「はあ、水着を買いにですか。でも二人で入るのは感心しませんよ。教育的にもダメです!」
俺の推測したテロもなく、店内で正座をさせられて先生によるお説教が始まって数十分。
「す、すみません……」
ぺこりと頭を下げるシャルと同じように頭を下げて謝る。しかし、こんなところで先生達と遭遇するとは思わなかったが…
『ところで、先生達は何故ここに?』
「私達も水着を買いに来たんですよ。あ、それと今は職務中ではないですから、無理に先生って呼ばなくても大丈夫ですよ?」
山田先生はともかく、千冬さんはサマースーツを着こなし、いかにも仕事中のような格好だ。それに先生を先生と呼ばなくていいと言われてもなんと呼べばいいのか返答に困るんだが。
それに怒られるなら人を勝手に尾行したその商品棚の後ろに隠れている二人もその対象じゃないだろうか。
『ほら、立てるか?シャル』
「うん、ありがとう」
説教が終わって立ち上がり、シャルに手を貸していると千冬さんから鋭い視線を飛ばされる。そして顎をくいっと商品棚を示し、俺は頷いてそこへ近付いていく。
『バレバレだぞ鈴、セシリア』
びくぅ!と体を強ばらせる二人を連れて千冬さんの前に連れて行くと今度は二人の説教が始まった。大方勝手にISをステルスモードにしたことなどだろうが、俺達はそれを苦笑いで見てることしかできなかった。
「おっ?」
「むっ?」
腕まで組んでいかにもカップルに見える二人…一夏と箒が俺達の横を通り過ぎ、映像を巻き戻したように戻ってくる。二人がここに買い物をしにいくって聞いたからここをチョイスしたワケだから会っても驚きはないが。
「偶然だな!彰達も水着買いに来たのか?」
『ああ、そういう二人はデートか?』
「で、デデデデデデー………!?」
真っ赤になって手をワタワタと振る箒だが、組んだ腕を離さないところを見ると満更嘘でもないようだ。そうやって仲良く一緒に行動してくれると俺としても大変助かる。
「いや?箒に水着買いに行かないかって誘われただけだ」
「……………」
助かるのだが…お前の唐変木さには流石に俺も冷や汗が出てしまうぞ一夏。せっかく良い雰囲気なのに箒からどす黒いオーラが吹き出てるぞ。
「……さっさと買い物を済ませて退散するとしよう」
ふう、とため息混じりに千冬さんが言うと、山田先生がわざとらしく大声を出して、
「あ、あー。私ちょっと買い忘れがあったので行ってきます。えーと、場所がわからないので凰さんとオルコットさん、着いてきてください。それと篠ノ之さんとデュノアさんも!」
そう言ってどこかに行く山田先生達。抗議の声が多数上がっていたが、それを無視して店の外へと足早に出て行ってしまい、俺と一夏、千冬さんが取り残されてしまう。
残った二人を見て、俺は気遣われたのだと思い至る。戸籍上とはいえ俺も一応織斑家の一員であり、せっかく家族が揃ったのだから…と。
「……全く、山田先生も余計な気を遣う……」
『……俺も買い忘れを思い出したので、ちょっと行ってきますね』
所謂、家族水入らずというやつらしい。それを言ったら俺も部外者に入る為、適当な理由を付けてその場を去ろうとしたのだが、千冬さんに水着を突きつけられて阻まれる。
「まぁ待て。で、二人共。どっちの水着がいいと思う?」
そう言って千冬さんが見せたのはハンガーにかけられたままの水着二着。
片方はスポーティーでありながらメッシュ状にクロスした部分がセクシーさを演出している黒水着。もう片方は、一切の無駄を省いたような機能性重視の白水着。
『黒』
「……………白」
意見が割れた。大方一夏は、黒の方だと変な男が寄ってくるとでも思ったのだろうが、千冬さんがそんな輩の手に負える人間だと思っているのか?
「黒の方か」
「いや、だから白の……」
「ウソをつけ、お前が先に注視していたのは黒の方だったぞ。お前は気に入った方をよく見るからすぐわかる」
「うっ………」
口ごもる一夏を置いて適当な水着を眺める。こんな膨大な量の中から選び抜いたとは、観察眼も女性は鍛えられているのだろうか。俺には縁遠い物にしか見えない。
「全く、弟がそんな心配をするな。私がその辺りにいる程度の男になびくような女に見えるか?」
「いや、見えないけどさ……」
『そういえば、千冬さんはそういうの作らないんですか?』
「手のかかる弟と弟子が自立したらな」
俺もなのか?自分で言うのも何だが、家事全般なら一夏よりも高いレベルで習得しているつもりだし、そもそも俺が一人暮らし用にマンションの一角を借りたのに無理やり引きずり出したのは千冬さんなんだが。
「そういう彰の方はどうなんだ?幸い、学園は女子しかいない。よりどりみどりだろう?」
『正直な話、よくわかってないんですよ』
幼い頃から弄られていたこの体にそんなデータはインストールされていないし、中学の大半は戦場で過ごしていたせいで”普通の感情は持ち合わせていない”んだから。
一緒にいたい、背中を預けられる、といった観点で言えば今のところ二人いるが…それが恋愛方面の感情なのか区別ができないのだ。
「ふむ…ラウラなんてどうだ?色々と問題はあるが、あれで一途な奴だぞ。容姿だって悪くはあるまい」
『ラウラ本人からも言われましたが…わからない以上明確な返答はできませんよ』
それに悪いどころか、部下に萌えられるほど可愛いじゃないか。クラリッサなんか「萌えすぎて辛い」とかなんとか言っていたぞ。
『まあ、好きか嫌いかと言えば好きですよ。共に訓練をしていた仲間ですし、良き好敵手でもありましたから』
「容姿は?」
『いや、可愛いんじゃないですかね』
「ほう」
『ラウラは可愛い――っと、その手には乗りませんよ』
「半分以上言っていたがな」
小さく笑う千冬さんとあまり状況が読み込めずに困惑する一夏、呆れた顔をする俺。こうやって、不器用ながらも家族の温もりを与えてくれる千冬さんには感謝している。
「まあなんにせよ、私を心配する前に自分をどうにかするんだな」
『……了解しましたよ』
「よろしい」
ニヤリと笑った千冬さん。その顔は、今までの苦笑とは違う、姉としての微笑みだった。