『ハァ……かったりぃ…』
なにが悲しくて普段から清掃員によって綺麗な教室を掃除しなきゃいけないのか。千冬さんだって俺が書類を出さなきゃ大変だとわかっているだろうに。
「反省文提出とかよりマシだよ」
『それもそうだが…まぁいいか』
よっこらせと爺臭く椅子から立ち上がる。元々埃一つない状態の為、窓を拭いたりゴミを捨てたりと形だけの掃除だったが。
「ん、んん~!」
誰の机かは知らないが、教科書類が大量に敷き詰められた机を運ぼうとシャルが力一杯持ち上げようとしている。それを逆から支えながら、
『机は俺が運ぶから、シャルは椅子を下ろしていってくれ』
「へ、平気だよ。これでも専用機持ちなんだから体力は人並みに……」
そう言った矢先に、シャルは重量に負け足を滑らせる。その瞬間に俺はシャルを思い切り引き寄せ、縫うように巻き取った。
『っと、怪我したら元も子もないだろ』
すっぽりと腕の中に収まったシャルが小声で謝り、盛大な音を立てて机が倒れる。抱えられた状態で俺を見上げてくるその顔は夕日で赤く染まり、紫色の瞳が妖艶に煌めいて俺の意識が吸い込まれていく。
ドクンと、心臓が一際大きく跳ねた。
「えと、彰………?」
たどたどしく言葉を紡ぐシャルにオreは―ガガ―syaるヲ―コro―……ブート。シsuテ、むwo起ドウ。たダtiに――
「彰…目が…っ!」
その言葉でハッと我に返ると、俺の視界はシャルをターゲットとして数々のウィンドウが展開されており、見慣れた視界から無意識に越界の瞳を発動させていることがわかった。
それだけなら俺の調整ミスだと判断できたからいい。だが俺の瞳は――シャルを”殲滅対象としてロックオンしていた”。
『あ、あぁ……そういえばシャルには説明してなかったな。俺の目はラウラと同じなんだ。勝手に起動したみたいだが…』
なぜ、なんで、どうして。俺の頭の中はそれで埋め尽くされていた。シャルは俺の大切な仲間で、護るべき友で、使命を捧げた――
「ほんとに、大丈夫?顔が真っ青だけど…」
『…大丈夫だ、心配するな』
シャルの頭を左手でわしゃわしゃと撫でる。にっこりと笑ってそう言えば、シャルは朗らかな笑みを浮かべて俺から離れ、再び掃除を始める。
…俺自身のIS化が影響しているのか、それとも今朝の妙な夢のせいか。どちらにせよ原因を突き止めなければならない。
もし、もしもこの原因がわからなかったら……俺は――
『そういえば』
「そういえば?」
一度思考を放棄して、俺もシャルと同様掃除を再開する。すっかり慣れた右腕で机を持ち上げ、左手には椅子を持って所定の位置へと設置していく。
『臨海学校の一日目は丸々休日になるんだよな?ということはみんな海に行くのか?』
「うん、僕やラウラ、一夏や箒もみんな行く予定だよ……ってまさか、彰は来ないの!?」
『あ、いや、臨海学校自体は行くぞ?ただそういった予定は一切聞いていないから、みんな別々に行動するのかと思ってな』
最後の机に手をかければ、同時にシャルが反対側から机に手をかける。思わず二人で苦笑して、一緒に運び終わるとなにか思い付いた顔で覗き込んできて、
「そうだ、書類が溜まってるって彰言ってたよね?僕で良ければ手伝うけど…」
『それは助かるが…なんでまた?』
シャルが読んでも大丈夫な雑務ばかりだから正直助かるが、 一人で片付けられない量ではない。と言っても臨海学校の一日目を丸々使うほど溜まってはいるが。
「せっかくみんなで海に行けるのに、書類が溜まってるとか考えたくないでしょ?」
『…気を遣い過ぎだ、アホ』
「ぼ、僕は彰の為を思ってねぇ…!」
憤慨するシャルに苦笑いを浮かべて、俺は掃除道具を片付ける。パンパンと手から埃を落として、大きく体を伸ばした。
確かに、せっかくみんなで海に行くんだ。遊んでいる最中に一々気にしてしまうのは興ざめというものだが…それはそれ、自分の仕事は自分で片付けなければいけない。
『その好意だけでありがたいものだ。お礼と言ってはなんだが…』
シャルの膨らんだ頬を撫でつつ、
『付き合ってくれ』
告げた。