『シャル、なにか良いのは見つかっ…』
「ごめん彰!ちょっと来て!」
『たか、っと』
合流した途端シャルに手を引っ張られ、店内を早歩きで通り過ぎていく中、俺は全く状況が読めずにいた。
周囲には目もくれずに二人で試着室に入ると、シャルは仕切りに使われているカーテンを少しだけ開き、外の様子を伺っている。
『(まさか、テロか?)』
俺はハイパーセンサーだけを部分展開し、カーテンを透過して様子を伺いながら俺達以外のISの状態をチェックする。セシリア、鈴、ラウラの三人はISがステルスモード、一夏は恐らく気付いていないのだろうが通常モードだ。
専用機持ちが三人もステルスモードというのはおかしい。隠密行動を強いられているのかもしれないが、ISによる武力介入はテロであれば許可が降りるはずだが……
「(せっかくのデートなのに、なんで三人もついてきてるの…もう!)」
『(千冬さんからの伝令も無く、現状騒動も検知できない…今の俺の立場では迂闊な行動はできないが、どうしたものか)』
妙な沈黙が続く中、俺は何度目かわからない溜息を零した。
『シャル、どういう状況か説明してくれ』
「え?あ、ほら、水着なんだけど、えっと…彰に見て欲しくて?」
水着…?何かの隠語だろうか?
この状況、テロが起こっていると仮定した上で考えるならば、水着を見て欲しいとは水着が危険ということか?そして見て欲しいとは、つまりこの大量に陳列された水着の中のどれかに爆弾等の危険物が隠されている可能性ということだと推測する。
なるほど、それにいち早く気付くとは流石はシャルだ。久々のオフで俺は完全に気が緩んでいたらしい。
『……待て、なんで服を脱ぎ始める?』
ガシッ、と上着を脱ぎ始めたシャルの肩を掴み、それを止める。今は服を脱いでいる場合じゃないだろうに。
「じ、時間はかからないから…彰はあっち向いてて!?」
『……了解した』
この状況で着替えるとなると何か装備でもあるのだろうか。そう考えて自身の装備を確認する。
サプレッサーとソーコムが一丁腰に、袖の中にナイフが一本仕込んである程度だが、俺にはアトがいる。本格的な銃撃戦になったとしてもISが出てこない限り無力化できるだろう。
…それに、このショッピングモールに入ってから尾行されているのも気にかかる。殺意を全く感じない点は評価するが、それ以外の気配の消し方などを見るにド素人だ。故に放置していたのだが、先にそちらを始末しておくべきか…
「い、いいよ…」
『ん、あぁ…』
振り返れば、シャルは水着に着替えていた。セパレートとワンピースの中間のような水着で、上下に分かれているそれを背中でクロスして繋げるという構造になっている。色は夏を意識した鮮やかなイエロー、正面のデザインはバランスよく膨らんだ胸のその谷間を強調するように出来ている。
黄色い花、と言葉で例えるならそう言えるだろう。まさか見て欲しいとは、選んだ水着に危険物がないかという事か?
『………………』
もじもじと指を交差させて恥ずかしがるシャルの目と目が合う――ドクン、と心臓が跳ねた。
―eラー、たいショuヲ…っク…セんme……code.Gray……シグナルga確認できマせんdeシた―
―だめ、だめ…絶対に、させない…!―
「あの、一応もう一つあって……」
『……………………い、いや?それ凄く似合ってるぞ』
「そ、そう?じゃあこれにするね!」
『ただ、な?』
シャルの顔の横に腕を突きたて、着替えようとしていたシャルの手を阻む。呆けた顔で一瞬動きが止まったシャルの耳元で、
『俺だって男だ…あんまり”お預け”されると…』
喰っちまうぞ、と甘い声で囁けば、シャルの頬が赤くなりぞくぞくと体を震わせていた。誘ったのはそっちだ、ならば俺からも攻撃させてもらう。
さて、長い時間ここに隠れていたが、外からはなにも反応がない。ここは一度出て状況を再確認するか…
「むっ?」
『えっ』
カーテンを開け、腰の銃に手をかけて外に出ると目の前には私服姿の鬼教官と山田先生が丁度通り過ぎようとしていたところだった。
「何をしている、馬鹿者が……」
『……俺にもなにがなんだか』
その一瞬後、山田先生の絶叫がこだました。