IS―インフィニット・ストラトス―灰色の騎士   作:芦屋戒

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7P目

 

「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか…?」

 

一人の女子が遠慮がちに手を上げ、おずおずと千冬さんに質問した。

 

ガタッと音を立てて箒が立ち上がるが、千冬さんはさして気にした様子もなく、

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

そこでゴン!と俺は頭を机に打ちつけてしまった。痛みに耐えながらも千冬さんを見れば「出し抜いてやったぞ」といった表情で自慢げに俺を見下している。

 

この野郎…いや女郎か?とにかく、千冬さん自身がそうだと言い切ったのなら間違いはない。

 

これでようやく、”俺の仕事”が始められる。

 

「ええぇーー!!凄い!このクラス有名人の身内が二人もいるんだ!!」

 

「篠ノ之博士ってどんな人!?」

 

「今度ISの操縦教えて~!」

 

授業中にも関わらず、好奇心を刺激された女子達は箒の元へわらわらと集まっていき、瞬く間に箒が見えなくなった。

 

『(しっかし、同じクラスとは…千冬さんめ、わかっててこの編成にしたな?)』

 

「あの人は関係ない!!」

 

箒が突然怒号を上げた。その鬼気迫る勢いに取り巻きの女子や一夏が驚き、目を瞬かせいる。

 

「………大声を出してすまない…だが、私はあの人じゃない。だから教えられる事は何もない」

 

箒は席に座り直し、女子達も迫力に負けて、またはいきなり怒鳴られて不快な顔をしたまま力無く席に戻っていく。

 

なんだ?姉妹の仲はそこまで良くないのだろうか?

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」

 

「はっ、はい!」

 

山田先生も突如公になった箒が気になるようだったが、そこはプロの教師。切り替えて授業を進行していく。

 

俺は欠伸をしながら教科書をぱらぱらと適当に捲っていると、案の定はりせんが降ってきた。

 

「欠伸をするな馬鹿者」

 

叩きキャラが定着してきたな、千冬さん。

 

 

 

最後の授業が始まる前、俺は外にいた。

 

正確にはIS学園の第一アリーナ、だだっ広いグラウンドのような場所に立っている。

 

授業中にも関わらずこんな所にいるのは、別にサボっているワケではなく、千冬さんに呼び出されたからだ。

 

「お前なら出席日数さえ足りていればいい」と付け足されたが…そもそも呼ばれる理由がわからない。

 

「お前のデータ収集の為だ。専用機持ちはどこかの国や組織に属さなければならないからな」

 

口に出してないよな、俺。相変わらず読心術はお得意のようで。

 

『この学園に俺のISを所属させるつもりですか?そうすると溜まってるオファー全部蹴らなきゃいけなくなるんですが』

 

俺はデュノア社製のスパッツにTシャツ形のISスーツを着て、腕組みしている千冬さんに確認をとる。

 

ISスーツとは、肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達し、ISはそこで必要な動きを行う。耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃の銃弾程度なら完全に受け止めることができる。ただし衝撃は消えない為、ハンマーで殴られたような痛みが生じる。

 

汗の吸着なども完璧にこなし、専用機の展開時に自動的に装着される優れものだ。

 

「そういう事だ。では始めるぞ、ISを展開しろ」

 

千冬さんは出席簿のような本を開き、ペンを持つ。いやそういうことだ、って…まぁいいか。

 

『起きろ、アト』

 

首のチョーカーを二回つつくと、粒子のようなものが俺の体を包み込んで、ISが一瞬で装着された。

 

機体は黒に赤い稲妻のようなラインが入った細いフォルム。4枚の多方向加速推進翼と肘部分、足の裏がスラスターのようになっている。

 

機体名、Atrum/Angelus。天使を象った造形だが、頭には悪魔のような角のバイザーがあり、まるで堕天使のようだ。設計したのは俺じゃないからな?

 

「…ふむ、第三世代型か。次は武器だ」

 

『了解』

 

俺の両手から閃光が迸り、、現れたのはIS装着時の身長を半分にしたような短めの二本の両刃剣。鍔部分は十字になっておりそこも刀身であり、柄以外は全て攻撃に使用できる。

 

空気抵抗の軽減や、背後からの奇襲を警戒するが故に、坂手持ちでダガーのように使うことが多い俺の愛剣の一つ――ジャッジメントだ。

 

「…………これが、もう一つの黒か」

 

『……こいつは、灰色ですよ。アトは勝手に色を変えるんです。まるで俺自身を見せつけるように』

 

灰色は、黒にも白にもなる。俺が染まれば、どっちにも転ぶ最悪の色だ。

 

アト――Atrum/Angelusが黒く染まってしまった時、俺はこいつの名前を変えた。もう一度、あの色に戻れたのなら…その時はこいつも、本当の名前で呼んでやれるのだろうか。

 

千冬さんは苦々しい顔をしたまま本を閉じる。それを合図にするようにチャイムが鳴った。

 

昼食の時間だ。

 

「もう戻っていいぞ。ご苦労だったな」

 

お疲れーっす。

 

と内心で言った筈だったが、バコンッと出席簿アタックが後頭部に飛んできた。

 

「敬語を使え、敬語を」

 

俺は確信した。あの人は人間じゃない。

 

 

 

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