「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……」
「イギリスだって大したお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ」
とここで、日本を馬鹿にされて苛立ったのか、怒気を含んだ言葉でセシリアの言葉を遮って、悪態をつき返した一夏。
『それと、実力トップがなるべきならお前じゃ役不足だ。お前程度の下に入るなら俺はドイツに帰る』
それに便乗して俺も座ったまま文句を言う。
実際のところイギリスがどんな所かは知らないが、あれか?イギリス〇教とかあるのか?
「わ、わたくしの祖国を侮辱するなんて…!」
わなわなと怒りに震えるセシリアが再びバン!と机を強く叩いた。その度に俺はいつ千冬さんがキレるか怯えるんだからやめてくれ。とばっちりは全部俺なんだから。
「決闘ですわ!」
「いいぜ、四の五の言うよりわかりやすい」
『待てよ。一夏はまだ専用機が届いてないだろ?俺が受ける』
俺も立ち上がり、一夏の肩に手を置きつつ前に立つ。
セシリアはふふん、と得意気に鼻を鳴らして、
「誰が相手だろうと変わりませんわ。ただ言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い――いえ、奴隷にしますわよ?」
自信満々に言うセシリアを、俺は一度呆けてしまった。その後に一気に笑いがこみ上げてくる。
『プッ……アハハハッ…!』
「な、何を笑っていますの…!気でも触れてしまったのかしら…!?」
『いやぁ…他人の力量も測れないなんてこの先大変そうだなぁって』
周囲の視線が疑問の色に変わっていく。それに気付かないのか、
「まっ、何にせよ丁度いいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
セシリアには俺が眼中にないとでも言うかのような余裕が見えた。
では、俺も余裕を見せてやろう。
『さて、ハンデはどうする?』
「あら、早速お願いかしら?」
『有り難く思えよ?お前みたいな雑魚にハンデを与えてやるんだから』
一瞬の沈黙、そしてすぐにクラスメイト達の笑い声が教室を埋め尽くした。
「御剣君本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのは昔の話だよ?」
「それは言い過ぎだよ~」
爆笑に包まれる中、俺は千冬さんをチラリと見ると、千冬さんは無音で口だけを動かし、「許可する」と言っていた。
俺はセシリアと向き合うと、ニヤリと笑う。
そして、無数の閃光を輝かせて縦横無尽に右腕を振った。
ブワッと空気が吹き荒れ、クラスメート達が悲鳴を上げながら顔を伏せる中、セシリアは呆然と突っ立っていた。
『セシリアだっけか?今お前は七回死亡、十三回重症を負ったが、俺が何をしたか見えたか?』
「……………………」
明らかに敵意のある目つきに変わったのを見て、見えていたのだろう、と結論づける。そこで、パンッと千冬さんが手を鳴らした。
「さて、話しはまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。御剣とオルコットはそれぞれ用意をしておくように。織斑、お前も一応準備はしておけ」
――――――――――
「うぅ…………」
『………………』
放課後になったが、俺達は未だに教室にいた。
目の前では一夏が机に突っ伏し、その机の片隅に腰掛けている。
すっかり夕日の出ている時間だが、俺達の部屋がまだ決まっていない事もあってこうして付き合っているのだが…
『…………一夏、お前実は馬鹿なのか?』
俺が呆れがちに言うと、一夏は溜め息混じりに答えた。
「………さっぱり意味がわからない……」
放課後になっても減る事のないギャラリー達が廊下の外で何か話しているが、今の問題は一夏だ。
俺は一夏の教科書の文を指差して、
『だからこことここを覚えればだな…』
「織斑君、まだ教室にいたんですね?」
そこで、若干息を切らした山田先生が安堵した表情で入ってきた。
教室にいた、という事は一夏に話があるのだろうか。先生も来たことだし、俺は『あとは先生に聞くんだな』と言い残し、先生に一礼して教室を出る。
「あっ御剣君!」
「御剣君が出て来たわよ!」
出た瞬間、俺は女子に囲まれ、身長や体重、趣味や女の子のタイプ等等と色々な質問を投げかけられる。
まさに、アメに群がる蟻。
『(そんなに珍しいか…?)』
動物園状態とはこういう事を言うのだろうか。いや違うと思うが。ともあれ俺は飛び交う質問の嵐に耐えきれなくなり、
『俺は自分の事を話すのが嫌いだ。聞きたかったら一夏に聞いてくれ』
そう言って親友に丸投げしてその場を後にした。
「……カッコいい…」
「クールな御剣君に、優しげな織斑君……」
「萌えるわ!」
アーアー、なにもきこえなーい。