「すごいですねぇ。二週間ちょっとであそこまで連携を取れるなんて」
「あれを連携とは呼べん。デュノアが合わせやすいように御剣が遊んでいるだけだ」
教師だけが入ることを許されている観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら山田は感心したように呟くと、呆れ顔で千冬が返した。
「それにしてもいきなりの学年別トーナメントの形式変更は、やっぱり先月の事件のせいですか?」
「そうだ。教師の数に限りがある以上、最終的に自分で守らなくてはならないからな」
先月の事件、それはクラス対抗戦の事だ。IS学園を襲撃した、それだけでも大事件ではあるが、その襲撃犯が”存在しない筈の無人機”となれば事態は変わる。
そもそもがおかしいのだ。データが欲しいのならばあのような派手な侵入はせず、かといってアレが陽動であったワケでもなかった。IS学園を襲撃するメリットがあの無人機には見いだせない故におかしい。
だが”ISのシールドバリアーを破る手立てがある”という現実を突きつけられたのもまた事実である。いくら教師がいるとはいえ、手の届かない範囲に攻撃されてしまっては守れないという現実に対し、行ったのが今回の大会だ。
「(唯一気になるのは、アレの侵入がキッカケで彰の事が判明した事だ。まるで”気付かされた”ような…)」
「あれ?御剣君銃と剣を同時に出しちゃいましたよ?」
モニターを眺めていた山田が、片手ずつ構える彰を見て疑問の色を浮かべる。対して千冬は頭を抑えながら大きな溜め息をついた。
「あの馬鹿………自分から手の内を晒してどうする」
「えっ、どういう意味ですか?あんな戦闘スタイルは手合わせした時も見てないですよ?」
混乱している真耶を尻目に、千冬は険しい顔で答える。
「簡単な事だ。本来銃と剣が併用できないのは、それぞれハイパーセンサーが異なるシステムに切り替えて補助するのであって、同時に使えばエラーが起こるかどちらか一方のシステムしか適用されないからだ」
更にあの機体に関して言えば、オーバースペックさえも凌駕した異常な機体だ。普通に戦闘するだけで無慈悲なまでの強さを誇る。
「だが、御剣はハイパーセンサーを”二つ持っている”。常人では脳が潰れてしまうだろう情報量を処理し、実現不可能な銃と剣のスタイルをアイツだけは確立できる」
「確かに理論上は可能ですが……その為にはISの機能だけでなく、操縦者にも多大な改造――それこそISにでもならないとできないんじゃ…」
そこまで言って、山田は目を見開いた。目の前にそれを実現した生徒がいる。それはつまり”御剣彰がそういう人間である”という無慈悲な現実だ。
理解した――否、御剣彰という人間を知ってしまった。山田は眉を潜めて視線を下に落とし、コンソールに置かれた手を強く握り締める。
「加えて、御剣の両親はIS研究者でも特に著名な人物だった。物心ついた頃には既に”そういう状況”に置かれていた、と考えればなんら不思議ではない」
「それじゃ……御剣君は…」
「本人の言う通りなら、夏の終わりまでだそうだ」
「……っ!」
自分の感情が爆発しそうになり思わず千冬に振り返る山田は、固く堅く握られ震える拳を見た。今にも動き出したいのはむしろ千冬の方で、しかし今は何もわかっていない暗闇の状態だ。
迂闊に動けず、かと言って残された時間は少なく、強行すれば最悪の事態さえ起こりえる八方塞がりに対する憤りを千冬は理性で押さえつける。
「故に真耶、お前には手伝ってもらうぞ。あのバカ弟子にはまだまだ教える事が残っている」
その言葉に教師としての義務は感じられなかった。ただただ御剣彰という存在を守りたい、家族としての意志。それを汲み取った山田は小さな笑みを零し、
「……勿論です」
自分もまた決意した。例えどんな事情があろうと、生徒を守る教師として。
――――――――――
『シャルのタイミングでいい、好きに動いてくれ』
「それはいいけどさ……」
チラリと目を動かして相手を窺えば、既に満身創痍な状態に見える。対してこちらはダメージはあるが未だ余裕のある二人……一方的過ぎるのではないのか?
『…とか考えてたんだろ』
「え、なんでわかったの!?」
俺は苦笑で返し、ラウラに視線を投げる。こうしている間の俺達は隙だらけだったはずだが、攻撃してこないのは満身創痍で出来なかったのではなく、自身の回復に努めていたからだろう。
俺達が育った場所は戦場、喰うか喰われるかの生死の世界だ。相手を倒すか、自分が倒されるか――その二つでしか勝敗は決まらない。
それに、中学までとは言え俺と同等に渡り合ってきたあのラウラがこの程度で止まるワケがなかった。
「作戦会議は終わりか?私は充分回復したぞ」
『……あぁ、こっからが本番だ』
プラズマ手刀を展開し、悠然とこちらに近付いてくるラウラにシャルが警戒体勢を取った。凄みが増したその覇気はまるで歴戦の戦士と呼べるだろう。
『(ここにきてまだ”上がる”のか……とんでもない奴だよ、お前は)』
ラウラの戦闘技術に対する才能は俺ですら敵わない。洗練された動きに卓越した技術、理解し応用し派生するどこまでも尖ったパラメータが今、俺達に向けられている。
「………貴様、”その身体でそれを使えばどうなるか忘れたのか?”」
『…………』
その言葉に体が硬直してしまった。ラウラにこのスタイルを見せたのは、駆り出された戦場で俺とラウラだけが取り残され、敵軍に捕まったあの時だけ。
無理矢理の脱出と敵軍を内部から破壊、その代償で大怪我を負った――と報告した筈だが。
「当時は上手く騙せていたが、その後の記録で知った。知ったからこそ私は貴様を認め、また同志として共に在りたいと思えた……」
だが、と冷淡な表情が一気に憎悪へと包み込まれラウラは続ける。
「貴様は私を裏切り、あまつさえ敵になっていた……貴様にわかるか?この怒りが…ッ!!」
『……わからねぇよ。俺はお前じゃないんだから』
確かに俺のやってきた事は全て矛盾しているのだろう。守る為に壊す力を求め、生きる為に寿命を縮め、傍に居る為に離れた俺の人生は全部が逆さまだ。
『だけどよ、お前だって俺じゃないんだから何もわかってないだろ。それでも、俺のせいでお前が苦しんでるなら…俺はお前を救う』
「救うだと…ッ?力を失い、死に怯える貴様に――私を救う事なんて出来はしない!」
怒号に近い叫びが木霊する。何かに縋りたい、だがもう諦めている、そういった嘆きのような叫びが。
あぁ、お前も――
『今度は千冬さんじゃなくて俺が、お前を拾いあげてやるよ、好敵手』
――その地獄から抜け出したいんだな。