IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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6P目

 

 

 

「いてててて……」

 

『……すまない、俺がもっと早く気付いていれば…』

 

「別に彰のせいじゃないだろ?」

 

あの後、鈴とセシリアの手当をしていたらボロボロになった一夏がシャルルに抱えられて保健室に運ばれてきた。

 

どうやら元々の狙いは一夏で、俺を挑発し交戦したのは邪魔が入らないようにする為だったようだ。

 

だが俺との一戦で相当消耗したラウラは、一夏に不意打ちしただけでシャルルに返り討ちにされたらしい。

 

「ごめんね一夏…」

 

「気にすんな。俺が弱かっただけだ」

 

俺が保健室に担ぎ込んだ二人と一夏がベッドの上で治療を受けている間、俺は窓の外を眺めながら今後の事を考えていた。

 

『(ラウラの単独介入か…それとも一夏のデータを狙い、色々と都合の良いラウラを利用したドイツの介入か?)』

 

そもそも、いくらISがあるとはいえ軍人を単独で投入するのは軍として考えればまず有り得ない。潜入員等は俺や千冬さんが気付かない筈がなく、軍事的介入の線は薄いだろう。

 

だとすれば、ラウラの転入に何の意味がある?ドイツのIS部隊隊長が理由も無しに来る筈がないのだが…

 

『……すまない、確認事項ができたから電話してくる』

 

「あ、じゃあ僕もついでに飲み物買ってくるね。待ってて三人共」

 

お茶!スポドリ!と次々に上がる声に『はいはい』と適当に返事をして、保健室のドアの開けた瞬間、

 

「御剣君!私と組もう!?」

 

「デュノア君は私と~!」

 

待ってましたとばかりに雪崩れ込んできた大勢の女子が我先にと口を開き、こちらの様子など目もくれずに喋り出した。

 

『落ち着けお前ら。一体何の話しを……』

 

バッ!と一枚のプリントが目の前に押し広げられ、思わず溜息をついてしまった。

 

学年別トーナメント開催。二人一組のペアトーナメントであり、ペアが決まらなかった者は抽選でペア決めを行う。つまりは、専用機持ちの俺達と組みたいが為に突撃してきたということだ。

 

学園側主催の模擬戦、それならラウラも参加せずを得ないだろう。俺一人でも充分だが、シャルルの事もある。有効利用させてもらおう。

 

『すまないな、俺はシャルルと組む予定なんだ』

 

「えっ?僕なにも聞いてないけど…」

 

……えーと、断られる事を考えていなかったな。こういう時はクラリッサ直伝【男が女にかけるべき決め台詞100選】を活用しよう。

 

突発的な告白や予定を告げる時、抱えている気持ちを大きくしてなるべくロマンチックに告げましょう。そして押しきれ…だったな?

 

『シャルル、俺はお前が良いんだ。いや、お前以外なんていらないんだよ…』

 

えーと、腰を引き寄せて体を密着させて、悲しそうな顔?で相手の顎を軽く持ち上げ、上から微笑みかける……だったな。よし完璧だ!

 

「え!え!?あの、まっ…はう……」

 

ボンッ!とシャルルの顔が真っ赤になった瞬間、蒸気が噴出した。鈴の時もそうだったが、俺がやるとこうなるのは失敗なのだろうか……完璧にできてると思うんだが。

 

目をぐるぐる回して気絶してしまったシャルルを抱き抱え周囲を見渡せば、倒れ伏す女子達、ベッドの上で鼻を抑えながらベッドにドンドンと拳を叩きつけるセシリア、軽快に笑う一夏、鼻血を吹き出して沈む鈴。

 

……とりあえず静かになったから良しとしよう。そのまま屍を踏まないように気を付けながら、俺はシャルルと一緒に自室に戻った。

 

 

 

「……萌え死ぬかと思いましたわ…」

 

「ああああんな、その、ふふ不健全よ!」

 

「いやー、仲良いんだなアイツら!」

 

――――――――――

 

『……ふぅ』

 

今日は災難だった。保健室で断ったにも関わらず、ほとんどの女子が諦めきれなかったらしい。

 

立てば狙いをつけられ、座れば群がる。道を歩けば行列だ。それほどまでに魅力的な男性――シャルルが紳士的に断ってくれなければ俺は今頃千冬さんの所に逃げ込んでいただろう。

 

それに加えてトーナメントへの登録、政府への書類、数々の仕事依頼の吟味等々。

 

なんとか全て終わらせた俺は久し振りの充実した疲れに酔いしれ、机に突っ伏していた。

 

「お疲れ様。先お風呂使っていいかな?」

 

『あぁ、しばらく動けそうにないからな』

 

「そうだね」と小さく笑ってシャワールームに向かっていくシャルルに手を振りながら、欠伸を噛み殺す。

 

『(今なら銀髪シスターがベランダに干されていてもスルーできる自信がある)』

 

ベランダがないから有り得ないのだが……また変な電波を拾ってしまった。人が干されてるってどんな状況だよ。

 

『……ボディソープ…切れてた…』

 

むくりと起き上がって頭の片隅に放られていた事を思い出す。石鹸があれば良いのだが、生憎この学園には存在しない。

 

ダラダラと立ち上がって、俺は買い置きしておいたボディソープの袋を一つ掴み、

 

『………あった。シャ…』

 

シャワールームの前で一時停止した。千冬さんにも同じ事をして体が宙に浮いた記憶があるな、確か拳で。

 

『……シャルルは男だし、大丈夫な筈だ』

 

こちらはノックすら面倒なくらい眠いのだ。そもそもカーテンに仕切られている筈だし、入浴してから既に五分以上経っている。問題ない、早く寝たい。

 

『シャルル、ボディソープ切れて……』

 

「えっ?……」

 

時間が、止まった気がした。

 

目の前には、カーテンを閉めずにシャワーを浴びていたシャルルがいた。

 

「うわぁあっ!?!」

 

慌ててカーテンを引き、体を隠すシャルルだが、もう遅い。

 

大きく膨らんだ胸と、綺麗なラインを描く腰を。

 

『……………すまない』

 

シャワールームから出た俺の頭からは眠気が吹き飛び、瞬時に全ての事項が結び付けられる。

 

明らかに男子ではない体、懐かしい雰囲気と笑顔、そして”デュノア”。

 

時折見せた既視感と、俺の誘導尋問すら難なくクリアした情報量からしても、答えは明確だった。

 

「………………」

 

カシュン、とドアの開く無機質な音が静寂と化した部屋に広がり、シャルルがジャージ姿で出てきた。

 

ギシッ、と俺に背中を向けてベッドに座ったその姿は、確信してからはもう見間違えようがない。

 

『………シャルロット』

 

ビクリッと肩を震わして、恐る恐るといった様子で俺の方を向く、今にも泣き出しそうな顔。

 

彼、いや、彼女の名前は――シャルロット・デュノア。

 

俺の文通相手で幼なじみの、女性だ。

 

 

 

 

 

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