IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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6P目

 

 

「見えたぞ、一夏!」

 

「!!」

 

全身に赤色のISを纏った少女――第四世代型IS、紅椿を駆る箒と、その背中に乗った一夏。

 

紅椿の全身の展開装甲による高速移動の末、ハイパーセンサーの視覚情報が目標を映し出す距離まで近づいていた。

 

どこか弾んだ声を上げる箒に心配そうな目を向ける一夏だが、

 

「加速するぞ!目標に接触するのは十秒後だ!一夏、集中しろ!」

 

「ああ!」

 

今は考えている暇はない、と判断し意識を前に集中させる。肉眼で確認できた銀の福音の異質な造形…頭部から生えた一対の巨大な翼に身震いし、雪平二型の柄をもう一度握り直す。

 

本体同様に銀色に輝くそれは太陽光を反射して殺意的に煌めいている。高速で飛翔する福音に対して箒は展開装甲とスラスターの出力をあげ、追いかける形で肉迫する。

 

「うおおおおおおっ!」

 

カシュン、と雪日平二型の展開装甲が開き、青白いエネルギーが刀身となり零落白夜の発動を知らせる。それと同時に瞬時加速を行い、一気に間合いへと入り込む。

 

「(行ける…!)」

 

光の刃が触れる瞬間、

 

「なっ!?」

 

福音は最高速度のままこちらに反転し、進行方向へ背を向けたまま身構えたのだ。

 

だが引くには近すぎる間合い。ならば、と一夏達は更に接近を試みた。

 

しかし――

 

「敵機確認。迎撃モードへと移行。銀の鐘―シルバーベル―稼働開始」

 

オープンチャンネルから聞こえる抑揚のない機械室なシステム音声。だがそこには明らかな敵意を感じ、一夏は無意識に冷や汗を流した。

 

ぐりん、と福音はいきなり体を回転させ、僅か数ミリという精度で零落白夜を躱す。

 

「くっ…箒!援護を頼む!」

 

「任せろ!」

 

距離を離さず、剣を振るう一夏だがどれも紙一重で躱され続け、まるで福音が流麗な踊りを披露しているかのように思える。

 

痺れを切らした一夏が大振りの一太刀を振るうと、狙いすましたかのように銀色の翼が開かれ、間近で見た一夏は絶句した。

 

これは、”砲口”だ。

 

一斉に開いた砲口が一夏へと向けられ、次の瞬間、幾重もの光の弾丸が撃ち出され一夏が短く声を上げる。

 

「(なんて、連射速度だよ…!)」

 

狙いはそれほど高い精度ではないが、羽根のような形をした光弾は一度触れれば抉り取るような爆発をする高エネルギー弾だった。

 

「ぐぅ…!箒、左右から同時に攻めるぞ!左は頼んだ!」

 

「了解した!」

 

掛け声と共に左右に広がり、複雑な回避行動を取りながら福音へ攻め入るが、

 

「くそ…!」

 

二人の攻撃はかすりもせず、福音の舞いを激しくさせただけだった。それに加えばら撒かれる光弾による反撃に一方的に受けている状態だ。

 

「一夏!私が動きを止める!!」

 

「わかった!」

 

――――――――――

 

『ぐ、が……あぁ…』

 

ぎりぎりと俺の首を締め上げるその力が次第に強くなっていく。仰向けの俺に馬乗りになった山田先生が愛おしそうな顔で言う。

 

「往生際が悪いですね…何故死ぬことを拒むんです?御剣君が死ねば万事解決、自分でそう言ったじゃないですか」

 

『かは……こん、な…死に方…望ん、じゃ、いねぇ…』

 

「ならどうしたかったんですか?使命を果たしたかった?ただ破壊を楽しみたかった?それは本当にあなたの意思ですか?」

 

呼吸さえも難しくなってきた力に、俺は意識が朦朧としていく。

 

仕方なかったんだ、選択肢がなかったんだ。俺が死ななければ、ドイツ軍の奴らも、一夏と箒も、シャル達だって危険な目にあっていたかもしれなかったんだ。だから、諦めたんだ。

 

説き伏せるように、問いただすように語りかけてくるアトの姿が蜃気楼のように霞むと、俺のたi、se…ガガ、イき…ta…な――シャルの姿に変わる。

 

「ねぇ、彰。君はどうして生きてるの?」

 

『ぐっ…が……』

 

「どうして抵抗するの?もう疲れたでしょ?生きてても、辛いことばっかりなんだよ?」

 

『それ、は、ち…がう…』

 

否定すると、険しい顔付きをして爪を思い切り立てられる。ぷつりと小さな音がして、爪が俺の首を裂いた感触がした。

 

思い返せば、アトの言うとおり俺は不幸だったのかもしれない。相手をしてほしいと軽い気持ちで引き受けた実験は想像を絶する痛みで、両親はそんな俺を見てうすら笑いすら浮かべていた。

 

死に際に両親は高々と声を上げて、俺という最高傑作に殺せと命じ、俺は……それでも愛していた両親に無理矢理手をかけさせられた。

 

ドイツでは戦場に引っ張り出され、鉛玉を何発も食らっては血反吐を吐き、地雷で足が吹き飛ばされ目の前で殺される同僚を何度も見てきた。

 

政府に認められた頃には暗殺を繰り返され、まともに食事や睡眠を取ることもできず、常に死の瀬戸際にいた。

 

「…ほら、ね?今思い出した辛い事が、この先も待ってる。もっと酷い事があるかもしれない。それなのに、なんで?」

 

『俺、は……』

 

「僕には理解ができないよ。だってほら、彰がいなくても一夏と箒は戦えてるんだから」

 

手を離したアトが馬乗りのまま空間をなぞると、再びホログラムが現れ映像が映し出される。そこには、福音と対峙する一夏と、赤いISを身に纏った箒の姿だった。

 

『……な、んで…』

 

―一夏ぁあああああああああああああっ!!―

 

箒を庇い、福音の攻撃を何十発と受けた一夏が海面と落ちていく。俺は反射的に手を伸ばしたが、ドンッ!とその腕をアトによって地面に縫い付けられる。

 

「無駄だよ彰。君はもう動けない、命もなくなって、君の声は彼らに届かないんだよ」

 

改めて突きつけられた現実に、俺は歯が折れそうなほどに食いしばる。

 

「だから僕は…私は聞いてるんだよ。もう何もできないのに、なんで手を伸ばすの?約束とかじゃなくてさ、なんで彰は、”死なないの?”」

 

 

 

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