IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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7P目

 

 

 

 

『シャル、お茶でも淹れようか。紅茶と緑茶、どっちがいい?』

 

「あ、えっと……緑茶で…」

 

『わかった、ちょっと待っててくれ』

 

いつもと変わらない調子で笑いかけると、少しホッとしたのか、ぎこちないながらも笑顔で答えるシャル。

 

『ほら』

 

このお茶が空気を和らげてくれるだろうと思って、湯呑みを差し出した、その時。

 

「あ、ありが……わぁ!?」

 

ぴと、と指先が触れ合った瞬間、シャルルは持ちかけた湯飲みから慌てて手を離した。そして淹れたての熱いお茶は俺の腕に逆襲、もといぶちまけられる。

 

『熱………!』

 

「あっ、ご、ごめんね!大丈夫!?」

 

お茶のかかった俺の腕をシャルは勢い良く引っ張り、洗面台で冷水に浸していく。

 

『シャル、大丈夫だから』

 

「で、でも赤くなっちゃってるよ!ど、どうすれば………そうだ!」

 

何かを思い付いたシャルはいきなりドアに向かって駆け出していく。

 

『馬鹿、行くな!』

 

反射的に叫んでいた俺は、後ろから勢い余って、火傷した方の腕で抱きかかえるようにシャルを引き止める。

 

シャルは今、女だと一目でわかる格好で部屋を出ようとしていた。もしもここで止められなかったら、大変な騒ぎになっていただろう。

 

『つっ……』

 

「えっ!?あっ、ごめ、でも氷……!」

 

混乱しているのか、それとも罪悪感に駆られているのか、シャルは俺の腕の中で尚もバタバタと暴れすぐに処置しようと躍起になっている。

 

ジャージがこすれる度に痛みが走るが、まずはシャルを落ち着かせないと。

 

『大丈夫だから…何処にも行かないでくれ』

 

シャルの体を優しく抱き締め、久し振りに会った親友の感触に酔いしれる。心の片隅で失ったと思っていた、守るべき者の存在が今ここに在る。

 

そんな俺の心中を悟ったのか、指先にシャルの細い指が重ねられた。たったそれだけが、なんて喜ばしい。

 

「……ごめんね…」

 

『いや、あの、俺の方こそごめんなさい…』

 

へ?と首を傾げるシャルに、俺は必死に目を逸らしながら、

 

『その、む、胸が………』

 

一瞬ポカンとしていたが、意味を理解したシャルは顔を真っ赤にして、胸を隠すように離れた。後ろから抱えてしまったせいで、腕の上に胸が乗っかってしまっていたのだ。

 

「……彰のえっち…」

 

グッハァ……容赦ねぇ…

 

『そ、そんなことより!』

 

話題を無理矢理変えた俺はシャルをベッドに座らせ、向かい合うように腰掛けた。

 

『久し振りだな。会いたかったんだぞ?』

 

再開の挨拶をすると、シャルは顔を赤くしてもじもじと視線を逸らす。

 

「……彰って何時も思わせぶりなこと言うよね……」

 

『ん?』

 

「………何でもないよ」

 

一呼吸置いて、俺は真正面からシャルの目を見て、本題を切り出した。

 

『シャル。女のお前が何でこんな事を?』

 

真剣な表情で問い掛けると、シャルは力無く息を吐いて、呟くように語り出す。

 

「……父からの、直接の命令なんだ…」

 

シャルの父親と言えば、IS企業デュノア社の社長だ。俺も何度か会っているし、今では直接やりとりもするほどだ。

 

両親の腕が買われ、デュノア社でISの実験や開発を手伝う際に俺はシャルの家に預けられていた。その時にシャルと知り合い、中学二年まで文通をしていたのだ。

 

「僕が本妻の子じゃなくて愛人の子だって事、覚えてる?父とはずっと別々で暮らしてたんだけど…二年前、お母さんが亡くなって……その時に実家に呼び戻されたんだ」

 

確かに、あそこには最低限の使用人とシャル、シャルの母親しかいなかった。

 

広すぎる敷地、監獄のような豪邸。まるで鳥籠に入れられた小鳥のように、シャルは儚い少女だった。

 

俺はそんな檻の中から、強引に二人を連れ出しては庭で遊んでいた。

 

今にも消えてしまいそうな笑顔で俺達を見守ってくれた、あの優しい人には、もう会えない。

 

『そ、んな……』

 

「彰にはすぐ知らせたかったんだけど…色々な検査をして、その過程でIS適性が高いことがわかったんだ。それで非公式だけど、テストパイロットをやることになって…」

 

二年前、それは丁度文通が切れた頃だ。俺はただ忙しいのだろうと、淡い希望を抱きながらずっと待っていた。

 

「父と会ったのもたったの二回だけ。話したのなんて一言二言なんだよ?もしかしたら彰の方が多いかもね」

 

淡々と語るシャルの表情は虚ろに、声には悲しみなどの暗い気持ちしかない。

 

「それからちょっと経ってデュノア社は経営危機に陥ったんだ」

 

ああ、知ってるよ。俺がISを使える男だと判明した次の日の朝、社長に「養子に来ないか?」と電話をもらったのだから。

 

しかし断った。養子にはなれないが、デュノア社にISスーツを特注したり、調整に必要な機材や武器のデータを買ったりと、色んな形で力になると約束して。

 

「デュノア社も第三世代型の開発をしていたんだけど、なかなか形にならなくて。イギリスや中国みたいに第三世代型の開発に成功しないと、政府からIS開発許可を剥奪するって通達があったんだ」

 

それで、執拗に俺に電話してきたということか。その行為が腹ただしいのか、シャルの声に段々と怒りの感情が上乗せされていく。

 

『それじゃあ男装していたのはやっぱり…』

 

「その通り、注目を浴びる為の広告塔。それに同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。それと、第四世代型と篠ノ之博士直々に手がけた第三世代型、本人達のデータも取りやすいだろう、ってね…」

 

それはつまり、

 

『俺の”アト”と、一夏の”白式”か…』

 

「そう。僕はあの人に、二人のデータを盗んで来いって言われてるんだよ」

 

 

 

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