き刺すような視線に変わっている。
それは、何故か俺の自己紹介が終わってからだった。
――――――――――
「御剣君、自己紹介、お願いしてもいいですか…?」
『りょ……わかりました』
俺の名前が呼ばれ、つい『了解』と言ってしまいそうになったのを寸でのところで飲み下すと、俺は教卓の隣に立って何時ものトーンで自己紹介を始めた。
『俺は御剣彰、一夏の親友だ。一夏に手を出そうとする馬鹿は俺が排除するが、出さないのであれば危害を加える気はない』
なるべく優しく、かつ自然に言い放ったが、教室内は先程とは違う沈黙で満たされていた。
『………何か、質問があれば答えるが?』
静まり返ってしまった教室に、虚しくも俺の声だけが響く。おかしい、こんな筈ではなかったんだが…と横目で千冬さんを見ると、盛大に溜息をつかれてしまった。
ゴクリ、と唾を呑み込む音がして、俺はそれを合図代わりに席に腰を下ろす。
そして、
――――――――――
今に至る。
女子達は遠巻きに集まりひそひそと話しているが、集中すれば断片的に内容が聞こえてくる。
「……っぱり攻めよ、」
「意外に………受け……」
盗み聞きしたところで、何を言っているのかさっぱりわからなければ無意味だが。
『(しかし、これから此処で生活する事を考えるとサッサと友好的な関係になりたいものだ)』
高校生活をいつまでもこの状態で過ごすのはいくら精神訓練を受けた俺でも遠慮したい。むしろ拷問よりタチが悪いんじゃなかろうか。
「………ちょっといいか?」
二人して頭を抱えていると唐突に話しかけられ、振り向くとそこには長い髪を白いリボンでポニーテールにした少し不機嫌そうな女子がいた。
「………箒?」
一夏の言う通り、箒という名前なのだろう。
「廊下でいいか?」
「あっ、あぁ…」
一夏は「悪い」と言って両手を合わせて立ち上がり、教室から出ていく。
俺は手をプラプラ振りつつ欠伸をして、あの日本刀が似合いそうな女子に既視感を抱きながら眠気で霞がかった頭で適当に思考する。
『(あの顔、誰かに似てるような…?)』
一度何かを考えると、どうでもいいことまで考えてしまうのが人間である。着替えや風呂、これだけの人数がいる学園ならば必然的に二人部屋という形になるだろうが……
『(機密レベル的に考えれば、俺は一人部屋だろうがな)』
湧いてくる疑問に適当な答えを当てはめていると、二時間目の始まりを告げるチャイムが鳴り響いた。
チャイムと一緒に一夏と箒が入ってくるが、一夏は考え事でもしているのか、ゆっくりと歩いている。
その背後から、もう何度目かわからない平手打ちが綺麗な音と共に叩き込まれた。
「さっさと席につけ、織斑」
「……ご指導ありがとうございます、織斑先生」
一夏の脳細胞は、午前中だけで二万個死んでいた。
――――――――――
授業が終了し、俺は疲労感を引きずりながら学園内を練り歩いていた。
何故ならば、俺に関しては事前資料なるものが送られてきておらず、校内の地図やどういった施設管理なのか見当もつかないのだ。
休み時間の度に校内を練り歩いているのは避難経路等の確認の為でもあり、人間の生理現象を解消する為でもある。つまり、
『何でトイレがないんだ…』
というワケだ。
良く考えれば、IS学園には元々女子しかいなかったのだから、男子トイレが設置されている筈がない。
散々探し回った挙げ句、結局は職員室付近にある全学年共用のトイレを一時的に俺達男性用にする事になった。
一夏に土産話もでき、歩き回った疲労感による重たい足取りで教室に戻ると、一夏が外国人の女子と話している。
「ISのことでわからないことがあれば、まぁ……泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せわたくし、セシリア・オルコットは入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから!」
長々と自慢気に語る美少女。
ロールがかかった金髪にブルーの瞳をした、いかにも貴族のお嬢様といった風貌の女子が胸を張って一夏に迫っていた。
何とも気に食わない奴だ。しかしそれも今の時代では仕方ないことなのだが、俺と一夏に関してはそれに真っ向から抗えるワケで。
『そうか、お前が俺の一個下に載ってたイギリスの代表候補生か』
低い声で後ろから問いかければ、ビクリと肩を跳ねさせて振り向いてくる。それを鼻で笑いながら、俺は自分の席に座る。
『第一、教官なら倒してるぞ?俺達は』
IS学園の入試では教官との模擬戦が行われる。一夏の相手は山田先生で、ブースターの調節に失敗したのか暴走して突っ込んでしまい、壁に激突して気絶してしまった。
あれを倒したと言えるのかはわからないが、この際それは隠しておこう。因みに俺の相手は千冬さんで、2時間程の激闘を繰り広げた結果合格通知を貰った。
「わ、わたくしだけと聞きましたが…?」
「女子ではってオチじゃないのか?」
代表候補生はそれが腑に落ちないらしく、一夏の言葉を皮切りに騒ぎ出し始めた。
三時間目の始まりのチャイムが割って入り、捨て台詞を吐いてセシリアは去っていく。
また厄介なのに目を付けられたな、と一瞥すると一夏は苦笑いを浮かべていた。