ブツリッ!と無理矢理回線を切られ、俺は静かに目を閉じた。
耳に意識を集中すれば、遥か遠くから空気を裂く音が響いてくる。
―彰…ダメ、ダメ…今の彰じゃ…絶対…―
泣きじゃくるアトの声に、俺はなだめるような声色で答えた。『ありがとう』、『ごめんな』と。
俺の体は、もう限界をとうに超えている。あの日千冬さんに告げた夏の終わりまで…というのは嘘だ。それに加え、越界の瞳の過剰使用と自身のIS化、度重なる重症。俺の体は、ラウラとの戦いの時に朽ち果てている筈だった。
ここまで保てていたのも、アトのおかげだが…代償として、俺は日に日に”ISが使えなくなっていた”。適合検査では最低ランクのEランク、アトの性能を十パーセントも引き出せず、IS学園の一般生徒に勝てればいいほうだ。
そんな俺が軍用ISと一対一で戦うというのだ、火を見るよりも明らかな結果が生まれる。
―逃げて…お願い…だか、ら…―
それはできないんだよ、アト。
俺が逃げれば任務放棄とみなされ、俺は追われる身となる。何の権限もない一学生に戻れば、俺はモルモットに逆戻りだ。
それに、ここで逃げたら俺の使命が…いや、何よりも、俺の大切な人が危ない。
護ると誓ったんだ。果たすと決めたんだ。それが、それだけが――御剣彰という存在の証明だから。
『…充分だ。俺は報われた』
生きる意味を教えてもらった。友達というものを教えてもらった。家族というものを教えてもらった。人を想う心を教えてもらった。本当に、沢山の笑顔をもらった。
俺は、幸せだったんだよ、アト。
―やだ、やだやだやだ…!こんなの、おかしい…よ…!―
涙を流し続ける幼い少女――アトの姿が脳裏に浮かぶ。ごめん、と何度も謝って、俺はゆっくりと目を開いた。
音速に近い速度でこちらに向かってきている銀色の機体、銀の福音がハイパーセンサーの探知範囲に入った事を報せてくる。
俺にできることは、ただ一つ。
『残念だが…俺の命はそんなに安くない。対価は、お前だ』
銀の福音を道連れに、死ぬことだけだ。
『悪い、シャル…』
右手にパニッシュメントを展開し、シリンダーを一気に回転させ、尚も止まらない銀の福音へと肉迫する。
『うォオオオオオアアアアアアアアアア……ッ!!』
―約束、守れなかった―
――――――――――
「……彰?」
不意に呼ばれた気がして、シャルロットは澄み渡る青空を見上げた。
何となく見上げただけの空は、やはり答えない。気のせいか、と結論づけて再び前に視線を戻すと、千冬が言葉を続ける。
「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動に移る。今日のテスト稼働は中止、各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内待機すること、以上だ!」
「「「は、はいっ!」」」
全員が慌てて動き始め、接続していたテスト装備を解除し、焦りながらもISの起動終了をさせて運び出すのその姿は今までにない怒号に怯えているかのようだった。
「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、鳳――それと、篠ノ之も来い」
「はい!」
この状況下で妙に気合の入った返事をする箒に千冬は一瞬眉を潜めるが、すぐに旅館へと歩き出す。だが、シャルロットの一言が足を止めさせた。
「あの、彰は…呼ばないんですか?」
「あとで、説明する…」
強ばった声で答えた千冬は、背を向けたまま告げると足早に戻っていってしまった。
シャルロットはザワつく胸を握り締め、もう一度だけ空を仰いで一夏達と共に旅館へと向かう。
「(彰…っ)」