IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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4P目

 

 

 

『(虚勢を張ったのは良いが……どこまで保つかだな)』

 

AICを使ってから心臓が早鐘のように脈打ち続け、指先からはほとんど力が抜けかけている。

 

どうやら、俺の推測よりも早く片を付けないといけないようだ。

 

『行くぜ…ッ!』

 

ジャッジメントを真っ直ぐに構え、俺はラウラへ突貫する。だが直進ではなく、両手両足のスラスターを交互に吹かしながら雷のような軌跡を辿って向かっていった。

 

「甘いッ!」

 

射出されたワイヤーが俺の軌道を先読みし行く手を阻む。一本を斬り伏せ、もう一本をグリントで撃ち返した瞬間、

 

『ぐ、が…ッ!!』

 

ガゴッ!と重厚な破砕音と共に肩の装甲がレールカノンによってえぐり取られた。だが…!

 

「チッ…!貴様ァ…!」

 

撃たれて吹き飛ぶ寸前でジャッジメントを投げ、レールカノンの砲身に直撃、これでラウラに遠距離武器はない。そして本来の目的であるパニッシュメントの回収も今出来た。

 

『……っ』

 

俺は左目だけを越界の瞳に変え、脳内でシステムを起動させる。膨大な情報量が頭の中を縦横無尽に駆け巡り、耳鳴りと頭痛で破裂しそうだ。

 

「はっ!」

 

両手から火花を散らしてシャルが俺の前に躍り出て、アサルトを掃射しながらラウラに牽制をかけ始めた。

 

しかし、ラウラは先程の俺と同じ雷の様な俊敏な軌道で弾丸を躱し、一気に肉迫する。

 

直後、

 

「あぐ…!?」

 

「……貴様程度が、奴の隣に立つな。虫唾が走る」

 

一蹴。正にそう言える力量の差で、耳を覆いたくなる破砕音が撒き散らされた。ワイヤーで投げ捨てられたシャルはアリーナの壁に叩きつけられ、砂煙の中に埋もれてしまう。

 

『シャルッ!』

 

「次は貴様だ、”それ”を使われる前に殺してやる」

 

越界の瞳は一日一回が限度――だがラウラの成長速度は完全に想定外だ。悠長な事は言ってられない。

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

『チッ…!』

 

キュイン、と左目から機械の駆動音が脳内を蹂躙し、不自然に歪む空間が迫るラウラの攻撃を止め、俺はパニッシュメントの引き金を引く。

 

『(これで……ぐっ!?)』

 

何かが切れた音が左目からして、俺は攻撃のチャンスを退避へと切り替えた。一定まで距離を取ってから左目に触れてみれば、赤い液体が手の装甲を濡らしていく。

 

「…………完成品のデメリットか、または貴様の体に関係があるのか。どちらにせよもう終わりだ」

 

『まだ……だ……俺は、死ん、でねぇぞ…』

 

喉が干上がり、肺が苦しい。ぜぇぜぇと吐き出される荒い呼吸をなんとか整えようと自分の胸をスーツの上から握り締めた。だが、

 

「…何故、貴様がそこまで!織斑一夏の為にそこまで傷付かなければならない!!」

 

頭が割れるような痛み、力が抜け切った左腕、左目が視覚としてまともに働かない。鈍った思考回路にラウラの怒号が叩きつけられて朦朧とする。

 

「奴になにがあるというのだ!!戦闘技術もない、ISもまともに動かせない、勲章も誇りも戦績も何もない!なのに、何故教官は――お前は!奴の為にそこまで!!」

 

何故、そこまで――そんなの俺だってわからなかった。アイツは約束したから守る、ただそれだけだった。近付いたのはその方が都合が良かったからだ。

 

千冬さんの下についたのは束さん直々に送り出されたからだ。強くなったのも約束を守る為に必要な事だったからだ。だけど、それ以前に――

 

『一夏は、俺の――親友だから』

 

戦いや研究しか知らなかった俺に世界を教えてくれたのが一夏だ。本当の家族の温もりを教えてくれたのが千冬さんだ。俺はあの二人に大事なものをもらったんだ。

 

『だから、俺は…織斑一夏のように…お前も救ってやる…!』

 

「ふ、ざけ、るなァァァァァァァァァァッ!!」

 

全ての武装を開放し、ラウラは轟ッ!!と突風を纏いながら憤怒の表情で攻め込んでくる。

 

そうだ、俺はいつの間にか生きる事に縋っていた。だけど、ラウラは常に命を懸けて俺に向かってきていた。それがお前をここまで強くし、俺との決定的な差だったのだろう。

 

だから俺もそれに答え、命を燃やして向かい合わなければいけない。

 

ギィィィンッ!と。

 

『俺も、命を懸ける。行くぜラウラ…ッ!』

 

攻撃を受け止めたパニッシュメントの引き金を引き、刀身が赤色を帯びると同時に振り切った。

 

「ぐっ…!?」

 

吹き飛ばしたラウラを見据え、俺は大きく息を吸い込んで、覚悟と共にあるコードを発言する。

 

『モード:Iblis(イブリス)……!』

 

―いくよ、彰―

 

カッ!と眩い閃光が一瞬にして広がり、俺の視界さえも白く染め上げた。体に感じるのは軽くなっていく装甲の重みと、爆発しそうな心臓の鼓動だ。

 

任意での形態変化――それがアトというAIを持つこの機体の最大にして最高の特異点であり、オーバースペックと言わしめた理由。

 

「チッ……貴様、死にたいのか!」

 

閃光が晴れ、俺は改めて自身の身体を見渡した。カラーは変わらないが、目を覆い隠す大きなV字型のバイザーと流線形の薄くなった装甲。

 

普段のISが装甲を纏うと表現するならば、今のアトは装甲を着るといえよう。まるで人型のISのようになっている。

 

―いまの彰じゃ、あと2分だけしか動かせない―

 

脳内に響くアトの悲しそうな声に、俺は眉を潜めた。制限時間は、2分。

 

―それ以上はぜったいにダメ……彰を死なせたくない―

 

『安心しろ』

 

右手には変わらない剣の重み、左手には握り慣れた銃のグリップ。

 

『俺が死ぬとしたら、それは約束を守れなかった時だ』

 

俺の残り少ない命なんざいくらでも賭ける事ができる。だが、俺の中にある約束は…俺の使命となった。

 

使命を守る為なら…俺はお前でも、踏み越えていく。

 

「そう、か…ならもういい。貴様など知らない、私の好敵手はもういない、孤高の強さを持った誇り高き戦士はもう死んだ、今ここ、で!」

 

轟ッ!!と突風に似たスラスターの射出を真っ向から射止め、俺はゆっくりと構える。

 

「消えてなくなれ、この、紛い物がァアアアアアアアアアアア!!」

 

狂気に染まった顔とノイズさえ走る怒号を従えたラウラのプラズマ手刀に異変が起きた。

 

黒い泥のような何かが手刀を包み込み、禍々しい形状に変わっていく。本人は怒りで気付いておらず、こちらもそれに注意を割いてるヒマはない。

 

ほぼ同時に、俺達は動いた。

 

キン、と軽い音が先に響くと、凝縮された玉が割れたように莫大な金属音を撒き散らす。

 

「アアァァアアァアァアアア!!」

 

縦横無尽に振るわれるプラズマ手刀を両目のセンサーで正確に捉えて回避し、一つ避ける度にこちらも反撃するが、

 

『ウォォォォォオォオオオオオオ!!』

 

弾き、躱し、避け、防御する目にも止まらない高速戦闘に音が置き去りにされていく。しかしどちらも一撃も当たっていない。

 

「消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ消えろォオオオオオオ!!」

 

ギギギギッ!と引きずったような音がようやく追いついてきた時には、ラウラの腕が黒い泥のようなモノに覆い尽くされていた。

 

感情を叩きつけるかの如く、回避も予測もない猛撃が繰り出される。

 

怒涛の連撃を掻い潜ったのは、

 

『(AIC…!)』

 

俺だった。雑なAICの発動の一瞬の隙に、俺のグリントがラウラの肩を射抜いたのだ。

 

身体が傾いた瞬間、俺はパニッシュメントの引き金を引いた。峰から爆発のような炸裂音を発し、三本の赤い火柱をブースター代わりにしてその赤い剣は加速する。

 

『終わりだ、ラウラ!』

 

ボッ!とけたたましい炸裂音と共に俺はパニッシュメントを振り抜いた……筈だった。

 

しかし現実は――俺の身体が限界を迎え、左腕がダラリと垂れ、振り抜くと同時に放つ筈だったグリントは地面に落ちていった。

 

『(間に、合えェエエエエエエ!!)』

 

ほんの一瞬の隙、これを逃したら正真正銘、俺の負けだ。

 

俺は残った右腕に残った全ての力を込め、全力で薙ぎ払う。

 

轟ッ!と剣による衝撃が爆音となって響き渡り、

 

「………貴様の負けだ、御剣彰」

 

冷酷な声が、突き刺さった。

 

 

 

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