「なあ」
「………………」
「なあって。いつまで怒ってんだよ」
『新婚夫婦の痴話喧嘩みたいだな』
「だ、誰が新婚夫婦だ!」
俺のツッコミに、箒は顔を真っ赤にして叫ぶように反論してきた。この反応ぶりは凄いと言えるが、どこからどう見てもそうにしか見えないんだから仕方ないだろう。
どうして箒が不機嫌なのかは、どうも一夏のせいらしいが何をやったのだろうか。
『(にしても、相変わらずの無自覚っぷりだな……)』
どこからどう見ても、箒は一夏に好意を抱いているのがわかる。
そもそも中学でも人当たりの良さと優しさでそれなりにモテる部類の人間だったが、何故か本人は気付かないという鈍感ぶりである。
曰く、「バイトや家事で忙しい」との事だったが…その辺りの詳細は俺もドイツに行ったりしていたからわからないところだ。
「御剣君、隣いいかな?」
「織斑君、隣空いてる?」
俺達三人のテーブルに女子が朝食の乗ったトレーを持って尋ねてきた。座っている席は何人用なのかわからない円形状のソファと丸いテーブルで、問題はないだろう。
俺達がOKを出すと、何故かガッツポーズを取り、俺と一夏の隣に座ってくる女子数名。置かれたトレーを見ればパンにジャム、スープ程度とかなり少ないような気もするが。
『女子って朝少ないな。それで持つのか?』
俺の朝食、洋食セットも男にしては少ない方だが、女子はもはやパン一個と言っても過言ではない。ダイエットでもしてるのだろうか?
「わっ、私達は、ねぇ?」
「だっ、大丈夫だよ!」
女子は燃費がいいな、と関心していたところで、
「お菓子よく食べるし~」
という言葉が…ってオイ。
「…間食はよくないだろ?」
『……………そうだな』
「……織斑、私は先に行くぞ」
それだけ言うと、箒は食べ終わったトレーをもって言葉通り先に行ってしまった。剣呑な空気がなくなったのは良いが、何をどうすればあんな空気になるんだか。
それにしても、やはりどこかで見た顔なんだよな、あの箒という女子。しかもかなり昔に。
「お、織斑君って篠ノ之さんと仲がいいの…?」
一人の女子が恐る恐る一夏に尋ねると、あっけらかんと「幼馴染だし」と答える一夏。
ちょっとまて、篠ノ之ってまさか…
パンッと突然手を叩く音が響いた。
「いつまで食べている!食事は迅速に効率良くとれ!遅れた者はグラウンド十周させるぞ!!」
千冬さんの一声で女子は一斉に食事を口に流し込み始めた。千冬さんが怖い、というよりグラウンドが一周五キロあるからだ。そんなのが待っている放課後なんて誰も迎えたくはない。
一夏に早く食べるように急かしておいて、俺はトレーを置きに立ち上がった。
何度目かの授業が始まり、一貫して半分寝てた俺は(途中で千冬さんのチョークマシンガンと教科書シールドで銃撃戦が繰り広げられたが)絶えない欠伸を噛み殺していた。
そんな中、千冬さんが思い出したように喋り始める。
「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「予備機がない。だから少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「???」
専用機、それは国家代表や代表候補生、その実力に見合うものにしか手に入れる事ができない個人用のISだ。
俺の首についている黒いチョーカーも同じ物で、専用機は普段はアクセサリーの形状になって”待機形態”となる。
俺のISに関しては束さんが設計し、俺自身の手で組み上げたオリジナルの機体だ。そしてこいつを元に今の第3世代と呼ばれるISの研究が進められている。つまりはこいつが第3世代のプロトタイプと言ったところか。
しかし、まさかこんなに早く一夏に専用機が用意されるとは思わなかったな。それほどまでに”男性のIS操縦者”というデータが欲しいのだろうが。
「なんで俺に専用機が?それに、専用機ってそんなに凄いのか?」
生憎と、スタートラインにすら立っていないのだから望むようなデータは取れないだろうな。
その言葉にクラス中が愕然とする中、「お前ちゃんと教えてんのか」と怒りの視線を千冬さんからぶつけられる。まってくれ俺のせいじゃないだろ…
「教科書六ページ、音読しろ」
「はっ、はい!」
一夏が立ち上がり、教科書を捲る音が聞こえる。
「現在、幅広く国家・企業に技術提供が行われているISだが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていない。現時点で世界中に存在するISは467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したものであり、これらは完全なブラックボックスと化している。未だ博士以外はコアを作れない状況にあるが、博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関で、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っている。またコアを取引きすることはアラスカ条約第七項に抵触し、すべての状況下で禁止されている」
「つまりそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間にしか与えられない。お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される事になった。理解できたか?」
「な、なんとなく……」
一夏が曖昧な返事をしながら、頭の中を整理しているのが見てわかる。千冬さんが付け加えた内容には俺もドキリとする部分があったのだが、それはオーダーを頼んでいるところに頼めばなんとかなるだろうし。
にしても、一夏の奴…勉強する!って意気込んでたのに、ちゃんと勉強してないんじゃないか?