IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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第四話 金髪王子は幼馴染
1P目


 

 

 

 

退院した次の日の朝、俺は山田先生に連れられて生徒寮にいた。

 

この間の一件で、効果が薄いにしても充分な休息が取れるようにとの計らいで、部屋を移されるらしい。

 

しかし、同時に俺という最重要機密事項を野放しにすることもできず、学園内で過ごす間は監視が付くとの事だ。

 

まぁ、俺の体に手を出そうとすれば返り討ちに合い、更には政府から直々に抹殺されるだろう。要は腫れ物だな。

 

「ここが御剣君達の部屋になります。これからは、千冬先生と一緒に起きないで済みますよ?」

 

そう言って暖かく笑う山田先生に、俺も釣られて笑った。恐らく、和ませてくれようとしてくれたのだろうから、ここは笑っておかなければ。

 

『ところで、ご紹介頂いた相部屋になるという生徒はどちらに?』

 

こちらです!と元気よく答えた山田先生の後ろから、一人の生徒が現れる。

 

そして、言葉を失った。

 

「御剣君には先に紹介しますね。この人は――」

 

 

「フランスから来ました、シャルル・デュノアです。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さん宜しく御願いします」

 

中性的な顔立ち、長い金髪を首の後ろで束ねた、爽やかな笑顔がまるで貴公子のように見えるシャルル。

 

山田先生に紹介されて二度驚いたが、一度目は俺が昔フランスで長期滞在した際にお世話になった親子に似ていた事。

 

もう一つは、シャルルが”男子”だった事だ。

 

「「「「きゃああああああああああ!!!!」」」」

 

「三人目の男子!!」

 

「守ってあげたくなる系の!」

 

「生きてて良かった~!!」

 

学園が揺れたのではないかと思うくらい大音量の声が上がり、思わず耳を塞いでしまった。ほら千冬さんが見てるよ、めっちゃ怖い顔で。

 

さて、そろそろ授業の準備をしなければ…

 

「あー、騒ぐな、静かにしろ」

 

至極鬱陶しそうにぼやく千冬さんに、クラスメイトは即座に口を閉ざしていく。

 

思春期女子よりも千冬さんの発言の方が優先されるIS界隈、大丈夫だろうか…って教師の言う事を聞くのは当たり前か。

 

「み、皆さんお静かに!まだ自己紹介が終わってませんから~!」

 

そう、転校生は二人いたのだ。シャルルが貴公子と呼べるなら、もう一方は軍人。

 

長く手入れのされていない銀髪、左目には黒い眼帯、軍服のような制服を着た目つきの鋭い少女。

 

俺にとっては戦友であり、旧友であり、因縁もある良き好敵手だった者だ。

 

「………………………………」

 

その旧友は一向に口を開かず、見下すような冷めた目で俺達を眺めていた。ただ一つ、俺を見た瞬間にだけ見せた不敵な笑みが気にかかるが…

 

「…挨拶をしろ、ラウラ」

 

「はい、教官」

 

千冬さんに言われると佇まいを直し、即座に返事をする転校生――ラウラにクラス一同が呆けた顔をする。

 

ドイツ軍は完全なる実力主義だ。そのお陰で俺のような子供ですら指導官に抜擢されたりしたが、あの時の絶対的強者は千冬さんだった。

 

それに加え、ラウラは千冬さんに助けられた人間でもある為、あいつの中では千冬さんが神格化されているのだ。故に命令の背く事はなく、命を懸けて実行する。

 

「ここではそう呼ぶなもう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」

 

「了解しました」

 

両足のかかとを合わせ、真っ直ぐに伸ばした手は体の横、見事な直立から軍のイメージがすぐさま湧くだろう。どこまでも形式ばった奴だ。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

「………………………………」

 

続く言葉を待っているのだが、本人は続ける気はないだろうな。馴れ合う気はない、そういう意味が込められた拒絶にも似た挨拶だったのだから。

 

『(……クラリッサは何をしてんだ)』

 

あの日本文化大好き人間は副官でありながらラウラになにも教えてないのだろうか。思わず頭を抱えていると、不意に感じ慣れた”殺気”を感じた。

 

「貴様が――」

 

『させるか』

 

一夏の体を問答無用で俺の方に引っ張ると、一夏の顔があった場所にラウラの手が横薙ぎに空振りする。

 

眉間に皺を寄せ、明らかに不機嫌な顔になったラウラの視線を真っ向から睨み返す中、当の本人は混乱状態で俺とラウラを交互に見てくる。

 

「……何をしている。何故お前がそいつを庇うのだ」

 

『悪いが俺も事情を抱えている。そもそも黒ウサギが何をしに来た?』

 

より鋭くなった視線に更なる殺気を込めて思い切り睨まれる。久し振りの再開だというのに、随分な挨拶をされたものだ。

 

「あー…ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合、今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

はい!と元気に返事をした我がクラス一同の顔がとても和やかでなによりである。千冬さんも和やかな笑顔で俺を見て…っ!?

 

「御剣、デュノアの面倒はお前が見ろ。同室だろう」

 

出ました千冬さんの「厄介事はお前に任せた」作戦。面倒を見るのは構わないが、同室だとバラす必要性はないだろうに。

 

そのせいで獲物を見つけた狼のような視線が一斉に飛んできている。少しはこのクラスに馴染めたと思ったが、まさかまだ羊だったとはな。

 

「君が御剣君?初めまして、僕は――」

 

『悪いがそういうのは後だ、女子が着替え始める前に移動しよう』

 

俺はシャルルの手を取り、目的地である第二アリーナの更衣室に向かう。流石の俺でも女子数十名の着替えに混ざるのは勘弁願いたい。

 

「えっ、あの…!?」

 

シャルルが混乱しているのが見て取れるが、今は説明している暇がないのだ。そして階段を駆け下りながら、その理由と対峙する。

 

「見つけた!美形三人組!!」

 

「みんな!こっちこっち~!」

 

つまり、こういう事だ。世界中でも二人しかいないIS操縦者が三人に増え、更には一つのクラスにまとめられている。

 

言うなれば歩く広告塔のようなものだ。そして思春期真っ盛りの花の十代にとって、その本物が身近にいるとわかればこうして野次馬のように集まってくるのは自然な事。

 

休み時間等なら適当に流して相手をしてもいいが、次の授業まで残り数分なんていう状況で相手していたら遅刻してしまい、千冬さんに怒られる。

 

この最悪の方程式から逃れる為に俺達はすぐに動いたんだが、

 

「ダメだ!最短距離をつぶされた!」

 

『チッ…迂回するぞ』

 

どうやら先回りされてしまったようだ。ここから迂回して間に合うかどうか…あっ。

 

『先に行くぞ、一夏』

 

「はっ?ってお前…!」

 

『A bientot(またな)』

 

俺はチョーカーを二回つつき、アトを起こして推進翼だけ部分展開。シャルルを抱えながら廊下をすっ飛ばしていった。

 

「卑怯者ーー!!」

 

聞こえない聞こえない。

 

 

『とりあえず、授業には間に合いそうだな』

 

無事―あいつは犠牲になったが―更衣室に到着した俺達は適当なロッカーに手をかけ、早速着替えの準備を始める。

 

そういえば、ISの無断使用等は一体どうやって監視しているのだろうか。流石に移動中の使用はわからないだろう。というかわからないでくれ、殴られる。

 

「あれ?彰のISスーツってもしかして……」

 

『あぁ、俺のはデュノア社製の特注品なんだ。いつも世話になってるな』

 

デュノア社には個人的な恩とデザイン性を見込んでオーダーをしている。今では男のIS操縦者と世間に公表されている為、どこか一つのIS社に決めないと勧誘が止まらないのだ。

 

デュノア社の社長と繋がりを持てたし、俺の知識や技術と引換にIS関連の研究施設やパーツ等を融通してくれるギブアンドテイクな関係にもなれて、俺としては万々歳である。

 

「だから二つも作ってたんだ…」

 

『ん?そんなことより、早く着替えないと千冬さんに理不尽な罰ゲーム貰っちまうぞ』

 

俺は上着を順に脱いでいきながら、簡易調整用の端末を開く。丁度胸の辺りに展開されるアトのパラメータが表示された薄緑色の半透明なウィンドウを眺めながら、

 

『よっと』

 

「うわぁ!?」

 

無地の黒シャツを脱いだ瞬間、背後からシャルの悲鳴に似た声が上がった。

 

『シャルル?どうかしたのか?何度も言うが早く着替えないと…』

 

「な、なんでもないよ!?き、着替えるから、その…………あっち向いてて…ね?」

 

いや、流石に男の体が見たいなんていう気持ち悪い願望は持ち合わせていないからする筈もないが…どうして女子は俺をそういう材料にしたがるんだ。

 

『……よし。特に異常はなさそうだな』

 

着替え終わった俺はアトのデータに一通り目を通し、微調整の必要な部分を弄り始める。

 

機体修復率、各部稼働率、パーツ毎の反応速度等オールグリーンだ。流石はIS学園、整備士に相当凄い奴がいるなこれは。

 

『(だがやはり、各スラスター等の出力関連、本体の拡張領域ですらスカスカなのにロックされているな)』

 

原因はこのバカ娘による気まぐれと、束さん直々にかけた制御機構によるものだ。出力は基本的に半分に制御され、それ以上の解除は全てアトの意志に委ねられている。

 

そして拡張領域は俺自身が手がけた武器でないとアトは拒絶してしまう。その対策として後付領域を追加したんだが、そっちまでロックしやがったので諦める事にしよう。

 

『シャルル。そろそろ…』

 

シャルルの方に振り向くとすでに着替え終わっていたようで、和やかに手を振って答えてくれる。

 

さて、本日も頑張るとしよう。

 

 

 

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