「おっりむらくーん!」
「さっきの約束!御剣君も一緒にビーチバレーしよー!」
「ばきゅんばきゅーん」
クラスメイトの二人とのほほんさんがやって来て、ボールをこちらに投げ渡す。
一夏がそれを受け取り、俺達を見渡すとやる気に満ち溢れた顔で返事をした。
「じゃあこっちは…四人か。どうする?」
『俺は審判でもやろう、途中で交代な一夏』
「おう、じゃあやろうぜ!」
手早く整えられたビーチバレーのコートに一夏、シャル、ラウラが立ち、開始の合図代わりに太陽がギラリと一際大きく輝くとネットの反対側でサーブの構えを取った女生徒がニヤリと笑う。
「ふっふっふ…七月のサマーデビルと言われたこの私の実力を…見よ!」
そう言った直後にボールを真上に投げると、角度も威力も申し分ないジャンピングサーブが繰り出される。バシン!と力強く放たれたボールに反応したのは、
「任せて!」
元気よく声を出したシャルだ。体を投げ出してサーブの落ちる位置へと飛び込もうと腕を伸ばしたが、
「って、わぁ!?」
どん!と盛大にぶつかる音がして、倒れ込んだ二人の姿があった。どうやらぼーっとしていたらしいラウラと衝突したようだ。思わず止めに入り、シャル達のところへ向かう。
『大丈夫か?』
「いたたたた…ラウラ、どうしたの?」
「か、かわ、可愛いと言われると…私は…」
仰向けに倒れたまま目を回しているラウラを抱き起こすと、目が合った瞬間に顔を真っ赤にし脱兎の如く逃げ出してしまった。
そんなに俺に触られたくなかったのか……
「いやそっちじゃないと思うよ…」
俺の心を読んだように呟いたシャルに首を傾げると、はぁ…と溜息をつかれてしまった。では一体何故ラウラは俺から逃げたのだろうか?
『とりあえず続けるか…代わりに俺が入ろう』
そう言ってシャツを脱げば、待ってましたとばかりに一夏が手を上げ、何故か観客となっていた他の生徒達が歓声を上げる。にこよかに笑う一夏とハイタッチを交え、後方に控えた。
「待ってたぜ相棒!」
『誰が相棒だ。遊びと言えど女子に負けんなよ』
「頼りにしてるからね、彰」
『任せとけ』
そして再び始まった真夏のビーチバレーに、俺達は暑さも忘れて遊び尽くしたのだった。
――――――――――
『こちらIS学園所属、現ドイツ代表御剣彰。特別任務につき符号の確認と、状況の説明を求む』
「符号を承認、こちら黒ウサギ部隊のクラリッサであります」
『なんでお前が…いや、まずは状況の説明をしてくれ。それと分かる範囲で敵対存在のデータもだ』
ゴオッ!と推進翼を羽ばたかせながら、俺は旅館から数十キロ先の空域を目指して飛んでいた。
合宿二日目の朝方、俺に送られてきた一通のメール――それには緊急任務への出撃要請と書かれており、発令して間もないのか断片的な情報しか記載されておらず、こうしてドイツ軍へと情報を得ようとしている。
「およそ一時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS、”銀の福音――シルバリオ・ゴスペル”が制御下を離れて暴走、監視空域からの離脱を確認したと報告がありました」
堅い声色で読み上げていくクラリッサからの情報に眉を顰めて、送られてきた機体データを目の前にウィンドウとして表示させる。この機体データは初期のプロトタイプのもので、恐らく暴走した時には充分な改造が施されているだろう。
「約二時間後にIS学園の臨海学校先である旅館、その二キロ先の空域を通過することが衛星による追跡で判明しています。ですが我が国の代表である彰様であれば、空域に突入する前に撃破が…可能かと思われます」
『……なるほど、な』
僅かに震えたクラリッサの声に、俺はその真意を読み取った。空域に入る前に撃破できる?データもほぼ無いに等しいのに?何より、この事態を正確に把握し対策するならばIS学園の代表候補生を使えばいい。
それをしなかった…そして俺だけに発令されたこの任務と、出たオペレーターがクラリッサだという事から、俺は一つの仮説を立てる。
『なぁクラリッサ、そんなに”ピンチなのか?”』
「……えぇ。ですので、こちらとしてもこれがドイツ軍の”最大限の抵抗となります”」
俺の意図を汲み取ってくれた優秀な副官に笑みを零し、すぐに顔を引き締め直した俺は目的の場所で停止した。
信じがたいが、今ドイツ軍は何者かによる襲撃を受け、銀の福音に対して”俺一人で戦わせる”ように脅されている。最大限の抵抗として、こうして話がわかるクラリッサが出た…というワケだ。
だが、それだけしかできなかったとも言える。ギリッ…と歯噛みする音が悔しさを物語っており、俺の仮説は確信へと変わった。
”御剣彰の公的な抹殺”が、この任務の真の目的だろう。男の身でありながらドイツ代表となり、国家会議では俺を中心としたIS部隊の設立まで始まっている、特異な状況を生み出した原因。
特別な権限を与えられる国家IS部隊のメンバーはその殆どが俺の知人や有力な代表達だ。始動すればパワーバランスが崩れ、第三勢力として危険視される部隊でありながら、その実力差から誰も手出しができない部隊となる。
不穏な動きは感じていたが……まさかここまで大掛かりに出てくるとは思わなかった。何よりもこの計画が失敗すれば一夏や箒、シャル等の俺の関係者が狙われるだろう。
それだけは、絶対にあってはならない。
俺に、選択肢は――なかった。
『クラリッサ』
はい、と掠れた声に思わず苦笑し、俺は続ける。
『ラウラの事、しっかり面倒見てやれよ。あぁそうだ、ラウラに仲の良いルームメイトができたんだ。そいつの相談にも乗ってくれると助かる』
「はい」
『優秀な副官で俺は嬉しいよ。”後はお前の好きにしろ”』
「彰、様…!」