『シャルー。夕飯貰ってきたぞ』
焼き魚定食の乗ったトレーをテーブルに置きつつ、俺は呼び掛けた。風邪っぽい、と事情を話したら快くトレーを渡してくれたおばちゃんに感謝しよう。だが頭を撫でるのはやめてもらいたい。
ベッドから出てきたシャルは定食の前に座ると、少々困ったような顔になり、俺は気付いた。
『悪い、箸なんて使い慣れてないよな。フォーク貰ってくる』
「い、いいよ!大丈夫!」
グッ、と服の裾を掴まれてしまい、渋々座った俺の隣では震える手で箸を持ち、ぎこちなく動かすフランスの少女の姿。
案の定、上手く掴めずにぽろぽろと器に戻っていく魚と白米を見て俺はもう一度立ち上がる。
『やっぱりフォークを…』
「い、いいって!持って来て貰ったし…」
またしても裾を引っ張られてしまい、俺は溜息混じりに座った。
『あのなぁ…シャルはもっと人に頼る事を覚えろ』
う~…と唸りながら、シャルはそれが恥ずかしいのか手をもじもじさせている。昔はアレやってコレやってとすぐに言ってきた。時はこうも人を変えるのか。
『じゃあまずは俺に頼れ。昔みたいに、な?』
「…………じゃあ……」
『ん?』
「…彰が……食べさせて?」
……………はっ、意識が飛びかけた。い、今なんとおっしゃったのでしょうかお嬢様…?
「……ダメ、かな?」
『…………特別だからな』
おかしい、動悸が激しくなり喉が一気に干上がっていく。セシリアにも鈴にもやった事がないからか?いやそもそも何故俺は動揺している?昔は当たり前の様にしていただろう。
表情は平静を保ちながら、内心で必死に素数を数えながら震えそうになる手を押さえつけ、魚を挟んだ箸を口元までもっていくと、
「あ~…ん」
小さな口を広げてもぐもぐと味わうシャル。コクン、と飲み込んで、
「美味しい……」
ニッコリと笑った。
それで俺の緊張も解れたのか、震えが止まっている。
『ここの食堂のおばちゃん達の腕は最高だからな。見慣れた料理もあるぞ』
「す、すごいね……流石IS学園、かな?」
二人して笑い合えば、どんどん食は進んでいく。先程までの緊張感が嘘のようだ。
色々な話をしながら、そして箸の使い方をゆっくり丁寧にレクチャーしながら穏やかなな夕食の時間を過ごす。
結局、焼き魚定食がなくなるまで、俺はずっと「あ~ん」をしてあげましたとさ。
後日、その一部始終をうっかり話してしまったらしくクラスメイトはおろか、他クラスまで俺の「あ~ん」を狙って食堂に人が溢れかえったのは余談だ。