IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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5P目

 

 

ピピピッと携帯がデフォルトの着信音を響かせる。サブディスプレイには、織斑千冬と表示されており、一度周囲を見渡してから、俺は2コール目で通話ボタンを押し、そのまま歩き続ける。

 

『もしもし?』

 

―私だ。今どこにいる?―

 

『寮と学園の間にある道にいます』

 

IS学園は全寮制である為、学園から五十メートルぐらいの距離に寮がある。その隣に職員の寮が、渡り廊下で繋がっているのだ。

 

島丸ごと学園のような作りをしているというのもあり、学校以外にも広大なスタジアムや自然の多い公園に似た道等、一見するとテーマパークのようにも見えるだろう。

 

例によって探索していたところに、千冬さんからの電話によって中断されたワケだが。

 

―今すぐ職員用の寮に来い―

 

ブツリと大きなノイズ音で通話を切られ、思わず耳を離した。あの唯我独尊な物言いにも慣れてきたと思ってたが、俺にだけ更に雑さが目立つのは気のせいだろうか?

 

『もう少し優しさを見せてはくれないものかな、この教官は』

 

そもそも『厳しくしてくれ』と言ったのは俺自身なのだから、こんな事を言うのはお門違いではあるが…

 

なんて過去を思い起こしながら目的地に辿り着くと、

 

「あっ、御剣君!部屋が決まりましたよー!」

 

入口にはにこやかに手を振る山田先生と、壁に背中を預け片目でこちらを視認する千冬さんがいた。つまり、呼ばれた理由の答えはこうだろう。

 

『という事は、俺はしばらく職員寮の監視下で寝泊まりするんですね?』

 

「か、監視下ってそんな物騒な…」

 

『自分の立場くらいはわかっているつもりですよ。教官に恥をかかせるワケにもいきませんしね』

 

横目で千冬さんを覗くと、「織斑先生と呼べ」と睨み返された。それを見て山田先生は曖昧な笑顔を浮かべている。

 

「なんにせよ、話が早くて助かる。ついてこい」

 

そう言うと千冬さんは寮へと入って行き、山田先生に見送られながら俺はその後を追っていった。

 

『俺は誰の所で寝泊まりするんですか?』

 

「私だ」

 

『…俺なんかが千冬さんと同室なんて知れ渡ったら一大ニュースにでもなるんじゃないですか?』

 

苦笑気味にそう問いかけると、千冬さんは一つ溜息を零して、

 

「………私の前ではそんな猿芝居はよせ」

 

疲れの混じった声色で吐き捨て、鋭い眼差しで睨まれた。

 

『……これもコミュニケーションの一つですよ。中学時代はこれを一貫してあなたからでさえ多少なりとも好意を貰ってたと思いますが?』

 

チッと大きな舌打ち。それは俺に対してか、それとも気付かなかった自分自身へだろうか。

 

「束から話を聞かされて、ようやくお前を理解したが…そういった行動が出来る点で言えば、奴よりは好感が持てる程度だがな」

 

『あの人は興味対象以外は全て無に等しく見ますからね、それと比べると俺は”人間らしい”でしょう?』

 

「あのようにならないでくれるとこちらも助かるな。私は人を育てるのであって、兵器まで育てる気はない」

 

『もう手遅れですよ、残念ながら』

 

篠ノ之束、わかりやすく言うならばISの生みの親だ。そのISの魅力に両親が取り憑かれ、研究に没頭していた頃、暇を持て余していた俺は束さんと偶然知り合った間柄だ。

 

元々ISに興味はあった。両親が俺の世話すら投げ捨てて没頭する程という事もあり、子供ながらのデタラメな思考が存外良いアドバイスになったりして褒められたりしたせいもある。

 

両親に構って欲しい、という思惑で実験にも志願した。その後は両親とパラメータの調整や肉体の適合率等のあまり進展のないデータをかき集める日々だったが、再び両親と笑い合いながら充実した日々を送れていたのだ。

 

そこで数々の実験をこなした俺にはISの適合性を高める為の女性ホルモン投与等が行われていたりと、聞くだけでは非人道的な実験に聞こえるだろうが。

 

その日々があったからこそ、束さんに興味を持たれ、千冬さんに鍛えてもらい、一夏と知り合えた。今では感謝すらしてる。

 

「着いたぞ」

 

過去に耽っていると、いつの間にか目的地に着いていたようだ。千冬さんがドアノブを回し、先に入るように促されていた。

 

『失礼します』

 

中はまるで、高級ホテルのようだった。それとも千冬さんだからなのだろうか。

 

ふわふわとしたベッドは二人が並んで寝ても余裕があるキングサイズが二つ、ベッドの間には光沢のある木製デスク、その上にスイッチ式のランプが淡く優しい光を灯しており、モダン調の部屋の中を照らしていた。

 

『………………』

 

バスルームやベッド、厚手のカーテン等を色々と触っている内に、学生である俺がこの部屋で寝泊りしてもいいのだろうか、という貧乏臭い考えで満たされていく。

 

『(そもそもまともなベッドで寝るのなんて何年ぶりだろうな…)』

 

「警戒心が強いのもいいが、生徒の食堂利用時間は6時から7時だ。健康管理もお前達の学ぶべき事、さっさと行って来い」

 

暗に「邪魔だ」と言われているような表情で睨まれてしまったら、行くしかないだろう。

 

『わかりました』と短くと答えた俺は部屋から出ると、大きく伸びをする。

 

『…………一夏はまだ食ってるかな』

 

俺は仕掛けられていた盗聴器を右手で握り潰し、食堂へ向かった。

 

 

 

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