インフィニット・ストラトス~前世の記憶を持つ者~(完結)   作:ダーク・シリウス

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姉弟

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その日の夜。マドカは観察する意味で一誠を見続けた。現在も変わらず、スコール達が住んでいる最上級スイートルームにあるキッチンに立ち、香ばしい匂いと食欲をそそる料理を作っている様子をジーと見つめていた。

 

「・・・・・なにをしている」

 

「夕飯の支度だけど?今日はカレーだぞマドカ」

 

まるで母親のように笑みを浮かべながら夜食作りの作業を止めない一誠に指摘する。

 

「・・・・・オータムはともかく、スコールはB級の料理は口にしないぞ」

 

「見た目通り、品のある料理と美味な物しか食べないか。しかし、俺の手に掛かればB級料理でもさらに磨きが掛かって美味しくなる」

 

コトコトとカレーを煮込む鍋の上に幾何学的な円陣が浮かんでいて、マドカは心の底からアレは何をしているんだ?と小首を傾げる思いでいた。

 

「作っておいて何だけど、カレーは好きか?」

 

「・・・・・普通だ」

 

「嫌いじゃなければ何よりだ」

 

火を消した鍋に蓋をして、ソファからテレビを見ているナターシャの隣に腰を下ろした。マドカも釣られるように一誠の傍に腰を下ろす。

 

「・・・・・お前は良いのか、このままで」

 

「IS学園に通う気はないだけだ。煩い輩から姿を暗ましたところで俺はISを動かせる事実は変わりない。このままずっと隠れ続けるわけにもいかないし、落ち着いて今後のことを考える環境が欲しかったんだ」

 

答えが出るまでここにいるつもりだと察したマドカにとっても、興味の対象を時間が許される限り観察できることに好機だと感じた。

 

「お前の答えに学園にいる者達と敵になることとなればどうするつもりだ?」

 

「・・・・・」

 

テレビを見ていたナターシャもマドカの質問を聞いて厳しい目付きで見つめるが何も言わない、一誠は虚空を見つめ逡巡した後に答え出した。

 

「必要なら・・・・・・倒すだけだ」

 

「殺すのではないのか?」

 

「殺す必要になるほどなことが起きるのかよ?」

 

「私はある」

 

断言するマドカに二人は耳を傾ける。

 

「お前を含め、織斑一夏と織斑秋十。そして目標の織斑千冬を殺すことで私は私であることに確証される」

 

「・・・・・復讐か?」

 

「そうだ。私が織斑マドカであることを証明する為には、お前達兄弟姉妹を殺して―――」

 

そこで不自然に口を止めたマドカ。

 

「お前の気持ちは分からなくはない。だが、家族を殺し合いにさせるほど俺は能天気じゃないぞマドカ」

 

一誠の周囲に光る刀剣が複数浮かび上がりマドカを突き狙っていた光景をナターシャは目を大きく見開く。

 

「織斑マドカで有りたいが為に、俺達兄弟姉妹に復讐したいお前の気持ちはわからなくもない。だけど、お前の復讐は別の方から捉えるとある種の甘えと縋りだ。お前は家族と過ごす中で感じる家族愛ってものを無意識に欲しているんじゃないのか?」

 

マドカの頭が真っ白になって言葉も出なかった。誰かからそんな言葉を口にする事も思いもせず、返す言葉が見つからないでいるマドカに諭すように言い続ける。

 

「例え、お前の望んだ結果や状況にならずとも織斑マドカはこの世でただ一人しかいない。お前は俺達の誰にもなれない。だって、織斑マドカという五人目の兄弟姉妹がいるんだからな」

 

「―――っ」

 

「それ以前に俺を殺すことなんてまず不可能だと思うけどな。俺は人とは違う能力を持っているしそう簡単に負けるつもりはない」

 

不敵な物言いを述べる一誠の口は開き続ける。―――そこまで俺達を復讐したいのか?と。マドカの反応は確かな決意と執着心の炎が瞳の奥で燃え上がって、ハッキリと己の気持ちを口にした。

 

「ああ、復讐したいと思っている。憎んでもいるし恨みも抱いている。―――殺したい。私が私である為に。物心がついた時から織斑千冬と比べられ、勝手な期待と信頼を押し付けられ、勝手に落胆と侮蔑をされて私は・・・・・、私は自分の意志とは関係なしに周囲から押し付けられる願望と欲望の中を生き続けてきた」

 

「・・・・・」

 

「周りは皆、私を織斑千冬と勘違いしている。私は、織斑マドカだっ。織斑千冬ではない。だと言うのに何をするにしても何をさせられても何時も織斑千冬比べられる。弱い私を―――私として見てくれないのが一番憤りを覚えた」

 

「・・・・・」

 

「今の私ではお前には勝てないだろう・・・・・。だが私は・・・・・いつか強くなってお前達を復讐する為に越えてやる。越えた先こそ、私は世界のだれよりも強い織斑マドカとなる瞬間―――!」

 

ズビシッ!

 

「~~~~~っ!?」

 

マドカの額に鋭い衝撃が襲った。彼女に向かって指を鉄砲のように立てている一誠が何かをしたのだろう。思わず両手で額を押さえて痛みに悶絶するマドカにつまらなさげに話しかけた一誠。

 

「認められたいなら、強さ以外にも方法はいくらでもある。物理的にちぃーねぇーちゃんを倒したところでお前は本当に満足できるのかよ」

 

「な、なに・・・・・っ」

 

「ISを持っていないちぃーねぇーちゃんを一方的にISで負かしてお前の心は本当にそれで喜ぶのかって話だよ。そんなの、ただの自己満足の程度でお前だという証明をしたと思いこんでいる思いこみ野郎なだけだろうが。俺の記憶を見て、俺の気持ちをお前は何を分かったんだ?」

 

「・・・・・記憶?」

 

二人の話に耳を傾けていたナターシャが不思議と呟いたのを一誠とマドカの耳にも入る。

 

「どういうこと?君の記憶ってなに?」

 

「・・・・・」

 

失言したと似た気持ちは一瞬。逡巡した後の一誠はナターシャの手を掴んで何もなく広い空間にまで引っ張ると光る幾何学的な円陣が展開して二人を包みこむ現象が起きた。

 

「ナターシャさんも知ってもらおうかな。俺がただの人間じゃない理由をさ」

 

「え・・・・・」

 

―――IS学園―――

 

「だから、知りませんってば!知りたいのはこっちのほうです!」

 

「例え知っていたとしても、あなた達に言うつもりもないですよ。あなた達のせいで俺達の弟が姿を消したんですから」

 

政府の役人やらIS委員会の人やらに尋問もとい事情聴取。同じ質問や似た質問を何度も受けては何度も答え、何時しか一誠の気持ちを分かってくるようになってしまった。

 

「・・・・・しつこい大人達だな全く」

 

「分からないこと何度も聞かれてうんざりだぜ」

 

やれ、本当は居場所を知っているんじゃないか?やれ、どこかに匿っているのだろう?我々は保護したいから彼のいる場所を教えろ。と、知る筈のない相手の情報など二人はない。そして二人だけじゃなく一誠と関わった、関わっている者達全員に対して政府とIS委員会は徹底的に事情聴取をしているのだった。が、結果は全員首を横振るという一誠の捜索の難航がますます示されただけとなって、未だに見つけることができないでいる。

 

「可能性だけど束さんのところにいるんじゃないかなぁ」

 

「有り得るけど実際はどうなんだかな」

 

とある最上級スイートルームでB級料理を好まない女性が件の少年の手作りカレーを一口食べた瞬間、雷が落ちたような衝撃を受けていたことを知る由もない。

 

「行方不明になってまで、IS学園に来たがらないなんてもう登校拒否以上の問題だとは思わないか?」

 

「あいつが飛び級で高校を卒業してなきゃ確実に問答無用でこの学園に通っていた、か」

 

「弟に世話を焼かれっぱなしのままずっと俺達に姿を見せてくれないなんてないよな・・・・・」

 

「少なくとも、俺達が卒業するまでの間そういうことになりそうだがな」

 

そう思うと気分が重くなる。近日開催される学園の行事前だというのに立て続けに起きる事件やら騒動やらで楽しい気分にはなれない。―――それ以前に射抜き殺さんとばかり己の携帯を見つめ何とも言えない表情を浮かべている少女がとある人物に通信を入れようか入れないか学園の行事など考えていなかった。篠ノ之箒、片思い中の相手の顔を思い浮かべ六年振りに再会した幼馴染とはまともに会話をしていないことに寂しさとあまりにも変わってしまった幼馴染に対して困惑と動揺してしまった。二人の兄の一夏と秋十は受け入れている節があり、心配している様子だった。自分もあの時―――海の上で渡され受け取る筈だった贈り物を一誠ごと受け入れていれば関係は変わっていたのか・・・・・そう思うとあの時の自分に後悔してしまいそうになる。

 

「・・・・・」

 

ルームメイトは食堂にいる。頭まで布団を被って箒は敬遠している姉に通信を入れれば直ぐにでも応対してくれそうな気がするが、果たして自分の願いを叶えてくれるだろうか。ISの生みの親はISに関して右に出る者がいないほど稀代の天才。対して人探しは得意じゃないかもしれない。

 

 

―――願うならばもう一度だけでも一誠と再会してちゃんと言葉を交わしたい。

 

 

と、そう願う少女の中で想いが強まったところで待機状態のISが受信した。プライベート・チャンネルをだ。IS学園内で無断のISの機能をでも規則違反。それを承知で箒と個人的な話をしたいのか、一体誰でどんな話をしてくるのか、意識しつつ通信を繋げたところで。

 

『後、数秒で切ったところだったよ』

 

「っ!」

 

通信相手は―――一誠だった!

 

「い、一誠・・・・・っ!」

 

『おう、芸能界から身を退いたお前の幼馴染みだ。いま、話せるか?』

 

一誠が、一誠が通信をしてきてくれた!乙女心が歓喜で弾み、どうして自分にプライベート・チャンネルを繋げてきた困惑と動揺が混ざって「あ、ああ・・・・・」と首を縦に降りながら肯定した箒の耳に相変わらずの一誠の声が入ってくる。

 

『今更だけど・・・・・息災のようで何よりだ箒。因みに携帯だと逆探知されそうだし、ISの通信システムだったら邪魔されず二人だけの話しができると思って今に至るからな』

 

会話中でも警戒している一誠に何とも言えない気持ちを抱く。家を失い、仕事も無くし、それでも政府の保護を受けたくないが為に行方を暗まして住居不定無職な今の一誠はホームレスのような立場。

 

「お前・・・・・今どこにいる」

 

『今はIS学園の敷地内にいるぞ。ここ、侵入しやすいな。警備が緩すぎじゃないか?』

 

少し問うた意味は違うが返ってきた言葉はIS学園にいる。千冬でも気付いていない事実に箒は心底驚きを禁じ得なかった。しかし、同時に思いもしない好機だと感じた箒は行動に出た。

 

「・・・・・分かった。待っていろ、直ぐに行く」

 

『は?』

 

思い立ったら吉日。この付近に一誠がいるのならば顔を出さない訳にはいかない。服は―――着替えず寝間着として着ていた袴姿のまま部屋から飛び出して外へ駈け出した。

 

「箒?」

 

「・・・・・なんだ、あの慌てぶりは」

 

―――♢―――

 

広いIS学園の中で一誠を探すことは難しいと思われたが箒はあっさりと発見に成功した。本来なら違反行為であるISのプライベート・チャンネルを使用した相互位置確認操作を行ったからだ。見つけた場所は林の中で身を隠すように佇んでいたところを激しく高鳴る心臓の鼓動を感じながら視界に捉えた。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

金目は少しも少女に向けようとする気配はなかった。真っ直ぐ前を、虚空を見つめている。

少女も開口一番、どんな言葉で話しかけようかと口を閉じたまま逡巡する。六年ぶりに再会したのは海の上で、人の姿ではなく有り得ない状況だった。今でも髪と目の色が違って箒が知っている一誠とはかけ離れ過ぎているもののこれはこれで格好―――。

 

「箒、聞きたいことがある」

 

「な、なんだっ」

 

「―――何でISを持っているんだ?」

 

一誠から話しかけられ、どんなことを聞かれるのかと思えばISのことだった。何で持っている?それは―――。

 

「・・・・・姉さんが用意してくれたからだ」

 

「『紅椿』だったな。俺もそのISの調整を手伝っていたから見た瞬間分かった」

 

「な、なんだとっ」

 

「でも、俺が聞きたいのはそう言うことじゃない。箒がISを持つのはどうしてなんだ。そう言う意味だ」

 

『紅椿』と関わっていたことに反応するがそれはどうでもいいとばかりに問うた質問の真意を催促するように告げた一誠はようやく箒へ視線を送る。

 

「『紅椿』を持つのはどうして・・・・・だと?」

 

「俺は、ISの在り方に疑問を抱いている。軍事利用を禁止しているが、実際にISは兵器みたいな扱いをされて軍事兵器として使役している方が多い。だから、ISを持つ夏兄達は必然的に軍事に関わる人生を送ることは火を見るより明らか。でも、それ以前に望んでISと関わる者と運命的に自分の意志とは反して関わっている者が分かれている。―――箒は後者の運命的に自分の意志とは反してISに関わっている方じゃないか」

 

「・・・・・」

 

「望んでいるならともかく、望んでもないのにISを持っている今の自分がどんな気持ちでいるのか―――聞かせてくれ。箒がISを持つ意味を」

 

真面目な顔付で金目が箒を食い入る感じで見つめる。ISを動かせる男として世間に知られてから様々なことが起きたり、遭ったり、ISのせいで大切な場所を失っている一誠の質問の意図を理解し切れてないがゆっくりと口を開けた。

 

「私がISを持つ理由は・・・・・仲間を、友達を守る為に、共に戦う為にある」

 

「・・・・・」

 

「お前が望んでいる答えかどうか分からない。だが、これが今の私の気持ちと思いだ」

 

自分の気持ちと思いを打ち明け、箒は懇願した。

 

「一誠、私達と一緒に学園にいてくれ。皆、お前のことを心配しているんだぞ。千冬さんも一夏も秋十、わ、私も―――」

 

「ISに狂わされてもISに寄り添えって?―――無理だ」

 

「っ・・・・・」

 

「俺も箒も、ISの存在で生活が一変した。ISに恨みも憎しみもないけどそれで周囲の大人共が自国の為だと利益の為だとか様々な理由で俺達に欲望を押し付けてくる。そんな大人共の為にどうして自分の気持ちを押し殺してまで従わなければならないんだ?俺の人生は俺だけのものだ」

 

誘いを一蹴した上にこれまで通りの在り方を続けようとする意志を示す。

 

「俺は何時か、ISの本当の在り方―――宇宙空間での活動に戻したいと思っている」

 

「本当の在り方・・・・・?」

 

「そうだ。ISは戦う為の兵器じゃない。人に翼を与える為だけのマルチフォーム・スーツだったはずなんだ。なのに今の大人達は『力』を求めている。あの十年前の事件を目の当たりにしたせいでISの本来の在り方が変わってしまったんだ」

 

十年前。今でもその当時の事件は語り継がれ、犯人も未だに捕まっていない事件。同時にISが世界に広まった原因。

 

「ISに屈服される形で世界はISに取り憑かれたかのように『力』を求め始めた。世界が平和だというなら過剰な『力』は必要ない。世界が平和ならもっとより平和的なことに『力』を注ぐことをすればいいのにそれすらしない大人達に呆れて仕方がないから―――俺は拒み続けるんだ。これからもな」

 

否定、拒絶、反対。強い意志を胸に秘める片想い中の相手を改めて知り、複雑な心情を抱く箒を露も知らない一誠は動き出す。

 

「箒の気持ちと思いを聞けたからもう帰るよ。何時までもここにいたら捕まってしまうからな」

 

捕まったとしても逃げれる自信はあるけど。と、不敵に告げる一誠の動き続ける足は箒から遠ざかっていく。

どこかへ行っていなくなろうとする少年の背中を見て、止めなければ二度と会えないような・・・・・そんな錯覚を脳裏に過ぎり「ま、待て―――!」と腕を伸ばして制止しようとした箒に歩みを止めない一誠。が、不自然に動きを停めた。怪訝にな面持ちの箒もどうして動かなくなったのか不思議と疑問に思っていたが直ぐに理解した。

 

「可愛い女の子と密会する為に自分から来るなんてねぇ?」

 

木の陰から「逢引」と書かれた扇子を広げながら現れた楯無に続き、箒の友人もとい専用機持ち達も現れた。そしてトドメとばかりに―――千冬も最後に姿を見せた。一誠が動きを停めた理由は黒い装甲のISを装着し一誠に向けて手を開いているラウラがISの能力を発動中の様子を見て察した。

 

「シャルちゃんとラウラちゃんがどこかに走っていく箒ちゃんを見たって聞いた時にピンと来たわ。うふふ、どう?ラウラちゃんのAICの性能の凄さを知った感想は?これでも逃げれる自信があるのかなぁ?」

 

思いっきり悪役みたいな笑みを浮かべている楯無。周囲を見渡し、上空にも意識を飛ばすと他の専用機持ちことダリルとフォルテ、簪と本音が逃げ道を防いでいることを認知した。

 

「チェックメイトよ織斑一誠君。素直に投降しなさい。あの天使になれる時間も与えないわ」

 

「・・・・・」

 

楯無の言葉は一誠の心にまで届かない。

 

「天使になったらどうする気だよ?」

 

「織斑先生があっという間に近づいて気絶させるだけだわ」

 

「・・・・・ああ、納得」と世界最強の相手に動きを停められた状態ではどうすることもできない。変身しようとすれば、その気配と動き、少しでもそうしようとすると千冬は直ぐに動く。しかし、彼女を抜きにしても生身のテロリストや武装した人間だけならばISだけでも対応できるのだが、相手は相手なのだ。

 

「・・・・・たった一人相手に、無防備で生身の人間相手にISを展開して取り囲むなんてのはさ。やっぱりISは人間を脅す兵器のような扱い方だな」

 

「君だってISを持っているじゃない」

 

「持っているが、あのISに武装なんて一切無いし。俺のISは宇宙空間の活動を想定した―――本来そう在るべき筈だったマルチフォーム・スーツなんだ。お前らのと一緒にするな」

 

「違うわ。ISはISよ。それに宇宙空間の中を活動できるわけ無いじゃない」

 

即答で答えられてしまい、呆れ顔で溜息を吐く。

 

「俺は誰の助手なのかもう忘れたのか?あの人と一緒に作れば不可能を可能にだってできる。ま、自慢話をしてもしょうがない。ラウラ―――AICを解除してくれないか?帰りたいからさ」

 

「・・・・・駄目だ・・・・・お前を捕えることが任務なのだ」

 

「うーん、友達のことより任務の方が大事なのか。それは凄く残念だ・・・・・簪、ヒーローが物凄く困っているんだけど助けてくれないか?」

 

ヒーローに憧れるヒロインへ助けを乞う。正真正銘の専用機持ちとして作戦に臨んでいる簪の心は酷く動揺と当惑している。勇気をくれ、背中を押して励ましてくれたヒーローが酷く哀しげな雰囲気を醸し出して助けを求めている。どうにかしたい。だけど、どうすればいいのか分からない。姉や友人、教師を裏切りたくない。純粋な少女は葛藤に苦しんでいるのを察し、姉の楯無は厳しい目で一誠を見つめる。

 

「・・・・・やれやれ、この場に俺の味方になってくれる人はいないのかよ」

 

「いや一誠。お前がこの学園に通えばこんなことには・・・・・」

 

「夏兄。俺のせいだと言いたいのか?非はないなんて言うつもりないけどさ。俺にだって意志があるんだ。何度だって言うぞ。―――IS学園に通う気はない。通わせたいなら俺の四肢を切断してでもさせてみろよ」

 

なっ・・・・・!

 

「俺のせいで迷惑をしているって言うんなら、迷惑を生じている元凶のISを―――破壊することも厭わないぞ俺は。そうすれば、昔のように楽しい日常が送れて過ごせれるのだからな」

 

『―――っ!?』

 

ISの破壊。それを躊躇もしないと断言した一誠に一夏達は心底驚き、戦慄した。

 

「手始めに・・・・・この学園にあるISを壊してやろうか?」

 

ニヤァと口元を歪めた。ただし、それは邪悪な笑みだった。ゾクリとそんな笑みを浮かべる一誠から異様な・・・・・言葉では言い表せない何かを感じ取り、一斉に臨戦態勢に身構えた矢先に千冬が一誠の背後に一瞬で近づき首筋に手刀を叩きつけた。

 

「・・・・・馬鹿なことを言うな。私は、そんな考えをするように育てた覚えはない」

 

ドサリと音を立てて地面に倒れる一誠を見下ろしながら述べる千冬。場は次第に緊張の糸が揺るぎ、警戒心が薄れた。

 

「織斑先生・・・・・これからどうするのですか?」

 

普通の人間ならば通常の拘束具や牢屋に入れれば問題ないが、一誠は人として当て嵌めていい存在ではない。閉じ込める場所、拘束具は特殊で頑丈な物ではなければならない。それ等が揃っている場所は限られている。IS学園にはそんな施設がない為、必然的にこれからどうすればいい?という難題がやってくる。

 

「・・・・・説得するしかない。素直に首を縦に振る弟ではないが、どうにかして―――」

 

「どうにかするも何も、ISに関して学ぶことなんて何一つないんだけどなぁ?」

 

突如聞こえる第三者の声。全員が声がした方へ振り返って見れば。

 

「はっはっはっ。一人残らず全員騙されたな」

 

気絶した筈の一誠と同じ髪と目の色、顔を持つ少年が嘲笑的な笑みを浮かべて数メートル先に立っていた。

 

「な、なんだとっ・・・・・!?」

 

「どうなっておりますのっ!?」

 

ドッペルゲンガー!?と思ってしまってもしょうがない。それほどまでに今現れた一誠が千冬の手によって気絶した一誠と酷似しているのだ。

 

「・・・・・騙されたって、どういうことかしら」

 

「だってそいつ。影武者みたいな奴なんだ。本物は―――俺なわけ」

 

証拠とばかり音もなく姿を消したもう一人の一誠。今まで幻でも見ていたかのように豆鉄砲を食らった鳩のように 

「忍者で言うと分身の術っていうやつだ。理解してくれたかな?」

 

「織斑君・・・・・本当に君は、何者なの」

 

「ISを動かせる五人目の男、織斑千冬の弟の織斑一誠。それ以上でも以下でも何者でもないさ。ただ、凄く特殊な存在だがな。だからIS学園に通いたがらない理由の一つでもあるけど・・・・・。ま、俺からすればISは鉄屑の塊にしか見えないし、本来の力の方が何百倍も強い。この言葉の意味、楯無なら良く理解してるよな?」

 

「―――っ」

 

一誠に敗れた際にISを破壊された経験を持つ楯無は皮肉な言葉に頬が引き攣った。完全に挑発しているのだと頭で分かる前に楯無は口を開いた。

 

「・・・・・ラウラちゃん、もう一度AIC」

 

「俺を捕まえる気か?―――正当防衛が成立してしまうんだけどいいんだな?」

 

「正当防衛の意味知ってる?どうしようもない状況下でしか成り立たないのよ?」

 

「今がそのどうしようもない状況下だと思うんだが?一人の人間相手に十数人の専用機持ちが雁首揃えているんだからよ・・・・・颯爽といなくなることにした」

 

「じゃ」と手を挙げて踵返す一誠が駈け出せば、逃げる獲物を狩猟が追いかけるのは必然的。

そんな追い詰められる獲物は、時として思いがけない方法で牙を剥くこともある。逃げる一誠を追い掛ける専用機持ち達。人より逸脱している脚力で逃走してもISの性能と速度の前ではあっという間に追いつかれる。かつて、秋十を逃がす為に囮となった時と似ていた。だが、あの時と今は違う。

 

「この『ブルー・ティアーズ』から逃れられると思いになられているなら、とんだお馬鹿さんですわね!」

 

確実に違う点を挙げれば、一誠はISを上回る戦闘力を有している。

 

「窮鼠猫を噛むって言葉を知らないか?」

 

両腕が淡い光に覆われ刀身のように具現化を果たし、逃げていた一誠は振り返り目と鼻の先まで接近して今まさに捕まえようと腕を伸ばしていたセシリアに飛び掛かって―――その時、夜空の向こうから白銀が音速で接近し、セシリアを蹴り飛ばした後に一誠の真上に佇む。

 

「お前は・・・・・!」

 

白銀の正体は全身装甲(フル・スキン)のIS。そして、一夏達が臨海学校で相対したIS―――ナターシャ・ファイルスの『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。ナターシャの介入により一夏は驚きを隠せなかった。

 

「時間よ一誠君。帰りましょう」

 

「・・・・・ん、そうだな」

 

天使と化した一誠が宙に浮いてナターシャの肩と並ぶ。二人の天使が目の前にいると思わせるほどに綺麗だった。この場から離れようとする気配を醸し出す二人に秋十は大きく叫んだ。

 

「待て一誠!お前はこれからどうする気でいるんだ!」

 

「・・・・・どうする気、か。まだ何も決めてないよ。しばらく鬱陶しくて煩い政府やIS委員会から姿を暗ますつもりだけど、できたら―――家族五人で暮らしたいもんだよ」

 

「・・・・・五人?」

 

「いずれわかるよ。きっと遠くない未来に。その時は色々と驚くことが起きたり騒ぎにもなるかもな」

 

「一誠、お前・・・・・一体何を―――」

 

一夏の言葉を最後まで聞かず翼を羽ばたかせて夜空の向こうへとナターシャ共々消え去った。追いかけようとするが速過ぎて追跡は不可能。後に現れる千冬に報告し、様々な思いを抱いたまま一夏達は就寝。

 

「以上が報告です。はっきり申し上げると我々でもISを使役しても織斑一誠を捕まえるどころか強行手段でも無力化されます。彼は、織斑一誠は私達が思っている以上に異常な存在です」

 

楯無と千冬はまだ眠らず日本政府に報告をしていた。実力は勿論、能力的にも凌駕している一誠に楯無達専用機持ち達ではどうしようもできない。悪戯に犠牲を増やすようなものだとこれからも一誠の確保に動き出せばいつか必ずそうなる。

 

『織斑千冬。あなたの弟はとても反抗的ですな。世界で唯一、それも初めて日本で発見された貴重な存在なのは重々承知の上でしょう。なのに、彼はそれを分かっていないようだ』

 

「いえ、分かっている上での反抗的な言動をされているのです」

 

『だったらな尚更のこと。他国に身柄を確保されないよう我々が保護しなければならない。それを分かっているな?』

 

「分かっています。が、織斑一誠はISを上回る実力を有しています。保護は不可能に近いかと―――」

 

『織斑千冬、私情も挟んで作戦を全うしているのではないな?』

 

「・・・・・」

 

『君の弟だろうとISを動かせるならば日本の為に貢献する義務がある。それを拒否するならば国家反逆罪として国中に指名手配することもできるのだぞ』

 

「それはっ―――」

 

不穏な会話に発展仕掛けた時。モニターに映る政府の人間の他にも割り込む形で女性の顔が映すモニターが展開した。

 

『へぇ~?いっくんにそんなことする気でいる馬鹿な奴もいたもんだねー』

 

『っ!?し、篠ノ之束!?』

 

『やっほーちぃーちゃん。酷い話しだよねー。自分達の思い通りにならないからって悪人扱いだなんてさ。やっぱりこういう馬鹿な人間は馬鹿でしかないようだね。あーやだやだ、こんな馬鹿な連中に私の大好きな助手をどうこうしようなんて許せないねー』

 

『―――っ!?』

 

睡眠不足で淀んだ束の目が真剣な眼つきと変わり千冬にとって珍しいと思わせた。

 

『これ以上いっくんに迷惑を掛けるならお前達を物理的に潰すからね。あ、そうそう。ちーちゃん、よーやくいっくんの居場所を見つけたよー。なんと、京都にいることが分かっちゃったんだよねー!』

 

「(京都・・・・・)」

 

『場所は高級ホテルにいるよー。早く馬鹿な連中よりも「家族」として迎いに行ってあげてねー』

 

束の発言により一誠の潜伏先が把握し、

 

『我々が保護をする。お前達は待機だ』

 

「「・・・・・」」

 

政府は重い腰を上げる。それが破滅の道に進まされていることを知らず、世界的にも震撼させる大事件が起きる。

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