時は流れて翌週。
あの代表候補生、セルシオ・クロケットとの対決の日……待て、なんか名前が違う気がする。
「セシリア・オルコットだ」
『それだ。流石ですね千冬先生』
千冬さんの傍らで、モニターとにらめっこしながら俺は答えた。今行っているのはアトの出力にロックをかけているところだ。
こいつ、手加減しないから装甲なりコアなりを粉砕して再生不可にさせるんだよな。全くもって面倒臭い。
そんな事を思っていると、抗議の念でもあるのか推進翼の一つにロックがかけられなくなった。このバカ娘め…
『あーもう…悪かったよ。でも代表候補生の専用機を壊したらお咎め食らうの俺なんだからな?』
「何をぶつくさ言っている。サッサと準備しろ」
『了解ですよ…っと』
カチッとエンターキーを押して調整完了。アトに触れて一度待機形態に戻し、チョーカーをこねくり回す。どうやら、かなり機嫌が悪いようだ。
「気のせいかもしれないんだが」
「そうか、気のせいだろう」
一夏と箒の声が、今いるこの場所…第三アリーナのAピットに響き渡る。
正に対決は目の前、といったこの状況だが、一夏のISはまだ届いていなかった。なんでも、急ピッチで仕立てているらしいが。
「ISの事一つも教えてくれなかったよな?オレは彰にしか教えられてないぞ?」
俺と同じ形状のISスーツを着た一夏が箒に問いかけるが、箒は居心地悪そうな顔で負けじと食い下がる。
「し、仕方ないだろう!ISもなかったんだし……」
『基礎知識とか、教えられる事はあったんじゃないか?』
この一週間、一夏は体力がどうの太刀筋がどうの言われ、箒を相手にボコボコにされ続けたらしい。
確かに肉体の訓練も大事だが、そこまで鈍ってたのか?
「…うっ……」
言葉に詰まる箒を見ながら、俺は溜め息を吐いた。そして、千冬さんに目で合図を送る。
『一夏、俺は向こうで待ってる。お前のISが届くまで遊んでっから気長に待ってろ』
俺はアト――Atrum/Angelusを二回つつき、展開させる。いい加減にしないとこのバカ娘の機嫌が更に悪くなるんだよな。
翼にエネルギーを溜め込み、爆音と共に戦いの場へと飛翔して行った。
「――あら、逃げずに来ましたのね」
セシリアがISを纏い、腰に手を当てて浮いていた。
ISは元々宇宙空間での活動を前提に作られたパワードスーツだ。よって原則的に空中で戦う事になる。
『待たせたな、セルシオ・クロケット』
「セシリア・オルコットですわ!」
『あ、悪い。最近こいつの調整で寝てなくてな、頭働いてないんだ』
セシリアのIS、鮮やかな青色の”ブルー・ティアーズ”は特徴的なフィンアーマーを四枚背に従え、手には二メートルを越す長大な銃器。
―六七口径特殊レーザーライフル”スターライトmkⅢ”と認識―
俺の視界の隅に、ハイパーセンサーによって分析されたセシリアの武器や戦闘タイプがウィンドウで表示された。
遠距離から中距離までこなす、俺の苦手な射撃タイプだ。
「あらあら、そんな状態で向かってくるなんて、言い訳作りかしら?」
『めちゃくちゃ手間取ったんだぞ?出力を”二割程度”で戦ってやろうとしたら嫌がって”四割程度”にしかロックできなかったんだから』
本当もう、我儘すぎるんだよアトは。専用機のパーツってほぼ特注だからとんでもない金額になるんだぞ?いくら俺でも払いたくないっての。
はぁ、と溜息を零して…セシリア?を見ると怒りを無理矢理抑えたような顔で、
「最後のチャンスをあげますわ」
人差し指が俺に突き立てられた。
左手の銃口が下がったまま、という事は余裕を見せつけているのだろう。
明らかに侮辱した物言いでセシリアは続ける。
「わたくしが勝利を掴むのは自明の理。ボロボロになって惨めな姿を晒すより、謝って許しを乞えば、許してさしあげましてよ?」
やれやれ、と両手を広げたジェスチャーと共に嘆息する。これ以上言ってもわからないのなら、俺は俺で初の訓練以外の対戦を楽しむとしよう。
『人の国を馬鹿にしておいて逆ギレ、さらに上から目線の傲慢な態度…随分と躾がなってないお嬢様だな』
その言葉は、戦いの火蓋を落とす。
「……このセシリア・オルコットを馬鹿にして、タダでは済ませません!」
銃口が青く淡い光を溜め始め、その射出場所を俺に選んだ。
「お別れですわ!!」
ドンッ!と空気を焼いて、青い一筋の光が高速で俺に向かってくる。
『そういや、ちゃんとした自己紹介がまだだったな』
俺の両手が眩い閃光を放ち、ジャッジメントを展開した。
俺はまっすぐに向かってくるレーザーを剣の腹で受け止め、その一瞬で流すように上空へと無理矢理跳ね上げると、虚しく空中で霧散し、まるで花火だ。
「なっ……!?」
『戦場でもないんだ、話くらい聞けよ小娘』
背中の翼がボッ!と爆音を撒き散らし、俺は低空飛行のまま加速しつつ一直線にセシリアへ肉迫する。
一瞬でジャッジメントの攻撃範囲内まで詰めた俺は、防御体勢に移ろうと両腕を交錯しかけたセシリアに迷うことなく剣を振り下ろした。
腕が交錯しきる一瞬の隙間、しっかりと心臓をカバーしているのは良いことだが…それ以外は残念。
『遅い』
「きゃあっ!!」
ギィン!と金属音を響かせ、セシリアは斬撃によって後方へ吹き飛ぶ。
地面に叩きつけられ、その瞬間に体勢を立て直したセシリアが俺を睨んでくる。
「くぅ……!よくもこの私に傷をつけましたわね!?」
ISでの戦闘において、勝利の条件は相手のシールドエネルギーを0にすることだ。シールドエネルギーがなくなるとISは戦闘不能になり、機能しなくなる。
『まぁそう怒るな。楽しもうぜ』
ジャッジメントを翻し、俺は刀身に掘られた獅子の紋章を撫で回す。この紋は、俺が戦場で生き残ってきた誇りの象徴だ。
『ドイツ軍IS部隊最高司令官補佐、IS部隊”灰獅子”の元隊長、御剣彰だ。改めてよろしくな』
さぁ、楽しませてくれよ。