砲撃音と爆発音、雪崩のような銃撃戦が聞こえてくる。
シャルを背負う形で超音速飛行をしながら、福音のいる場所へと向かい、数分して目的の場所が目視できる範囲まで俺達は来たが、状況は最悪だった。
形態の変わった福音からエネルギー状の翼が生えており、危険とみなしたのか真っ先にラウラが落とされた瞬間を確認してしまう。
『シャル!ラウラを頼む!』
「任せて!」
そう言うとシャルは俺から離れ、瞬時加速でラウラへと飛んでいく。あと一分、いや、もっと早く…!
俺の気持ちに反応したラウスが推進翼と足の展開装甲を開放し、音の壁を越える速さで距離を縮めていく。
「最優先敵対存在確認。抹殺します」
福音の音声を拾うと同時に箒を弾き飛ばした福音。俺は右手をかざして、パニッシュメントを呼び出してその柄を握り締め、
『これ以上……!』
”銀の鐘”が俺一人に対して最大出力で放射され、俺はパニッシュメントの引き金を引いた。ボッ!と炸裂音の後に峰から吹き出た三本のブースターによって俺は残像すら残さずエネルギー弾の雨を掻い潜り、
『俺の仲間は、傷付けさせねぇえええええええええええええええええええ!!』
ギィン!と真正面から福音と衝突した。ここで、一気に終わらせる…!
両目を見開き、脳内にシステム音声が早口で流れ、視界に多数のモニターが映し出される――越界の瞳、起動。
キュイン、と機械的な音を放った両目からAICが繰り出されるが、軍用ISである福音はそれを察知したのか剣を弾き返し超音速で後退する。
『チッ……!』
俺は後退していく福音に右手をかざし、両目のモニターが奴の両脇をロックオンした瞬間、握りつぶすように手を閉じた。
激しい爆発音と共に狙い通りの場所が文字通り”破裂”する。AICで空間を固定し、圧縮することで鈴の龍砲のような爆弾を設置したのだ。
体勢を崩した福音に、俺は脚部と推進翼の展開装甲を一気に開放しエネルギーを溜め込んでいく。
『(もう一度……力を貸してくれ!)』
―うん、今度こそ…あなたの意思で、皆を守ろう―
パニッシュメントを左手に、俺は右手を横にかざす。ずっと俺を支え続けてきた、俺の相棒とも呼べる黒いドレスを着た少女が俺の右手を優しく包み込むイメージ。
俺はずっと忘れていた。アトの本当の姿を、俺にアトが与えられたその意味を。
『展開武装――Atrum/Angelus』
何もかもを失った俺に与えられた、漆黒の大剣。立ち上がれるように、自分の力で切り開いていけるようにと、束さんに渡された…”両親の形見”だ。
眩い閃光、量子化されたエネルギーの奔流が俺の右手に集い、形を成していく。
そして、
『零式、零落白夜!』
パニッシュメントのシリンダーを勢いよく回し、赤いエネルギーが刀身を包み込むと同時、俺は爆音を置き去りにした。
超音速戦闘が始まり、甲高い鍔迫り音が撒き散らされると、音という音が響き渡る。
『(まだだ)』
ギィン!と福音の装甲にアトが防がれた瞬間よろめいた奴にパニッシュメントを振るうも、それだけは当たるまいと全力で回避に移られてしまう。
振るった後の一瞬の硬直に胴体を蹴り飛ばされ、同時にエネルギー弾が細かく射出されるが両足のスラスターを交互に発動して躱した。
『(ついてこい、福音。俺の、”俺達の力はこんなもんじゃない”!)』
最早視界に映すのでは間に合わない。培った戦闘経験と俺自身の意思で、負けまいと抗い続ける。
一瞬の隙を互いに逃さず、鳴り止まない剣閃と砲撃の嵐に人間である俺に疲労が見えてきた。
『う、らぁ!』
パニッシュメントの零落白夜がとうとう奴の喉笛を切り裂いた――瞬間、それが罠だと理解する。喉を裂かれながらも福音はエネルギー翼を大きく広げ、俺を包み込んだ。
その翼の中で無数の砲口が開く音と、脳内でアトが合図を出すのは同時だった。
―来たよ、白の騎士が―
ドンッ!と重い衝撃が響き、福音が俺を離して吹き飛んでいく。待っていた、必ず来ると信じていた、俺の――
「俺の仲間は、誰一人としてやらせねぇ!」
織斑一夏の姿がそこにあった。
瞬時加速で距離を離し、俺は形態の変わった一夏の隣にで体勢を立て直す。
『遅いぞ、一夏』
「待たせて悪いな。けどここからは、俺も一緒だ」
『あぁ、それじゃ…』
同時に剣を構え直し、俺達は”銀の鐘”を発動した福音を睨みつけながら、
『「再戦といこうか!」』
ゴウッ!と突風を撒き散らして俺達は福音に迫る。先程まで俺と超音速戦闘をしていたんだ、奴のエネルギーも残り僅かの筈だ。
俺の剣を同時に受け止めた福音に一夏が形状の変わった左腕――雪羅のクローで胴体を穿つと、音速でバックした福音がエネルギーの翼を更に胴体から生やし、掃射攻撃を始める。
『シャル!』
「箒!みんな!」
無差別な一斉掃射、それは即ち動けない仲間達も被害に遭うということだ。真っ先にシャルへと目を向ければ、大型のシールドを展開したシャルがラウラを庇っていた。
「僕達は大丈夫!だから…!」
「あたしたちは腐っても代表候補生よ!余計な心配してないで、さっさと片付けてきなさい!」
鈴の怒鳴る声に、俺達は再度福音へ目を向ける。仲間を信じる…俺達には、それしかできない。だったら、最後まで信じきるしかない…!
『一夏!』
「――わかった!」
視線を投げれば、それだけで答えてくれるその姿に思わず口元が緩んでしまう。そうだ、俺は、俺が望んだものは…掛け替えのない仲間なんだ。
特殊弾薬の切れたパニッシュメントを消してアトを両手で掴み、全てのエネルギーを爆発的な加速に委ねる。
越界の瞳を見開き、その性能を最大限に発揮した瞳で俺は奴の半径十メートル内の”時を止めた”。そして、握り返したアトの装甲がガパッ!と開き、二本の剣へと姿を変える。
爆発的な加速。一瞬で背後に回った俺は一回転し、福音のエネルギー翼を全て切り捨て、終わり際に勢いを乗せた回し蹴りが奴の胴体装甲をえぐり飛ばしながら、吹き飛ばす。
一夏の零落白夜が起動し、青白いエネルギー光刃が煌く。刺突の構えを取った一夏が、大きく体勢を崩した福音へと全力で加速し、
「(ここまできたら、もう引かねぇ!)」
轟音を響かせながら、福音の胴体を突き刺した。雄叫びを上げ、最大の出力を持って押し切ろうとする一夏だが、堅い音を鳴らしながら福音が抵抗をする。
「(くそ…あと、一歩が…!)」
『――諦めるな』
突き立てた一夏の剣に、俺は手を添える。
『お前は、織斑一夏は、その程度じゃないだろう。そうだろ――親友』
「彰……あぁ、もちろんだ親友!」
腕に力を込め、残された力を全て一夏の零落白夜に注ぎ込む。最後の抵抗か、福音が僅かに翼を広げて俺達を引き剥がそうと攻撃してきた。
だが、俺達は止まらない。
『「うおおおおおおおおおおおおオオオオオオオオオオオッ!!」』
全力をもって加速した俺達の一撃は、福音を砂浜に叩きつけると同時にその体を貫いた。
完全に停止した福音を俺達は肩で息をしながら呆然と眺め、ゆっくりと離れる。
『…これで、終わりだ』
「ああ…やっと、な」
二人で空を仰げば、夕闇の朱色に優しく包み込まれていく世界。
長い永い戦いが――幕を下ろした。