IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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5P目

 

 

『…………ん……』

 

全身の激痛に呼び起こされ、俺はゆっくりと瞼を開けた。

 

辺りを見渡せば、どうやら保健室のベッドに寝かされているようだ。しかし、傷を負ったとはいえまともに眠ったのはいつ以来だろうか…

 

「気がついたか」

 

確認を取る前にカーテンが開けられ、声の主である千冬さんが入ってくる。この分だと、バレたかもしれないな…

 

「体に致命的な怪我はないが、全身打撲だ。数日は地獄だろうが、軍の時よりはマシなほうだから耐えろ」

 

『あの時の筋肉痛のほうが確かに辛かったですね』

 

ISで守られてもいないのに毎日死にかけたからな…訓練も鬼のように厳しいし、人間のキャパシティを超えてるぞあの地獄は。

 

「それと、何点か問いたださなければならない事項がある」

 

あぁ、やっぱり。

 

「お前、いつから眠れてないんだ?」

 

はぁ、と小さく溜息を吐き捨てる。予想通り、俺のメディカルチェックの際に”色々”調べたのだろう。

 

『俺の体を勝手に調べるのはいくらIS学園でも処されますよ』

 

「これは質問でもあるが、お前の身を案じる家族の気遣いでもある。一応お前の保護者でもあるからな」

 

『はぁ……それを盾にされると何も言えませんね』

 

千冬さんの顔は教師でも教官でもない、重要任務中のそれだった。下手な嘘は即座に見抜かれる。

 

『……受験の時、俺のISを再び起動させてからですね。レム睡眠で三十分から一時間、それが最長です』

 

「……お前の肉体構成についてはどうなっている?」

 

『調べられた通り、IS適正を上げる為に人工的な紛い物が混ぜ込まれた人間欠陥機ですよ。そして自分自身では調整はできません』

 

「これが最後の質問だ。お前のIS、アレはなんだ」

 

本命はこっちか。

 

『アトは…感情というAIを初めて搭載したISです』

 

喜び、悲しみ、怒り、およそ人間が持っている感情をサンプリングし、AIというデータにして埋め込まれた世界で唯一の特例だ。

 

しかし進化を続けるISは、それを”喰らった。”その瞬間に、アトという愛称を持つ少女が生まれた。

 

俺自身が半分はISという事から、両者への干渉も容易い。

 

『そのおかげで意図せずに展開したりもたまにあるくらいで、俺がアトといる限り実害はないですよ』

 

ふー…と息を吐いて、千冬さんは目頭を揉みながらしばらく思考する。

 

「……どれくらい保つ?」

 

『これからのIS授業数と、今回のようなイレギュラー対応を踏まえても…夏の終わり頃ですかね』

 

正直に言ってしまえば、そこまで保つかも怪しいが…それまでに束さんに会えばいいだけだ。

 

「…何故、黙っていた」

 

『実験中のモルモットをわざわざ公開する必要性がないでしょう?結果も出ていないのに』

 

「彰……!」

 

ガタンッと盛大に椅子を弾き飛ばして、千冬さんが俺の胸倉を掴み上げる。その表情は怒りと悲しみをごちゃ混ぜにしたような悲痛な顔だった。

 

『……悔やむなら、憤るなら、俺の事は捨てて下さい。実験動物に感情を抱いてはいけない』

 

千冬さんですら知らなかった、俺の存在がひた隠しにされていた理由がこれだ。政府が非人道的な行いを世間に広める筈がない。

 

ましてや、”ISは女性しか動かせない”という根底を覆す行いをしているのなら尚更だ。

 

「……質問は以上だ。しっかりと休め」

 

舌打ちと共に俺から手を離した千冬さんを、俺はただ見つめる事しかできない。

 

どうせあまり眠れないだろうから、本の一つでも置いてって欲しいんだが…おぉ、流石は千冬さん。ドサッと置いてったよ、参考書だけど。

 

「それから」

 

立ち上がった千冬さんが、カーテンに手をかけながら振り向かずに告げる。

 

「よくやった。流石は私の弟子だ」

 

それだけ言うと、カーテンの向こうに消えていった。褒めるのが苦手な千冬さんがそんな事を言うなんて、余程心配をかけてしまったのだろう。

 

『だから黙ってたんだがな…』

 

俺という存在は、人の形をした兵器だと自負しているし、そう在るように育成されている。正義の名のもとに人を殺した事もあるし、大を生かす為に小を見捨てた事さえ何度も繰り返した。

 

そうして、血で黒く染まった俺が生きる為に足掻くなど笑い話にもならない。俺は、今まで犯した罪と共に地獄に堕ちなければいけないのだ。

 

ただ、俺が世界で唯一憧れたあの人に。もう一度だけ、会いたい。

 

『束さん……』

 

あなたは、何処にいますか。呟いた言葉は虚空に溶けて、消えていく。

 

俺を見つけたのは偶然なのですか、俺にISを与えたのは当然なのですか、俺を送り出したのは必然だったのですか。

 

なにも、一つも、欠片も、わからない。それが知りたくて、それを追い求めて、それを解明したくて、あなたを探す。

 

『約束、守りますから…待ってます』

 

浅い浅い、まどろみが瞼を下ろす。今日はどうか、夢を見ないくらい深く眠らせて欲しいな…

 

 

―これが、約束。ちゃーんと守るんだぞ―

 

―それを守れば、また会える?―

 

―モチのロンロン!―

 

―なら―

 

―ちゃんと、イチカとホウキを守るよ―

 

 

 

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