『フッ………!』
開始の合図と共に俺は瞬時加速で一気に間合いを詰めようとした瞬間、ラウラの目の前の空間が不自然に歪み始めたの視認した為、咄嗟に前から上へ飛ぶ方向を変える。
ガションッとレールカノンが舞い上がった俺に標準を定め、躊躇無く発射される最大出力のそれに、俺は呼び出したグリントの連射で相殺した。
そのまま上空から壁を蹴るような所作で、ワイヤーを射出したラウラへ肉迫する。
「死ね…ッ!」
『アイアス!』
ワイヤーが直撃する寸前で六花弁の紅い盾が弾き飛ばし、俺はパニッシュメントを引き抜きながらアイアスの内側から飛び出した。
「チッ………!」
AICの有効範囲外へ回避、そしてパニッシュメントの引金を引くと同時に短い炸裂音が響き渡り、
『ウ、ラァッ!』
バンッ!と大気の壁を引き裂いて、爆発的な加速を伴ったパニッシュメントはラウラのガードごとアリーナの端まで斬り飛ばした。
『シャル、そっちは頼んだ』
「OK!」
シャルがアサルトカノン―ガルム―を掃射しながら、箒の前に立ちはだかる。
俺は一夏と箒に手を出せない。例え敵として立ちはだかろうと、そういう約束だからだ。
故に、ラウラは箒さえも巻き込んでしまう危険性の排除、その為に俺が一対一の状況を作る。
『さて、喜べラウラ。この俺が直々にその首を飛ばしてやるよ』
「図に乗るなよ、雑魚が」
言葉とは裏腹に、ラウラは最大警戒態勢で俺を睨み付けてくる。どうやら俺の株は一夏に味方した事で最低レベルまで下がっているようで。
『今のコンディションだと、お前と対等くらいだ。喜ばしいだろう?』
「……なに?」
疑問の表情でこちらを睨みつけるラウラへ自嘲気味な笑顔で答え、俺は推進翼を羽ばたかせた。
「っ…………!!」
風を叩く重苦しい音を置き去りにして、秒速で肉迫すると同時にパニッシュメントを振り下ろす。
「ぐっ………!」
プラズマ手刀からけたたましい音を響かせたパニッシュメントの一撃はラウラを地上へ叩きつけるが、接近の瞬間に左腕がワイヤーに絡め取られていた。
吹き飛んだラウラに引っ張られるように下降していき、その先に待ち構えていたレールカノンによりバゴンッと頭部のバイザーが消し飛ばされる。
そのまま問答無用で引き寄せられ、プラズマ手刀とパニッシュメントが交錯して激しい火花を散らした。
「貴様……」
『悪いが、コレが今の俺だ…それでもお前に負ける気はしないがな』
「ほざけ…ッ!本当に腑抜けてしまった貴様になど、もう価値はないッ!!」
激昂と共にパニッシュメントが高々と弾き上げられる。そしてプラズマ手刀が一瞬の隙間を縫って俺の胴体引き裂き、吹き飛んだ所でサンドバックの様に引き戻される。
『(ヤベェ、AICに…っ!)』
不自然な浮遊感、空気が止まった様に錯覚するその感覚に抗えず、
「消え失せろ、裏切り者」
俺の頭を正確に、確実に狙って、レールカノンが再び火を噴いた。
―彰を…ばかにしないで!―
カチン、と脳内で錠の鍵が外れる音が響く。思わず笑みを零して、俺はソレを呼んだ。
『制限解除――code:Iblis――』
目が燃え盛る鉄をあてがわれたような熱に襲われ、視界が急速に加速していく。そして放たれたレールカノンが眼前に迫るその1秒にも満たない時間の中を俺は動き出す。
熱く燃える両目を見開き、その砲弾を目視し、解析し、全てを読みきり直撃する残り時間僅か0.3秒の間で、俺はその砲撃を”止めた”。
――助かったぜ、アト――
ラウラに視線を移すと、危機を察知したのかAICを解いて後方へ距離を取られてしまった。唖然としたままだったら決着がついていたのだが、危機察知能力も伊達ではない。
「その瞳は…貴様も…」
『お前一人に背負わせるワケないだろ。これは俺の罪の証でもあるんだからな』
俺の両目は今、銀色から金色に――越界の瞳に変わっている。ラウラの物とはAICの性能が違うが、オンオフを切り替えられる完成品である事は確かだ。しかし、完成してしまったが故に発見された欠点もある。
それは、使う度に使用者に莫大な負担が掛かり、最悪の場合にはナノマシンが身体を蝕み死に至る事。
『(ただでさえ俺に残された時間は少ない…一日一回程の使用が限界だろうな)』
圧迫された様な締め上げられる感覚が心臓を襲い、俺は越界の瞳をオフにする。奥歯を噛み締めて耐えると、息を一つ吐いて”パニッシュメントを地面に突き刺した”。
「隙を見せるな…愚か者めッ!」
『その隙に誘われたのはお前だろう?』
ラウラのワイヤーに勢いよく引っ張られる。その力を利用しジャッジメントを展開しながら、ドンッ!と正面から激突する。
重い衝撃に苦痛の表情を浮かべるラウラへ更なる連撃を叩き込むと、鳴り響く剣閃の嵐が続き、一際大きくかき鳴らされた一撃の音が響いた。
「もらった…ッ!」
大きく後ろへ弾き返され、体勢を立て直そうと更に距離を取った瞬間を狙われた。だが、
『奇遇だな、俺もそう思ったとこだ』
ニヤリと笑うと、ラウラの背後に影が現れる。その影は待ちに待った相方の姿だ。
「僕の事を忘れてもらっちゃ困るよ…!」
ズガガッ!と弾幕音が炸裂した。ラウラの背後から直撃したそれに合わせて、俺は足のスラスターを吹かして回し蹴りを叩き込み、無理矢理距離を広げる。
「まったく、彰ってばこっちの事見もしないから気付いてるのかヒヤヒヤしたよ」
『ちゃんと見てるって。それより箒は?』
「あっちでお昼寝中」
シャルが指を指す方向に「無念…」とまるで武士が崩れ落ちた風貌の箒がいた。しかしシャルを手こずらせるとか中々凄いぞ箒。
「う、ぐぅ……貴様ァ…!」
復活したラウラの鋭い視線が先程までの雰囲気を消し飛ばす。あれだけ削ったのに、闘争心は萎えるどころか憤怒も相まって増幅しているようだ。
だがこちらも、唯一の懸念材料である箒がダウンした事でようやく今の全力が出せるのだ。
『シャル、すまないが箒を安全な場所へ避難させてやってくれ』
「………はぁ。その代わり、後で僕のお願いも聞いてもらうからね?」
『ん?シャルのお願いならいつでもなんでも聞くぞ?』
「な、な、ななな…!?」
照れ隠しかアサルトを振り回すシャルに苦笑していると、ガウンッと重厚な音が耳朶を打つ。躍り出た俺はその音を纏ったレールカノンの砲撃を斬り落として、思考を切り替えた。
『そう慌てるな……楽しくなるのはこっからなんだからよ』