遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々― 作:masamune
一つの究極を、目にした。
数多の人間が夢見る到達点。その少女は誰もが修練の果てに目指し、しかし辿り着けない場所に平然と立っていた。
相対することは終ぞなかった。ただ、その場にいた者たち全てにあまりにも鮮烈で、圧倒的なその力に魅せられ――恐怖した。
その少女がそれから時を置かずに極東で〝最強〟と呼ばれ、〝幻の王〟と呼ばれるようになった時はただ納得した。むしろ遅いと思ったくらいだ。それほどまでに圧倒的だったのだ、その少女は。
そして、その少女が自分と並び立つ場所へ来た時。ただ、笑みが零れた。
何もかもを投げ捨てでも手に入れようと足掻き、ようやく辿り着いた場所。少女はその場所に、散歩をするような気軽さで到達していたのだから。
あまりにも理不尽なその現実に、笑うしかなかった。
天才、化け物、怪物、英雄。
呼び名などいくらでもあったが、今やその全てが陳腐なものに思える。本物を見てしまったが故に。
かつて、〝天才〟と呼ばれた盟友にして終生の宿敵である男は天才をこう定義した。
――ありとあらゆる努力が、必ず結果を示す存在。
故に〝天才〟とは後付けの称号なのだと彼は語った。その言葉に納得したのを覚えている。今まで出会ってきた者は誰一人の例外もなくその力に対する背景があった。それは自分も例外ではない。
どれほどの力を持つ者でも、〝努力〟という行為を無視することだけはできなかったのだ。
だが、その少女は違った。
ただそこに在るだけで、一つの到達点に立っていたのだ。
何の冗談だ、と思った。まるでありとあらゆる努力を嘲笑うかのようなその在り方。その力に背景はない。行使する理由こそあれ、その力が紡がれた理由が存在しないのだ。
そして理解する。本物とは、彼女のことを示すのだと。
ただそこに在るだけでありとあらゆる努力を否定し、嘲笑う存在。故に彼女は、敬意と憧憬、そして畏怖の感情と共に精霊たちから呼ばれるのだ。
――〝王〟。
絶対たる、支配者と。
◇ ◇ ◇
集合場所に着くと、全員が揃っていた。といってもメンバーは自分を入れても四人だけだ。護衛が離れた場所についているはずだが、姿は見えない。流石にKC社とI²社の黒服は優秀だ。
「おお、揃ってんじゃねぇか」
「あと五分遅けりゃ置いていったけどな」
軽く手を挙げて皇〝弐武〟清心が紡いだ言葉に応じたのは、青年――藤堂晴だった。その口調と態度からは不機嫌さが滲み出ている。
「珍しく〝祿王〟が遅刻せず来たと思ったら、あんたが遅刻してるし」
「あん? 珍しいなぁ、嬢ちゃんが時間通り来るなんてよ」
「……ええ。たまには」
目を伏せ、興味なさげに頷くのは烏丸〝祿王〟澪だ。
「一緒にいた彼が時間の管理をしてくれたんだろう?」
微笑を浮かべながらそんなことを言うのはDDだ。彼の言葉に清心が眉をひそめる。
「あん? なんだ嬢ちゃん、彼氏でもできたか?」
「それが望めたら一番ですが。お互い、簡単にそういうモノは望めない立場でしょう?」
「くっく、違いねぇ。桐生の嬢ちゃんも面白ぇことになってるみてぇだからなぁ」
「それについて詳しく知りたければ本人にでも聞いてください。……とりあえず、中に入りましょう」
会場の方を振り返りながら澪は言う。そうだね、と頷いたのはDDだ。
「相手はもう到着しているようだし。僕や皇さんはともかく、烏丸さんは着替える手間もある」
「できれば遠慮したいところです」
「ああ、そういや嬢ちゃんはドレス着るんだったか。くっく、楽しみにしてるぜ」
清心が笑い、四人で歩き出す。それにしても、とDDが笑みと共に言葉を紡いだ。
「まさかこの三人で肩を並べることになるとはね。何が起こるかわからないものだ」
「肩を並べる? 馬鹿なことを抜かすもんじゃあねぇなぁ。いつ、俺たちが肩を並べたってんだ?」
「珍しく意見が合いましたね。我々が相容れることは有り得ない。あってはならないのです。それはあまりにも道理に合わないのですから」
「これは申し訳ない。誰かとチームを組むなんて随分と久し振りのことだったのでね。少し興奮しているんだ。確かに、我々は絶対に相容れない。そういう立場であり、そういう存在であるが故に」
「……あんたらホント仲悪いんだか良いのかわかんねぇな」
「良いわけなかろう?」
ハルが呟いた言葉に、冷静に澪がツッコミを入れる。〝日本三強〟などと一括りにされているが、この三人に仲間意識などないのだ。
「私はともかく、そこの二人は〝最強〟の座を狙う者同士。仲良くできる道理もない」
「くっく、言うじゃねぇか。嬢ちゃん、自分の首が狙われていることを自覚してんのか?」
足を止め、清心が静かに告げる。口元は笑っているが、その目は獲物を見つけた肉食獣のような鋭い気配を宿していた。
DDの表情は読み辛い。薄く笑っているが、目はそうではないように思える。
一触即発の空気が流れる。澪も笑みを浮かべた。
「知っていますよ。――だから待っているのです、私は」
靴の音を鳴らし、澪は歩き出す。ふん、と清心が鼻を鳴らした。
「何かあったのか、嬢ちゃんは?」
澪を追うように歩き出したDDの背を眺めながら、清心がつまらなさそうに言う。ハルが眉をひそめてどういうことだと問いかけると、清心は煙草を取り出しながら言葉を紡いだ。
「烏丸澪、ってのは正真正銘のバケモノだ。だが最近、どうも温くなったように感じてはいた。初めて見た時はもっと張り詰めた、誰にも触れさせない、触れることさえ許さない高嶺の花みたいな女だったが」
「本質は変わってねぇだろ。あれは昔からああだよ。ただ力だけがあり、その背景がない怪物。一番敵に回したくねぇ相手だ」
「そうだ、本質は変わってねぇ。だからこそ妙だ。……まさか、今更年相応に迷ってるとでもいうんじゃねぇだろうな」
だとしたらつまらん――ため息と共にそう言葉を紡ぐ清心。その彼にハルが問いかけた。
「そういや、あんたは烏丸澪にいつ出会ったんだ?」
「話したのはあれが史上最速で日本ランキング一桁に駆け上がってきた時だが……、初めて見たのは当時のインターミドルだ」
「インターミドル?」
「凄まじかったぞ? 当時13、無名の小娘が二試合連続五人抜き。しかも被ダメージは全試合通して0。圧倒的って言葉さえも生温い光景だった」
楽しそうに語る清心。逆にハルは嫌そうな表情を浮かべている。
「無茶苦茶だな……」
「良いデュエルだった。相手のことなんざ見ちゃいない。それでも勝てる。勝ててしまう。相手の全てを否定しながらな。バケモノ、って言葉がアレ以上に似合う奴を知らねぇよ」
だが、と清心は言葉を紡ぐ。
笑みを消し、複雑な表情を浮かべて。
「あの姿が強さの根本だってんなら、同情しちまうなぁ」
「どういうことだよ?」
「俺が見たインターミドルの試合。あの時の背中は、まるで」
一息。
「――泣き叫んでるみたいだった」
◇ ◇ ◇
ある程度廊下を進むと、澪だけは三人とは別の部屋に案内されることとなった。衣装のためだそうだ。
今回のエキシビジョンは宣伝の意味も大きい。故に華やかな衣装を着ろ、というのがスポンサーの指示だった。
「着替えが済んだらエスコートしてやろうか、嬢ちゃん?」
「遠慮します。私をエスコートしていいのは、今のところ一人だけですから」
「おーおー、振られたか」
くっく、と笑いながら清心が立ち去っていく。他の二人は特に何も言わず、また後で、という言葉を残して立ち去って行った。
控室に入ると、複数の人間が慌ただしく出入りし始めた。化粧に始まり髪のセット、ドレスの準備に小物の選定。澪はただ差し出されるがままにそれらを身に着けていく。
それなりの時間が過ぎると、全員は一礼をして出て行った。それを見送り、澪は椅子から立ち上がる。
「…………」
彼女が身に纏うのは純白のドレスだ。逆にデュエルディスクは漆黒であり、彼女の髪と瞳の色と合わさって余人には近寄り難い雰囲気を醸し出している。
白い服を着ること自体、澪にとっては珍しい。そもそもドレスの類は嫌いだ。だが今回は祭である。我慢する他ない。
時計を見ると、開始予定時刻が迫っていた。会場に向かうか――そんなことを思っていると、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
「――失礼します。澪さん、時間が――……」
こちらを見た瞬間、少年――夢神祇園が制止した。文字通りの停止である。
その反応を見、ふむ、と澪は笑みを浮かべる。そのまま両手で軽くスカートを持ち上げた。
「どうだ、少年? 似合っているか?」
「は、はい。その、すごく」
全力で首を上下させる祇園。その姿を見、澪は笑みを深くする。
「ふふ、普段あまり気にしていないようだからな。私に魅力がないのかと思っていたのだが」
「そんな、澪さんは美人ですし……。その、なんというか……」
「――ほう。その先について詳しく聞きたいところだが」
時計を見る。残念ながら、時間はあまりなかった。
「時間もない。少年、私をエスコートしてくれるのだろう?」
「ええと……役者不足ですが」
「ふふ、キミなら文句はない。――さあ、行こうか」
祇園の手を取り、澪はガラスの靴に足を入れる。自分よりも大きな掌に、やはり男の子だな、などとどうでもいい感想を抱いた。
「しかし、キミにエスコートされてガラスの靴を履くというのも妙な気分だ。〝シンデレラ・ボーイ〟にエスコートされるシンデレラのような気分で、な」
「あはは……僕はどうやっても王子様にはなれないですけどね」
「そうでもないよ、少年」
肩を並べて廊下を歩いていく。人の姿はなく、二人の声と靴の音だけが響いていた。
「キミは十分に、王子様だ」
えっ、という言葉を漏らす祇園。その彼の手を放し、澪は微笑と共に言葉を紡いだ。
「さて、エスコートはここまででいい。その帽子とメガネ、外さないようにな」
「はい。しっかり見ています」
「うむ」
頷く。そして歩き出そうと祇園に背を向けた澪に、彼が言葉を紡いだ。
「あの、澪さん」
「……どうした?」
振り返る。そこにあったのは、真剣な瞳。
「この間話してもらったこと。僕には、何が正しかったかなんてわかりません」
「……少年。それは――」
「でも、きっと僕なら、って思うことがあるんです」
眉をひそめる。祇園は真剣な表情で、続きの言葉を紡いだ。
「きっと、澪さんのチームメイトの人たちは澪さんと楽しくデュエルをしたかったんじゃないでしょうか」
「……楽しく?」
「多分、ですけど。……澪さんは強くて。負けてばかりの自分たちは足を引っ張っている、って考えたのかもしれません。澪さんが五連勝したってことは、他の人たちは全敗したってことですから。だから、苦しかったのかもしれません。僕も昔、そんな風に考えたことがありますから」
「……そうか。苦しかった、か。それは、楽しくないな」
苦笑を零す。そうか、そういうことだったのかもしれないと、そんな風に思う。
――楽しいデュエル。心躍るデュエル。
充実したデュエルには澪も覚えがある。だがきっと、それは彼の言う感覚とは異なるものなのだろう。何故なら、あのインターミドル。あの時確かに、烏丸澪というデュエリストは充実していたのだから。
初めてのチーム戦。役に立てていると思っていた。チームというモノに、自分も加われるのだと感じていた。
結局それは、錯覚だったのだけれど。
「――少年。私のデュエルを見届けて欲しい」
背を向け、彼へと言葉を紡ぐ。
彼が言う、楽しいデュエルと。
自らの思う、楽しいデュエル。
その二つは、きっと。
「それは、勿論そのつもりですけど……」
「違う。そうだが、そうではない。――私の全力、全身全霊を見ても尚、キミの言う楽しいデュエルに辿り着けるのか」
見極めてくれ、と小さく呟き。
常勝の〝王〟が、戦場へと足を踏み入れた。
◇ ◇ ◇
対戦相手はすでに三人とも揃っていた。奇しくも男二人に女一人の構成でこちらと同じ比率である。
「おーおー、いい塩梅だ。こりゃセオリー通り、嬢ちゃんを向こうの嬢ちゃんにぶつけるか?」
「絵的にはそれが一番映えそうだね」
清心の言葉にDDが頷いて応じる。今回はエキシビジョンとしての意味合いも大きい。故に興行面についても考える必要があるのだ。
まあ二人とも負ける気が微塵もないので対戦相手など誰でもいいという感覚なのだが。
「俺は控えだしどうでもいいけどよ。一番強いのはあのロシア娘だぞ」
「あん? そうなのか?」
「いや知らねぇのかよ。世界ランカーだぞアレ」
「清心さんは世界ランク十位以下の人間はほとんど覚えようとしないからね。まあ、僕も詳しいわけじゃないけど」
「一応現時点でランキング13位だぞアレ。……まあ、あんたら二人にしたら格下なんだろうけどさ」
呆れた調子で言うハル。つーか、とハルは二人の格好を見て言葉を紡いだ。
「正装似合わなさ過ぎるだろアンタら。チンピラと筋モンにしか見えねぇ」
「本物のチンピラがほざきやがる」
かっか、と笑う清心。だが実際、ここにいる三人はその雰囲気から見てもとても堅気には見えない。周囲のスタッフが距離を取っているのも彼らの立場だけが理由ではないだろう。
「まあ、今回はあくまで祭りだ。順番も相手もどうでもいい」
DDが静かに呟いた。そこには相手に対する感情が何も込められていない。あるのは与えられた仕事に対する責任のみだ。
清心もそうだが、今回の対戦相手について二人は特に何かしら思うことはない。負けることなどそもそも想定していないし、戦いになるかどうかさえ怪しんでいる状態なのだ。
それを傲慢と呼ぶ者はいるだろう。だが、彼らと共にここに立つハルはそれを当然と受け入れる。
日本タイトル保持者にして、世界に名を轟かせる歴戦のデュエリスト。
それが傲慢に振る舞わずして、誰が傲慢に振る舞うというのか。
……ただ、まあ。
「性格悪いよな、二人とも」
「オメェには言われたくねぇなぁ。ド外道のくせに」
「はて、何のことやら」
肩を竦めると、ハルは二人に背を向けて通路へと歩き出した。そろそろ澪が着くはずだ。彼女が来る以上、彼の役目はもう存在していない。
通路に踏み込む。息を吐き、ネクタイを緩めた。
後は適当に観戦して終わり――そう、気を抜いた瞬間。
「――――」
息が、止まった。
澄んだガラスの靴の音が耳に届く。通路の奥より、それがこちらへと歩いてきた。
「…………」
こちらに一瞥をくれることもなく、その女性は淀みなく歩を進めていく。その姿は優雅で、思わず目を奪われるほどに洗練されていた。
だが、目を離せない理由はそこではない。
――鬼気。
かつての世界。姉と共に訪れた場所で見たあの時と、同じ雰囲気。
「――――ッ、お前」
彼女が横を通り過ぎたところで、ようやく声が出た。どうした、と僅かにこちらを振り返った〝王〟が問う。
「そんな、怯えたような顔をして」
「ッ、お前、何をやらかす気だ」
「ただデュエルするだけだ。いつも通り、な」
そして、最強は戦場へと足を踏み入れた。残されたハルは大きく息を吐き、通路の奥、おそらく客席へ向かおうとしているのであろう少年の背中を見つける。
「……冗談じゃねぇ。何でこの状況で本気出すんだよ」
何を言いやがった、とハルは呟く。
烏丸澪は相当特殊な人間――否、生物だ。そもそも彼女が全力を出す状況というのが限られており、彼女自身出す必要のない本気を晒け出すタイプでもない。それでも勝ち続けてきたからこそ異常なのだが、その彼女が今、かつてのような雰囲気を纏っている。
魔轟神の王たちと共にただただ強者を求めて戦場を荒らし、封印を解かれた三龍の一角を単独で再封印した時のように。
文字通りの鬼気迫る、何かに追い詰められたような表情で〝祿王〟の称号を得るに至った時のように。
「とりあえず。……相手には、同情する」
最悪、今日で一人の引退者が出るかもしれない。
藤堂ハルは、ため息と共にそう呟いた。
◇ ◇ ◇
その人物が足を踏み入れた瞬間、会場から音が消えた。
静寂。響き渡るのはガラスの靴の音だけ。先にステージに立っていた五人よりも年若いはずのその女性は、誰よりもその場を支配していた。
――烏丸〝祿王〟澪。
日本ランキング、世界ランキング、共に圏外。彼女の強さを証明するのは、〝祿王〟という称号のみ。
だが、この場の誰もが知っている。〝幻の王〟――公式戦の記録において無敗を誇る実力を。
「――くくっ」
最初に声を上げたのは清心だった。彼は腹に手を当てると、心の底からの笑いを零す。
「何だ、嬢ちゃん。何がオメェさんをそうさせた?」
「そうさせるも何も、私はいつも通りですが」
「くくっ、そうかい。ははっ、いやぁ、面白ぇなぁ」
どこか肉食獣を思わせる笑みを浮かべる清心。彼は澪の方へと視線を向けると、正面から彼女と向かい合う。
「今更やり合う理由もねぇと思っていたが。――今の嬢ちゃんとなら、殺し合う理由がある」
「…………」
対し、澪も正面からその視線を受け止める。剣呑な雰囲気。会場の誰もが息を呑む中、その間に割って入ったのはDDだった。
「二人とも、今はチームメイトだ。やり合うのは目先の相手を倒してからにしよう」
「くくっ、言うじゃねぇかDD。オメェも戦いたいくせによ?」
「否定はしないけれど、これ以上は相手に失礼だからね」
笑みを浮かべたままそう言葉を紡ぐ清心。ふん、と彼は鼻を鳴らした。
「まあいい。それで、順番はどうする?」
「これで決めればいい。どうせ、どの順番でやろうと結果は同じだ」
そう言ってDDが指し示したのは自身のデッキだった。妥当だな、と清心が頷く。
「それでいいか嬢ちゃん?」
「何でも構いません」
「よし、じゃあいくぜ」
言うと同時、三人が自身のデッキトップのカードをドローした。相手チームも会場も訝しげな視線を送るが、三人が気にした様子はない。
「私は『暗黒界の龍神グラファ』ですね」
「僕は『仮面魔獣デス・ガーディウス』だね」
澪とDDがそれぞれカードを示す。清心がなら、と自身のカードを示した。
「俺が一番手だな」
邪神ドレット・ルート。
皇清心に預けられた、邪神の一角。
「この場でそんなカードを持ち出してくるとは」
DDが呆れた調子で言うが、清心は獰猛な笑みを浮かべたままに平然と応じる。
「適当に手を抜くつもりだったがな。そこの嬢ちゃんが珍しく本気を出すってんだ。たまにはこういうのも悪くはねぇ」
「ああ、成程。それは道理だ」
「さて、それじゃあやるとしようか」
当初はそこまでやる気の感じられなかった三人。しかし、今は誰もがその身に圧倒的なまでの覇気を纏っている。
「『最強』の意味、きっちり世界に示してやろうじゃねぇか」
◇ ◇ ◇
向かい合う相手は、銀髪の女性だった。確か『ロシア娘』と藤堂晴が呼んでいた記憶がある。苦手だとか言っていた覚えがあるが、まあ正直それはどうでもいい。
顔を見る限り、恐れはないように思えた。世界ランキング13位――先程のあれが真実だというのなら、相応の実力はあるはずだ。
(表情が読み難い。人形みたいな娘だな)
まるで彫刻のような風貌。成程、美人の部類に入るのだろう。
「アニーシャ・パヴロヴァと申します」
どこか癖のある日本語で言葉を紡ぐアニーシャ。へぇ、と清心は笑みを零した。
「日本語が上手いじゃねぇか」
「日本には優れた決闘者が数多くおられます。〝弐武〟と向かい合える幸運――主に感謝を」
祈るように両手を組むアニーシャ。清心は笑みを浮かべ、上等だ、と言葉を紡いだ。
「なら楽しませてくれ。精々、すぐに潰れてくれるなよ?」
互いにデュエルディスクを起動する。それを受け取り、会場のボルテージが上がっていく。
「「決闘!!」」
会場の声と重なるようにして紡がれる二人の宣言。先行は――皇清心だ。
「手札より、『クリバンデット』を召喚!」
クリバンデット☆3闇ATK/DEF1000/700
現れたのは海賊のような外見をしたクリボーだ。清心はさらにカードを伏せ、その効果を起動する。
「カードを一枚伏せ、エンドフェイズにクリバンデットの効果を発動。召喚に成功したターンのエンドフェイズ、このモンスターを生贄に捧げることでデッキトップのカードを五枚めくり、魔法・罠を一枚手札に加える。そして残りのカードは墓地だ」
クリバンデットが弾け飛び、五枚のカードがめくられる。
捲られたカード→ワンダー・ワンド、シャドール・リザード、フォーチュンレディ・ウォーテリー、シャドール・ファルコン、ダーク・ホルス・ドラゴン
魔法カードは一枚のみ。必然的に選ばれるカードはその一枚となる。
「『ワンダー・ワンド』を手札に加え、更に墓地へ送られた『シャドール・ファルコン』と『シャドール・リザード』の効果を発動だ。効果で墓地へ送られた時、ファルコンは裏守備で蘇生、リザードはデッキからシャドールを一体墓地へ送れる。『シャドール・ビースト』を墓地へ送り、効果により一枚ドロー」
シャドール・ファルコン☆2闇・チューナーATK/DEF600/1400
実質の手札消費は0。むしろ手札が増えている状況。それを受けてもアニーシャは表情を変えず、私のターン、と宣言した。
「ドロー。手札より魔法カード『予想GUY』を発動。自分フィールド上にモンスターがいない時、デッキからレベル4以下の通常モンスターを特殊召喚できます。私は『ジェネクス・コントローラー』を特殊召喚。更に『ブンボーグ003』を召喚し、効果発動。デッキから『分ボーグ001』を特殊召喚します」
ジェネクス・コントローラー☆3闇・チューナーATK/DEF1400/1200
ブンボーグ003☆3地ATK/DEF500/500
ブンボーグ001☆1地・チューナーATK/DEF500/500→2000/2000
一気に並ぶ三体のモンスター。ほう、と清心が吐息を零した。
「ジェネクスにブンボーグ。機械族か? 随分と尖ったデッキを使うじゃねぇか」
「それはどうでしょうか。――レベル3、ブンボーグ003にレベル1、ブンボーグ001をチューニング。シンクロ召喚、『虹光の宣告者』」
虹光の宣告者☆4光ATK/DEF600/1000
現れたのは、白い機械仕掛けの天使だ。清心は眉をひそめる。鬱陶しいモンスターだ。存在する限り、互いに『マクロコスモス』を発動しているのと同じ状況となり、更に自信を生贄にすることで相手の魔法・罠・モンスター効果を無効にする効果を持つ。
「随分といやらしい手を使うじゃねぇか」
「まだこれからです。――レベル4、虹光の宣告者にレベル3、ジェネクス・コントローラーをチューニング。シンクロ召喚、『Å・ジェネクス・トライフォース』」
Å・ジェネクス・トライフォース☆7闇ATK/DEF2500/2100
現れたのは、白い体躯を持つジェネクスの機械戦士だ。清心の眉が僅かに跳ね、珍しいシンクロモンスターの登場に会場が沸く。
「墓地へ送られた虹光の宣告者の効果発動。墓地へ送られた場合、儀式モンスターか儀式魔法を手札に加えます。私は『高等儀式術』を手札に加え、更にトライフォースの効果を発動。トライフォースは素材としたモンスターの属性によって効果が変化します。今回素材にしたのは光属性。その効果は一ターンに一度、墓地のレベル4以下の光属性モンスターを一体、裏側守備表示で特殊召喚するというもの。虹光の宣告者を蘇生」
シンクロに加え、儀式にまで手を出してきた。清心が口笛を鳴らし、アニーシャはバトルの宣言をする。
「トライフォースで攻撃します」
「シャドール・ファルコンのリバース効果だ。墓地のシャドールをセットする。『シャドール・ビースト』をセット」
「カードを一枚伏せ、ターンエンドです」
シャドール・ビースト☆5闇ATK/DEF2200/1700
静かにターンエンドするアニーシャ。成程、と清心は笑った。
「儀式まで組み込んでんのか。随分と欲張りなデッキじゃねぇか」
「これが私の最大限です。……見せてください。世界の最上位、その力を」
「いいぜ、見せてやる。――俺のターン、ドロー。ビーストを反転召喚し、リバース効果を発動。カードを二枚ドローし、一枚捨てる。『フォーチュンレディ・ダルキー』を捨てる。魔法カード『ワンダー・ワンド』をビーストに装備。墓地に送り、二枚ドロー」
手札が一気に増えていく。清心の一手はまだ終わらない。
「『愚かな埋葬』を発動。二枚目のダルキーを墓地に送り、墓地に五体以上の闇属性モンスターが存在し、場にモンスターが存在しないため、『ダーク・クリエイター』を守備表示で特殊召喚」
ダーク・クリエイター☆8闇ATK/DEF2300/3000
レベル8の大型モンスターが降臨する。更に、と清心は次の一手を紡いでいく。
「クリエイターの効果を発動。墓地のダルキーを除外し、二体目のダルキーを蘇生。『フォーチュンフューチャー』発動。除外されているダルキーを墓地へ戻し、二枚ドロー。『トレード・イン』発動。『ダーク・ネフティス』を墓地へ送り、二枚ドロー。『アドバンス・ドロー』を発動し、『ダーク・クリエイター』を墓地へ送って二枚ドロー。装備魔法『ワンダー・ワンド』をダルキーに装備。墓地へ送り、二枚ドロー。二体目のダーク・クリエイターを特殊召喚。そして墓地のダルキーを除外し、ダーク・クリエイターの効果によりダーク・クリエイターを蘇生。クリバンデット、ダルキー、ダーク・ホルス・ドラゴン、シャドール、ビースト、シャドール・ファルコンを除外して『終わりの始まり』を発動。三枚ドローし、墓地はネフティス、ダルキー、リザードの三体のみのため『ダーク・アームド・ドラゴン』を特殊召喚。装備魔法『DDR』。『レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン』を捨て、ダーク・ホルス・ドラゴンを蘇生。ダーク・クリエイターの効果によりダルキーを除外し、レッドアイズを蘇生」
ダーク・クリエイター☆8闇ATK/DEF2300/3000
ダーク・クリエイター☆8闇ATK/DEF2300/3000
ダーク・アームド・ドラゴン☆7闇ATK/DEF2800/1000
レッドアイズ・ダークネスメタルドラゴン☆10闇ATK/DEF2800/2400
ダーク・ホルス・ドラゴン☆8闇ATK/DEF3000/1800
並び立つ強大なモンスターたち。次々と手札が入れ替わり、場が入れ替わり、そして最後にはこんな形が紡がれた。
「そして『トラップ・スタン』を発動。――悪いな。思ったよりも面白い動きをする相手だ。普段ならもうちょっと『遊ぶ』ところなんだが――」
僅かに背後を振り返る。通路の奥。そこに立つのは、〝王〟と呼ばれるデュエリスト。
「嬢ちゃんの全力なんざ久しく見ちゃいねぇからな。気が変わる前に、見たいのさ」
アニーシャLP4000→-4400
先鋒戦、勝者――皇清心。
完全勝利。
◇ ◇ ◇
会場のざわめきが止まない。当然だ。相手は〝ロシアの妖精〟とまで呼ばれる世界ランカー。残る二人に比べても圧倒的に格上の人物である。
世界レベルのデュエルが見られると誰もが思っていた。だが、蓋を開けてみれば。
「……相変わらず過ぎて笑えねー……」
「強過ぎますね」
ハルの言葉に呟いたのは、彼のチームメイトであり日本でも実力者として数えられる女性――神崎アヤメだ。先程廊下で偶然に出会い、モニターでこうして観戦している。
共に有名人だ。変装していても中途半端なせいで周囲にバレバレなのだが、あまりにも堂々とし過ぎているせいで誰も声をかけられない。
「まさか、世界ランカーがこうも容易く沈黙させられるとは……」
「あのロシア娘、本気出す前にやられやがった。……まあ、どっちにせよ結果は変わらなかったろうがな。爺さんもDDも〝祿王〟も。どいつもこいつも無茶苦茶なんだよ」
ため息を零しながらハルは言う。その口調には疲れが見て取れた。
「そもそも世界ランキング5位以上は魔境だ。次元が違う」
「……世界ランキング10位の藤堂プロが仰られると説得力がありますね」
「事実だよ。世界ランキングの5位以上の連中はそのポイント数に差がなさ過ぎてすぐに入れ替わる。要は参加した大会で一番成績が良かった奴が一位になり、次の大会でまたそれが入れ替わるの繰り返しだ。普通ありえないんだがな」
ランキングは基本的にその規模に合わせたポイント付与という形で決定される。だが、同じ大会で優勝と準優勝で圧倒的な差が出るというのはまずなく、そう頻繁に入れ替わるようなものでもないのだ。だが、世界最上位の連中はあまりにも実力が拮抗しすぎており、僅かな差でランキングが変動するようになっている。
「そこにDDと皇清心がいるってんだから、日本も異常だ」
「DD――あの方はアメリカ国籍ですが」
「拠点は日本だし、登録は日本なんだからいいんだよ。何で日本なんだよとは思うが。……つーか、うちのタイトルホルダーが変態過ぎてなー……」
呆れた調子で言うハルに、同意しますと頷くアヤメ。DD、皇清心、烏丸澪――この三人はあまりにも異常に過ぎるのだ。
「そもそもデュエルってのは本来、一人じゃできないことだ。なのに、あの三人は相手を見てすらいない。ただ力を行使するだけ。それだけで勝てちまう」
「戦えるのは同格の存在だけ、ということですか」
「そもそも視界にすら映らないからな、格下は」
歯牙にもかけないとは正にこのこと。DDや清心が世界ランカーでさえあまりよく知らないと口にするのはそのせいだ。彼らにとっては覚える価値がないのである。……澪の場合は少し事情が違う気もするが。
「DDの出番か」
廊下にまで響き渡る歓声。モニターに映るのは、日本最強の男。
「これもあっさり決着が着きそうだな。……嫌な話だ」
「日本最強のデュエリスト、DD」
アヤメが何かを確認するように呟く。清心も無茶なデュエリストだが、DDもかなり大概な存在だ。
一戦目があんな結果になった以上、二戦目の結果も見えている気がするが――
「〝最強〟ね。……そういや前に、じいさんに聞いたことがある」
「何をですか?」
アヤメが首を傾げる。ハルはモニターを眺めながら、ああ、と頷いた。
「あれだけ〝最強〟に拘るじいさんが、どうして他の二人と積極的にやり合おうとしないのか気になってな」
「……確かにそうですね。皇プロの執念と呼んで差支えない〝最強〟への拘りは有名です」
「だから気になった。つーか、そもそも一個人にじいさんが執着することはほとんどない。……結論を言うと、『意味がない』んだそうだ」
えっ、とアヤメが珍しく驚いた声を上げた。だがハルが口にしたことは事実だ。皇清心――あの男は確かにそんな結論を口にした。
「〝最強〟に対する定義は個人個人で違うだろうが、あのじいさんにとって〝最強〟ってのは、『誰もがそうと認めざるを得ない存在』なんだと。DDとやり合っても結果は五分。どちらに転ぶかは最後の運勝負になるレベルだ。あの二人はそういう領域にいる。運以外の全てを削ぎ落とした領域に。だから無意味なんだそうだ。一回勝った、だが次はわからない。そんなものは〝最強〟じゃない、ってな」
故にあの二人は大会の組み合わせ以外でぶつかることがほとんどない。
一度や二度の勝利では意味がないのだ。強者であることの証明は、相手を完全に屈服させることでしか示せないのだから。
「――ならば、〝祿王〟は」
「そういうことだろうな」
そして、同じく二人から戦いを挑まれないあの〝王〟は。
「出鱈目なんだよ、どいつもこいつも」
その言葉には、呆れと、諦観と。
僅かな悔しさが、含まれていた。
◇ ◇ ◇
皇清心はデッキの回転力を見せつけた。あれであの人物にとってはお遊びに過ぎないというのだから恐ろしい。
(本来ならフォーチュンレディのドロー加速で更なるアドバンテージを獲得していくのがあのデッキの動きのはず)
それを見せることなく、力で押し切った。普段の彼ならもう少し遊んだはずだが、そうしなかったのは後ろに控えている彼女が理由だろう。
(気持ちはわかる。……この後の役目もある以上、最速で突っ切ろうか)
向かい合う相手に見覚えはない。欧州のチーム戦で優勝したのだ。おそらくそれなりに有名なのだろうが、知らないものは知らない。
「「決闘!!」」
デュエルが始まる。先行は――相手。
「魔法カード『トレード・イン』を発動! 『光と闇の竜』を捨て、二枚ドロー! 更に『調和の宝札』を発動! 攻撃力1000以下のドラゴン族チューナーを捨て、二枚ドローする! 『ドラグニティ―ファランクス』を捨て、二枚ドロー!」
これは世界クラスの大会――それも最近になってより顕著になったことだが、最初のターンに手札交換カードを用いてデッキ圧縮と墓地肥やしを行うデュエリストは非常に増えた。理由は多くあるが、最近流行のシンクロ召喚が墓地利用を前提とする場合が多いことが上げられるだろう。
シンクロモンスターは確かに強力だ。だがその代わり、その召喚のためには場に素材を揃える必要がある。所謂『吊り上げ』効果を持つモンスターを用いればその問題も容易く解決できるのだが、そのためには墓地が必要となるというわけだ。
「『ドラグニティ―ドゥクス』を召喚! 効果発動! 召喚成功時、墓地のドラゴン族のドラグニティを装備できる! ファランクスを装備! そして装備状態のファランクスを墓地へ送り、『ドラグニティアームズ―ミスティル』を特殊召喚! そしてミスティルの効果により、ファランクスを装備!」
竜と共に生きる風の戦士ドラグニティ。モンスターを装備するという少々特殊なモンスター群だ。
ドラグニティ―ドゥクス☆4風ATK/DEF1500/1000→2100/1000
ドラグニティ―ミスティル☆6風ATK/DEF2100/1500
ドラグニティ―ファランクス☆2風・チューナーATK/DEF500/1100
風が吹く。まるでDDを威嚇するように、三体のモンスターから風が流れている。
「ファランクスは装備状態の時、その装備を解除して特殊召喚できる! レベル4、ドゥクスにレベル2、ファランクスをチューニング! シンクロ召喚! 『ドラグニティナイト―ヴァジュランダ』!! ヴァジュランダの効果により、ファランクスを装備! 再びファランクスの装備を解除し、レベル6のヴァジュランダにレベル2のファランクスをチューニング! シンクロ召喚、『ギガンテック・ファイター』!!」
ドラグニティナイト―ヴァジュランダ☆6風ATK/DEF1900/1200
ギガンテック・ファイター☆8闇ATK/DEF2800/1000
現れるレベル8シンクロモンスター。ドラグニティの強みの一つがここだ。墓地にファランクスさえいれば、ドゥクス一枚からレベル8シンクロへと到達できる。
「更に装備魔法『ドラグニティの神槍』をミスティルに装備し、効果発動! 一ターンに一度、デッキからドラグニティのチューナーをデッキから装備モンスターに装備できる! 二体目のファランクスを装備し、ドラグニティが装備されたミスティルを除外することで『ドラグニティアームズ―レヴァンティン』を特殊召喚! レヴァンティンの効果により、墓地の『光と闇の竜』を装備する!!」
ドラグニティアームズ―レヴァンティン☆8風ATK/DEF2600/1200
光と闇の竜☆8光ATK/DEF2800/2400(装備状態)
並び立つ二体の大型モンスター。ほう、とDDは吐息を零した。
「ターンエンド」
伏せカードはない。いやむしろ、伏せカードを用意できなかったからこその布陣か。
(事実上の戦闘破壊耐性を持つギガンテック・ファイターと、光と闇の竜の蘇生効果によりこちらも破壊耐性を得たレヴァンティン。成程、大したものだ)
確かにこれを突破するのは骨だろう。共に半永久的な盾として存在し続けるモンスターだ。
(だが、相手が悪かったと諦めてもらおう)
手札は揃っている。
「ドロー。――相手の場にのみモンスターが存在する時、『TGストライカー』は特殊召喚できる。更に『魔界発現世行きデスガイド』を召喚。効果により、デッキからレベル3の悪魔族モンスター『魔犬オクトロス』を特殊召喚」
TGストライカー☆2地ATK/DEF800/600
魔界発現世行きデスガイド☆3闇ATK/DEF1000/600
魔犬オクトロス☆3闇ATK/DEF800/800
三体のモンスターが並ぶ。DDは更に次の魔法カードをデュエルディスクに差し込んだ。
「魔法カード『トランス・ターン』を発動。オクトロスを墓地へ送り、『メルギド四面獣』を特殊召喚。更に墓地へ送られたオクトロスの効果により、『仮面魔獣デス・ガーディウス』を手札に加える。――メルギド四面獣とデスガイドを生贄に、デス・ガーディウスを特殊召喚」
メルギド四面獣☆4闇ATK/DEF1500/1200
仮面魔獣デス・ガーディウス☆8闇ATK/DEF3300/2500
現れたのは、彼のバトル・シティで伝説のデュエリスト二人が戦った仮面のモンスター。攻撃力3300という圧倒的な力を身に纏い、デス・ガーディウスが吠える。
「――――ッ、だが戦闘で破壊したところで無駄だ!」
「その通りだ。だから、戦闘しないことにした。――レベル8、デス・ガーディウスにレベル2、TGストライカーをチューニング。シンクロ召喚、『神樹の守護獣―牙王』」
神樹の守護獣―牙王☆10地ATK/DEF3100/1900
咆哮と共に現れたのは、強大な獅子だ。白き体躯を持つ神々しき獣が、威嚇するように周囲を見回す。
「この瞬間、デス・ガーディウスの効果が発動する。墓地へ送られた場合、デッキより『遺言の仮面』を相手モンスターへ装備し、そのコントロールを奪う。まずはギガンテック・ファイターだ」
「なに!?」
「そして魔法カード『シンクロ・キャンセル』。シンクロモンスターをデッキに戻し、その素材をフィールドに戻す。……意外と勘違いしている人が多いみたいだけど、デス・ガーディウスは通常召喚ができず、特殊召喚に条件が存在するだけだ。故に一度正規の手順で場に出してしまえば、蘇生は容易となる。そして場に戻った二体で再びシンクロ召喚を行う。再びデス・ガーディウスが墓地へ送られ、遺言の仮面が今度はレヴァンティンに装備される」
神樹の守護獣―牙王☆10地ATK/DEF3100/1900
ドラグニティアームズ―レヴァンティン☆8風ATK/DEF2600/1200(装備・遺言の仮面)
ギガンテック・ファイター☆8闇ATK/DEF2800/1000→2900/1000(装備・遺言の仮面)
不気味な仮面をつけた二体のモンスターがDDの場に舞い降りる。相手は呻き声を漏らすしかない。
「キミの戦術は素晴らしかった。称賛に値する。だが、それではここには届かない」
自身の心臓を親指で示しながら。
DDは、攻撃の命令を下す。
「〝最強〟という称号を、少し甘く見過ぎていたんじゃないかな?」
シロッコ・ヴァスティLP4000→-4600
決着。一戦目に引き続き、あまりに鮮やかに。
同時、あまりにも残酷に。
「まあ、こんなものだろうね」
中堅戦、勝者――DD。
完全勝利。
◇ ◇ ◇
足を踏み入れた瞬間、響き渡る歓声が止んだ。
一歩ずつ、歩を進める。眼前には対戦相手の男がいるが、見覚えはない。まあ覚える気もないし、必要もないのだろうが。
(見ているのだろうか)
どうして今更、と思う。結果などわかりきっているというのに。
全身全霊。あの日、彼女たちに拒絶されたそれを見せて。
彼にさえ、拒絶される気なのか。
(……だが、それでも、私は)
彼と彼女の約束。美しい想いは、心無き者たちによって踏み滲られた。
共に大切な友人だ。故にあんな顔は見たくない。
だが、自分にできることは知れていた。
そして同時に、求めてしまった。
(何を今更。あれだけ、人と関わることを拒絶しておいて)
二人は、決して相手を責めなかった。それどころか自身のことを欠片も顧みず、相手のことだけを想っていた。
そんな二人の姿は、今まで自分が見てきた者とあまりにも違い。
――羨ましいと、思ってしまった。
そうして、誰かと繋がれることが。ただ、羨ましいと。
(少年、見ているか?)
相手を知るには、まずは自分から。
心地よい時間をくれたあの少年に、もう少しだけ、近付くために。
「烏丸〝祿王〟澪。――全霊を以て、相手をしよう」
周囲の温度が下がったかのように感じる、絶対的な覇気を纏い。
常勝無敗の〝王〟が、その全力を世界に示す。
◇ ◇ ◇
観客席へ急ぐか、もしくはモニターがある場所へ。祇園は周囲の視線を気にしながら歩いていた。
皇清心とDD。あの二人は圧倒的だった。日本最強の力は、あまりにも絶対的。
(……澪さん)
その二人が同格と認めるのが澪だ。だが実際のところ、祇園は彼女の全力というものを知らない。
全力を出す必要がないというのがあるし、そもそも澪自身、どこか一歩引いている印象を受ける。それについては祇園も人のことを言えないのだが、彼女の場合、無意識の段階で徹底しているように見えた。
その彼女が見ていて欲しいと言った。初めてのことだ。そんな、『弱い』言葉を彼女が吐くのは。
いつだって、烏丸澪は絶対的な存在だったから。
(少し、様子がおかしかった気がする)
元々考えが読めるような相手ではないが、ここ最近は特に妙だった気がする。理由など想像もできないが。
「…………」
最近、どうにも妙だ。何もかもが、上手く回らない。
美咲との連絡も相変わらず繋がらず、話すことができていない。あの言葉の意味も、何一つわからないままだ。
どうすればいいのだろう。どうすれば、自分は。
「――初めまして」
不意に、声が聞こえた。
周囲へ視線を送る。だが誰もいない。声の主は自分に向けて話しているようだった。
「自己紹介は……必要ないか。実はキミに、少し興味があってね」
相手がデュエルディスクをこちらに投げ渡してくる。それを受け取りながら、祇園は茫然と相手を見た。
「少し、道楽に付き合ってくれないかい?」
日本最強の決闘者、DD。
その男が、立っていた。
さてさて、キナ臭くなって参りました。
というか二人とも強過ぎて困る。