1P目
『ふあ……あふ…ねみぃ』
臨海学校の一日目。天候に恵まれ攻撃的なまでに煌く太陽が海の水面に反射し、心地よい潮風が肌を打つ。
―わー、海だよ海!きれーい―
『……こういう時脳内に直接聞こえるって便利だな』
ばたばたと制服が暴れまわり、耳には暴風のような風の音、じりじりと肌を焦がす灼熱の太陽を真上から浴びながら溜息を吐いた。
その溜息の原因は、俺の溜まりきった書類の山を片付け終わってからキングオブマイペースな天才博士から送られてきたメールに残された謎の文章のせいでもあり、色々と言い表せない問題を抱えているからである。
メールの内容は、「引っ張ってね!」しか残されてないし十二ヵ国会議で国家IS部隊の立案が出てしまい準備段階に入っててしかも俺がその部隊メンバーに抜擢されてるしでてんてこ舞いだ。
何度も言うが俺は別に権力や金に興味があるわけではなく、ISの研究がしたいだけであり戦争や政治は俺には向いていない。
そこでピリリリ!と携帯がメールの着信音を響かせる。寝転がりながら携帯を取り出し太陽を塞ぐように内容を確認すれば、セシリア、鈴、シャル、ラウラと多数からメールが来ている。
それぞれに適当な返事を返して、俺は携帯をしまうと両手を頭の下に敷いてまた寝転がった。
さて、まだまだ目的地まで時間がかかる…と言ってもあと一時間程度だ。旅館に着いたらやるべきことの整理をしよう。
まず第一に旅館の従業員の方に挨拶回りだ。これは先生達と同行だが…何故俺がやるのか?今回訪れたのは仮にもドイツ代表であり、またIS学園の臨海学校だからだ。
情報の公開は生徒には一任されているがそれ以外は基本的に機密扱いであり、代表候補生ならまだしも一国の代表…軍事戦力の介入を意味する。
だから『我々ドイツに敵対の意思はありません、ですが個人情報等の漏洩が発覚した場合事に及ぶ可能性があります』と伝えなければならない。全くもって面倒なことである。
第二に片付けた書類の整理。片付けたと言っても処理が終わっているだけで紙媒体で来ている物に関しては全て暗記し、燃やして捨てなければならない。面倒である。
第三に、篠ノ之束の捜索。現在行方不明の天才科学者であるあの人とコンタクトがとれる人間、その上学生で政府から正式に任務を受けられるという特異な立場からそんな任務が来ているからである。
再度言おう、面倒過ぎて欠伸が出る。
『アト、目的地はまだか…』
―もう三十分くらいかなー?ねむい?―
『……ん、あぁ…』
ラウラとの戦闘の後、寝れないという問題は解消されたが……最近になっていくら寝ても眠気が取れず、体が重くなっている。
単純に疲れているのかもしれない、と思って仕事を全て中止し惰眠を貪った日があったが起きてみれば二十時間も寝ていたな。
……死期が近い、そう思わせるには充分なものだ。そして眠る度にアイツが問いかけてくる。
―示せ、その在り方を―
あの顔が見えない灰色の騎士は……大体の予想はできるが、どんどん近づいてくる。まるで俺を喰らおうとしているかのように。
次第に肥大化していく奴はハッキリした言葉で告げ、何度答えても聞き入れてもらえない。どうしたらいいのかわからない手詰まり状態だ。
『なぁアト、あの灰色の騎士は一体誰なんだ?』
―灰色の騎士?なにそれ?―
『…お前も知らないのか』
となれば、アイツは一体何者なんだ?アトのような特例のISでもない限りISと会話なんてできる筈がない。
そもそも、だ。灰色という俺に与えられたISは今のアトであり、完全に意思疎通ができるようになったのも一年前、そして今に至るまであんな奴は見たこともなかった。
何故、今、この時に。
『まぁいいか……ところで、まだ着かないのか?』
―あとちょっとかなー?そんなにねむいの?―
『いや眠いというか……』
ブオッ!と突風が耳の奥を思い切り叩き、めくられた制服を直す為に体を起こして、俺は我慢出来ずに叫んだ。
『なんで俺だけ、バスの上なんだよコラァァァァァァァ!!』