目を開けると、そこは真っ白な世界だった。
上も下も、右とも左ともわからない世界で聴き慣れた声だけが響く。
―お前は、何故そこまで強い?―
地平線の彼方まで白で包まれたその前方…俺の目の前から聞こえてきた気がした。
俺は散歩するのと同じ速度でそこへ歩き出す。
『強くなんかない。俺は、お前が思ってる以上に、強くなんかないんだ』
歩いていると、遠くに一つの点、ラウラが見える。
『けど、もしも俺が強いっていうなら、それは……』
―それは?―
『守りたいものが、守りたい人達がいるから強いんだよ』
―守りたい、もの―
『俺はただ壊すだけしかできなかったこの力を、一夏や箒を……いや、大切な人達と約束を守る為に使いたい。それだけだ』
―それが、強さ?―
『それは人それぞれだ。お前にだって、いつか見つかる時が来るさ』
背を向けて、両膝を抱えて座るラウラの隣に座り込み、俺は肩に手を置く。
『お前も俺の大切な人で、大切な約束をしたじゃないか。だから、守ってみせる』
―お前が苦しい時は、俺が傍にいてやる―
「一つ忠告しておくぞ。彰とあいつに会うことがあれば、心は強く持て。あれらは未熟者のくせにどうしてか妙に女を刺激するのだ。油断していると惚れてしまうぞ?」
苦笑しながら告げた教官の言葉が蘇る。
ああ、そうか。
これは確かに。
惚れてしまいそうだ。
――――――――――
『あ~……疲れた……右腕重いし、肩凝るし、書類の山だし』
「彰って疲れてくると良く喋るよね。疲れ過ぎると喋らなくなるけど」
『疲れてきた時こそコミュニケーションをとって少しでも心を癒やそうと……』
「麺伸びちゃうよ?」
スルーされた……
ちなみに、今日のメニューはラーメンである。
あの後事情聴取やらラウラのVTシステムの解体やらからやっと開放され、疲れて眠くなった頭で適当に食券を買ったらラーメンになってしまった。
……今回の件については、無事収束に向かっている。というよりも一応国家機密である俺に向けられた形になってしまったのもあって、学園側も公にできないのだ。
戦いが終わった直後に右腕を隠すように言われ、千冬さんにはその事で思い切り殴られた。
「もう二度と、そんなことをするな」と念押しされ、おそらく一夏にもしてないだろう抱擁も一緒に。
そういえば、一夏とセシリア、鈴はすっかり全快している。さっきまで一夏のマッサージを受けていたんだが、あれはハマる気持ちよさだ…
まぁそのマッサージをしようと唐突に入ってきやがったせいでシャルが女だとバレてしまったワケだが。
『あー…眠い、疲れた、ゆっくり風呂に浸かりながらアイス食いたい…』
「壊れ始めたね~…はい、あーん」
『むぐ……大丈夫だ。問題無い』
シャルのデザートをほうばりながらその一部始終を見た女子達がキャー!と騒ぎながらどこかに行くの見ていた。
そりゃあ”男同士であーん”なんてしていたら不自然極まりないだろう。何も叫ばなくてもいいとは思うが。
―これが……びーえる…ごくり―
ちょっと待てそんな単語どっから覚えてきたこのバカ娘。あれか、さっき整備部門の人達に預けてきた時か?なんにしてもやめなさいコラ。
「あっ、御剣君にシャルル君、見つけましたー!」
食器の乗ったトレーを片付けていざ自室へ戻ろうとした時、ぱたぱたと走ってくる山田先生が笑顔でそう言ってきた。
『どうしたんですか山田先生。朗報とは?』
今までずっと手記をやっていた山田先生がここにいる、更に朗報と言うのだから、もしかたら俺の右腕を治す方法とか束さんの場所がわかったとか……
「なんと!今日から男子の大浴場が解禁になります!」
……わかってた、わかってたさ。儚い夢だって。亡い女を想うと書いて妄想だもんな、素直に喜ぶとしよう。
『ワーイ』
「あ、あれ?あんまり嬉しそうじゃないですね…」
山田先生に死んだ魚のような目を向けていたら察してくれたらしい。
ここで重要なのが、俺の右腕はIS…つまり機械なので風呂に入るのに結構面倒な事。そしてシャルが本当は女性だと言う事。一夏?あいつさっき石鹸の匂いがしたからもう入ったんだろう。
「大浴場……ちょっと良さそうだなぁ」
未だ男性として扱われるシャルにとっては本当に朗報だろう。俺も一日の〆として、今回は入らせてもらうか…