1P目
―白と黒、その狭間を彷徨う灰色の騎士よ―
―お前は…誰だ?―
―汝は何を望む。変革か、破壊か、守護か―
―……今の俺が望むもの?―
―問おう、その在り方を―
―俺の在り方……そんなものに興味はない―
―汝はまた、黒く染まろうというのか―
―俺は染まらない。俺は俺として、灰色のままでいい―
―なれば―
―あぁ―
―今一度、示してみせよ―
――――――――――
――妙な夢を見た。それが何なのか、俺に何を求めているのか、ハッキリと頭に残っている。その上で妙な夢と判断した。
黒くなろうが白くなろうが、他の色に染まった時点で俺は俺じゃなくなる。それを自覚しているからこそおかしく、妙なのだ。
『……む』
六時半に設定してあった、真新しい携帯が時間を告げる。機械的な音に眉を寄せながら、起き抜けに感じた体の違和感、その原因を探ろうともぞもぞと毛布の中で手を動かす。
『(なんだ…?やけに温かい)』
絹のような肌触りに、好ましい柔らかい感触。滑らかな曲線を描く長い物体を撫で回していると低い位置に突起があり、それを摘むとびくりとそれは跳ね上がった。
「……ぁ…ん……」
………待て、待ってくれ。何だ今の艶っぽい声は。そして俺は今何を触っていた…!
意識をしっかりと覚醒させ、思い切り毛布をめくり飛ばすと、
『ら、ラウラ……ッ!?』
「……ん?」
朝日を浴びて鈍く光る長いプラチナの髪をシーツに這わせ、俺の腕を抱きしめていた小柄な少女――ラウラ・ボーデヴィッヒ。
まどろみを含んだ金と赤のオッドアイが俺を射抜き、にっこりと優しく笑ったその顔は思わず見とれてしまいそうになるほど美しく綺麗だ。
軍にいた頃、ラウラが俺に懐き始めてからはほぼ毎日俺のベッドに潜り込んできていたが、まさかIS学園でまでそれを実行に移すとは思いもよらない。そして、一番の問題は…
『…なんで、全裸なんだ、お前』
「夫婦とは包み隠さぬものだと聞いているぞ」
『それは秘密事とかだ、アホか』
右の太ももに黒いレッグバンド―シュヴァルツア・レーゲン―以外は何も、下着さえも着用していないラウラに俺は毛布を頭から投げつける。
『……あんまりそういう事はするなよ、俺以外には絶対するな』
「ふあ……貴様も慣れただろうに」
『毎朝お前のせいで軍の連中から目の敵にされていたんだぞ』
おかげで組手の相手に困らなかったがな。「ラウラ隊長の為に、隊長を倒すッ!」とか言いながら数十人が一斉に飛びかかってきた時は思わず半殺しにしたが。
その後ラウラが黒ウサギの部隊長に復帰してからもよく灰獅子の訓練に混ざってきたから尚更タチが悪い。どんどん俺に対する行為がエスカレートしていくし。そんなことより、
『こんなとこシャルや他の奴らに見つかったら誤解されるだろうが。さっさと服を着ろ』
「……彰は、シャルロットと仲が良いんだな」
『…こんな事許してるのはお前だけだ、いいから服を』
「そうか。服なら忘れた」
『オィィィィ!?』
ババッ!と適当に俺の服を投げつけた。服を忘れたってお前、ここまでどうやってきたんだよ…
『はぁ…シャルんところ行ってお前の着替えとってくる』
「なら着る必要はないな」
『だからってシーツも脱ぐな!』
再び全裸になろうとしたラウラのシーツを掴んだ瞬間、手首を掴まれ足払いされた。
体が宙を飛び、背中からベッドに叩き落とされ、左手がラウラの両手でホールドされる。
『ぐっ………』
「生身の方の腕を狙えば、貴様にも通用するな。それに、貴様は組み技の訓練を怠っていたのを覚えている」
当たり前だ、俺以外全員女しかいなかったんだぞ……それに千冬さんみたいな事を言うなんて、やはりお前もあの人の弟子だな。
だが、甘い。
『舐めんなよ………!』
「むっ!?」
捕まった左腕を力技で持ち上げ、体勢を整えた俺はラウラを引き剥がし、両手を片手で拘束してベッドに押し倒し返す。そのまま馬乗りになって顎を掴み取った。
『あんまり”オイタ”が過ぎると、喰っちまうぞ…』
至近距離まで顔を近付けて耳元で呟くと、ラウラは顔を赤く染め、どこか色気を含んだ目で俺を注視してくる。まるで、”それ”を待っているかのように。
『どうなっても、知らねぇか』
「彰さん!ご一緒に朝食で、も……!?」
『らな……ん?』
なんの前振りもなく、唐突にドアが開け放たれ、セシリアがパタパタと走り寄ってきて、現状を見て石化した。
俺は上半身が裸なのに対して、ラウラは全裸で俺に両手を拘束されている。今にも襲い掛かりそうな俺と、それを抵抗もせずにいるラウラ。
「あ、あぁ……お、お邪魔しましたわぁあああああ!!」
『お、おい、ちょっと待て…』
制止の声も届かず、きゃー!と叫びながら出て行ったセシリアに伸ばした手が宙ぶらりんになる。まずい、完全に誤解されたぞ。
「なんだ、アイツも混ざればよかったのに」
『………お前なぁ』
セシリアの乱入ですっかり勢いを削がれ、俺は一つ溜息をついてラウラから降りる。
壁に掛けてあった制服を取り、ブレザーをラウラの肩に掛けながら、
『ほら、いくら夏が近いからっていい加減風邪を引くぞ。サッサと着替えて来い』
そう言って、俺は先に食堂に向かおうと立ち上がった。だが、それを阻止するようにラウラに引き寄せられ、
『なにして…つッ』
ちゅう、と柔らかい唇が首筋に押し当てられ、吸血鬼のように鋭く吸われた。ぴりっとした痛みに声をあげれば、ラウラは満足そうに口を離して笑う。
「……忘れ物だぞ」
それは赤い、紅い、所有の証。それが鎖骨の上に印され、獲物を見る目でラウラはぺろりと唇を舐めとる。黒兎のような、小柄な体に肉食獣の意思を持った少女に思わず俺は息を飲んだ。
『……アホ、もう忘れねーよ』
シャツを羽織り、痕が見えないようにネクタイを締め上げて部屋を出た。