IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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本日も雲一つない晴天に恵まれ、更には授業が午前中で終わる土曜日と合わさり学園は活気に溢れていた。

 

丸々空いた午後は仲間達に遅れをとるまいとISの訓練に励む生徒達でアリーナが一杯になっている事が多々あるのだ。

 

勿論、俺もその一人であり今はシャルルと一緒に一夏へ射撃訓練を施している。

 

本来なら千冬さんの訓練(という名の一方的暴力)を受けている筈の俺だが、俺が一夏のコーチを頼んだ代表候補生ズと箒の教え方が一夏に合わなかったらしい。

 

それを見かねた千冬さんからも「お前が教えてやれ」と命令されてしまった。教えるのは苦手なんだがな…

 

『さて、白式のスペックや各機能的に考えてほぼ使用しないだろうが、一般教養として射撃訓練でもするか』

 

「使わないのに訓練するのか?」

 

「ええとね、一夏がオルコットさんや鳳さんに勝てないのは、単純に射撃武器の特性を把握してないからなんだ」

 

『先程の俺とシャルル戦でも、狙い撃ちにされまくっただろ?知識として知っているのと、それを把握して動くのとは全く違うんだよ』

 

と言っても、一夏はまだISに触ってから半年も経っていない。知識が追いついていない今は体に覚えこませるのが一番早いだろう。

 

『シャルル、実弾系のアサルトあるか?俺のEMライフルは初心者には向いてないからできれば借りたいんだが…』

 

「そうだね、ちょっと待ってて」

 

シャルルが五五口径アサルトライフル―ヴェント―の使用許諾を行っている間に、俺は基本的な銃の構え方を教える。

 

『後で実際に持ってやってもらうが、微調整はその時だ。基本的にはこう…』

 

「こうか?」

 

『もう少し脇を締めるんだ。それと火薬銃だから多少の反動はあるが、ISが自動で相殺してくれるから安心しろ』

 

「なるほどな…」

 

そして使用許諾が終わったので実際に持たせ、微調整をしていく。センサー・リンクもないとは思わなかったが…

 

『あとは一発毎に脇を締め直せよ?慣れてないと勝手に離れていくからな。それじゃ一発目』

 

一呼吸置いて、一夏が目測でドン!と一発の弾丸を的に向かって撃った瞬間驚きの声が上がる。

 

『意外と音デカくて速く感じるだろうが、慣れれば気にならない。それと気持ちはわかるが片目は瞑るな、死角になるぞ』

 

「おう、気を付ける」

 

『シャルル、この銃の説明頼んでもいいか?』

 

「うん、まかせて」

 

今日一日は長丁場の基本訓練になるだろう。丁度喉も乾いていた事もあって、俺は飲み物を買いに行く為シャルルと交代する。

 

『スポーツドリンクでいいよな…一夏はお茶とか言いそうだが』

 

ガコンッと目当ての物が自販機のトレーに落ちてきて、自分の分に口を付ける。千冬さんの訓練もないし、あの怪我のお陰か久し振りに眠れる日が続いて調子が良いと、しばらくは平和に過ごせそうだ…

 

「第二アリーナで代表候補生三人が模擬戦やってるって!」

 

「早く行こ!」

 

……と、思っていたのだが。第二アリーナの代表候補生三人と言えばセシリアに鈴、そしてラウラしかいないだろう。

 

『……あのバカが』

 

俺はペットボトルの中身を一気に飲み干し、ゴミ箱に投げ捨てて第二アリーナに向かった。

 

――――――――――

 

『ったく…何やってんだお前ら』

 

第二アリーナの中心で、俺はアトを展開してジャッジメントを構えていた。背後にはボロボロになったセシリアと鈴、目の前にはラウラがISを展開して冷たい目で睨んできている。

 

「だってソイツが…!痛っ!」

 

舌打ちを吐き捨て、俺はラウラを睨み付けた。

 

―IS名、シュヴァルツェア・レーゲンと認識。使用武器、レールカノン、ワイヤーブレード、プラズマ手刀―

 

「……何故貴様が邪魔をする。貴様も教官の素晴らしさを理解しているだろう」

 

『理解しているしお前の感情に共感する部分もあるが、少なくとも俺は溺れたつもりはねぇよ』

 

「……貴様は同志だと思っていたが、所詮は貴様も有象無象の一つか」

 

ドイツ時代からの知り合いの俺達は、共に千冬さんの指導を受けていた。当時どん底に落とされていたラウラは千冬さんの部隊隊長まで這い上がらせた手腕と、その強さに憧れ、溺れていったのだ。

 

「彰さんを悪く言うなんて許しませ…!」

 

「アンタねぇ…っ!」

 

『別に構わないから、安静にしてろ』

 

笑いかけると、二人は心底悔しそうな表情で押し黙る。どうやら、俺が侮辱されたのが相当頭にきたらしい。

 

『千冬さんに憧れるのは俺にもわかる。悪い事ではないが、軍人が簡単に手を出すなよ』

 

しかし、ラウラが千冬さんに溺れるキッカケを作ったのは俺だ。ある実験のせいで、俺に使われる筈だったものがラウラに使われ、そしてどん底に落としてしまった。

 

そこから救い上げたのが千冬さんであり、ラウラの中で神格化されるのも仕方のないことだ。

 

「フン。つくづく貴様はお人好しだな。貴様のような種馬を取り合っていたそこの雌豚共にも、貴様の存在価値の無さについて教えてやったらどうだ?」

 

引け目や後ろめたさ等が一瞬で掻き消え、ブチッと俺の中で何かが切れた音がした。

 

『……自惚れるなよボーデヴィッヒ。お前は今、引き金を引いたぞ』

 

「なにを………」

 

俺の事はどうでもいい、もうすぐ死ぬのだから好きなように罵ればいいだろう。だがな、

 

俺の仲間を侮辱する奴には、死を持って償わせてやる。

 

『忘れてんなら思い出させてやるよ。”兎がいくら足掻こうが、百獣の王には勝てない”ことを』

 

ドス黒い感情に呼応するように、羽ばたくように推進翼を大きく広げ、青白いエネルギーを凝縮していく。

 

「いつまでも貴様が最強だと思うな。腑抜けた貴様なぞ、私の前ではゴミと変わらない」

 

『そうか。なら』

 

今の言葉を聞いて、俺は完全に感情を優先させた。そして、限界まで溜め込んだ怒りは爆発する。

 

『今ここで、死ね』

 

同時に、バン!!と大気を引き裂く爆発的な加速力を背に従え、残像すら残さない速度でラウラの首を掴んだ。

 

「がッ……………!?」

 

そのままアリーナの壁に叩きつけると、壮大な破砕音を立ててアリーナ全体が大きく揺れる。

 

一瞬と呼べる攻撃の僅か0コンマでパニッシュメントを右手に現し、躊躇なく顔があるであろう場所へ突き刺した。

 

『しぶてぇな、サッサと果てろ』

 

砂煙が晴れた先には、首を掠めて刺さったパニッシュメントと僅かにズレたラウラの顔。首がダメなら、と胴体に狙いを付けた瞬間、プラズマ手刀が俺の首を的確に狙ってくる。

 

『聞こえなかったか?』

 

紫色に光るプラズマ手刀を殴り飛ばし、首を掴んだままの左手のスラスターを全開で吹かして、ドゴォン!ともう一度壁に叩きつけた。

 

「かはっ…!?」

 

『この俺が果てろって言ってんだよ、手加減しねぇぞ』

 

再びパニッシュメントで突き刺そうとした時、ラウラのレールカノンが地面を向いた。自爆覚悟の発射だろうが、

 

『邪魔だ』

 

俺はレールカノンの銃身を斬り捨てることで阻止するが、それが狙いだったのかプラズマ手刀が真っ直ぐに俺の胴体に向かってきた。

 

このタイミングでは手を離すしかなくなってしまい、俺は足裏のスラスターで一気に後退する。

 

後退した隙を――”俺が作り出した僅かな隙”を突いて二本のワイヤーを飛ばしながらラウラが突貫してくる。

 

推進翼を一気に吹かし、プラズマ手刀毎壊す勢いで爆発的な加速力を纏った蹴りがラウラの胴体を穿つ。

 

ズドンッ!と再び壁に埋め込まれたラウラに肉迫すると、右手で俺を掴むように翳してしてきた。悪いが、それはもう知っている。

 

「そんなっ…!」

 

右手が上がりきる寸前で更に加速した俺はその右手を盛大に蹴り付け、壁に縫いとめた。そのまま軸にして、ゴキィッ!と回し蹴りを顔面にくれてやると、ラウラは左へ数十メートル転がっていく。

 

『AICは俺には効かねぇよ。誰が作ったと思ってやがる』

 

AIC(慣性停止結界)とは、ISに搭載されているPICを発展させたもの。対象を任意に停止させることができる、反則的な能力だ。

 

だがその反則的能力も、発動する前に潰してしまえば関係無い。

 

『俺達がいなくなってからドイツも緩くなったな、あァ?テメェ如きが最強を気取れるなんてよ』

 

「ぐっ、がは…っ」

 

一方的な戦い、言い換えればただの暴力だ。悲惨なまでの力の差が実現させた悪夢に等しい。

 

「そこの生徒達!何をやっているんだ!!」

 

突然、教員の放送が俺達の間に割って入ってきた。これではまるで俺が悪いように見えてしまう。

 

『興ざめだ、話にもならねぇしな』

 

「……ふっ…ふふふ」

 

俺がISを解除すると、ラウラが倒れ伏したまま不気味に笑う。妙な違和感を覚えながらも、俺は鈴とセシリアを担いで保健室へ向かうことにした。

 

 

 

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