遊戯王GX―とあるデュエリストたちの日々―   作:masamune

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第六話〝日本三強〟後篇

 

 

 

 

 

 

 

 

 二つの人影が、モニターを見つめながら言葉を交わす。

 

「少々予定外のこともありましたが、目的は問題なく達成できそうですね」

 

 息を吐き、満足そうに言うのは一人の少年だ。対し、壮年の男が鼻を鳴らす。

 

「あのような小僧に執着する理由がわからんがな」

「おや、理由は説明したはずではありませんか?」

「そこまで警戒する必要があるのか、と言っている」

 

 不機嫌そうに言うと、男はテーブルの上に広げられたチェスの駒を指で弾いた。乾いた音を立て、ポーンの駒が倒れる。

 それを一瞥すると、少年は変わらず笑みを浮かべたままに言葉を紡いだ。

 

「確かに彼個人についてならば、有用な駒になる程度でしょう。しかし、彼の価値は彼の能力ではなく、その人間関係にこそあります」

「…………」

「以前も申し上げた通り、厄介な存在が数多くこの国には存在します。手駒も揃ってきましたが、まだまだ力不足。故に必要なのが、状況をコントロールできる駒。それも、I²社とKC社より全幅の信頼を寄せられる桐生美咲という謎の存在に干渉できる者」

「謎、か」

 

 ふっ、と可笑しそうに笑う男。少年は言葉を続けた。

 

「シンクロ――本来存在し得ない、我々の想定ではもっと後の時代に現れるべき力。それを普及させ、結果的に我々の侵攻を鈍らせた存在。警戒するのは必然です」

「『あの男』も言っていたな。だがそれは低い確率ではあったとはいえ、可能性のあったことだろう? 虫けらが何を思うかなど知らんが、この時代の虫けらどもがそれを選んだだけだ」

 

 それはその通りだ。そうならないように動いてきたことだが、想定外だったというわけではない。あくまで計画の進行が遅れたというだけであり、ダメージは大きくないのだから。

 

「いいえ。その認識がそもそもの間違いなのです」

 

 しかし、少年はそれを否定する。

 

「ありえないのです、この流れは。……本来、生まれるべきだった召喚法は我々が葬りました。しかし、それを補うように我々の知らない召喚法が現れ、世界が変革されていっている。まるで、誰かが無理矢理修正しているかのように」

「その黒幕が例の虫けらだというのか?」

「彼女が全てを操っているとは考え難い。おそらく彼女の背後に『何か』がいる。それを探る上でも、彼の存在は必要です」

 

 だからこそ彼女の一番傍にいる人間を強引に引き込んだのだ。その動きを把握するために。

 

「ふん。そのためにあんな回りくどい真似をしたのか」

「ええ、そうです。彼はその能力に比べて周囲の人間があまりに特異です。単独で接触を図ろうとしても、下手を打てば〝祿王〟を真っ向から敵に回すことになりかねない」

「いずれ敵に回すのだ。結果は変わらんだろう?」

「今はまだ、表立って戦うことは避けたいのが実情です。こちらの駒の中で彼女と正面から戦える者は数えるほど。そしてその誰もが、確実に勝てるという保証がない」

 

 先の二試合で二人が見せた圧倒的な実力。彼女もまた、あの二人と同じ領域にいるのだから。

 

「あの男を使えばいいだろう? 切り札もある」

「どれだけ楽観的に考えても、勝敗は五分です。……あの時。〝祿王〟の称号を彼女が簒奪した時。我々のうちの誰が、DDの敗北を予想しましたか?」

 

 こちらの最大戦力であり、同時に切り札でもあるDD。彼女は全力で彼と戦い、ギリギリながらも勝利を手にした。成程次は勝てるかもしれない。だが、保証はない。

 戦う以上、敗北は許されないのだ。

 

「故に、完全に彼が一人になるこの瞬間のみ接触が許される。先の件で桐生美咲との繋がりを一時的にシャットアウトしましたが、その代わりに彼にはKC社より秘密裏に護衛がつけられています。そして彼を匿う〝祿王〟の存在もある以上、誰にも悟られずに彼と接触するには今しかない」

「たかが虫けら一人に随分と回りくどい真似をする」

「正直ここまでとは想定外ですが……だからこそ、価値がある」

 

 これほどまでに周囲へと影響を与えているのは正直想定外だが、だからこそ駒にできた時の利益は計り知れない。

 上手くいけばかの〝祿王〟さえも御し得る駒となる。烏丸澪という不確定要素に対して打てる手は数多くあったほうが良いのだ。

 

「さて、それでは見守りましょう」

「ふん。精々勝てるように祈っておけ」

「祈りなど不要です。ただ、奉ずればいい。それだけで、白き加護が勝利をもたらす」

 

 テレビ画面に映し出されているのは、純白のドレスを身に纏った〝王〟の姿。だが、そちらへ視線を向けながらも二人はそのデュエルを見ていない。

 結果はわかりきっている。ならば、彼らが視るべきは別。目的の達成における過程。

 

 世界が見守る、〝王〟の決闘。

 その陰で、誰も知らぬ戦いが……始まる。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 日本最強のデュエリストは誰か。

 その単純な問いに対する答えは非常に明確だ。〝決闘王〟武藤遊戯――かの伝説は、誰もが思い描く〝最強〟の姿そのものである。

 だが、かの〝伝説〟海馬瀬戸が永遠のライバルと謳われるように、その領域に至った者は確かにいる。

 その筆頭とも呼べる人物が、今目の前にいるデュエリスト――DD。

 本名も公開されているが、人は彼をDD――〝デスティニー・デュエリスト〟と謳う。

 その圧倒的で、力強いデュエルは多くの者を魅了し、全日本の頂点へと彼を導いた。

 

「私とデュエルをしてみないかい? キミに興味がある」

 

 その怪物は、そう言って微笑んだ。インタビューなどで何度も見た表情。しかし、それを向けられた少年はただ身震いする。

 敵意を向けられたわけではない。だが、何か。

 言葉には含まれていない『何か』を、感じるのだ。

 

「そう警戒しないでくれ。前年度IHで鮮烈なデビューを果たし、あの〝ルーキーズ杯〟で準優勝の栄光を掴んだ〝シンデレラ・ボーイ〟――興味を持つのは自然なことだと思うが、どうかな?」

 

 靴の音を響かせ、一歩こちらへ歩み寄ってくるDD。少年――夢神祇園は一歩下がろうとして、足が動かないことに気付いた。

 足の震えが止まらない。何故、と思う。悪意も敵意もないはずだ。そもそも、向ける必要すらない。

 

(落ち着け……冷静に、状況を)

 

 一度大きく息を吐く。心なしか、震えが収まったような気がした。

 そもそもDDがわざわざ自分に話しかける理由が存在しないはずだ。ならば何か裏があるはず。しかし、その意図が読めない。

 

「やれやれ。キミは何か勘違いしているようだが、私も一人のデュエリストだ。〝祿王〟があれほどまでに執着し、〝弐武〟が面白いと評し、〝伝説〟に一矢報いたデュエリストに興味を持つのは当然のことだろう?」

 

 そう言われると否定する理由はない。祇園は自身の手の中にあるデュエルディスクに視線を落とす。

 

(……考えようによっては、チャンスだ)

 

 日本最強のデュエリストであり、世界においても最上位に位置するデュエリスト。澪もまたその領域に立つ人物だが、DDは彼女とは違い常に最前線にいるデュエリストだ。

 

「――わかりました。よろしくお願いします」

 

 足を揃え、一礼する。DDは一瞬驚いたような表情を浮かべると、こちらこそ、と笑った。

 

「ああ、そうだ。〝祿王〟のデュエルなら心配しなくてもいい。彼女の敗北はあり得ない」

「えっ?」

「今の彼女は、〝祿王〟の名を手にしたあの時と同じだ。あの状態の彼女が負ける姿は想像できない」

 

 だから、とDDは笑った。

 

「キミは全力でデュエルをすればいい」

 

 ――さあ、始めよう。

 

 日本最強のデュエリストは、そう言って両手を広げた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

〝日本三強〟に数えられる三人、DD、皇清心、烏丸澪のデュエルにはそれぞれ特徴がある。まず烏丸澪は主な使用モンスターが悪魔族であることが多く、ある種模範的なデュエルをすることが多い。圧倒的な力で正面より捻じ伏せる――〝王〟と呼ばれる所以だ。更に最近の彼女は『暗黒界』を用いることが多く、その戦術が大きく変わることはない。

 皇清心はその使用デッキが毎回変わることで有名だ。ただその戦術は大きな部分で共通しており、基本的に『展開力』を重視したデッキを用いることが多い。『数は力』という酷く単純な論理を以て相手を圧倒するのが彼の戦術だ。

 そして、DD。彼はコンボこそを重要視する傾向がある。パワーカードも勿論用いるが、全体的に複数のカードコンボによって一気に場を覆すデュエルが非常に多いのだ。そのデュエルは全体的にエンターテイメントとして受け取られることが多く、この三人の中では一番人気があると言える。

 

(今日は仮面魔獣デッキだった。シンクロ・キャンセルを使っての二体コントロール奪取……あれを決められると、僕のモンスターで対応する手段は少ない)

 

 破壊に対して耐性を持つモンスターは何体もいるのだが、コントロール奪取となると流石にいない。更にガーディウスの攻撃力は3000を超えており、その点においても不利な部分があることは否めない。

 

「先行は僕です。……モンスターをセット、カードを一枚伏せてターンエンドです」

 

 静かな立ち上がり。おそらく仮面デッキだと思うのだが、違う可能性もある。ならばここは様子見で動くべきだろう。

 

「ふむ。緊張しているのかな? 私のターン、ドロー。――手札より『E・HEROプリズマー』を召喚」

 

 E・HEROプリズマー☆4光ATK/DEF1700/1100

 

 現れたのは、水晶の体をしたHEROだ。仮面デッキではない――その事実に、祇園は警戒心を強くする。

 

「そしてプリズマーの効果を発動。『アルカナナイトジョーカー』を見せ、素材である『クィーンズ・ナイト』を墓地へ。これにより、プリズマーはクィーンズ・ナイトとなった。魔法カード『融合』を発動。場のプリズマーと手札の『ジェムナイト・オブシディア』で融合、来い、『ジェムナイト・セラフィ』!」

 

 ジェムナイト・セラフィ☆5地ATK/DEF2300/1400

 

 現れたのは、光の力を宿したジェムナイトだ。だが祇園はそのモンスターの登場に困惑する。

 

(HEROかと思ったら、絵札の三剣士で……ジェムナイト?)

 

 どんなデッキだ、と思う。自身が使うデッキも様々な種類のモンスターが投入されたデッキではあるが、相応のシナジーがある。しかし、DDのデッキは――……

 

「オブシディアの効果だ。手札から効果によって墓地へ送られた時、レベル4以下の通常モンスターを蘇生できる。クィーンズ・ナイトを蘇生。そしてセラフィは光属性モンスターの召喚権を増やす能力を持つ。――『キングス・ナイト』を召喚し、効果発動。デッキより『ジャックス・ナイト』を特殊召喚する」

 

 クィーンズ・ナイト☆4光ATK/DEF1500/1600

 キングス・ナイト☆4光ATK/DEF1600/1400

 ジャックス・ナイト☆5光ATK/DEF1900/1000

 

 並び立つ三体の騎士。かの〝決闘王〟が神への布石としても用いたモンスターたち。

 

「魔法カード『融合回収』を発動。融合とジェムナイト・オブシディアを回収し、融合を発動。来い――『アルカナナイトジョーカー』」

 

 アルカナナイトジョーカー☆9光ATK/DEF3800/2500

 

 現れる、双剣の騎士。

 攻撃力3800という破格の力を持つモンスターが、その刃をこちらへ向ける。

 

「さて、これが通るようなら興醒めだが。――セラフィでセットモンスターへ攻撃」

「セットモンスターは『ジェット・シンクロン』です! 破壊されます!」

「アルカナナイトジョーカーで攻撃だ」

「罠カード『くず鉄のかかし』! その攻撃を無効に!」

 

 直接攻撃を罠カードで防ぐ。アルカナの効果なら、無効にされる危険性もあったが――

 

「ふむ。まあいいだろう。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」

「僕のターン、ドロー!」

 

 カードをドローする。今の攻撃、確実に防ぐならばセラフィにクズ鉄のかかしを発動するという選択が正しい。だが祇園は敢えてそれをしなかった。

 

(もし通されたらそれでDDさんの手札を一枚削れたんだけど……)

 

 罠カードを捨てさせられたならその成果は大きかった。リスクはあったが、選択としては間違っていなかったように思う。

 

(ただ、モンスター効果で対象にするのは避けたほうが良い。オブシディアを捨てられたら、相手の場にクィーンズナイトが出る。それは避けないと)

 

 単体の攻撃力は低くとも、展開されることだけは避けるべきだ。

 改めて手札を確認する。しかしモンスター効果の対象にしないようにといっても、戦闘でアルカナナイトジョーカーを超えることは、まず難しい。

 

(セラフィも残しておくと何をされるか……伏せカードもある。ここは――)

 

 打つ手は決まった。後は、それが通じるかどうか。

 

「手札の『レベル・スティーラー』を捨て、ジェット・シンクロンを蘇生。更に『終末の騎士』を召喚。効果により、デッキから『ジャンク・シンクロン』を墓地へ。――レベル4、終末の騎士にレベル1、ジェット・シンクロンをチューニング。シンクロ召喚、『ジェット・ウォリアー』!」

 

 ジェット・シンクロン☆1炎・チューナーATK/DEF500/0

 週末の騎士☆4闇ATK/DEF1400/1000

 ジェット・ウォリアー☆5炎2100/1200

 

 現れるのは、戦闘機のような姿をした機械戦士だ。同時、その効果が発動する。

 

「ジェット・ウォリアーの効果を発動! シンクロ召喚成功時、相手モンスター一体を手札に戻す! アルカナナイトジョーカーを手札に!」

「おっと、それは通せないな。手札の『ジェムナイト・オブシディア』を捨て、アルカナナイトジョーカーを自身の効果で守る! そしてオブシディアの効果により、クィーンズ・ナイトを蘇生!」

 

 自らを対象とする魔法・罠・モンスター効果が発動した時、それと同じ種類のカードを捨てることで効果を無効にする。

 破壊こそしないが、その効果は強力だ。

 

「さあ、どうする?」

 

 クィーンズ・ナイトが加わり、モンスターが増えたDD。

 だが、ここまでは想定内だ。アルカナナイトジョーカーの処理を後に回すというてもあったが、相手はあのDDである。後手に回ってしまえば、それだけで制圧されかねない。

 

(ならまずは、アルカナナイトジョーカーを倒す!)

 

 幸いというべきか、相手の属性は『光』。それなら打つ手がある。

 

「こうします。――手札より装備魔法『DDR』発動! 手札の『魔轟神獣ケルベラル』を捨て、除外されている『ジェット・シンクロン』を特殊召喚! ケルベラルは手札から捨てられたことにより蘇生され、更にジェット・ウォリアーのレベルを一つ下げ、レベル・スティーラーを蘇生!」

 

 魔轟神獣ケルベラル☆2光・チューナーATK/DEF1000/600

 レベル・スティーラー☆1闇ATK/DEF600/0

 ジェット・シンクロン☆1炎ATK/DEF500/0

 ジェット・ウォリアー☆5→4炎ATK/DEF2100/1200

 

 場に並ぶ四体のモンスター。これで祇園の手札は0だ。かなり辛い状況だが、ここを通しきらなければ敗北は必定である。

 

「レベル4となったジェット・ウォリアーにレベル1、ジェット・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、『A・O・Jカタストル』! 更にケルベラルを墓地へ送り、ジェット・ウォリアーを守備表示で蘇生!」

 

 A・O・Jカタストル☆5闇ATK/DEF2200/1200

 

 これで壁も用意できた。後は、この攻撃を通すだけ。

 

「バトルです! カタストルでアルカナナイトジョーカーを攻撃! カタストルは戦闘を行う時、相手が闇属性以外のモンスターなら問答無用で破壊します!」

「ほう……」

 

 神殺しの兵器カタストル。その効果は強力無比であり、並大抵のモンスターであるなら抵抗さえ許さず蹂躙する。

 

「僕はターンエンドです」

 

 祇園の場にはカタストル、ジェット・ウォリアー、レベル・スティーラーの三体と伏せカードである『くず鉄のかかし』。手札こそ0だが、盤面の状況では上回った。

 

(理想は全部のモンスターが残ることだけど、それは多分望み薄。最悪カタストルだけでも残せれば、ドローカード次第でまだ戦える)

 

 かかしで守れる上、闇属性モンスターでしか倒せないとなればそう難しいことではないだろう。チューナーモンスターを引ければ、まだまだ盛り返せる。

 

「……成程、アルカナナイトジョーカーをこうも容易く」

 

 カードをドローしつつ、呟くようにDDは言う。決して『容易く』ではなかったのだが、わざわざ訂正する理由もない。

 

「これは謝罪の必要があるな。キミを見くびった。その非礼を詫びよう」

「…………」

「そしてだからこそ、ますますキミを倒さなければならなくなった」

 

 そう言うと、DDは一枚のカードをデュエルディスクに入れた。

 

「キングス・ナイトを召喚。効果により、デッキからジャックス・ナイトを特殊召喚する」

 

 ジェムナイト・セラフィ☆5地ATK/DEF2300/1400

 クィーンズ・ナイト☆4光ATK/DEF1500/1600

 キングス・ナイト☆4光ATK/DEF1600/1400

 ジャックス・ナイト☆5光ATK/DEF1900/1000

 

 再び先程と同じ場が展開される。だが、闇属性モンスターはいない。カタストルを突破する手段はなさそうに見えるが……。

 

「――そういえば、キミはどうして〝シンクロ〟という概念が生まれたかを知っているかい?」

「えっ?」

 

 いきなりの問いに、祇園は呆けた声を漏らす。だが、真剣なDDの視線を受けて静かに答えを返した。

 

「ペガサス会長が考えたのでは……?」

 

 少なくとも祇園はそう聞いている。プロジェクト自体は三年前より始まり、桐生美咲や烏丸澪といった者たちが参加していた。

 だが、DDは首を左右に振る。

 

「確かにその通りだ。ペガサス・J・クロフォード――かの〝天才〟がシンクロ召喚という概念を生み出した。だがそれは本来、起こり得ない未来だったんだ」

「…………?」

 

 言葉の意味がわからず眉をひそめる。DDはこちらのそんな様子を気にせず、言葉を続けた。

 

「未来を知る者たちがいた。彼らは〝シンクロ〟という概念が人の欲望を増長させ、いずれ世界を滅ぼすと知っていたんだ。故に、生まれる前に破壊することにした。しかし、生みの親たるペガサス・J・クロフォードを始末することはできない。それは本当に最後の手段だ。それをすれば確かに未来は変わる。だが、その先に待つ未来がどんなものかは想像さえできない。それほどまでにペガサス・J・クロフォードという〝天才〟はこの世界において重要なピースとなっていた」

 

 DDは語る。静かに、淡々と。

 

「そこで次善の策として『モーメント』の概念を消失させることを目指した。開発者である不動博士の殺害。これにより、シンクロの概念は間違いなく消滅する――はずだった。だが、そこに最大の誤算があった。誰も知らぬはずの計画。それを阻止した者がいる。

 ソレは突然現れ、たった一人で未来の道筋を確定させた。歴史はあるべき――しかし、望まれぬ姿へと変貌していく。三年、キミにとっては長い月日だと思うが……新たな概念が生まれるにはあまりにも短すぎる時間だ。現に、本来生み出されるべきであったもう一つの概念は十年以上の時をかけていたのだから」

 

 聞くべきではない、と本能でそう思った。

 これ以上は、聞くべきではないと。

 

「――桐生美咲。彼女は一体、何者だい?」

 

 ドクン、と。

 心の臓が、大きく――跳ねた。

 

「……その表情。やはり何も知らないのか。まあ、今更こんなところで何かがわかるとは思っていない。桐生美咲は敵だ。その事実があれば、それでいい」

 

 心が大きくざわめいた。今、DDは何と言った?

 

(美咲を、敵って)

 

 そうだ。確かに言った。彼女を、敵だと。

 彼の言葉の意味はわからない。桐生美咲という少女の存在が、どんな存在なのかも知らない。

 

〝――祇園〟

 

 ただ思い出すのは、彼女の笑顔。

 いつだって、彼女は傍にいてくれた。

 いつだって、味方でいてくれた。

 いつだって、隣で笑っていてくれた。

 そして何より――彼女は、自分を救ってくれた。

 

「……良い目になった」

 

 夢神祇園の根底は、いつだって変わらない。

 桐生美咲との〝約束〟こそがその源泉であり、原点。そして彼はどんなことがあろうと彼女の味方だ。

 

「あなたが何を言っているかはわかりません。けれど、美咲を敵だというのなら。僕もまた、あなたの敵です」

「そうか。それならそれで構わない。何も知らぬキミに、これ以上私も何かを聞こうと思わない。ただ、キミは今日、ここで敗北する」

 

 そう言うと、DDは一枚のカードを手に取った。

 エクストラデッキより取り出されたカードは、融合の紫でもなく、シンクロの白でもない。

 

「私はレベル4のクィーンズ・ナイトとキングス・ナイトの二体でオーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚」

 

 エクシーズ、召喚。

 聞き慣れない、不吉の調べ。

 

 

「『H-Cエクスカリバー』」

 

 

 世界で知らぬ者無き聖剣の名を冠し。

 絶望が、顕現する。

 

「人はキミたちの〝約束〟を美しいと評する。だがそれは欺瞞だ。その約束は呪いそのもの。聖剣の名においてその鎖を断ち切り、その意志を白く染めてあげよう」

 

 目の前に展開された光景に、祇園は息を呑む。

 ただ、足だけは――後退しなかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 僅かに、違和感を感じた。

 

「…………」

 

 眉をひそめる。精霊の力については敏感だ。別に磨き上げたわけではないしこれからもするつもりもないが、他者に比べて異常なまでの能力が原因だろう。

 

(会場のどこかで高位の精霊が力の行使でもしたか?)

 

 流石に〝日本三強〟が集まるというだけのことはあり、会場のあちこちに精霊の姿が伺える。小さな精霊たちが遠巻きに見ているのは、力に引き寄せられたからだろう。もっとも、ここにいる三人は異質過ぎて近付く気はないようだが。

 

(どうでもいいことだな)

 

 切り捨てる。精霊のことなど正直どうでもいい。昔、一度だけ精霊界に呼ばれたことがあったが……あれも結局大して自分には意味がなかった。感謝はされたが、それは恐怖の混じったモノだったのを覚えている。

 

「――――ふう」

 

 息を吐く。会場の空気が、それだけで変わった。

 ゆっくりと視線を対戦相手に向ける。感じる無数の視線。自分の一挙手一投足を見定めるそれらを纏い、常勝の王が戦闘に入る。

 

「先行は私だ」

 

 手札を確認する。一応相手が挑戦者なのだから専攻は向こうに譲ればいいものを、と少し思ったが気にしないことにした。

 手札を確認。ふむ、と小さく息を吐いた。この手札は――

 

「私は手札より『トレード・イン』を発動。手札の『暗黒界の龍神グラファ』を捨て、二枚ドロー。『無の煉獄』を発動。手札が三枚以上の時、一枚ドロー。エンドフェイズ、手札を全て捨てる。『魔界発現世行きデスガイド』を召喚。デッキから『暗黒界の狩人ブラウ』を特殊召喚し、手札に戻すことでグラファを蘇生」

 

 魔界発現世行きデスガイド☆3闇ATK/DEF1000/600

 暗黒界の狩人ブラウ☆3闇ATK/DEF1400/800

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 

 流れるように暗黒界最強の切り札が現れる。だが、澪の手はまだ止まらない。

 

「魔法カード『アドバンス・ドロー』。グラファを生贄に、二枚ドロー。……『暗黒界の取引』を発動。カードを互いに一枚ドローし、一枚捨てる。ブラウを捨て、ブラウの効果で一枚ドロー。『成金ゴブリン』を二枚発動。相手のLPを2000回復し、二枚ドロー。フィールド魔法、『暗黒界の門』発動。墓地のブラウを除外し、『暗黒界の術師スノウ』を捨てる。一枚ドローし、スノウの効果でグラファを手札に。『トレード・イン』発動。グラファを捨て、二枚ドロー。――魔法カード『手札抹殺』。互いに五枚捨て、五枚ドロー。私が捨てたのはブラウ一枚、ベージ二枚、スノウ一枚、グラファが一枚だ。五枚ドローし、それぞれの効果が発動する。ベージは蘇生され、スノウの効果で二枚目の暗黒界の門を手札に加える。そしてブラウの効果でドロー。ベージ二体を手札に戻し、グラファを蘇生」

 

 暗黒界の尖兵ベージ☆4闇ATK/DEF1600/1000→1900/1300

 暗黒界の尖兵ベージ☆4闇ATK/DEF1600/1000→1900/1300

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 

 二体の尖兵が龍神へと姿を変える。澪の手札は七枚。だがそれでもなお、終わらない。

 

「門の効果を発動。ブラウを除外し、スノウを捨てて一枚ドロー。スノウの効果により、暗黒界の取引を手札に加え、発動。一枚ドローし、ベージを捨てる。ベージの効果により蘇生され、手札に戻すことでグラファを蘇生。『無の煉獄』発動。ドローし、カードを四枚伏せてターンエンド。エンドフェイズ、手札が全て墓地へ送られる。墓地へ送られたベージ二体とブラウの効果を発動。ベージを一体蘇生し、ブラウの効果で一枚ドロー」

 

 暗黒界の尖兵ベージ☆4闇ATK/DEF1600/1000→1900/1300

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 暗黒界の龍神グラファ☆8闇ATK/DEF2700/1800

 魔界発現世行きデスガイド☆3闇ATK/DEF1000/600

 伏せカード4枚。

 手札一枚。

 

 澪の場に展開された圧倒的な光景に、会場は静まり返る。相手がカードをドローした瞬間、リバースカードオープン、と澪は宣言した。

 

「罠カード『魔のデッキ破壊ウイルス』。攻撃力2000以上の闇属性モンスターを生贄に捧げることで相手の場、手札の攻撃力1500以下のモンスターを全て破壊する。更に三ターンの間、ドローしたカードが攻撃力1500以下のモンスターだった場合、問答無用でそのモンスターを破壊する」

 

 海馬瀬人も用いたデッキ破壊ウイルスの一つだ。ぐっ、と相手が唇を引き結ぶと共に、その手札が公開される。

 

 ダリウス・マックスの手札→レッド・ガジェット、リミッター解除、カラクリ守衛参壱参、二重召喚、強制脱出装置、サモンチェーン

 

 ふむ、と澪は頷いた。手札から察するに、『カラクリガジェ』か。

 

「レッド・ガジェットとカラクリ守衛参壱参を破壊だ」

「くっ……!」

「そして更に罠カード『闇のデッキ破壊ウイルス』を発動。攻撃力2500以上の闇属性モンスターを破壊し、魔法・罠のいずれかを宣言。宣言した種類のカードを三ターンのドローカードを含めて破壊する。魔法を宣言。更にチェーンし、罠カード『マインドクラッシュ』発動。『強制脱出装置』を宣言。相手の手札にそのカードがあれば、墓地へ送る」

 

 こうして、全ての手札が墓地へと送られた。ダリウス・マックスが、呆然とした表情で膝をつく。

 

「戦意喪失。……これでデュエルは終わりだ」

 

 言いつつ、澪が公開した手札は『悪夢再び』。墓地の守備力0の闇属性モンスターを二体回収するカードだ。これでスノウを回収すれば、確かにゲームエンドである。

 

『しょっ、勝者は烏丸〝祿王〟澪選手です!』

 

 壇上から降りていく澪の背に、そんな実況の声が届く。

 拍手も、歓声も。

 彼女が消えるまで――消えてからも、聞こえては来なかった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 アーサー王伝説。

 数多くの媒体で語られるその伝説を知らぬ者はいないだろう。彼が振るった聖剣エクスカリバーは多くの物語に登場し、人々の心を掴んできた。

 担い手に勝利をもたらす絶対の剣。その名を冠するモンスター。

 

「…………ッ」

「未知なる者への恐怖。自身の常識の外にある事象に対する思考の放棄。実に人間らしい反応だ。だからこそ理解に苦しむ。何故、ここにキミが立っているのかと」

 

 言い切ると、まあいい、とDDは言った。

 

「それをここで見極める。エクスカリバーの効果を発動。オーバーレイユニットを二つ使い、次の相手ターンエンドフェイズまで攻撃力を2倍にする!」

 

 H-Cエクスカリバー★4光ATK/DEF2000/2000→4000/2000 ORU2→0

 

 聖剣が輝きを増し、その攻撃力が上昇する。

 紡がれた攻撃力は――4000。

 

「攻撃力――4000……!?」

「まだだ。私はレベル5のジェムナイト・セラフィとジャックス・ナイトの二体でオーバーレイ。エクシーズ召喚。現れろ、『シャーク・フォートレス』」

 

 シャーク・フォートレス★5闇ATK/DEF2400/1800 ORU2

 

 現れたのは、鮫のフォルムをした巨大な潜水艦だった。DDが効果発動、と宣言する。

 

「オーバーレイユニットを一つ使い、モンスターを選択。そのモンスターは二度の攻撃が行えるようになる。私はエクスカリバーを選択」

「攻撃力4000の、二回攻撃……!」

 

 凶悪なコンボだ。だが、これならまだどうにかなる。エクスカリバーではカタストルを超えることができないのだから。

 

(エクシーズ召喚……知らない召喚方法だ。だけど、デュエルディスクが認識している以上インチキじゃない。それにテキストを見る限り、耐性があるわけでもないようだし……)

 

 状況を確認する。未知なるモンスターと状況。だが、これはデュエルだ。ならば何かしらの法則が存在し、その法則に則ってあのモンスターたちは姿を見せているはずである。

 

(オーバーレイ、っていうのが多分鍵だ。……考えろ。どこかに法則がある)

 

 幸いというべきか、このままならこのターンは凌ぎ切れる。必要なのは次のターンでどうするかだ。

 

「もう頭は冷静になったか。成程、それなりに修羅場は潜っているらしい。けれど、惜しいな。リバースカードオープン、魔法カード『蛮族の饗宴』。墓地・手札のレベル5戦士族モンスターを二体まで特殊召喚できる。ジャックス・ナイト二体を蘇生。――レベル5、ジャックス・ナイト二体でオーバーレイ。エクシーズ召喚――『終焉の守護者アドレウス』!」

 

 終焉の守護者アドレウス★5闇ATK/DEF2600/1700 ORU2

 

 現れたのは、漆黒の悪魔。仮面の奥の赤い瞳が怪しく光り、祇園を捉える。

 

「アドレウスの効果を発動。一ターンに一度、オーバーレイユニットを一つ取り除き、表側表示のカードを破壊する。破壊するのは無論、カタストルだ」

 

 轟音と共に、神殺しの兵器が吹き飛んだ。マズい、と思う。

 これでは、防ぐ術が――

 

「バトルだ。アドレウスでジェット・ウォリアーを、シャーク・フォートレスでレベル・スティーラーを破壊」

 

 二体のモンスターが吹き飛ぶ。これで、祇園の場には伏せカードが一枚だけ。

 

「さあ、トドメだ。――エクスカリバーでダイレクトアタック!」

「くず鉄のかかし! その攻撃を無効に!」

「無駄な足掻きだ。――呪いを断ち切り、白に染まれ」

 

 轟音と共に、エクスカリバーの聖剣が祇園へと振り下ろされる。

 

 祇園LP4000→0

 

 ソリッドヴィジョンのはずなのに、確かに。

 何かが、体を貫いた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 試合は終わりを迎えた。澪はドレス姿のまま、楽屋で一人の人物に会っている。

 

「素晴らしいデュエルでシタ、澪ガール」

 

 ペガサス・J・クロフォード。I²社会長であり、ある意味で行ける伝説とも呼べる人物だ。

 

「ありがとうございます」

 

 一礼する。ペガサスは頷くと、小さな箱を取り出した。

 

「澪ガールにプレゼントデース」

「……これは?」

「イエス、世界に一組しか存在しない特注品のイヤリングデース」

「イヤリング?」

 

 箱を開ける。そこに納められていたのは、蒼い輝きを持つイヤリングだった。

 

「今回の報酬デース」

「……ありがたく受け取っておきます」

 

 少し違和感を感じたが、澪は気にせず蓋を閉めた。ペガサスは相変わらずの笑みを浮かべている。

 

「では澪ガール、私は次の現場へ向かいマース。……久し振りにアナタの全力を見まシタが……やはり、変わらないのデスね?」

「何を以て変わった、変わらなかったかを判断するのかは存じませんが。……今更、私が変わるはずもないでしょう」

 

 自嘲気味に笑う澪。ペガサスはノー、と首を左右に振った。

 

「澪ガール。人は変わろうと思ったその瞬間に変われるのデース。……アナタが幸いを見つけられるその日を祈っていマース」

 

 そしてペガサスは部屋を出た。それを見送り、澪は一人控室に残される。

 ――結局、何もわからないままだ。

 そんな風に自嘲する。相手はどう思っただろうか。いや、どうでもいいことだ。もう名前さえ思い出せない。

 気になるのは、少年のことだ。彼はこのデュエルを見て、何を思ったか。

 烏丸澪の本質を見て、何を――……

 

「烏丸様」

 

 不意にドアのノックと共にそう声をかけられた。どうぞ、と声をかけるが、相手は入ってこない。

 眉をひそめる。どこか不機嫌そうに立ち上がり、ドアへと歩き出そうとした澪の表情が、聞こえてきた言葉によって大きく変わった。

 

「――――――――少年が?」

 

 その言葉に込められた感情が、どういうものだったのか。

 彼女自身、理解していなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の中、哄笑が響き渡る。

 笑わずにはいられない。まさかこんな場所で、こんな形で見つかるとは。

 

「くくっ……よもや、こんな場所で見つかるとはな」

 

 探し求めたモノがようやく見つかった。言葉にすればそれだけのこと。だが、それだけでは決して済まない。

 笑う。ただ、笑う。

 

「さあ、面白くなってきた。――我直々に、赴くとしよう」

 

 悪意をその言の葉に漲らせ。

 闇が、笑う。

 









スーパードロー暗黒界の理不尽さは異常。



さてさて、ようやく物語が進み始めてきました。
正直冷静に考えるとマジでヤバい宗教組織こと白き結社が本格的に動き出します。
……犠牲者は誰になるのか。
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