IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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5P目

 

 

 

ラウラの禍々しくなったプラズマ手刀で俺の全力の攻撃が受け止められていた。

 

ラウラは既に右腕を限界まで引き絞り、その目標である俺の顔に狙いを定め終わっている。

 

『くっ、そ……!』

 

「……死ね」

 

俺の顔の中心目掛けて真っ直ぐに刺突が繰り出され、俺は目を見開いた。

 

AICはもう使えない、左目は完全にただの視界に戻り、空いている腕は動かすこともできない。そんな絶望の中で、

 

 

俺は笑っていた。

 

 

「甘いのはどっちだろうね」

 

ガチリ、重々しい音がラウラの背後から微かに聞こえ、俺は首を大きく捻った。

 

驚愕の表情で背後に目を向けたラウラに対し、薄く笑う相棒――シャルの最強にして最大の武器、連射型パイルバンカーが無防備な背中に押し当てられている。

 

「盾殺し―シールド・ピアース―!?」

 

「言ったでしょ、僕の事忘れてもらっちゃ困るって…!」

 

シャルが引き金を引くのと、ラウラの刺突が同時に発射された。禍々しいその手刀は俺の額を浅く削り取っていき、

 

『果てろ』

 

叩き込まれた第二世代型最高の攻撃により、ズガガガガッ!と耳を覆いたくなる破砕音が会場を揺らした。

 

「っあぁあああぁぁあ……!!」

 

シールドエネルギーが急激に減っていき、俺は弾かれるようにラウラから離れる。

 

俺の、俺達の…勝ちだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「(こんな……こんなところで負けるのか、私は……)」

 

奴は強い、そんなことは昔から知っていた。だから私は命懸けで奴に挑んだ。本来ならば私など足元にも及ばない奴に挑むには、それぐらいしかできなかったから。

 

だが奴は何もかも変わっていた。戦場で幾度も見た孤高の強さ、恐怖さえ覚える圧倒的な力量、決して仲間を見捨てず、常に死を隣に置く覚悟を持った、私のもう一つの憧れだった筈なのに。

 

平和に甘え、力を失い、しかしそれを受け入れ、あまつさえ織斑一夏の味方になっていた事に、怒りを通り越して憎しみが湧いてきた。

 

「(私は…まだ…負けられない。負けるわけにはいかない……!)」

 

――ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

それが私の名前、識別上の記号、人工合成された遺伝子から作られ、鉄の子宮から生まれた。

 

ただ戦いのためだけに作られ、生まれ、育てられ、鍛えられた。

 

性能面において私は優秀であった。常に最高レベルを記録し続けるほどに。

 

それがある時、世界最強の兵器――ISが現れたことで世界は一変した。

 

その適合性向上のために行われた処置―越界の瞳―によって異変が生まれたのだ。

 

疑似ハイパーセンサーとも呼ぶべきそれは、脳への視覚信号の爆発的な速度向上と、超高速戦闘状況下における動体反射の強化を目的とした、肉眼へのナノマシン移植処理のことを指す。

 

そしてその処置を施した目のことを、開発者は越界の瞳―ヴォーダン・オージェ―と呼称したらしい。

 

危険性は全く無い、理論上不適合も起きない……筈だった。

 

しかし、この処置によって私の左目は金色に変質し、常に稼働状態のままカットできない制御不能へと陥った。つまりは失敗したのだ。

 

この”事故”により、私はIS訓練において遅れをとることになり、トップの座から転げ落ちていった私は嘲笑と侮蔑を受け、この瞳は”出来損ない”の烙印とされる。

 

私は、深く暗い闇の中に落ちた。

 

しかし、そこに光が差し込んだ。

 

『すまない……本当に、すまなかった……』

 

その時に会ったのが、御剣彰という人物だ。奴は”越界の瞳”を完成させた張本人だと言う。

 

「ここ最近の成績は振るわないようだが、なに心配するな。1ヶ月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな」

 

そして教官――織斑千冬との出会いでもあった。

 

あの人の言葉に偽りはなく、私はあの人の教えを忠実に実行するだけで、IS専門となった部隊の中で再び最強の座に君臨した。

 

そして彰という最高の好敵手であり私が共に在りたいと初めて願った男が、常に隣にいてくれた。

 

自分を疎んでいた部隊員も、もう気にならない。

 

それよりもずっと、強烈に、深く、あの人に――憧れた。

 

その強さに、その凛々しさに、その堂々とした様に、自らを信じる姿に、焦がれた。

 

 

―こうなりたい、この人のようになりたい―

 

 

私はある日、教官に訊いてみた。

 

「どうしてそこまで強いのですか?どうすれば強くなれますか?」

 

その時だ。あの人が、鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。

 

「私には弟がいる」

 

「……弟、ですか……」

 

「あいつを見ていると、わかる時がある。強さとはどういうものなのか、その先になにがあるのかをな」

 

「……よくわかりません」

 

「今はそれでいいさ。いつか日本に来ることがあるなら会ってみるといい……あぁ、だが一つ忠告しておくぞ。彰とあいつは――」

 

優しい笑み。どこか気恥ずかしそうな表情、それは――

 

「(それは、違う。私が憧れるあなたじゃない。あなたは強く、凛々しく、堂々としているのがあなたなのに)」

 

だから、許せない。教官にそんな表情をさせる存在が。そんな風に教官を変えてしまう弟、織斑一夏を認められない。認めるワケにはいかない。

 

『――俺と共に在り続けたい、か……悪いが俺の隣には死神が座っているんでな』

 

最高の好敵手には、初めて抱いたこの感情を告げたが、いつも見ていた孤高の狼に似た顔を悲しそうな顔にさせてしまった。

 

「死神などいない、力の足りない者が喰われ、力のある者が生き残るのが戦場だろう?」

 

『そうだ、だから俺は戦場では死なない。俺が死ぬとしたら、それはきっと戦いではないんだと思う』

 

落ちていく夕日に目を細めて、『それでも』と奴は続けた。

 

『その死神とさえ、共に戦ってくれるような強さをお前が手に入れたら…俺もお前と在り続けたいと思うんだろうな』

 

共に戦えるほどの強さ。それが一体どういう意味を指しているのか私にわからなかった。

 

ただ、奴の隣に立つにはあまりにも力不足で。教官を変えてしまう織斑一夏も許せなくて。だから力を付けて、二人を負かす事にした。

 

そしてそれを成せば、私は胸を張って奴の隣に立てる。

 

だから、

 

「(敗北させると決めたのだ。あれを、あの男達を、私の力で、完膚なきまでに叩き伏せると!)」

 

こんなところで負けるわけにはいかない。奴は、アレは、偽物は、まだ動いているのだ。動かなくなるまで、壊さなくてはならない。その為には――

 

「(力が、欲しい……)」

 

ドクン……と、私の奥底で何かが蠢く。そしとそいつは言った。

 

―願うか……?汝、自らの変革を望むか……?より強い力を欲するか……?―

 

言うまでもない。力があるなら、それを得られるなら――空っぽの私など、何から何までくれてやる!

 

だから、力を……比類なき最強を、唯一無二の絶対を、私によこせ!

 

 

 

 

DamageLevel………D,

MindCondition………UPlift,

Certification………Clear,

 

《ValkyrieTraceSystem》………boot.

 

 

 

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