遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第二話 新たな出会いと青の洗礼

 太陽が容赦なく照らしつけてくる船の上で、一人の少年がのんびりと海を眺めていた。周囲では同じ学校の生徒となる者同士の会話が行われているが、少年がそこに加わろうとしている様子はない。

 いや……加われない、というのが正しい表現なのかもしれない。何故なら――

 

(……し、初対面の人にどうやって話しかけたらいいんだろう……?)

 

 傍目からはただぼぉっ、と海を眺めているだけのようにしか見えないが、そんなことを思っている本人は冷や汗で一杯である。

 夢神祇園。筆記試験は81番と決して良好な成績ではなかったが、その後の実技試験でLPを一ポイントを削られることなく、上級ドラゴンを一気に複数体召喚して勝利した少年だ。

 ステータス至上主義が跋扈する現在、彼のように上級モンスターを大量展開することは素直な評価の対象となる。また、超が付くようなレアカードである『真紅目の黒竜』を所有していることも彼を注目の的にする要因としては十分だ。

 ……もっとも、本人はそんなことを望んでいない上に別のとある新入生がよりインパクトのあることをやらかしているので、まだそこまで注目はされていないのだが。

 ――まあ、いずれにせよ。

 

(うう、頑張れとは言われたけど……)

 

 アカデミアは全寮制の学校だ。三年間、長期の休みで家に帰ること以外はずっと陸の孤島で過ごすことになる。そんな場所で友達がいないというのは……正直、かなり辛い。

 頑張ろう、と小さく呟く。その時だった。

 

「あー! いたいた! なあなあ、お前だろ!? 『真紅の黒竜』を使った奴って!?」

 

 いきなり茶髪の少年が大声でこちらへと駆け寄ってきた。何事かと視線を向けると、酷く興奮した様子でこちらを見ている。

 

「いやー、探したぜ! 数十万円もするレアカードなんてそうそう見れねぇしな! くー、俺もあの場に居たかったぜ!」

 

 ……えっと、何事だろう。

 おそらく、この少年は自分が持つ『真紅の黒竜』に興味があるのだろう。それについては気持ちもわかる。正直、今でも自分が持つのは気が引けるほどのレアカードなのだ。

 だが、それはともかくとして祇園としては何をどうしたらいいのかがわからない。少年の服装を見るに、自分と同じオシリスレッドの生徒らしいが……。

 

「じゅ、十代くん。相手も困惑してるッスよ?」

「そうだな、十代。とりあえず落ち着け」

 

 十代というらしいその少年の背後から、そんな言葉を紡ぎながら二つの人影が現れた。片方は気弱そうな眼鏡をかけた少年で、こちらはオシリスレッドの制服。もう一人は見るからに真面目そうな雰囲気を持つ、ラーイエローの青年だ。

 そんな二人の言葉を受け、十代は悪ぃ悪ぃ、と苦笑しながら謝る。そして、祇園へと視線を向けてきた。

 

「なぁ、デュエルしようぜ!」

「……いや、ええっと…………ええっ?」

 

 意味がわからず困惑する。確かに今の世の中困った時はデュエルは当たり前だが、それにしたって順序というものがある。祇園としては名も知らぬ相手にいきなりそんなことを言われては困惑するだけだ。

 そんな祇園の様子に気付いたのだろう。ラーイエローの青年が呆れ混じりに言葉を紡いだ。

 

「十代、まずは自己紹介くらいしたらどうだ? 初めまして、81番くん。俺は三沢大地だ」

 

 そう言って、三沢が自己紹介をしてきた。つられて、祇園も軽く頭を下げる。

 

「えっと、夢神祇園です。81番っていうのは……受験番号?」

「ああ。名前を知らなかったからな」

「俺は遊城十代! よろしく頼むぜ祇園!」

「ぼ、僕は丸藤翔ッス」

 

 三沢の言葉を切るように自己紹介をする十代と、それに追随する形で自己紹介をする翔。祇園は、えっと、と三人を見回しながら言葉を紡いだ。

 

「三沢君と遊城君と丸藤君……だね。うん、覚えた」

「十代で良いぜ祇園」

「僕も翔で良いッスよ。お兄さんがいるし……」

 

 早速祇園のことを呼び捨てにしながら言う十代と、苦笑しながら言う翔。祇園は、うん、ともう一度頷いた。

 

「それで、その……デュエル、だよね?」

「おう! 早速やろうぜ!」

 

 満面の笑み――まさしくそうとしか表現できない笑顔でそんなことを言う十代。そのままデュエルディスクを構えようとするが、そんな十代に祇園がごめんね、と謝った。

 

「その……僕、デュエルディスクを持ってないんだ」

「え、そうなのか?」

「うん。試験の時も貸出し用のを借りてて……アカデミアに行けば支給されるはずなんだけど。だから今はちょっとできないかな?」

 

 ごめんね、ともう一度軽く頭を下げる。デュエル自体は好きだし、この人懐っこい同僚とデュエルをしたいとも思う。だが、自分はデュエルディスクを持っていないのだ。ディスクなしでもデュエルはできるが、それでは少し味気ないだろう。

 十代はそっか、と頷くと、じゃあ、と言葉を作った。

 

「向こうに着いたらすぐやろうぜ!」

「うん。楽しみにしてる」

 

 頷く。丁度その時だった。

 船の汽笛が鳴り響く。――到着の音。

 

 ――デュエルアカデミアに、着いたのだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 学校に着くと、ほとんど間を開けることなく入学式が始まった。十代は祇園とデュエルできる時間がないことを残念がっていたが、デュエル自体はいつでもできる。同じ寮生なのだし、これからは関わることも多くなるだろうからだ。

 祇園としても十代とデュエルできないのは残念だったが……まあ、それは仕方ないだろう。

 そして校長先生のある意味恒例とも呼べる長いありがたいお話。ほとんどの生徒が聞いておらず、十代などは舟を漕いでいるそれが終わると同時に、中等部からの持ち上がり組だという青い制服のメンバーが行動を出て行き始める。どうやら終わりのようだ。

 祇園もその人の波に逆らうことはせず、校舎内へと向かう。入学式のある今日は授業がないのでほとんどの生徒が寮へ向かうのだが、祇園は中に用事がある。

 

「ええと……食堂は……」

 

 校内案内図を見ながら、祇園はそこへ辿り着く。校舎内に設置されたその食堂は、普段は昼食時に使われるものなのだろう。初日である今日は、関係者の姿しかない。

 祇園は周囲を見回すと、賞品を並べている女性を見つけた。その女性の傍まで歩み寄り、すみません、と声をかける。

 

「こちらの、トメさんという方は……」

「ん? おや、新入生かい。トメ、というのは私だよ。悪いけど販売は明日からでねぇ。今日は何も売ることができないよ?」

「あ、いえ。そうではなくて……あの、僕は夢神祇園といいます。こちらで働かせてもらうために来たのですが

……」

 

 緊張が先に立ってしまい、少し声のトーンが落ちた状態で言葉を紡ぐ。すると、トメはああ、と頷いた。

 

「あんたが祇園ちゃんか。鮫島校長から聞いてるよ。学費のためにここで働くんだって? 感心だねぇ」

「は、はい。よろしくお願いします」

 

 祇園は頭を下げる。良かった。どうやらちゃんと話は通っていたらしい。

 祇園は諸々の事情のこともあり、奨学金以外にアカデミアの食堂でアルバイトをすることで学費を稼ぐ許可を特別に貰っている。合格通知が来た際に添付されていた資料――そこにあった『購買部でのアルバイト』に応募したのだ。アカデミアの校長である鮫島とは一度その関係で面接も受けている。その時聞いたことによると、アルバイトを希望する生徒は今年は祇園だけ。ここ数年は誰もいなかったらしい。

 まあ、そもそもの対象が高校生である上に資料の端の方に小さく書かれているだけの事項だ。気付かない人も多いだろうし、祇園のようにお金に困っているのでもなければ応募はしないだろう。

 トメは祇園の緊張した様子を見ると、あはは、と笑い声を上げた。

 

「そんな緊張しなくてもいいよ。鮫島校長からは良い子だって聞いてるしね」

「あ、ありがとうございます。それで、その……業務内容は?」

「基本的には購買の販売、その手伝いをしてもらうことになるね。といってもお昼休みと、放課後の二時間ぐらいが中心になるとは思うけどね。ああ、お給料については心配しないでおくれ」

「……わかりました。朝などはどうすれば……?」

「基本的に前日に準備は終わらせるし、朝方は子供たちも来ないから大丈夫だよ。ただ、一番多いお昼時に来てもらうことになるから、昼食の時間は遅くなってしまうけど……」

 

 大丈夫かい、とトメが聞いてくるが、それぐらい問題ない。多くの事情により、十三歳の頃から多くの苦労をしてきた祇園としては昼食の時間がずれることなど気にもならない。

 

(……そもそも、昼食を食べることのできる日もそう多くなかったし)

 

 今更のことだ。彼女と会うことが少なくなってから、より一層そういう日が増えたとも思う。……本当に、今更だ。

 

「はい。大丈夫です」

「そうかい。それなら安心だ。明日から、午前中の授業の最後の十分くらいになったら来ておくれ。先生方には話を通してあるはずだからね」

「わかりました。よろしくお願いします」

 

 頭を下げる。人と関わるのは苦手だが、こうして相手と自分の立場がはっきりしている場合は話が別だ。祇園が苦手なのは、人との距離である。仕事、という状況なら立場が明確になるため、やり易い。

 

「まあ、今日のところは特にやることもないから……明日から、よろしく頼むよ?」

 

 はい、と祇園は頷き。

 最後にもう一度だけ頭を下げ、部屋を出た。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 そうして、今日一番の懸念事項をどうにか終えた祇園は、何やら大きなドームに来ていた。レッド寮に向かっていたのだが……どうも、道を間違えたらしい。

 幸い人通りのない場所ではないようなので、最悪道行く人に聞けばいい。そんなことを思い、ドームに入ろうとする祇園。その背に、声がかけられた。

 

「ちょっと待ちなさい」

「…………!?」

 

 いきなり声をかけられたため、驚きで身が竦んでしまう。振り返ると、オベリスク・ブルーの制服を着た女生徒が二人、背後に立っていた。

 

「えっと……」

 

 周囲を見回し、祇園は確認する。人違いではない。どうやら相手は自分のようだ。

 それを確認すると、改めて祇園は二人を見た。一人は茶髪の、背の高い気の強そうな女生徒だ。どことなく〝彼女〟と雰囲気が似ている。

 もう一人は、蒼い髪をツインテールにした……どことなく、妖艶な雰囲気を纏う女生徒だ。険しい表情をしている茶髪の女生徒に対し、こちらは微笑を浮かべている。

 

「あの、何か……?」

「あなた、新入生ね? 上級生ならここに近付かないはずだし……」

 

 険しい表情のまま、そんなことを言う茶髪の女生徒。祇園としてはどうしたらいいかわからない。そんな祇園の様子を見かねてか、ツインテールの女生徒が口を開いた。

 

「ふふ、明日香? そこの坊やが困ってるわよ?」

「雪乃……。まあ、とにかくここへは近付かない方がいいわ。あなたも余計なトラブルに巻き込まれたくないでしょう?」

 

 明日香、というらしい茶髪の女生徒の言葉に、祇園は頷く。確かにトラブルは御免だ。ここは言う通りにした方がいいだろう。

 ならば、レッド寮へはどう行けばいいのか――そんなことを祇園が聞こうとした時。

 

「――――!!」

 

 中から大声が響いてきた。明日香の表情が険しくなる。

 

「……本当に、ろくでもない……!」

 

 吐き捨てるような調子でそう言うと、明日香がスタジアムへと入っていく。雪乃、というらしい女性が、祇園の方へと視線を向けた。

 

「折角だし、坊や。アナタも来なさい?」

「え、ですけど……」

「ふふ」

 

 逡巡する祇園に、どこか妖艶な笑みだけを残す雪乃。そのまま、彼女は明日香を追って行ってしまう。

 祇園はそんな雪乃の背を見送り、次いで、迷いと共にその背を追いかけた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 中に入ると、祇園にとって見覚えのある二人――遊戯十代と丸藤翔が三人のブルー生に絡まれている光景が目に入った。翔はその状況にオロオロしているが、十代は祇園の姿を見ると気さくに声をかけてくる。

 

「おっ、祇園じゃないか。どうしたんだこんなところで?」

「僕はレッド寮に向かう途中で……それより、十代くんたちはどうしたの?」

「ああ、何かここはオベリスク・ブルー専用の場所だとか万丈目に言われてさ」

「さん、だ! ドロップアウト!」

 

 三人の中心にいるブルー生が、怒りも露わに十代へ訂正を迫る。どことなく嫌な雰囲気だ。こちらを見下しているというか、何というか……。

 

「万丈目くん、これはどういうことかしら?」

「天上院くんか。何、ドロップアウトに礼儀を教えていただけだよ。……おい、行くぞお前たち」

 

 取り巻き二人に指示を出し、スタジアムを出て行く万丈目。それを見送ってから、明日香が吐き捨てるように言った。

 

「関わらない方がいいわよ。あいつら、本当に碌でもないんだから……!」

「ふふっ、確かにあまり気持ちのいいものでもないわねぇ……」

 

 明日香の言葉に、どこまで本気かわからない口調で頷く雪乃。明日香の言っていたトラブルの意味がよくわかった。成程、確かに面倒事だ。

 ここにはあまりちかづかないようにしよう――そう決める祇園。そんな祇園の耳に、ふーん、と十代があまり興味なさそうにあげる声が届いた。

 

「ま、いっか。サンキューな。ええと……」

「明日香よ。天上院明日香」

「雪乃。藤原雪乃よ、坊やたち」

「俺は遊城十代! よろしくな!」

「ま、丸藤翔ッス……」

「……夢神祇園です」

 

 それぞれの自己紹介。それを終えると、明日香と雪乃もドームを出て行った。歓迎会の時間が近いのだとか。

 それを聞き、祇園たちもドームを出る。その帰り道、十代からデュエルの申し出を受けたが……時間がないので断った。本当に、どうもタイミングが悪いものである。

 苦笑と共にそんなことを呟き、祇園は歩き出した。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 必要単位数が少なく、それ故に劣悪とされるレッド寮。それは誇張でもなんでもなく、事実そのものだった。

 プレハブ小屋のような寮に、質素な食事。食事については祇園にとってむしろ豪勢とも呼べるレベルだったのだが、他の生徒たちは違うらしい。

 改めて、自分の生活が色々とおかしかったのだとぼんやりと納得する。……別に不幸とも思っていないから、どうでもいいのだが。

 そして、祇園の部屋は一人部屋だった。正確には二人部屋なのだそうだが、会い方となる人物は寮長である大徳寺先生によると事情があっていないということらしい。大徳寺の言い回しから別に深刻なことではないということはわかったし、いずれ帰ってくるだろうという判断だ。

 まあ、十代たちの部屋は三人部屋だというし、祇園は幸運なのだろう。そんなことを一人で納得し、明日のことを考えて早く寝ようとした時だった。

 

「なぁ祇園! これを見てくれ!」

「――――ッ!?」

 

 十代がノックもせず、いきなり部屋に入って来た。驚きで、身が竦む。

 

「じゅ、十代くん? どうしたの?」

「見てくれよこれ!」

 

 そう言って十代が差し出してきたのはPDAだ。見れば、そこには差出人不明の文面が載っている。

 ちなみに祇園はPDAを持っていない。本当の意味でメール機能と通話機能があるだけの簡易携帯しか持っていないのだ。基本使用料0円。冗談抜きでお金のない祇園にはありがたいアイテムである。

 

「えっと、『ドロップアウトボーイ、午前零時に決闘場で待っている。お互いのベストカードを懸けたアンティルールでデュエルだ。勇気があるなら来い。ははははははははははははははっ!!』……って、これ、誰からなの?」

「多分万丈目からだ」

「……行くの?」

「おう! 売られたデュエルは買うのがデュエリストだぜ!」

 

 当然、とばかりに言う十代。そのまま、十代は祇園にその輝くような視線を向けた。

 

「祇園も一緒に行こうぜ!」

「え、いや、僕は……」

「いいからさ! お前も強いデュエリストなんだろ!? だったら大丈夫だって!」

 

 何が大丈夫なのかが一切わからないが、祇園はそのまま十代に引っ張り出される。夜間の外出は禁止であるし、その上デュエルなど以ての外。余計な火種になりかねないというのに。

 だが、そもそもから気が強くない祇園に十代に逆らう気概があるはずもない。そのまま引っ張られて行く。

 

「待ってろ万丈目!」

 

 意気揚々と走り出す十代の横で、祇園はこっそりとため息を吐くのだった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 指定された場所に十代、翔と共に祇園が赴くと、すでに向こうはその場で待ち構えていた。昼間、ドームで十代と翔の二人に絡んでいた三人組だ。

 

「ふん、臆せずに来たようだなドロップアウトボーイ」

「売られたデュエルは買うのが俺の主義だからな」

 

 万丈目の言葉に、そう返す十代。やる気があるのはいいことだが……祇園としては、正直関わり合いになりたくない。

 

「はぁ……」

「夢神くん、どうしたッスか?」

「僕は別に、デュエルが強いわけでもないから……まあ、見てるだけでいいならそれでもいいけど……。丸藤くんは、怖くないの?」

 

 まだ気後れはあるが、歓迎会の際にレッド寮のメンバーに対しては祇園もある程度距離が測れるようになっているため、翔に対して普通に言葉を返す。特に十代などは人懐っこく話しかけてくれるので、ありがたかった。

 ……まあ、それでも不安は多くあるのだが。やはり、人と関わることは苦手だ。

 

「翔でいいッスよ? 僕もデュエルはまだ未熟ッスけど……十代のアニキなら大丈夫ッスよ!」

「……そっか。確かにそうかもしれないね」

 

 歓迎会の際に聞いた、入学式における十代のタクティクス。実技の最高責任者を入学試験で倒したのだから、その実力はかなりのものだろう。

 まあ、今回自分は見ているだけだろう。なので、実はあんまり心配することはないのかもしれない。

 そんなことを思いながら、祇園は万丈目たちの方を見る。すると、ふん、と万丈目が鼻を鳴らした。

 

「やはりドロップアウトだな。自分の実力も理解していないのか。この俺は未来のデュエルキングになる男だぞ? 貴様ら如きが勝てるわけがなかろう」

「デュエルキング……?」

 

 思わず、といった調子で祇園が呟く。その言葉に反応し、万丈目が鷹揚に頷いた。

 

「巷では最年少プロデュエリストなどと呼ばれている女がいるが、あんなものはただのお飾りだ。見た目だけで大した実力もないプロデュエリストなど、この俺の足下にも及ばん。あの程度の実力でプロになれるのなら、この俺がデュエルキングになるのも道理だ」

「…………」

 

 高々と笑う万丈目に対し、祇園の表情が硬くなっていく。そのまま、祇園は無意識に一歩を踏み出した。最年少プロデュエリスト――そう呼ばれる人物は、一人しかいない。そしてその一人は、祇園にとって大切な人だ。

 万丈目がどれだけの実力を有しているのかは知らない。しかし、そんなことはもうどうでも良かった。

 デュエルディスクを構える。支給品であるそれは、真新しい新品のものだ。それを携え、十代の前に出る。

 

「おい、祇園?」

「……ごめん、十代くん。僕に任せてくれないかな?」

 

 祇園は万丈目を見据える。すると、取り巻きの一人が声を上げた。

 

「万丈目さん! そいつは俺にやらせてください!」

「ふん。いいだろう」

 

 万丈目が一歩下がり、取り巻きが前に出てくる。祇園は、静かな瞳でその取り巻きを見据えた。

 

「……別に、僕のことについてなら何と言われようと構わない。カード一枚、まともに買えないような人間なんだから。でも、〝彼女〟を馬鹿にすることは……許さない」

「ふん、吠えるなドロップアウト!」

「いいよ、もう。……やろう」

 

 互いにデュエルディスクを構え、そして正面から向き合う。

 

「「決闘(デュエル)!!」」

 

 宣言が行われ、二人がそれぞれの手札を引く。先行は……祇園。

 

「僕のターン、ドロー。……僕は『ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―』を守備表示で召喚。更にリバースカードを三枚セット。ターンエンド」

 

 ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―☆4・闇 攻/守1500/1100

 

 祇園が信頼を置くカードの一枚である、金髪の髪をポニーテールにした女性が片膝をついた状態で現れる。取巻

が馬鹿にしたような声を上げた。

 

「ふん、何かと思えばそんな雑魚モンスターを召喚するだけとはな。俺は『ゴブリン突撃部隊』を召喚!」

 

 ゴブリン突撃部隊☆4・地 功/守2300/0

 

 下級モンスターの中では最高クラスの攻撃力を持つモンスターが現れる。後ろで翔がマズい、などという声を上げているが……祇園の表情に変化はない。

 

「バトル! ゴブリン突撃部隊で攻撃!」

 

 攻撃を受け、ドラゴン・ウイッチが破壊される。リバースカードの発動は……ない。

 

「それだけのカードを伏せておいて、何もないとはな。俺はカードを一枚伏せ、ターンエンドだ! エンドフェイズ時にゴブリン突撃部隊は守備表示になる!」

 

 かかって来い――そんな表情でこちらを見てくる取巻。そして祇園がカードをドローした瞬間、一人の女生徒の声が響き渡った。

 

「あなたたち、何をしているの!?」

 

 現れたのは、天上院明日香だった。彼女の登場を受け、万丈目が自慢するように言葉を紡ぐ。

 

「天上院くんか。なに、ドロップアウト共に現実を教えてやっているだけだよ」

「時間外の外出は禁止されているはずよ! 今すぐ止めなさい!」

「――大丈夫です、天上院さん」

 

 呟くように、祇園が言った。えっ、と明日香が声を上げる。

 

「もう、終わりますから」

 

 そしてそのまま、祇園はディスクにカードを差し込む。

 

「相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時、攻守を半分にして特殊召喚できる。『バイス・ドラゴン』を守備表示で特殊召喚」

 

 バイス・ドラゴン☆5・闇 功/守2000/2400→1000/1200

 

「ははっ! トラップカード発動! 『最終突撃命令』! これにより、その雑魚と俺のゴブリン突撃部隊を攻撃表示にする!」

 

 攻撃表示になるそれぞれのモンスター。その様子を見て、万丈目が嘲笑交じりの声を上げた。

 

「上級モンスターをわざわざ弱くして召喚とは。やはりドロップアウトか」

 

 オベリスク・ブルーの三人が笑い声を上げ、十代が「祇園!」と心配そうな声を上げる。しかし、こんなものはピンチでもなんでもない。

 

「……僕はバイス・ドラゴンを生贄に捧げ――『ヘルカイザー・ドラゴン』を召喚!」

 

 灼熱の溶岩が出現し、その全てを突き破りながら、一体の竜が現れる。

 

 ヘルカイザー・ドラゴン☆炎6攻/守2400/2000

 

 現れたドラゴンに、取巻きが目に見えて動揺する。それも当然だろう。現れたのは、彼が絶対の信頼を以て召喚したゴブリン突撃部隊を上回る攻撃力を持ったモンスターなのだから。

 

「凄ぇ! 何だあの格好いいドラゴン!」

 

 十代が興奮した声を上げる。その声で調子を取り戻したのか、取巻が声を上げた。

 

「ふ、ふん! それがどうした! そんなドラゴン、すぐに破壊して――」

「悪いけど、次のターンは来ないよ。リバースカードオープン、装備魔法『スーペルヴィス』。これはデュアルモンスターにのみ装備できる。装備したモンスターをデュアル状態にする。ヘルカイザー・ドラゴンのデュアル効果は、『一度のバトルフェイズに二回攻撃ができる』こと」

「な、何だと!?」

 

 デュアルモンスター……既に場に存在するモンスターをもう一度召喚権を使って召喚し直すことで、特殊な効果を得るモンスター群だ。二度手間がかかると言われたり、下級のモンスターの場合は攻撃力が低いこともあって採用され辛いモンスターだが、一度嵌れば強力な効果を発揮する。

 更に言えば再度召喚する前と墓地に存在する時は通常モンスター扱いとなるので、通常モンスター用のサポートカードの恩恵も受けられる。そういう意味で、十分に強力なカードだと祇園は思っている。

 もっとも、祇園のデッキに入っているデュアルモンスターはこのヘルカイザー・ドラゴンともう一枚ぐらいなのだが。

 

「くっ……だが、それでも俺のライフは残る!」

「……リバースカードオープン、永続罠『リビングデッドの呼び声』。この効果により、ドラゴン・ウイッチ―ドラゴンの守護者―を蘇生」

 

 攻撃力1500のドラゴン・ウイッチが特殊召喚される。ヘルカイザー・ドラゴンの二回攻撃と、ドラゴン・ウイッチの攻撃。これで丁度ライフを削り切れる。

 

「バトル! ヘルカイザー・ドラゴンで攻撃! ゴブリン突撃部隊を粉砕し、もう一度攻撃! ドラゴン・ウイッチでトドメ!」

「ぐっ、くそっ、くそっ、くそっ! この俺がドロップアウトにィィィッ!!」

 

 取巻が叫ぶが、祇園は気にしない。

 

 取巻 LP4000→3900→1500→0

 

 ライフが0になり、取巻が項垂れる。祇園はその姿を一瞥すると、背を向けて十代たちの方へと歩み寄った。翔と明日香は驚愕の表情を浮かべ、十代は表情を輝かせている。

 

「わ、ワンターンキル……」

「まさか、あんな一瞬で……」

「凄ぇ! お前強いな祇園!」

「……たまたまだよ。手札も良かったから。普通はこうもいかない」

 

 苦笑を零し、そう応じる。最後に伏せていた一枚は『王宮のお触れ』。『聖なるバリア―ミラーフォース―』等が伏せられていた時の保険だったが……上手くいって良かった。

 

「お前ともデュエルしてみたいぜ!」

「うん。だけど、十代くん。その前に……」

「ああ! デュエルだ、万丈目!」

 

 祇園の言葉に頷くと、すぐさま十代は万丈目と相対する。本当に元気な少年だ。

 

「さん、だ! ドロップアウト!」

 

 万丈目がそう怒鳴り、二人がデュエルを始める。先程のデュエルのおかげで大分感情が落ち着いてきた。正直、今更だが良くあんな攻撃的な台詞を吐いていたものだと思う。

 

「……あなた、凄いわね」

「……偶然です。僕なんて、まだまだですから」

 

 明日香の言葉に苦笑を返す。そう、自分など本当にまだまだだ。〝彼女〟には、全くと言っていいほど及ばない。

 明日香はそんな祇園の言葉をどう受け取ったのか、微笑を浮かべて言葉を紡ぐ。

 

「明日香でいいわよ。敬語も無し。同じ学年なんだから」

「え、あ、はい」

 

 頷く。しかし、改めて見ると本当に美人な人だな……などと、呑気なことを思う。だがまあ、今はそんなことよりも二人のデュエルだ。

 二人へ視線を向ける。そして――

 

 

 ――結論から言えば、十代と万丈目の決着は着かなかった。

 

 

 万丈目の場に『地獄将軍メフィスト』が召喚され、最後のドローを十代が行ったところで、明日香が警備員の気配に気付く。全員でその場から逃げ出した。

 その帰り道、十代に最後のカードは何だったのかと問う。すると、笑みを浮かべて十代はそのカードを見せてきた。

 

「『ミラクル・フュージョン』……?」

「墓地には『E・HEROフレイム・ウイングマン』と『E・HEROスパークマン』がいたからな。これで俺の勝ちだぜ!」

 

 楽しげに言う十代。そんな姿を見て、祇園も思わず笑みを零す。

 あの状況でこんなカードを引くとは……本当に、凄まじいドローである。

 

「……十代。面白い男ね」

 

 別れ際、明日香がそんなことを呟いていたのが……妙に、印象に残った。

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