遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
手に小さな優勝カップを持ち、僕は親友と一緒に歩いていた。最後だからと、一緒に出た小さなタッグデュエルの大会……そこで、二人で勝ち取った優勝カップだ。
手に持ったカップの重量感が、優勝したという実感を与えてくれる。僕はデュエルは下手糞だ。親友に比べれば、本当に弱い。
だけど、そんな僕でも勝つことができた。一人ではないけれど……ううん、一人じゃなくて親友と一緒に勝ち取った優勝だからこそ、僕は本当に嬉しかった。
「そんなに嬉しかったん?」
両手で大事そうにカップを抱える僕に、呆れた調子で親友が聞いてくる。僕は、勿論、と頷いた。
「優勝するのって初めてだから。それは嬉しいよ」
「さよか。……ウチはそうでもないんやけどなぁ。まあ、確かにタッグデュエルの優勝は初めてやけど……」
「出る大会出る大会で優勝して、ジュニア大会でも優勝してる人には確かにそうかもしれないけど……」
言いながら、思う。どうしてこの親友は自分などといつもデュエルしてくれるのだろうかと。僕なんて、大会に出てる人たちに比べれば笑われたっておかしくないくらいに弱いはずなのに。
だけど親友は、いつも笑って僕とデュエルして、真剣にデッキ構築を一緒に考えてくれる。今回の大会も、足を引っ張ってばっかりだったのに何度も何度も助けてくれた。
「まあ、ウチも新鮮やったよ。……それも今日までやけどな」
「……うん」
頷く。そう、こうして一緒に大会に出られる日は今日が最後だ。彼女はもう、一般の大会には参加できなくなるから。
「阿呆」
知らず、沈んだ表情をしていたからだろう。親友が苦笑しながら僕の頭を軽く叩いた。
「別にいなくなるわけやあれへんし、学校かて中学は一緒やんか。……まあ、確かにあんまし通えへんくはなるやろうけど」
「そう、だよね。……学校は一緒だもんね」
そう、別にこれまでと変わらない。ただ変わってしまったのは、自分は彼女の背中さえ見れなくなるということ。
追い続けたその背中が、もう――霞んで見えなくなっただけ。
「……ド阿呆」
ポコンと、もう一度頭を叩かれた。親友は、ため息を吐きながら僕を見る。
「ウチは待っとるよ。アカデミア、行くんやろ? ウチはずっとプロで待ってるから、今度は大観衆の前でやろうや」
「……うん。そうだね。僕も、必ずそこに行く」
「よー言うた。それでこそ男の子や」
ころころと、楽しそうに親友が笑う。そして親友は、それなら、と一枚のカードを取り出した。
「大会の商品は祇園(ぎおん)に譲るよ。ええカードや。上手く使いこなさなアカンよ?」
「えっ、でも……」
「ええから。……そのカード持って、早く来てや?」
待ってるで、という親友の言葉に。
うんっ、と精一杯頷いた。
それは……僕たちが中学生になる前日の、小さな小さな約束。
僕がずっと抱えてきた、たった一つの理由だった。
◇ ◇ ◇
『次は、森羅ー、次は、森羅ー……お降りの方は――』
電車内にアナウンスが響き渡る。そのアナウンスを聞き、夢見心地にいた少年――夢神祇園(ゆめがみぎおん)はゆっくりと目を開けた。まだ随分と眠いらしく、目が泳いでいる。
「あと……二駅か」
ポツリと呟く。今日は受験日だ。その手にはデッキと受験票――『81番』と書かれた札が握られている。自分にとって、これは約束への大事な一歩だ。
『――やから、ここでは先にサーチカード……まあ、今回の場合は『融合賢者』かな? これを使ってから『名推理』を使った方がええんですよ。そうしたらホラ、『融合』が墓地に行く可能性が減らせるでしょう?』
『成程、そうすることで余計なカードが墓地に行かないように配慮したということですね?』
『場合によりけりなんですけどね、これ。ただ、確率的には数%の違いしかなくても、デュエルではそれで勝敗を分けたりしますから――』
不意に、耳に声が届いた。見上げてみると、電車内に設置されたテレビが朝の番組――『初心者のためのデュエル講座』を映しているようだった。時間的にはサラリーマンの通勤時間であり、学生にとっては……いや、受験シーズンなので登校する学生はいないが、受験生にとっては試験に向かう大事な時間なのだが、それを鬱陶しがっている姿はあまりない。当然だ。世間一般の常識として『DM』の知識と実力は何よりも大事なのである。
実はI₂社の現会長たるペガサスの手によって『DM』が発表された当時よりこの『初心者のためのデュエル講座』は放送されており、元は深夜放送だったのが朝の定番番組になるほどの人気を誇っている。
元々は様々なプロデュエリストが週替わりで出演する番組だったのだが、一年前から出演するプロが固定化されつつある。『史上最年少プロデュエリスト』――愛想のいいキャラクターとそのデュエルスタイルからプロデビューしてすぐ人気を集めた〝彼女〟が、都合が合わない時を除いてこの番組に出演しているのだ。
その〝彼女〟はそれどころか全国、世界中のイベントにゲストとして、あるいはメインとして参加しているらしい。KC社とI₂社――世界でも有数の二社をスポンサーに持つからこその激務なのだろう。
「…………」
知らず、口元から笑みが零れた。彼女は今も頑張っている。それが、とても嬉しい。
覚えていてくれるかどうかはわからない。いや、きっと覚えてはいないだろう。彼女にとって、自分はそこまで大きな人間ではないのだから。
でも――……
「頑張るよ」
目的の駅に着き、そのプラットホームへと降り立ちながら。
小さく、呟く。
「必ず、行くから。だから、また一緒に――……」
吐き出した、その言葉は。
冬の外気に触れ……霧散した。
というわけで、はーじまーるよー!!