IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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5P目

 

 

 

「では、現状を説明する」

 

旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間では、専用機持ちと教師陣が集められていた。

 

照明を落とした薄暗い室内に、ぼうっと大型の空中ディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS、”銀の福音――シルバリオ・ゴスペル”が制御下を離れて暴走、監視空域から離脱したと連絡があった」

 

全員が厳しい顔になっていく中、一夏だけは呆然と辺りを見渡していた。真剣な顔つきになっている代表候補生達と同じように真剣な目で話に耳を立て始める。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後、IS学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

どこか憤りを感じる声色で続ける千冬は、一度一夏達を見渡して、

 

「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の閉鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

そう言い放った千冬に対して、代表候補生達は次々と質問を投げ交わし、相談を進めていく。

 

そんな中、言葉とは裏腹に未だザワついた胸を握るシャルロットがいた。この状況で、彰がいないことがおかしい…と、疑問が募っていく。

 

「偵察は行えないのですか?」

 

ラウラがそう切り出すと、千冬は一瞬泣きそうに顔を歪め、すぐに大型ディスプレイへと体を向ける。そこに映し出されたのは、真新しい戦闘データとツギハギのように断片的なデータの集合体だった。

 

「これが、最新の情報だ……だがデータはほぼ壊れていて有益な情報は少ない。加えて、この機体は超音速飛行で移動中だ。アプローチは一回が限度だろう」

 

「一回きりのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

山田の言葉で、その場にいた全員の視線が一夏へと向けられる。「俺!?」と素っ頓狂な声を上げる一夏に対して、千冬は鋭い眼光のまま真っ直ぐに見据えて告げる。

 

「織斑、これは訓練ではない。”実戦”だ。もし覚悟がないなら…無理強いはしない」

 

その言葉は一夏の胸へと突き刺さる。どこか遠い世界を眺めていたような自分と、こんな状況を踏み越えてきた仲間達との絶対的な経験値の差を改めて叩きつけられた。

 

そして、もっと過酷で苦しい状況の中で生きていた男の背中が、隣に居たと思っていた親友の背中が遥か彼方へと遠ざかっていくビジョンが浮かんでくる。

 

「(彰は……ずっとこんなものを背負ってたのかよ)」

 

失敗すれば仲間が危ない、訓練でもない戦闘に命の保証はない。たったそれだけの事がここまで重いのだと、ようやく認識できた。

 

力強く拳を握り、一夏は千冬の目をしっかりと捉え、覚悟を口にする。

 

「やります、俺が、やり遂げてみせます!」

 

――――――――――

 

『俺は、死んだのか』

 

口にしてみれば、なんとも馬鹿げた話だ。

 

死人は喋ることなどできない。何百何千と見てきた事だ。

 

真っ白な世界で寝転がっていた俺は、最後の瞬間を思い浮かべる。

 

傷一つ付けられなかった。制限解除して、俺の持てる力全てを使い切っても福音には後一歩で届かず、右腕は引きちぎられて玩具のように殺された。

 

止めとなった最後の一撃は俺の左目を抉りとっていき、そっと顔の左側に触れる。

 

『目は残ってる…ということは此処は、どこだ?』

 

―狭間だよ―

 

声がした方へと振り返れば、幼い少女…喪服のような黒いドレスに身を包んだアトの姿があった。

 

「正確にはまだ死んでない、と言ったところだ」

 

真逆の方から聴き慣れた鋭い声に勢いよく振り向けば、そこには織斑千冬の姿がある。なにが、一体どうなっているんだ。

 

「あなたは今も生きている。けれど既に死んでいるのですわ」

 

次に現れたのはセシリア。セシリアが画面をスライドするようになにもない空間を撫でると、俺の目の前にホログラムのような映像が映し出され、そこには搬送されている俺の姿が映っていた。

 

その映像の中で、千冬さんと山田先生が担架と共に走り、怒号や悲鳴に似た声を上げていた。

 

―左目失陥、IS化された右腕は欠損、他内蔵の損傷と……こんな…なんて、酷い…!―

 

―心臓マッサージと止血の手を止めるな!なんとしてでも、命だけは取り止めろ!―

 

「アンタもここで終わり。ずっと一緒にいたけど今回ばかりは助からないし、助けられないわよ」

 

ホログラムの裏側から鈴が現れ、俺は再認識する。これは俺の意識とアトの意識の狭間。俺の記憶を読み取って、声を出せる媒体として生まれた幻想達だ。

 

『そうか。なら何故俺はここにいる?後は俺が死ぬだけでいい筈だ』

 

「あぁ、あとは貴様の心を殺せば御剣彰という存在はいらなくなる」

 

突如、首を握られ宙へと吊るされる。握り潰そうとするその手の持ち主は俺の守るべき者、箒の姿だった。

 

『が、あ……』

 

「皮肉なもんだよな、守るって言ってたのに、お前のせいで俺達は今危険に晒されて、お前は俺達に殺される」

 

ずぶっ、と背後から何かが俺の体ごと箒を貫いた。神経を逆なでしたような不快な感覚と、刺されたと認識した瞬間に感じる燃え上がるような痛みが俺を襲う。

 

血を吐きながらその剣を見れば、親友の扱う雪片弐型が勢いよく引き抜かれたところだった。

 

『ぎ、あが……げほっ…』

 

「死ぬのは怖いか?何か言い残すことはあるのか?いやないだろう?お前は何も持っていない、何も成し遂げられず、何も残すこともできず、ただ使い捨てられる駒なのだから」

 

仰向けになった俺の体にラウラが馬乗りになり、首にナイフをあてがう。その顔は歪に歪みきり、えげつなく笑っている。

 

「思い出して下さい、あなたがしてきた過ちを、罪を。そして償うのです」

 

ガッ!と頭を蹴られ、横へ向けさせられた視線の先にはさっきまで真っ白だった空間が荒廃した世界に変わっていた。

 

頭に冷たい感触が押し当てられ、クラリッサが銃を突きつけながら髪の毛を鷲掴みその光景を否応なしに突きつけてくる。

 

「これが、あなたの罪。無造作に殺し、無意味に蹂躙し、壊してきた世界です」

 

『う、あ…アアアアアアァアァアァアアァァアアアアアァアアアアアアアア!!』

 

 

 

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