『水着売り場は……確かここだったな』
駅前のショッピングモール、その二階にあるレゾナンスという二部屋分を丸々使った大きな水着売り場に来た俺達。
シャルの足も大した事はなかったようで、途中から手を繋いでここへ来たんだがどうやら俺がこのショッピングモールに向かっていると先程の人達によって速報が放たれたらしい。
道行く人からは妙な視線を受け、一緒にいるシャルまで俯いて居心地が悪そうだった。ここは一度別れて、落ち着かせるほうがいいか…
『俺は男の水着コーナーを見てくるから、一旦別れよう』
「あっ…」
そう言って手を離すと、名残惜しそうな、どこか寂しそうな顔をするシャルの頬を横に引っ張ってみる。
「ひゃ、ひゃにふんの…!」
『こうやってると昔を思い出せそうでな。いつも笑っていたのはどこのお嬢様だっけ?』
「もう…だ、だって、彰が…」
やっぱり俺のせいか…自分の容姿を気にした事はないが、他人から見ればウケが良いらしいのでモデルやインタビューを受けて研究費等を稼いでいるが、今回はそれが裏目に出てしまったようだ。
研究によって変色した髪と目の色は良くも悪くも目立つし、そんな特徴的な目印のせいで見分けがつきやすいのだろうな。
「か、格好良すぎるから…その…」
もじもじと体を捩らせ、ほんのり赤く染まった顔で俯きがちにそう言われた俺は一瞬硬直し、頭の中に突如として現れた某料理屋のセカンド幼馴染の青年が「それが、萌えだ!」と高らかに叫ぶのを感じた。
なるほど、確かに知り合いから褒められるのは悪くないが、萌えっていうのはまだ俺にはさっぱりわからないよ弾。こういう時はどうすればいいんだ、教えてくれクラリッサ。
―萌えとはスラングの一種で、庇護欲を伴った疑似恋愛的な好意や愛着、もしくは純粋な好意や愛着などの―
お前はもう修理に出すからな、その妙な知識全部消してやるからな俺は決めたぞ。
―えー、せっかくおぼえたのに―
『そ、そうか…とりあえず、一旦別れて気持ちを落ち着かせよう。お互いに』
「う、うん…ちょっと見てくるね!」
恥ずかしそうにしながらも手を振って女性の水着売り場へと歩いていくシャルを見届け、俺は反対側へと歩き出す。
一見整っているように見えて整っていない男性の水着コーナー。綺麗に陳列はされているが、それは目立つ一番上のもだけだったりとここにも今の世界の常識が現れている。
更にはヒドイ柄物ばかりで小学生を対象にしたのか?と疑問を抱いてしまう程だ。まったく、男には世知辛い世の中になったものだな…。
―なら、女の子になってみる?―
女性が尊ばれる今の常識で一々身の振り方を考えなくて済むだろうし、なれるものならなってみたいものだよ。
―できるよ?彰なら―
………待て、何を根拠に言っているんだバカ娘。性転換なんてそれこそ人体の形態移行だろう、できるわけが…
―私が彰のISに干渉すればできると思うよ―
それだと俺の体が大惨事を引き起こすんだが。絶対にやらないからな?
アトと脳内で会話しながら適当に周囲を見渡し、機能性重視の黒いトランクスタイプの水着を手に取ってレジへと向かう。
会計を終えて、水着の入ったレジ袋を片手にシャルの所へ向かおう踵を返した瞬間、先程会計をしてくれた女性に引き止められた。
「あの、もしかして……」
『人違いです』
にっこりと笑って女性の手を取り、あるものを握りこませる。色々な状況でも使える社会の渡り方の一つ、とだけ言っておこう。
握られた手を見て女性は何かを察した顔つきになり、数秒の後にっこりと笑って「お買い上げありがとうございまーす!」と元気よく送り出してくれた。
『さて、シャルは……ん?』
軽快な着信音が響き渡り、俺は携帯を取り出して連絡してきた相手の名前を確認し、自分の顔がげんなりしていくのがわかる。なにせ相手はラウラの副官であり重度の日本オタクであるクラリッサだったのだ。
確かに俺はクラリッサに助けてもらった事も多数あるが、あちらから俺にかけてくる場合に限りとてつもなく面倒な事か心底どうでもいい事でかけてくるからである。
『……何の用だ』
「オフの日に申し訳ございません、元灰獅子隊長、御剣彰様」
『今の俺はただの軍の知り合いだ、そういうのはいい。用件はなんだ』
「イエス・マム。ところで彰様、あなたはツインテールとポニーテール、どちらが」
『切るぞ』
そんな事を俺に聞くんじゃない。ただでさえ一般知識に疎いのによりによってそんなコアな事を聞いてくる奴がいるか。
苛立ちを含めた声でそう告げると、バン!と向こう側から机を叩く音がする。そしてクラリッサは息を溜めて、言葉と同時に一気に吐き出した。
「お言葉ですが彰様!これは我々黒ウサギ部隊にとって重要な作戦の要なのです!確かに彰様は秀でた容姿をお持ちなのにファッションや一般知識等が無きに等しい非常に残念なお方ですが」
『張り倒すぞ』
「我らの上官とてそれは同じ。ですので我々は最大限のバックアップを行うべくこうして日夜活動しているのです。理解していただけましたか?」
『お前らのラウラに対する忠誠心はよくわかったが、俺を巻き込むな』
まず髪型の好みを俺に聞く時点で間違っている。他に男性の知り合いがいないというのもあるだろうが、聞こうと思えば軍の奴らにでも聞けるだろう。
はぁ…と溜息を一つ零して、俺はラウラの容姿を思い浮かべる。一般的に見れば…高校生にしては低い背丈と、白銀に輝く銀髪、顔は身長に見合った少し幼くも端麗なものだ。
『ツインテールでいいんじゃないか?ポニーテールは夏に多く見られて印象がありきたりになる。更にラウラの容姿なら人形のような可愛さを演出できるだろう』
「なるほど、彰様はツインテールがお好きなのですね」
『俺がじゃなく、ラウラの容姿に見合った選択をしただけだ。伊達にモデルはやっていない』
腕時計を確認すれば、シャルと別れてからすでに二十分程経過している。これ以上は待たせられないな。
『こっちも用事がある、切るぞ』
有無を言わさずに電話を切り、シャルの所へ向かう。全く、本当に軍人なのかも怪しいほどゆるい部隊で困ったものだ。