遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
誇れるような人生は、歩んでこなかった。
元より、生まれが不義の子供だ。母が愛した男には妻がいた。そして男は、母を愛してなどいなかった。
責める気持ちはない。そんな感情を抱くことができる程に余裕があったわけではないし、そもそも記憶にある母は常に泣いていた。そんな人を憎悪することなど、できなかったのだ。
生きることに理由などなかった。ただ、生きていただけ。死ぬ理由がなかっただけ。
そんな中、あの人に出会った。
〝ならば、私の弟になれば良い〟
自分を疎んじることこそあれ、好意的に見ることなど本来ありえないはずの相手からの言葉。
己よりも年若いその少女は、そう言って微笑んだ。
だから、報いようと思った。
何もかも失くした自分に声をかけてくれたたった二人の女性。その内の一人である彼女に。
〝私はこの家を出る。お前はどうする、ギンジ?〟
答えなど決まり切っていた。力はあっても彼女はまだ少女だ。いざという時には盾になろうと決め、彼女の手助けをした。
その際に、過去の多くは捨て去った。かつて住んでいた場所も、僅かにいた知り合いも、既に亡くなっていた母のことさえも。
何もかもを……置き去りにした。
たった一人の、女性を除いて。
「……御加減は如何ですか、詩音サン……?」
「あ、ギンくん。うん、今日は調子いいんだ」
病室のドアをノックして入ると、その女性は読んでいた本を閉じて微笑んだ。どことなく気怠そうな雰囲気を纏っているが、それは彼女を蝕む病のせいだ。彼女と知り合った時はもっと快活でアグレッシブな女性だったのだから。
藤堂詩音(とうどうしおん)。
かつて烏丸銀次郎の母親が入院していた際に銀次郎が知り合った女性であり、彼が知る限りずっとこの病院に入院している女性だ。
「……お土産は、シュークリームでよろしかったンで……?」
「ありがとう。ハルくんはその辺、気が利かなくてさー。さっきまでいたんだけど、手ぶらだよ手ぶら? 信じられないよねー?」
「……晴サンが、来てたんですか……?」
「うん。オープン戦前に寄ったみたい。聞いたよ? ギンくん、今日試合出るんだってね?」
「……どうにか、一軍に残れたンで……。最後のテストと、監督には……」
開幕直前のこの時期はどのプロチームも開幕一軍の最終決定に忙しい。銀次郎はキャンプ、オープン戦とどうにか結果を残すことができていたため、今も一軍に籍を置いている。明日には隣で言葉を交わしていた相手が二軍に落ちていることもあるのがプロの世界だ。そういう意味で、銀次郎は踏ん張っていると言えるだろう。
「ハルくん言ってたよ。期待してるんだ、って。今日の試合、テレビ放送あったよね? 応援してるから!」
「……精一杯、頑張りますンで……」
頷く。彼女の明るさには何度も救われてきた。結果を残せずにいる自分に声をかけ続けてくれたのは、この女性なのだ。
詩音はうんうんと頷くと、こちらへ手を伸ばそうとした。だが、その体が傾く。
「詩音サン!?」
その体を咄嗟に銀次郎が支える。あはは、と詩音が微笑んだ。
「今日は大丈夫かな、って思ってたんだけどね……」
「……ゆっくり、休んでください」
「うん。ごめんね?」
優しく微笑む詩音。その目は気怠げで、瞳は半ば落ちている。
――〝眠り病〟。
原因不明、治療法不明の難病。それが、出会った時から彼女を蝕み続ける病の名だ。
「あはは……ギンくんの試合だから、頑張るつもりだったんだけどなぁ……」
苦笑する詩音。銀次郎は詩音サン、と言葉を紡いだ。
「……必ず、勝ちます」
その言葉に、詩音は驚きの表情を浮かべた。次いで、笑みを浮かべる。
「うん。応援してる」
◇ ◇ ◇
高速道路を、一台のリムジンが走り抜ける。漆黒の車体を操るのは、KC社の社員だ。
「澪さん、試合会場に向かってるんですよね?」
「どうしたいきなり?」
膝の上に本を置き、それを読んでいた澪がこちらへ視線を向けながらそう言葉を紡いだ。
「不都合でもあるのか、少年?」
二人が今向かっているのは東京アロウズとスターナイト福岡のOP戦が行われる会場だ。一軍に残れるかどうかの最終テストして澪の弟である烏丸銀次郎が出場することもあり、応援として二人は向かっているのである。
だが、試合開始は夕方からだ。今はまだ昼前の時間である。
「いえ、こんなに早く行く理由があるのかと思いまして……」
「ああ、そういえば言っていなかったな。少し野暮用だ。私の個人的な……そうだな、少年も来るか?」
見えて来たぞ、と澪が車外を視線で示す。見えるのは病院だ。それも、かなり大きい。
「烏丸銀次郎――私の弟が戦う理由を、知ることができるぞ」
そう呟く彼女の表情に、いつもの微笑はない。どこか寂しげで、いつもの彼女らしくなく、同時に彼女らしい表情を浮かべている。
「私の戦う理由は酷く自己中心的で高慢なモノだ。私は私の欲のために――目的のためだけに未だ戦い続けている。だが、ギンジは違う。奴は約束のために戦っているんだ」
キミと似ているよ、と澪は言った。誇らしげに、嬉しそうに。
「捻くれた者なら、それも私の理由と根本は変わらないと言うだろう。それはある意味で正しく、だが、私はそう思わない。〝約束〟は一人ではできない。必ず相手が必要となる。キミと美咲くんのようにな」
一人ぼっちではできないこと。それが約束。
だから、それを胸に戦う者は美しいのだと澪は語る。
「ギンジの約束は単純だ。その領域に立つ実力がありながら、しかし、眺めることしかできない。そんな者の代わりに戦うと……ただ、それだけの理由だよ」
リムジンが病院の駐車場に着く。さて、と澪は言葉を紡いだ。
「行こうか。私も一人、会いたい人物がいるのでな」
病院を見上げる彼女の表情は、まるで死者を悼むように重苦しい。
祇園はそんな彼女に、はい、と頷きを返すことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
静かな、場所だった。
ガラス張りの向こうに並ぶいくつものベッド。そこでは、まるで眠るように幾人もの人が機械に繋がれている。
「……ここは」
「〝眠り病〟」
立ち止まり、振り返りながら澪はそう言葉を紡いだ。その表情は真剣そのもので、冗談の類ではないことをこちらに理解させてくる。
「原因不明、治療法も一切不明の奇病だよ。発症理由も、病状の進行速度もわからない。ただわかっているのは、この病に侵された者は日を追うごとに眠りの時間が増えて行き、やがて目を覚まさなくなるということだけ」
靴の音を響かせ、澪が歩みを進めていく。祇園はその背を追うことができず、周囲をもう一度見まわした。
人数は、三十人近くといったところか。誰も彼も、ただ眠っているようにしか見えない。
だが、澪の言葉が真実だとするならば、ここにいる人たちは――
「安心するといい。感染はしないよ。もしこれが感染する類の病なら、私やギンジ、更にそこにいる男などとっくに深い眠りの中だろう」
「……久し振りだってのに、随分だな」
澪の視線の先。自分たち以外に唯一この場にいた男性が鬱陶しそうに言葉を紡いだ。その表情というか雰囲気が、全身で『面倒臭い』と訴えている。
「私の行く場所にいるあなたが悪い」
「やかましい。お前と関わって良かったことがないんだよこっちは」
社会的には十八の小娘だが、澪の纏う雰囲気は大の大人でさえ尻込みするモノだ。しかし、この男はそんなことは意に介さないどころか澪に噛み付くようなことを言っている。
それもそのはず。この人物は祇園も知る人物だ。いや、日本のデュエリストで彼を知らない者はいないだろう。
――藤堂晴(とうどうはる)。
名門チーム東京アロウズ総大将にして、全日本ランキング三位、世界ランキング10位を誇る怪物だ。全日本代表においては主将を務めることでも知られ、そのデュエルスタイルは『喧嘩決闘』と謳われる。
文字通りのトップデュエリストだ。思わず祇園は委縮するが、そんな祇園のことなどお構いなしに晴は澪へと言葉を紡ぐ。
「大体お前が戦況引っ掻き回したせいで俺がどんだけ苦労したか……!」
「十年以上前のことを未だに引き摺るとは、小さい男だ。そもそもこんなところで何をしている?」
「姉貴の見舞いだよ。……まあ、ギンジの奴がいるから空気読んで退散して来たけど」
「ほう」
頭を掻きながら言う晴に、澪が感心したように笑った。そして、少年、とこちらに視線を向けてくる。
「一応、紹介しようか。この姉弟は馴染みでな。色々あった」
「藤堂晴だ。……夢神祇園、だろ? 同情するよ。この悪魔に――いや何でもない」
言いかけた言葉を呑み込む晴。だが、祇園はそれよりも彼が自分の名を知っていた事実に驚いた。
「僕を知っているんですか?」
「少しは自分が有名だって事を自覚すべきだな。〝ルーキーズ杯〟はかなり注目されてたし、神崎を倒したお前を過小評価はできないさ」
晴は肩を竦める。彼ほどの人物に言われると嬉しい反面、恐縮してしまう。
全日本ランキング三位――タイトルに最も近い男にここまで評価されるほどに自分は強いのかと、そんなことを思ってしまうのだ。
そんな祇園の内心を知ってか知らずか、まあ、と晴は肩を竦めてこの場を立ち去ろうとする。
「今は学生の身分を楽しんどけ。プロになるとしんどいことばっかりだからな」
それは、暗に祇園がプロに届き得る器であると語る言葉だ。ほう、と澪が吐息を零した。
「珍しいな。人をそこまで評価するとは」
「そうかな? 俺はいつでもこんな感じだよ。……んじゃ」
そう言って、軽い足取りで立ち去って行こうとする晴。その途中で、思い出したように彼は言葉を紡いだ。
「そういや、〝ルーキーズ杯〟の時に防人妖花の面倒見てくれたのはお前だったんだってな」
「……面倒、っていうわけでは」
「ありがとう」
こちらが言い切る前に、晴はそう言って頭を下げてきた。そのまま、できれば、と言葉を紡ぐ。
「覚えていたらでいい。防人妖花に伝えてくれないか」
頭を下げたその姿勢のまま、藤堂晴が言葉を紡ぐ。
「先代〝防人〟に、心の底から敬意と……感謝を」
その言葉に込められている意味は、祇園にはわからない。だが、その重みだけは伝わってきた。
――しかし。
「人に任せるな。それは、あなたの理由だろう?」
「……そうだな」
澪がそれを否定した。晴は頷くと、今度こそ背を向けて歩き出す。その背に澪が言葉を紡いだ。
「試合会場に向かうなら送るが。ギンジも共にな」
「……言ってるだろ。お前に関わると良いことがないって」
そして、彼は階段を下りていく。全く、と澪は吐息を零した。
「相変わらずだな。昔のことをぐちぐちと」
「何かあったんですか?」
「色気のある話は何一つない。あったのは血生臭い物語だけだ」
愉快な話ではないよ、と肩を竦める澪。彼女がそう言うということは、触れるべきではないということだろう。
「……ギンジのところへ行くのは、少し待とうか。私も、挨拶ぐらいはしておきたい」
そう言うと、澪は一人の患者が眠るベッドの方へと視線を向けた。
そこで眠るのは、一人の老人だ。安らかな表情で眠っている。
「恩を一つも返せないままにこうもずっと眠られていては……どうしようも、ないだろうに」
ポツリと呟く澪。何かを言うべきなのかと祇園は考え、しかし、言葉は浮かばず。
ただ無言で、彼女の隣に移動した。
――しばらくして。
肩に、小さな重みが加わった。
◇ ◇ ◇
オープン戦は調整の場であると同時に各チームにとって探り合いの場でもある。
故に完全なベストメンバーで臨むことはまずない。そもそもこの時期は国内外問わずいくつもの大会が開かれており、各チームのエース、レギュラークラスはそちらに手を取られていることが多い。藤堂晴の出場も偶然このタイミングで空白ができたが故の調整のためであり、基本的に一軍半の選手が出場するのが常だ。
今回の銀次郎はその一軍半の選手に当たる。出番は副将。この試合で勝てれば――チームとしてだが――一軍に残れるという条件が付いている。だが無論、そこには彼の貢献が必須事項だ。
しかし、今の銀次郎は十分に力を付けた。一軍の上位陣ならともかく、彼と立場を同じくする者にならばそう容易く敗北しない。
――だが。
「……だから、あのクソガキと出会うとろくなことがないんだよ」
現実は、いつだって残酷だ。
「……本郷、イリア……」
東京アロウズのロッカールーム。すでに敗北した三人は二軍行きを告げられ、残るのは副将と大将の二人のみ。
烏丸銀次郎と藤堂晴。その二人が眺めるモニターには、紅蓮の炎を纏うモンスターを従えた女性が映っている。
〝爆炎の申し子〟本郷イリア。
かの桐生美咲のライバルと謳われ、スターナイト福岡においてレギュラー、そして日本代表にも選出されたことのある実力者だ。
本来彼女もオープン戦には出場しても精々一試合程度の猛者。それが、何故。
「最悪のタイミングでかち合ったな……。どうしたもんかな。相性悪いんだよなぁ、俺。それに、倒してもまだ四人もいるし」
頭をガシガシと掻きながら唸る晴。彼としてはこの試合負けるつもりなど微塵もなかった。しかし、相性という点において本郷イリアは晴にとって相当やり難い相手だ。
今回は勝ち抜き戦。どちらかのチームが五人敗北した時点で負けになる。つまり、銀次郎と晴の二人で五人を倒さなければならないのだ。
「……大丈夫です……」
相手は一軍でも上位のデュエリスト。正直勝ち目は薄い。
だがそれは、畏れる理由にはなっても敗北が確定する理由にはならない。
「……見ていてください。必ず、勝ちますンで……」
そして、銀次郎は歩き出す。
おそらく、彼女は眠ってしまっているだろう。彼女を蝕む病とはそういうモノだ。
だが、それでもいい。
約束をした。
誓いを立てた。
理由は、十分だ。
「…………ふむ」
銀次郎が部屋を出て行ったあと、顎に手を当てて晴は呟く。
「あのクソ姉貴もまあ、良い目してるな」
あんな男を見つけて、見初めるのだ。大したものである。
ただ、まあ。
「……子供が見たら、やっぱ泣くよなぁ」
◇ ◇ ◇
本郷イリア。全日本代表クラスの実力者であり、世界にも通用する実力を持つ者。
格上の相手だ。正直、分はかなり悪い。だが、それでも。
「……よろしくお願いします……」
諦めるわけには、いかない。
「ええ、よろしく」
相手はこちらの名前すら知らないだろう。それが勝機だ。
「「決闘!!」」
一軍に上がればいずれ間違いなくぶつかり合う相手。ただ一軍に残ればいいわけではない。戦い抜けるだけの実力が必要なのだ。
勝つ。絶対に。
「……私の先行です……! ドロー、モンスターをセット、カードを一枚伏せ、ターンエンド……!」
「消極的ね。私が誰だかわかってるのかしら?――私のターン、ドロー! 魔法カード『炎王の急襲』を発動! 相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない時、デッキから炎属性の獣戦士族、獣族、鳥獣族モンスターを一体特殊召喚する! 『炎王神獣ガルドニクス』を特殊召喚!!」
炎王神獣ガルドニクス☆8炎ATK/DEF2700/1700
現れるのは、神の炎纏いし最強の神鳥。
本郷イリアの切り札であり、幾多のデュエリストを葬ってきたモンスターだ。
「更に『炎王獣バロン』を召喚!」
炎王獣バロン☆4炎ATK/DEF1800/200
炎を纏う獣が現れる。バトル、とイリアが宣言した。
「ガルドニクスでセットモンスターへ攻撃!」
「……セットモンスターは『レプティレス・ナージャ』です……! ナージャは戦闘では破壊されず、このモンスターと戦闘をした相手モンスターはバトルフェイズ終了時に攻撃力が0となります……!」
レプティレス・ナージャ☆1闇ATK/DEF0/0
エンドフェイズに攻撃表示となるデメリットこそあるものの、戦闘破壊が不可能という強力な効果を持つモンスターだ。更に相手の弱体化というおまけつきである。
「ふぅん……、仕方ないわね。私はカードを二枚伏せ、ターンエンド。エンドフェイズ、ガルドニクスは破壊される」
「……私のターン、ドロー」
「スタンバイフェイズ、ガルドニクスの効果発動! 破壊された次のスタンバイフェイズに蘇り、このカード以外のモンスターを全て破壊する!!」
甦る神鳥の焔により、全てが焼き尽くされる。
敵も、味方も。
何もかもを。
「――罠カード、発動……!」
だが、紅蓮の炎が全てを包もうとしたその瞬間。
小さく、そんな声が聞こえた。
炎が消える。フィールドに残ったのは、ガルドニクス一体。
そう、神鳥のみだった。
「…………!?」
「……罠カード『毒蛇の供物』――ナージャと伏せカード二枚を破壊させていただきやした……」
自分フィールド上に存在する爬虫類族モンスターと、相手フィールド上に存在するカード二枚を同時に粉砕するカードだ。
これで、場にはガルドニクス一体のみ。それを確かめ、そう、とイリアは息を吐いた。
「出し抜かれたのは認めるわ。けれど、ガルドニクスを超えられる?」
「……モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドです……」
再びの守り。ふん、とイリアは息を吐いた。
「こんなものなの? 私のターン、ドロー! スタンバイフェイズ、破壊されたバロンの効果により『炎王円環』を手札に加える!――私は手札より、二体目の縁王獣バロンを召喚! 更に相手の墓地のカードが三枚以下の時、チューナーモンスター『ネオフレムベル・オリジン』を特殊召喚できる!」
炎王獣バロン☆4炎ATK/DEF1800/200
ネオフレムベル・オリジン☆2炎・チューナーATK/DEF500/200
並び立つ二体のモンスター。いくわよ、とイリアが宣言する。
「レベル4、炎王獣バロンにレベル2、ネオフレムベル・オリジンをチューニング。――爆炎纏いし拳の戦士よ、その剛腕を以て敵を討ち砕け。シンクロ召喚! 『フレムベル・ウルキサス』!!」
フレムベル・ウルキサス☆6炎ATK/DEF2100/400
現れるのは、燃える双腕を持つ焔の戦士だ。その戦士を従え、バトル、とイリアが宣言する。
「ウルキサスでセットモンスターを攻撃! ウルキサスは貫通効果を持ち、相手にダメージを与える度に攻撃力が300ポイントずつアップする!」
「セットモンスターは『レプティレス・ガードナー』です……! 破壊されたことにより、デッキから『レプティレス・ヴァースキ』を手札に……!」
フレムベル・ウルキサス☆6炎ATK/DEF2100/400→2400/400
レプティレス・ガードナー☆4闇ATK/DEF0/2000
銀次郎LP4000→3900
場が空く。しかし――
「罠、発動……! 『スネーク・ホイッスル』……! デッキからレベル4以下の爬虫類族モンスターをデッキから特殊召喚……! 『レプティレス・ナージャ』……!」
「厄介ね、本当に。――速攻魔法『炎王円環』を発動! ガルドニクスを破壊し、バロンを蘇生! ターンエンド!」
「私のターン、ドロー……!」
「その瞬間、ガルドニクスの効果を発動! ガルドニクスを蘇生し、ガルドニクス以外のモンスターを全て粉砕する!」
圧倒的な力。絶対的な爆炎。
そのフィールドリセット効果は、最早理不尽の領域だ。
(……長引けば、こちらが……!)
このリセット能力は圧倒的だ。成程、多くのデュエリストを倒してきた事実にも頷ける。
自身が必死になって構築した場を、この女性デュエリストは一瞬で灰燼と化す。己の身さえ焼きながら、神鳥を従えて。
しかも、この女性はガルドニクスだけではない。先日の大会で見せた桐生美咲を破った究極の切り札。『真炎の爆発』も有しているのだから。
(この、ターンで……!)
超えなければならない。何としても。
それをするには、一枚の――
「…………」
観客席を見る。誰もがその視線をイリアへ向けている。当たり前だ。彼女はトッププロ。次元が違う。
対し、自分は一軍半の明日さえわからぬ中途半端な身だ。この場の全員が自分の敗北を確信しているだろう。
諦めが過ぎる。この場面でいつも引けなかったのが烏丸銀次郎だ。だから勝てなかった。
誓いでは、駄目なのか。
約束では、駄目なのか。
目を閉じそうになり、瞼が堕ちようとした瞬間――
視界に、その二人が映った。
一人は、自分を見ている。祈るように、必死に、頑張れとその目が告げている。
もう一人もまた、自分を見ている。だが隣の彼とは違い、その目は厳しい。
嗚呼、と思った。
この会場で自分を見てくれている者がいたのだと。
そうだ、自分は。
烏丸銀次郎は――
「――ドロー!!」
鋭く、重い声が響き渡る。
果たして、引いたカードは――
「手札よりチューナーモンスター『深海のディーヴァ』を召喚! 効果発動! デッキからレベル3以下の海流族モンスターを特殊召喚……! 二体目の『深海のディーヴァ』を特殊召喚!!」
深海のディーヴァ☆2水・チューナーATK/DEF200/400
深海のディーヴァ☆2水・チューナーATK/DEF200/400
現れる二体のモンスター。会場にどよめきが奔った。チューナー同士で行えるシンクロ召喚一体の例外を除いて存在しない。
「更に魔法カード『レプティレス・スポーン』を発動……! 墓地のナージャを除外し、レプティレストークンを二体特殊召喚……!」
レプティレストークン☆1地ATK/DEF0/0
レプティレストークン☆1地ATK/DEF0/0
現れた二体のトークン。これで場には四体。だが、ここからだ。
ここから――紡ぎ上げる。
「……レベル1、レプティレストークンにレベル2、ディーヴァをチューニング……! シンクロ、召喚……! 『霞鳥クラウソラス』……!」
霞鳥クラウソラス☆3風ATK/DEF0/2300
現れるのは、霞の谷に住むという怪鳥だ。攻撃の力を持たぬモンスター。だが、その効果は強力無比。
「クラウソラスの効果を発動……! 一ターンに一度、相手フィールド上のモテ側表示モンスターの攻撃力を0とし、効果を無効にする……!」
「また攻撃力0……!?」
イリアが呻く。だが、当然だ。銀次郎はいつだってこの戦術で戦ってきた。貫き通さなければ、そうあると決めた意味がない。
「攻撃力0のクラウソラスとガルドニクスを生贄に――『レプティレス・ヴァースキ』を特殊召喚……!」
レプティレス・ヴァースキ☆8闇ATK/DEF2600/0
現れるのは、レプティレスの切り札。
複数の腕を持つその毒蛇の女王が、銀次郎の後ろへと降臨する。
「そして、最後です……! ディーヴァを手札に戻し、『A・ジェネクス・バードマン』を特殊召喚……! レベル1、レプティレストークンにレベル3、A・ジェネクス・バードマンをチューニング……! シンクロ召喚――『魔界闘士バルムンク』!!」
魔界闘士バルムンク☆4闇ATK/DEF2100/800
現れるのは、巨大な剣を持った戦士だ。その剛剣が、イリアに迫る。
「――次のターンには、回しません……!」
「……くっ……!」
自身の手札を見、厳しい表情を浮かべるイリア。
おそらく、防ぐ術はないのだろう。ならば、ここで終わりだ。
イリアLP4000→1900→-700
イリアのLPが0を刻む。
会場から音が消えた。ふう、と銀次郎が息を吐く。同時。
「――見事だった」
乾いた拍手の音と共に、一人の女性がそう告げて。
決して多くはない。だが、この場にいた観客全員から、烏丸銀次郎は称賛の拍手を受けた。
「……この間の大会で、私は美咲に勝った。けど、自分であの勝ちに納得できなくてね」
こちらへと歩み寄ってきたイリアが言葉を紡ぐ。その表情は、どこかすっきりしたものだった。
「で、調整の意味も含めてここへ来たんだけど……でも、当たり前よね。私は、対戦相手を見ていなかったんだから」
じゃあね、とイリアはこちらへ背を向けてこの場を立ち去っていった。
「もう二度と、アタシは負けないわよ。少なくとも、こんな形ではね」
「……自分も、精進します」
頭を下げる。イリアは苦笑を零し、そのまま会場を出て行く。
その背が見えなくなるまで、銀次郎は頭を下げ続けていた。
◇ ◇ ◇
「凄いですね、ギンジさん……」
「上手くかみ合った結果だ。ガルドニクスを戦闘破壊しても後続が発生するし、手札に『炎王』がいればその連中が湧いて来ていただろう。その点をリリースというコストで回避したギンジが上手かった」
銀次郎の二試合目を眺めながらそんな言葉を交わす祇園と澪。紙一重のデュエルだったのだ。勝った銀次郎がよくやったという評価が妥当だろう。
「それでもやっぱり……凄いですよ」
ポツリと呟く少年。
その言葉に乗る想いは。
「……凄い、って思います。ちょっと、もどかしいくらいに」
一体、どんな感情から来たモノか。
「そう思えるなら、その気持ちを大切にするべきだ。いずれキミも、あの場所に立つのだから」
二人目を打ち破り、歓声を受ける銀次郎を見つめながら〝王〟が呟く言葉に。
はい、と少年は頷いた。
◇ ◇ ◇
廊下を歩いてくる人物に、頭を下げた。二人抜き――銀次郎ができたのはそこまでだ。残り三人。それを晴一人で倒さなければチームの敗北となる。
「……すみません、晴サン……」
「気にするな。むしろよくやった」
通り過ぎ様に軽くこちらの肩を叩き。
その男は、迷いなく歩を進める。
「お前をヒーローにしてやる。……久々に、いい気分だ」
…………。
……………………。
………………………………。
良かった、と思った。
相変わらず弟は強く、そして銀次郎も強かった。
これで彼は一軍に残れる。本当に……嬉しい。
「……安心したら、眠く、なって……」
彼に渡そうとしたデッキを握り締め、小さく呟く。
眠るのはいつも怖い。もう目覚めることがなくなるかもしれないと、そんなことばかりを考えてしまうのだ。
だが、今日は。
少しだけ、良い気分で眠れそうだ。
「……起きたら、私――……」
そして、その瞳が落ちる。
次に目覚めた時、彼が側にいてくれればいいと……そんなことを想いながら。
藤堂詩音は、眠りに落ちる。
それはいつものことであり、誰もがまた目を覚ますと信じた。
「…………」
一人の男は、待ち続ける。
眠り続ける彼女が、再び目を覚ます――その時を。
ただ、待ち続けている。
というわけで、ウエスト校に行った後の物語。
王の弟でありながら才に恵まれなかった青年の、小さな物語です。
〝眠り病〟とかいう恐ろしい病気が出てきましたがまあ、それは追々ということで。