1P目
『凄い顔ぶれだな……』
俺は更衣室にある巨大なモニターを見上げながら呟いた。
そこにはアリーナの来賓席が中継されており、世界各国の重鎮達やテレビ等で放映されている顔ばかりだ。無論、俺の存在を知っている大統領クラスの大物も大勢いるのだが…
―おーい彰!パパが見に来たぞ!―
―彰の晴れ舞台だ!宴の準備をしよう!―
誰がパパだドイツ大統領、宴は準備しなくていいから帰れドイツ軍の馬鹿曹長。とカメラを向けられた知り合いがことごとく人の名前を連呼するので結構複雑な気分なのだ。
「あれって、ドイツの大統領だよね……彰は一体何をしてたの…?」
『ボディガードしつつ、説教してた、かな…』
恐る恐る訪ねてくるシャルに苦笑いで答える。ふざけたことを言った瞬間に文句言ってたからな俺…逆に気に入られるとは思わなかったが。
しかしそれ以外でもIS関連の著名な研究者の顔がチラホラと見える。という事は……
「三年生にはスカウト、二年生には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来てるからね。一年生だって、このトーナメントの結果次第で企業とかの目に止まるかもしれない。まあ、上位者にはチェックが入るよ」
『なるほど、品評会の様なものか…』
ISスーツを纏ったシャルが俺と同じくモニターを見上げて補足する。そのISの整備や換装を行った整備側の人間にもチェックが入るというなら、それぞれの打鉄のスペックも違うのだろう。
『(……束さんの姿はない。当たり前か)』
無意識に溜息をついて、俺は待機形態のアトを撫で回す。
中学から一緒の、やる時はやるこのバカ娘も今日はしっかりと目を覚ましたのか、俺の脳内でやる気満々の声が上がっている。
しばらくして、トーナメント表が映し出された。俺とシャルのペアを見つけ、横に表示されている最初の相手の名前を見上げ、思わず呟いてしまう。
一回戦目はなんと、
「ラウラと………」
『なんで箒なんだよ……』
俺達の初戦の相手はラウラと箒のペアだった。いきなり大本命のラウラと当たれて嬉しいは嬉しいが、同時に厄介な問題が発生したのもまた事実。
ラウラから誰かにペアを頼むなんて絶対に有り得ないだろうが、それにしてもこの仕組まれた様な偶然は酷いものだ。
『何でよりによって箒となんだ……』
「ど、どうしたの?そんなに嫌なの?」
『あー…気にするな…』
今回ばかりはシャルとペアで良かったと数日前の俺に感謝しよう。代表候補生レベルなら箒を戦闘不能にするのに手こずらないだろうし。
『シャル、箒は任せた』
「えぇ……まぁいいけど…」
――――――――――
「一回戦目で貴様と当たるとはな。無駄な労力が省けた」
『相変わらず気が合うな。俺もそう思ってた』
雨のように歓声が降り注ぐアリーナの中央で、俺達は二人と対面する。箒は授業で使用した訓練機―打鉄―を纏って後衛に立ち、ラウラはいつでもプラズマ手刀を抜けるように前衛で構えていた。
「気が合う、か……確かにな。だが私は、あの日の事を忘れてはいないぞ」
ギロリ、とラウラの眼帯に隠されていた金色の左目―越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)―が俺を射殺すかの如く鋭く光り、思わず顔を曇らせる。
『………それは、俺に使われる筈だった。それなのにあの馬鹿共が………いや、言い訳にしかならないな。その件については本当にすまないと思っている』
越界の瞳とはISの適合性の上昇、脳への視覚信号伝達の爆発的速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を付与する、肉眼へナノマシンを移植された目の事だ。
元々は俺のIS適正向上の為に用意され、俺自身に適合するよう最終調整した代物。欠点もなく、強いて言えばIS適正がある女性の方が適合率は高かったくらいか。
それなのに、”事故”が起こった。理由は残酷にも簡単で、”ラウラが人工的に造られた人間だったからだ”。
細胞のレベルやパルスの伝達速度など、色々な改造をされた人間に一般人用に作られた物が適合できるワケもなく、実験は俺の知らぬ間に行われ失敗した。
ラウラはその時ドイツ軍最強の座に君臨していたが、その事故により彼女は最強の座から転落していき、その金色の瞳は「出来損ない」の烙印となってしまったのだ。
「フン、そんな事はとうにケリをつけた。むしろ感謝している」
訝しげに視線を返すと、ラウラは左目を手で覆いながら告げる。
「私は貴様のせいで深く暗い闇の中に落ちていった。だが、そのおかげで一つの光を見つけ、貴様という好敵手を得た」
少し、昔話をしよう。
俺が束さんに送り出された中学生一年の頃、ISの世界大会モンド・グロッソの第二回目が行われていた。
一回目の優勝者は千冬さんであり、その圧倒的な戦闘力は大会二連覇を誰もが期待し、焦がれたものだった。
だが、千冬さんは決勝戦を棄権する。理由は世界でたった一人の弟が”誘拐”されたからだ。
その情報をキャッチしたドイツ軍は千冬さんに知らせ、文字通り千冬さんは飛んでいき、二連覇を犠牲に一夏を救出する。その借りを返す為に千冬さんは一年間ドイツ軍の教官に、そして一夏の護衛として内密に俺を指導してくれた。
そして、ラウラは出会う。織斑千冬という光を。
「私はコレのおかげで光を……教官という光を見つけた。強く、美しく、凛々しいあの人に。だが、織斑一夏は、あの人に泥を塗った!私はそれを許せない!」
金色の瞳に怒りを灯し、憎悪に塗れたその表情は完全に敵として対立する者の顔だ。
「貴様もわかるだろう!?教官は最強だった!あの戦いも教官なら生き残っていた!そんな奴を、教官に汚点を付けた奴を!なんでお前は守るのだ!」
『………ラウラ、俺は』
「言い訳などいらない、聞きたくもない!答えろ彰!なんでお前はそっち側にいるんだッ!」
ラウラが、泣いているような気がした。ラウラにとって一夏は至高の光を汚す黒点に見え、それを守ろうとする俺を裏切り者と罵った。
ラウラの独白は俺の胸をきつく締め付ける。俺に裏切られた、その鋭い言葉の裏に隠されたのは、ラウラの慟哭に似た悲痛な叫びだ。
『……俺にも、守りたいものがある。守らなきゃいけない人が、約束があるんだ。俺の馬鹿げた夢にお前を巻き込むつもりはない』
例えかつての仲間だろうと、俺はアイツらを傷付けようとする人間を許さない。
俺は両手にジャッジメントを展開し、逆手に持って構える。
『……これ以上、話す必要はない。戦いで示せ、ラウラ』
「…………………………」
一呼吸置いて、ラウラは両手を薙ぎ払ってプラズマ手刀を展開する。そして、
「たたきのめす」
試合が始まった。