IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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4P目

 

 

 

 

「よっ、ほっ…」

 

『そうだ、上手いぞ。ではそのままISをしゃがませてくれ』

 

「緊張した~」

 

訓練機として配布されたIS―打鉄―から抱きかかえて笑顔で『上出来だ』と一言褒めてから次の順番を待っている生徒へ近付いてく。

 

抱きかかえて、というのは所謂お姫様抱っこというやつであり、笑顔で一言添えるのはコミュニケーションの一つだ。女性は損得無しの優しさや笑顔を浮かべる人間を好むのだとクラリッサが言っていた。

 

『次は………』

 

「わたしだよ~」

 

妙に間伸びした緩い返事に目を向けると、俺の胸に何かが衝突した。下を見れば、ピンクのツインテールに半分ほど閉じられた眠たげな目をした生徒が俺の腕を引っつかみすっぽりと収まっている。

 

本名は布仏本音、通称のほほんさん。しかし緩い見た目とは裏腹にISの開発・整備関連について優秀な成績を持っている生徒であり、この学園の生徒会長とも親しい仲であるという。

 

俺自身はまだ会ったことはないが、ロシア代表の座に日本人が席を置いているのは聞いた事がある。一度代表のレベルを計るという意味でも手合わせ願いたいが…叶うことはないだろうな。

 

「わたしはおんぶがい~」

 

『……別に構わないが、怪我するなよ?』

 

言われるがままに俺は背中を向けると、のしっと背中に確かな重みと柔らかいものが当たる。一般的な男性ならば役得とするのだろうが…拷問耐久訓練の際にその手も味わったせいでなにも感じないから虚しい。

 

「そだそだ、たっちゃんが会いたがってたよ~?」

 

たっちゃん…という名称は生徒会長を指しているのか、それとも整備課の誰かなのだろうか。しょっちゅう出入りしているせいで整備課希望と間違われるくらいだからな…

 

『(……日常生活くらい、思考から離れるべきだな)』

 

勘繰りや推測のオンパレードでは心身共に休まる筈もないだろう、このポンコツめ。そう言い聞かせていると、授業終了のチャイムが鳴り響いた。

 

『そうだ、シャルル。昼飯一緒に食わないか?』

 

だがこうして目の前に思考しなければならない相手――シャルルがいる限り、当面は無理だろう。

 

そもそも、デュノア社に男性IS操縦者が居るはずもない。存在しているのであれば早々に公表し、社のイメージアップや宣伝に起用される筈だ。

 

更に言ってしまえば、そんな特異な存在ならデュノア社は既に俺を持っている。その状況で二人目の男性IS操縦者を囲っているとなれば絶大な広告力と引き換えに上層部に目を付けられてしまう。

 

リスクを顧みずにやらなければいけない何か……IS学園の破壊工作か?いや、狙うなら破壊ではなくデータだ。ここは各国の代表候補生レベルの機体があり、実戦データの収集もされているのだから。

 

『(千冬さんに報告して指示を仰ぐか…?それでも情報が足りなすぎる)』

 

千冬さんなら万が一にも下手な処置はしないだろうが、ここは単独で動いたほうがやり易いな。ひとまずは”交流”を深めようじゃないか。

 

「ほ、ホントに!?」

 

『お、おう……』

 

純粋な嬉々とした目で、俺の両手をとってズイッと顔を近付けてくる。向こうからこんなに食いついてくるとは思わなかったが…まさか状況が読めていないのか?

 

『(目的が人であるなら俺か一夏どちらかの情報を持っている筈だ。しかしこの反応だとやはり目的は学園か…?)』

 

「なぁ彰、シャルル」

 

慌てて取られていた手を振りほどき、ISの乗ったカートを押している一夏に顔を向けた。

 

「昼飯、みんなで食べないか?」

 

――――――――――

 

「…………どういう事だ…」

 

箒、セシリア、鈴、シャルル、一夏と俺は昼食を食べる為に雲一つない晴天に晒されている外のテラスにいた。

 

不機嫌丸出しな箒が一夏を睨んでいるところを見ると、箒は一夏と”二人きり”で食べたかったのだろう。

 

『(……しかしまぁ、よくここまで気付かずにいられるな)』

 

明らかに好意を見せて…いや隠しきれていない箒に気付かない一夏は「みんなで食った方が美味いだろー!」とか言い出したし、恋愛という概念が存在しないのか?

 

『(……平和、だな)』

 

俺は弁当箱を広げながら、空を仰ぐ。

 

此処は戦闘機のジェット音も、銃の発砲音も聞こえない。見慣れた砂煙と爆煙で灰色に染まった空も此処では真っ青だ。

 

『(思い起こせば殺し合いの記憶ばかりだ。こういう思い出も良いだろう)』

 

「わあ!彰って料理出来るんだね!」

 

『あ、あぁ。ほとんど独り身だったからな、これくらいはできないと』

 

意識を今の状況に向け直し、俺はにこりと笑ってそう返した。親が研究に没頭している内に覚え、そのまま趣味の一つになっている料理も、こうして陽の下で食べれるとは思わなかったな…

 

「ねぇ彰。たまたま早く起きたから作ってみたんだけど…」

 

そう言って鈴が俺にタッパーを一つ渡してきた。中身を確認してみれば、

 

『酢豚か。そういや鈴が作った酢豚は食べたことなかったな…』

 

「でしょ!食べてみない?」

 

『あぁ、頂くよ。ありがとうな鈴』

 

ふふん、と胸を張って「感謝しなさいよね!」と鈴が言う傍らで、セシリアがゴホンと咳払いをして洋風のバスケットを渡してくる。

 

「わ、わたくしも今朝たまたま早く起きまして、作ってみたのですけど…」

 

こちらも中身を確認すると……恐らく野菜のサンドイッチだろう。恐らくというのはセシリアの料理の腕が壊滅的にダメなせいであり、周囲が引くほどの不味さを持っているからだ。

 

『どっちも美味そうだ。本当に食べていいのか?』

 

もちろん!と二人がシンクロして答え、睨み合いに発展するテンプレをよそに俺はシャルルに俺の弁当を差し出す。

 

『悪いな、弁当じゃなかったとは気付かなくて。代わりに俺の分を貰ってくれないか?』

 

「えっ?い、いいよ!僕あんまり食べないし…」

 

連れてきておいて今更気付いた事だが、思わぬ差し入れでなんとかなりそうだ。

 

……まぁ、セシリアのサンドイッチをどう対応するかが一番の問題ではあるが。

 

『俺のミスなんだから挽回のチャンスを与えると思ってくれ。最大の譲歩は半分こだ』

 

「え、えぇ…」

 

千冬さんに頼まれた以上昼食を取らせなかったなんて事は避けたいし、なにより情の介入する余地があるならこういった積み重ねが思わぬチャンスにもなりかねない。

 

『ほら、結構自信作なんだぞ』

 

俺は弁当から竜田揚げを箸で掴みシャルルの口に持っていく。

 

「ほ、本当に悪いよ!」

 

『食べてくれないと俺も困るな』

 

う~…と唸りながら上目遣いで俺を見てくるシャルルに、笑顔で返した。そしてとうとう諦めたのか、恐る恐る竜田揚げに口をつけてくれた。

 

「お、美味しい……」

 

『なら良かった』

 

さて、鈴とセシリアのを貰おうかなと思ったらズイッ!と酢豚とサンドイッチを押し付けられた。

 

「彰さん!あ~んですわ!」

 

「あ~ん!!」

 

なんで半分怒ってるんだ…助けを求めようにも、箒と一夏は仲直りしたのか笑顔でイチャイチャしているし、シャルルは幸せそうな顔で弁当を味わっている。

 

……こういうの日も悪くはない、か。

 

 

『はぁ…落ち着くなぁ…』

 

「そうだねー…」

 

授業が終わり、夕食を食べた俺達は部屋でまったりしていた。

 

相も変わらずな鈴とセシリアからの食事の誘いを断り、俺はシャルルと色んな事を話す。

 

ISの機体のことやそれぞれの祖国のこと等、まるで昔の友達に会ったかのように、俺達は笑い合って沢山の会話をしていた。

 

だからだろうか、小さな頃に戻ったような錯覚に陥った俺は、いつの間にかこんな事を言っていた。

 

『なぁシャル。聞きたい事が……シャル?』

 

シャルルは顔をうっすら赤くして、僅かに目を逸らしつつどこか照れくさそうにしていた。

 

「…なんか、シャルって呼ばれるの凄く久しぶりで…」

 

どうやら俺は、昔の文通相手の愛称で呼んでしまったらしい。

 

『あー…悪い。昔シャルロットって友達がいてな。そいつをシャルって呼んでたからつい……』

 

「ううん、大丈夫」

 

そう言って笑うシャルルにどこか懐かしさを覚えつつ、口を開く。

 

『なあ、デュノア社にさっき言ったシャルロットって女の子がいなかったか?俺の記憶だと金髪で可愛い顔してた気がするんだが……』

 

正直に言ってしまえば顔なんて覚えていない。ただ儚い笑顔で笑っていたのは覚えている。

 

「か、可愛い!?」

 

『シャルルじゃなくてシャルロットの事なんだが…』

 

「えっ!?あっ、そ、そうだよね!僕は知らないなぁ!」

 

アハハ…と力無く笑うシャルルに疑問を抱きながら、ぬるくなったお茶を一気に飲み干した俺は『寝るか』と促した。

 

慌ててお茶を飲み干し、苦そうに舌を出すシャルルに苦笑いする。

 

……まさか、な。

 

 

 

 

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