IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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「遠征中の灰獅子部隊が帰還し、”何故か”状況を把握していた為に迅速に事態は終結。怪我人及びに死亡者は誰一人としていません」

 

『そうか、よかったな』

 

「……彼らの証言によると、”とある兎の飼い主”から遠征先の施設で謎のハッキングを受けて、訓練ができずにさっさと帰ってきたようなのですが」

 

『それは災難だったな。アイツらには今度俺が直々に訓練をしてやろう』

 

ふふっ、とインカムから零れた笑い声。クラリッサはどこか嬉しそうに続ける。

 

「彰様、あなたが言ったように”好きにした”のですが本当に良かったのですか?」

 

『俺は”優秀な副官で嬉しい”とも言った筈だ。お前がそれを最善と決めたのなら、それに従うさ』

 

「私はラウラ隊長の副官ですがね」

 

『そう言うなよ、俺だって投げ出したくなる時はあるし、それを律してくれる人が欲しいんだよ』

 

そうですか、と最後に小さく笑うとクラリッサは様式的な挨拶をして通信を切った。

 

福音を倒した俺達を待っていたのは鬼教官こと千冬さんの教師としての冷たい罰則、それと暖かい言葉だった…らしい。

 

俺はその場にいなかったのでわからないが、一夏が言っていたからそうなんだろう。俺はというとドイツ軍と連絡を取り合っていた。

 

今回は”とある兎の飼い主”のおかげで偶然俺の部隊が早く帰還したから事態を終結、犯人を捉える事ができたが…束さんから教えてもらったハッキング技術が役立つとはな?

 

そして好きにしろと言ったクラリッサはその犯人達を政府に叩きつけ、俺に対するいくつかの条件を無理矢理約束させたらしい。今後はそちら側の処理に追われるのだが、その約束の中に”御剣彰の自由”が入っているとか。

 

簡単に言えば仕事をしてもしなくてもいいという横暴な約束だ。そこまで手が回るのだからクラリッサはやはり優秀だと再認識する。

 

『そういえば一夏達は束さんに会えたみたいだが……俺は結局会えなかったな』

 

代わりに送られてきたメールを開き、内容をもう一度確認する。

 

―はろはろ~!束さんですよ~!ようこそこっち側へ、そして歓迎するよブイブイ!なんか困った事があったら束さんじゃないとわからないからメールしてね~!―

 

相変わらずマイペースな事この上ない文章と一緒に送られてきたデータはラウス・エクエス――俺自身のデータだった。

 

そこはまた後でじっくりと見させてもらうとしよう。

 

『さて、と…』

 

そろそろ約束の時間だ。俺はシャツを羽織って指定された場所へと足を向ける。

 

空は深い青色に染まっていた。無数の星が輝き、視界一杯に広がるその光景はまるでプラネタリウムのようで、月が静かな海に映し出されて幻想的に魅せる。

 

数分歩いて、目的の岩陰に着くと、呼び出した本人はもう先に着いていた。

 

「こんばんは、彰」

 

『こんばんは、シャル』

 

畏まって挨拶すれば、二人で笑い合う。海だからか水着を着たシャルは両足を抱えて座っていた。

 

「夜の海も綺麗だね……夏とはいえちょっと肌寒いけど」

 

そう言って肩を摩るシャルに俺のシャツを羽織らせると、ありがとうと小さく笑った。

 

『お姫様に風邪を引かれちゃたまったもんじゃないからな』

 

「あはは…なにそれ」

 

『………で、どうしたんだ?』

 

本題を切り出せば、シャルは顔を埋めてぽつりと話し始める。

 

「……僕にとって彰はさ、目標で、目的で、手を伸ばしても遠すぎて届かない人だったんだ」

 

『……あぁ』

 

「だから僕はIS適正が高い事を知って、頑張ったんだ。彰とまた会いたくて、今度は僕が守ってあげられるようにって、勝手に思ってさ」

 

『……』

 

「それでようやく会えた彰は…もっともっと先に行ってて、僕には何もできなかった。彰が死んだって聞いた時、僕は後悔した」

 

『…ごめん』

 

乾いた笑いを浮かべながら顔を開けたシャルは笑顔で「大丈夫だよ」と言う。そのまま揺れる水面を見つめながら、

 

「僕は、ラウラみたいに強くない。セシリアみたいにお淑やかでもない。鈴みたいに活発でもない。皆が立ち上がった時、ただただ泣いてるような弱い僕が…傍にいていいのかな」

 

『――なんだ、そんな事か』

 

ほぼ遮るように言葉を挟めば、ムッとした表情で俺を睨んでくるシャル。

 

俺は小さく笑うと、思い切りシャルの体を抱き寄せた。驚いた声を上げて俺の腕の中にすっぽりと収まったシャルの頭を撫でながら、言葉を続けた。

 

『言っただろ、”俺は一生、シャルの味方”だ。強いとか弱いとかそんなもんいらないんだよ』

 

「……それって、僕の母さんとした約束でしょ?そんなの…」

 

『…わかってないみたいだな』

 

首を傾げるシャルの体を抱き起こし、俺は真っ直ぐにシャルの煌く紫色の瞳を見つめる。

 

『シャル。シャルロット・デュノア。俺の隣に居ていいのは…居てほしいのはお前だけだ』

 

目を見開き、両手で口を隠したシャルは小刻みに震えながらその目に涙を溜めていく。その様子に思わず苦笑いして、

 

『好きだ――愛してる』

 

もう一度、抱きしめた。ぽろぽろと大粒の涙がシャルの目から流れ落ちていき、体に伝わる確かな温もりに俺は目を瞑る。

 

俺の大切な人――愛した人を守れた。いつ芽生えたかなんてわからないが、死んだ瞬間真っ先に浮かんだのはシャルだった。そして、俺を導いてくれたのも…この大切な人だ。

 

もう二度とこの手を離さない。例え世界を敵に回そうとも、俺が守り抜いてみせる。

 

『……返事、貰ってもいいか?』

 

気恥ずかしくもそう問えば、シャルは涙を拭って、俺の目を真っ直ぐに捉えて最高の笑顔で答えてくれた。

 

「僕も…私も、大好きだよ。彰」

 

ざぁん…と波が立ち、水面に映った月が朧げに揺れる。幻想的な風景の中で、二つの影が重なった――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―fin―

 

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