インフィニット・ストラトス~前世の記憶を持つ者~(完結)   作:ダーク・シリウス

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プロロ~グ2

―――第二回モンド・グロッソ世界大会

 

ISを装着して一対一での格闘、射撃を行い優勝を争う三年に一度のスポーツ大会。前回の第一回モンド・グロッソ世界大会は一誠達の姉―――織斑千冬が優勝した。今回も出場して優勝を望む姉の千冬を間近で見ようと弟の一誠達も観戦しにきていた。

 

「ちーねーちゃん。怪我しないでよ。無茶しないでよ」

 

「おいおい、私は前回も勝っているんだぞ?それに心配されるほど弱くないさ」

 

「じゃあ、心配しなくてもいいんだね。冷たく接してもいいんだね。どうせ勝つんだから応援しなくてもいいって思っちゃうから」

 

「・・・・・変なところで天の邪鬼にならないでくれ」

 

若干落ち込む千冬にお仕置きとばかり秋十が一誠の頭を叩く。

 

「ま、まあ千冬姉なら優勝は間違いないって。なあ秋十」

 

「当然だ。俺達の姉は世界一なんだからな」

 

「でも、たまには負けてもいいと思うよ。ずっと一番だなんてつまらなさそうだし」

 

「一誠、そんな事を言う口はこれか、これか?なぁ、ああん?」

 

頬を思いっきり引っ張る兄に涙目でじたばたする一誠という兄弟の光景を見ておかしそうに見つめる千冬は、どこか和らいだ気がした。

 

「おー、いたいた織斑千冬。息災か?」

 

女性の声が千冬に投げられた。四人は声がした方へ振り向けば、そこに赤髪の女性が歩いて来ている。彼女を見た瞬間、千冬の口の端が吊りあがった。

 

「アリーシャ・ジョセスターフ。久し振りだな。やはりというか参加していたか」

 

「それはこちらの台詞。今回も参加してたようで安心したサ。前回は負けたが今回は負けないサ」

 

「ふん、前回の私とは思うなよ。今回は私の弟達が応援をしに来ているのだからな」

 

「ほー、ブリュンヒルデの弟かぁ」

 

彼女は三人の少年を視界に入れて意味深に笑みを浮かべた。

 

「弟達の前で負かしたらどんな気分を覚えるのだろうな織斑千冬?」

 

「抜かせ、無様な敗北を見せるぐらいなら私は修羅となってお前を潰す」

 

勇ましく断言するが・・・・・。

 

「・・・・・修羅って、怖くない?」

 

「怒った時の千冬姉は怖いけど、あれ以上怖いってのがあると思うと・・・・・」

 

「触れぬ姉に祟りなしってやつか・・・・・」

 

姉の怖さを身に沁みている一夏達弟にとって修羅とは怒りの度合いが越えた一種。なので恐ろしさを感じることを禁じ得ないでいた。声を殺して会話をした三人の背筋に突如悪寒が走った。

 

「・・・・・お前達、後で話があるからな?」

 

「「「ごめんなさいっ!お願いだから怒る時は修羅の状態で怒らないでぇっ!?」」」

 

完全に聞こえていて米神に青筋が浮かぶ千冬を見て逃げ出す三兄弟。

 

「ハッハッハッ!ブリュンヒルデの怖さは身内がよく知っているようなのサ!」

 

「・・・・・五月蠅い。とっとと自分の持ち場へ戻れ」

 

「ああ、そうしよう。ではな織斑千冬。次に会う時は決勝戦サ」

 

通った道に踵返して戻る好敵手を見送る織斑千冬も自分の持ち場へと戻る為、歩き始める。

 

 

「おー、生で見る世界大会の迫力はテレビと違って凄まじいな」

 

兄の一夏が他国が所有するIS同士の戦いを目の当たりにして驚嘆の思いを抱く。

 

「当然だろう。俺も操縦できれば千冬姉のサポートできるのに」

 

敬愛する姉を思って試合を食い入るように見つめる二男の秋十。

 

「女の人しか動かすことができないんじゃしょうがないよ。ああ、空を飛んでみたい」

 

空を飛ぶ憧憬を抱く三男の一誠。そんな三兄弟は姉の千冬の試合となると、

 

「頑張れぇー!」

 

「そこだっ!そこで断岩剣っ!」

 

「ちぃーねぇー!ファイトー!」

 

熱狂的に応援し出す。そんな三人の応援を聞こえているかどうか定かではないが、たったの三分で相手を負かすので会場は熱気に包まれ、歓声が青い空まで衝くほどの轟く。

 

「ところで断岩剣ってなに?」

 

「格好いいだろ?」

 

「いや、微妙だから没だ」

 

千冬の決勝戦進出は確実となり、いよいよ決勝戦が行われる時が迎えようとした。優勝を争うのは前回の優勝者の織斑千冬に対し、相手はアリーシャ・ジョセスターフだった。

 

「あ、あの人だ」

 

「欧州の国家代表の人だよな。前回の大会も千冬姉と戦って敗れた」

 

彼女を興味深く見つめ、今大会も凄まじい優勝争いをするのだろうと思った。

 

「・・・・・あの人、気の毒に」

 

「「・・・・・修羅と化した千冬姉に潰されるんだよな」」

 

一誠の憐れみと同情が籠った言葉は一夏と秋十を不憫に思わせる。決勝戦はまだ始らない。下準備を整えてから始めるつもりだろう。

 

「何か飲み物を買ってくる」

 

「ついでに俺もトイレでも行ってくる」

 

「おう分かった」

 

秋十と一誠が立ち上がって一夏と席から遠ざかる。二人のそれぞれの目的地は途中まで一緒。歓声に包まれる中で歩き、

 

「帰ったらパーティの準備をしなくちゃな」

 

「当り前だろう。千冬姉が負ける筈がない。盛大に祝おうぜ」

 

数時間後の事を頭の中で思い浮かべ、殆ど観客席に集まっている為か人はあまり見かけない広い空間に出た。

 

「秋兄は何か飲むか?」

 

「んじゃ、苺のソーダ味だ」

 

「・・・・・好んでそれを飲むけどさ、実際に美味しいの?」

 

「愚弟め。あの味を分からないようではまだまだガキだな」

 

あれは大人の味だとニヒルに笑う兄を心の中で呆れる。―――あれは不味いジュースだと思わずにはいられない。

 

「売店で売ってるところを見たからそこで買ってくれ」

 

「・・・・・思いっきり外じゃん」

 

「大丈夫だ。お前の分までしっかり俺と兄貴が見てやる」

 

嫌みたっぷりな笑みを浮かべ、目的のトイレを見つければ真っ直ぐ入る秋十とトイレのすぐ傍にある自動販売機に近づき、金を入れて飲み物を購入する一誠。

 

「夏兄は・・・・・日本茶でいいか。妙に爺臭いし」

 

一誠はメロンソーダを購入し、二つの飲み物を取り出す。秋十の分も買いに外へ行く心情でありながら、聞かなきゃ良かったと溜息を零す一誠に迫る―――黒い影。

 

「さて、後は苺―――むぐっ!?」

 

白い布に鼻ごと口を押さえ付けられる。複数の手が一誠の体を掴み、暴れさせないように強い力で掴む。いきなりのことで動揺するが、襲いかかる相手の対処方法は熟知している。

 

全力でもがき、片方の手足のどちらかが解放されると背後にいる襲撃者の股間に蹴りを入れる。

それからもう片方の足を掴む手に思いっきり蹴って両足が自由になれば両腕に力を込め、強引に襲撃者ごと自身を駒のように回りながら自動販売機の横側に叩きつける。

 

「誰だお前らはっ!」

 

思考がぼんやりとする感覚を覚える。布から独特な臭いがした。きっとクロロホルムの類かもしれない。

襲いかかる睡魔に堪えながら襲撃者達と対峙する。

 

「ちぃっ・・・・・応援を呼べ!」

 

リーダー格の黒尽くめの男がそう指示を下せば部下の一人が携帯を操作し始める。一誠は一瞬で判断する。ここで逃げれば兄の秋十にまで狙われる可能性がある。何の目的なのか知らないが―――。

 

「潰す」

 

千冬直伝の体術を駆使して襲撃者を無力化を試みることに決めたその直後。トイレから秋十が出て来てはこの状況に目を疑った様子を窺わせる。

 

「どうなってんだよこれは?おい、一誠!」

 

「分からない!俺達を狙った襲撃としか分かってない!」

 

「ああそうかよ。取り敢えず、それだけわかりゃ相手は敵だって認識できる」

 

二人の兄弟がナイフやスタンガンを持ち始める襲撃者達へ飛び掛かる。突き、薙ぎ払いをしてくる襲撃犯達に一誠と秋十は紙一重でかわし踊るように位置を変わったり、突き付けてくる武器に他の敵で防いだり、逆手にとって相手の武器を奪い、

 

「おらぁ!痺れやがれ!」

 

「ふっ!」

 

確実に一人、また一人と生きたまま無力化にしていく。そんなことを繰り返して三分が過ぎると二人だけが立ち阿鼻叫喚の光景が出来上がった。

 

「よし、一丁あがりだ」

 

「や、さっき応援を呼ばれたからもう一戦なるよ」

 

「それを早く言えっ!?ていうか、俺達が観戦席に戻れば襲われないだろうが!」

 

「んー。それもそうだけど」

 

と言いつつも二人は駈け出していた。観客席へ逃げ込むのがベストだと考えている二人は間違っていない。相手が人間なら尚更手を出してくるのは難しくなる。

 

―――相手が生身の人間だったらの話なのだが、そう問屋は卸してくれなかったようだった。

 

二人の目の前に横から飛来してくる金属の塊に道を阻まれるまで絶望を抱かなかっただろう。

 

「なっ、あ、IS・・・・・っ!?」

 

現行兵器を遥かに凌駕するパワード・スーツとして、生身で並の人間では武装してでも敵うことはない絶対的な力を持つ機械を前に、秋十は愕然とする。一誠も相手がISでは敵わないと確信した。

 

「・・・・・秋兄、ちょっと」

 

「は?」

 

秋十の肩を掴み、耳元で呟く一誠の話は、驚かされた。

 

「お前・・・・・何言ってんだよっ。本気かっ!?」

 

「じゃなきゃ、こんなこと言わない。どっちかがそうしないと、ちーねーちゃんの試合が中止になっちゃう」

 

「だからって、お前・・・・・っ!」

 

「秋兄はちーねーちゃんの足を引っ張る真似はしたくないよね?それは俺も同じ気持ちだ」

 

ナイフとスタンガンというISの前では非力な武器を構え出す一誠。

 

「―――ちーねーちゃんが試合を終わらせるまで、なんとか戦いながら逃げる!」

 

ISを纏う女性へ襲いかかる一誠。巨大な鉄の手が一誠に迫るが片腕で弾き逸らし、女性の露出している太股へナイフを突き立てた。手に伝わる突き刺した肉の感触。激痛に悲鳴を上げる女性。ISはISでしか倒せないという常識は世界共通であるが、相手が並の人間じゃなく、ある程度の身体能力があればISを破壊できなくても露出している部分の体にISではない武器で攻撃すればなんとかなるんじゃないか?そう思ったのは何時だっただろうか。

 

「・・・・・多分、行ける」

 

慢心は油断を作り隙を与えてしまう。一誠は冷静に自分の方へ怒りが向けられていることを察しながら―――。

 

「なんだ、ISを動かせても非力な武器に体を傷付けられちゃうなら女なんて大したことないな(笑)」

 

あからさまに嘲笑して、挑発、相手を煽ることで確実に秋十から一誠へ意識を向けさせる。

そして馬鹿にしながら逃げれば追いかける敵を目の当たりにし、秋十は自分はどうすればいいか、苦悩した末に行動を始めた。

 

「このクソガキがぁっ!」

 

「やっぱりISって速いぃっ!?」

 

兎とチーターの追いかけっこをしている感じで真っ直ぐ走らず、相手の狙いを定めないよう空間を一杯使って逃げ続ける。宙に飛ぶ行為は死に繋がると思い、逃げ回り続けるが

 

ドンッ!

 

「はっ!?」

 

勝手に床が激しく抉った。尻目で見れば、女が片手に巨大な銃を持っていたことを知り、頬を引き攣らせた。

 

「俺を殺す気かっ!?」

 

「半殺しだクソガキ!」

 

相当怒っているらしく、ここには数多くのIS操縦者や警備員がいるにも拘らず、騒ぎを生じさせる行動を始めたのだ。幸い人がいない。巻き込まれる心配は無いが安心はできない。

 

「そろそろ始まる頃だなっ」

 

確証はないが、日本人のモンド・グロッソの優勝の妨害を成功させる為に有力な候補として千冬の家族を狙った犯行かもしれないと推測する一誠は、逃げることを止め戦おうとした途端に目の前がグラリと揺れた。意識が朦朧としていることを自覚し、睡眠薬の効果がこんな時に効いてきたことに舌打ちをした。歯を食いしばり、睡魔に負けんと意識を強く保った矢先。

 

「おらぁっ!」

 

「っ!?」

 

一瞬で近づいてきた女性の拳が一誠に直撃して壁まで吹っ飛び叩きつけられた。凄まじい衝撃は全身に伝わり、体が直ぐに動けなくなった。

 

「く、そっ・・・・・!」

 

「へっ、手こずらせやがって・・・・・。これで任務が達成だ」

 

伸びてくる鉄の手が一誠を暗闇に覆う。

 

「(ごめん・・・・・ちーねーちゃん・・・・・俺、足を引っ張っちゃった・・・・・)」

 

―――♢―――

 

秋十は選手控室へ急いで走って向かっていた。こんなことすればこの後どうなるか分かっている。だが、逃げ続けている一誠と合流して敵を瞬く間に迎撃をすれば決勝戦に出れると確信している秋十が協力を求めたい人物がいるであろう部屋へ辿り着き、扉を開け放った。

 

「千冬姉ぇっ!」

 

全身で息をする弟を目の当たりにした、千冬は目を大きく丸くした。その他にもスタッフやコーチらしき人もいて突然現れた秋十に意識を向け驚きで目を張った。

 

「おい、ここは選手以外立ち入り禁止だ。今すぐ出て行きなさい」

 

「ふざけんなっ!俺は千冬姉に用があるんだ!直ぐに来てくれないと大変なんだよ!」

 

「何を言っているんだ。これから彼女は試合にでなきゃいけない。ほら、出て行きなさい」

 

スタッフに囲まれ、部屋から追い出されそうになるが邪魔だと突き飛ばしたり殴ったりして、

 

「一誠が襲われているんだ!千冬姉じゃなきゃ倒せないんだよ!」

 

「・・・・・どういうことだっ?」

 

ようやく本題を告げた秋十に腰を上げた千冬は真意を問うた。

 

「最初は俺と一誠で襲撃者を倒したけど、今度はISを乗った女が襲いかかって、一誠は俺を守る為に、千冬姉の試合を邪魔しない為に一人で・・・・・っ!」

 

「―――――っ!?」

 

嘘を吐く弟ではない。秋十の様子を見ればおかしいことなど火を見るより明らかだ。弟の身の危険性を訴える弟に姉は動いた。

 

「一誠はどこにいる」

 

「織斑さんっ!?」

 

助けに行く気でいる千冬にスタッフ達は仰天する。

 

「待って下さい!もう試合の時間ですよ!?」

 

「試合の事より私は家族を優先する」

 

「今すぐ警備の者に連絡をして、あなたの弟さんの救助を向かわせますから!」

 

「その警備の者が気付かれずに敵は私の弟達を襲撃した。今更警備の者に任せられると私が思うと?」

 

第二回ISのモンド・グロッソ世界大会の二度目の優勝が懸っている時に事件が発生。

 

「秋十、案内しろ」

 

「―――織斑さん、待って下さい!」

 

別のスタッフが呼び止める。

 

「・・・・・織斑さん宛てに電話が」

 

「・・・・・」

 

こんな時に電話をしてくる相手はいない。しかもこんな時にだ。スタッフへ近づき、奪い取るように電話を掴んで耳元に寄せる。

 

「私だ」

 

秋十とスタッフ達は息を呑んで見守ることしかできない。誰とどんな話を聞かされているのか分からない。

 

「・・・・・お前達の条件は理解した。が、条件がある。弟の声を聞かせろ」

 

犯人からの連絡らしい。千冬は一誠の声を聞く為に要求を出したところ・・・・・どうやら敵は応じてくれたようだ。

 

「一誠・・・・・無事か?・・・・・なんだ。・・・・・ふざけるな一誠っ!お前を・・・・・―――っ」

 

突如、苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべ、電話を叩き壊した千冬に全員驚いた。

 

「ち、千冬姉・・・・・?」

 

「・・・・・一誠は無事だ。犯人は試合を棄権すれば弟を解放すると条件を突き付けてきた」

 

「そんなっ!」

 

「・・・・・だが、一誠は・・・・・最終的に殺されるぐらいなら、私の優勝を臨んで死ぬと言ってきた」

 

「えっ!?」

 

千冬の足を引っ張りたくない。ここへ来る前に一誠は確かにそう言っていた。捕まっても尚、死ぬぐらいなら姉の試合の出場をして優勝を勝ち取って欲しいと願ったようだ。

 

「・・・・・試合に出てくれ、千冬姉」

 

「・・・・・なんだと」

 

秋十からも試合の出場を求められた。兄として家族の命が優先ではないのかと憤慨な気持ちになった。

 

「あいつが体を張ってまで千冬姉の決勝戦の邪魔をしたくなかったんだ。千冬姉が一誠を助けに試合を放棄したら、あいつは絶対に自分を責める」

 

「・・・・・っ」

 

「自分を許せず、一誠は罪悪感を覚えながらずっと生き続ける」

 

その場で秋十はあろうことか土下座までして千冬に懇願した。

 

「頼む千冬姉。一誠の気持ちを汲んで試合に出て欲しい!」

 

「・・・・・」

 

葛藤する千冬の心境は極めて複雑だった。どちらも大事でどちらも大切だ。優先すべきなのはもう分かり切っているのに・・・・・。

 

「織斑さん。もう時間が過ぎてますっ!試合に出てください!」

 

「弟さんの気持ちを応えてあげることがあなたの務めです!さあ早く!」

 

周りから強く催促される中で自分の意志とは関係なく半ば強制的に千冬は―――試合に出された。

 

 

 

「このクソガキがっ!」

 

千冬の決勝戦に現れたことで襲撃者達の思惑は潰れた。身内をさらって試合の棄権をしてもらうこそが狙いだったが、捕えられた一誠の利用価値はもう無くなったに等しい。縛られている一誠に怒りをぶつけるISの操縦者。

 

「テメェがあんなことを言わなきゃ織斑千冬は試合を放棄するはずだったんだよっ!よくも最悪の状況の中でもシスコンっぷりなことを言えるなぁ!?」

 

一方的に殴り、蹴り、仕舞には銃弾をぶっ放す。どれだけ痛みつけられようと、どれだけ体に傷つけられようともまるで本望だったかのように一誠は始終笑みを浮かべ続ける。

 

「・・・・・俺達三兄弟は姉の足を引っ張る真似をするぐらいなら、自己犠牲してでも姉の力になるんだよ。それだけ家族の絆が深いんだ」

 

「はっ、家族の絆?これから死ぬかもしれないお前を助ける家族なんてここには来ないさ。―――お前がそれを自分から立ち切ったんだからよ!」

 

冷たいコンクリートの壁に叩きつけられる。

 

「・・・・・隊長、本部から連絡です。撤退しろと」

 

「ちっ、まだ鬱憤をぶつけ足りないってのによぉ・・・・・!」

 

苛立ちを隠さない女性は一誠に指差し報告をしてきた一人の男に問うた。

 

「おい、こいつはもう用済みでいいな」

 

「はい、人質のことも聞きましたが好きにせよと」

 

「んじゃ、そうさせてもらうわ」

 

男の太股にあるナイフを無造作に掴み取った。

 

「大切な家族を助けた時にはもう死んでいた、そんな弟の死体を見た織斑千冬の反応を見れないのが残念だがな」

 

躊躇いもなく、凶刃が一誠の腹部を刺した。

 

「ぐぁっ・・・・・!」

 

「テメェは死ね」

 

冷酷な死の宣告を告げられる一誠。だが、一誠は何故か死を恐れなかった。千冬は己の願い通りに試合を出場してくれた。死んでも今まで稼いだ金があるから不自由はしないし二人の兄がいる。悲しみを超えて前へ歩いて生きてくれるだろう。二度目の衝撃が体に伝わる。視界に飛び込む心臓がある胸に突き刺さっていた凶刃。

 

「(ああ・・・・・死ぬのか俺・・・・・だけど、悔いはないかな)」

 

強いていえば、再会を望んだ少女と触れ合うことができなくなることが残念に思う。そう、それはまるで・・・・・あの時と同じ状況・・・・・。

 

「(あの時と同じ状況・・・・・?)」

 

また、何か引っ掛かった。生を受けてからずっと気になっていた。赤ん坊の頃から意識はハッキリとしていて、成長するに至って何か急いでいたような感じで異常な成長を遂げ続けていた。心から、魂からそうしたいそうしろと言われたようで・・・・・。

 

ズキッ。

 

「っ・・・・・」

 

突如、頭痛に襲われる。訳が分からない。心臓を突き刺されこれから死のうと言う時に頭痛など有り得ない。

 

ドクンッ。

 

今度は胸の奥底から大きく脈が打ったような感覚を覚えた。そして一誠にとっては信じられないことが起き始めた。頭に直接流れ込んでくる膨大な記憶と知識。それもこれも織斑一誠として生きていた中で記録したものとはすべて一致していない。

 

「ああああああああああああああああああっ!?」

 

処理し切れない記憶と知識。だが、見る度に知る度に懐かしさが込み上げてくるだけでなく、形容し難い何かが腹の奥底から湧き上がり始める。それすら懐かしく、自分の手足のようにあっさりと馴染んでいく。

 

「な、なんだ・・・・・?」

 

女性も一誠の異常に察知していた。目立つ異常と言えば一誠の髪が長く伸びて真紅色に変わる。そして様々な色のオーラが具現化して一誠を包み込む。

 

「このガキの身に・・・・・何が起きているっ!?」

 

動揺する面々に更なる衝撃が襲う。拘束具を強引に引き千切って立ち上がり出す一誠。黒色だったはずの目が金色の垂直のスリット状の猛禽類のような目となって双眸が怪しく煌めき、人の形を崩して異形の姿へと成り変わる。足が逆関節、露出している肌は黒い鱗に覆われ始め、野太くなる腕と鋭利な爪が生え、首が三つに増え蜥蜴のような頭部と変わり、背中に三対六枚の翼が展開する。

 

『―――――ギェアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!』

 

「ひっ!?」

 

人間が突如として化け物になった。隊長にとってはこんな情報は聞いていなく、当惑する一心で部下達に射撃の命令を下す。―――だが、硬い鱗に銃弾が弾かれ、徐に動かす前脚の爪が敵の体を切り裂く。俊敏に長い尾で叩きつけられる他、大きな顎に噛まれ身体が噛み砕かれ真っ二つ。その光景を目の当たりにした隊長は本能的に悟ってしまった。

 

―――殺せない。逆に喰われてしまう。現行兵器を凌駕するISでも敵わないかもしれない。

 

ならば、これから自分はどうすればいいか?決まっている―――。逃げるのみだ。死にたくなければ逃げて隠れて、強者に怯えるしかない。

 

『・・・・・・』

 

逃走をする為にISを展開したところで六つの眼が隊長を捉える。隊長の味方は生死問わず殆ど沈黙されている。

残りはお前だけだ、と伝えているかのようにジッと見つめている化け物に叫んだ。

 

「く、喰われてたまるかぁああああああああっ!」

 

『ギェエエアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』

 

 

第二回モンド・グロッソ世界大会の優勝者は織斑千冬となった。決勝戦の相手アリーシャ・ジョセスターフを打ち負かし、二回目の世界大会優勝者となって栄光と名声を勝ち取った。

 

「・・・・・どうしたブリュンヒルデ。勝ったというのに全然嬉しそうにないのサ」

 

負けた者に対しての態度と表情ではない。薄らとアリーシャ・ジョセスターフは異変に気付いていた。戦っている最中、千冬から鬼気迫る何かを感じるだけでなく、簡単なミスや隙をらしくなく曝したのだ。それでも負かされたのだがやはりおかしいと思う。

 

「・・・・・」

 

すると、千冬が彼女に背を向け歩き出す。その背を見てどこかへ行く雰囲気が伝わってくるので怪訝な思いで口を開いた。

 

「織斑千冬・・・・・どこに行こうと―――」

 

その言葉は千冬の耳には届かず、ISを纏ったまま空の彼方へと飛翔した。どこに一誠が監禁されているのか分からない。だが、千冬は強い味方がいる。

 

『やあやあちーちゃん!世界大会二連覇おめでとう!』

 

「・・・・・束」

 

筱ノ之束から通信が入ってくる。頼もうとは思ってもいなかったのにだ。そして、千冬の心情を察しているかのように束はニコニコと笑みを浮かべながら言葉を発した。

 

『監禁されているいっくんの居場所は束さんが教えてあげちゃいまーす!』

 

「・・・・・」

 

口に出さないが心の中で感謝の念を抱く千冬の目の前に一誠の居場所を知らせるマップが展開した。場所は数キロ先にある廃屋であった。そこに行けば一誠は―――。

 

『・・・・・ねえ、ちーちゃん。いっくんのこと見捨てないで上げてね?』

 

「どういうことだ」

 

『うーんと、直接見た方が良いと思うんだけど・・・・・いっくんはいっくんじゃなくなっちゃったんだ』

 

理解ができない。だが、珍しく束の声音に落ち込んでいるような感じがした。

 

『私はどんないっくんでもいっくんだと受け入れるよ。だからちーちゃん、いっくんのこと見捨てないでね』

 

「・・・・・」

 

『もしも見捨てちゃうなら束さんが貰っちゃうけどね。いっくんは私の可愛い助手さんだから』

 

抜かせ、と束に大切な弟を渡してたまるかと心中で切り捨てた。

 

『ああ、そうそう。なんかドイツから連絡がしつこく送られているんだけどどうするー?内容はいっくんの居場所を教えるってさー?』

 

「・・・・・繋げてくれ。もう既に着いたがな」

 

『律儀だねー』

 

目的の廃屋に辿り着き、千冬は止まらず壁に向かって飛びながらブレードを一瞬で何回も振るい、壁を切り刻んで突破した。

 

「・・・・・っ!?」

 

ドイツ人から一誠の居場所を告げている他所に耳を傾けていない千冬は、目の前の光景に目を疑った。

 

―――辺り一面、肉塊と成り果てた人間が真っ赤な血の海に沈んでいるという地獄絵図。

 

「―――一誠っ!」

 

何が起きてこんな惨劇となったのかわからない。だが、それよりも愛する家族は無事なのか屍を超えながら声を張り上げ探す。一誠もこんな酷い死に方を

 

「・・・・・ちーねーちゃん・・・・・?」

 

「っ!?」

 

一誠の声が聞こえた方へ反射的に身体が動き、躊躇いもなくそこへ近づく。

 

「一誠・・・・・っ!」

 

暗闇の中にぼんやりと一影が見えた。それは一誠なのだと思い、安堵で胸が一杯になった時、千冬の顔が固まった。

 

「・・・・・一誠、なのか?」

 

隅っこで膝を抱え身体を丸くしている、己が知っている一誠とは明らかに変わっていた。髪が真紅の長髪になっていて、感情の色がない瞳は金色で垂直のスリット状、獣の目となっている。そして、両腕や顔に赤い血が濡れていた。とても信じられないが、この惨劇を起こした張本人は・・・・・。

 

「・・・・・お前が、やってのか」

 

「・・・・・ん、たくさん殺した」

 

作り笑いを浮かべ、血に塗れている指を有る場所へと差せば、そこにISを展開したままの女性が下半身と分かれて息絶えていた。

 

生身でIS操縦者の命を奪った。

 

一誠にこれほどの実力があるとは思わなかった。だが、命を奪うやり方も明らかにおかし過ぎる。何か巨大な力で残酷な殺し方をしたとしか考えられない。それを一誠がしたというのだ。潜在能力的なものが、一誠にそうさせたのか、千冬は理解に苦しむ。

 

「・・・・・警察に行かないと駄目だよな。俺、人を殺したんだからさ」

 

人の命を奪った証として赤く染まった自分の手を見つめ自嘲的な笑みを浮かべる一誠。

 

「ごめん、ちーねーちゃん。せっかく大会に出て優勝したのに、人殺しの弟がいたら迷惑だよね」

 

「・・・・・っ」

 

バンッ!

 

ISを装着したまま、一誠の頬を叩いた千冬。叩かれた一誠は思いっきり壁にぶつかったことで、ISを装着したままの状態だと忘れていた千冬は、我に返って直ぐ様ISを解除、後に一誠に近づいた。

 

「だ、大丈夫か・・・・・」

 

「・・・・・痛い」

 

赤く腫れた頬を添える一誠。申し訳ないと思うが心を鬼にする。

 

「誰が迷惑なことか。回りが何と言おうが私は気にしない。気に掛けることすら馬鹿馬鹿しい」

 

寧ろ―――と口を開き言葉を発し続ける。

 

「お前には多大な苦労を掛けさせている私が悪いんだ。そして今回も、私の棄権を促す為にお前が誘拐されるだけでなく、お前の綺麗な手を汚してしまった」

 

一誠の手を優しく包むように掴み、自分の頬へ添えさせる。

 

「・・・・・一誠、お前は私が守って見せる。もうこれ以上お前に負担を掛けさせない」

 

「ちーねーちゃん・・・・・」

 

ツゥーと千冬の頬が冷たい雫で濡れて汚れる。

 

「すまない、すまない一誠・・・・・私のせいで・・・・・すまない・・・・・っ」

 

初めて泣く姿を見せる千冬に一誠は目を丸くする。そして申し訳なく思い、一誠自身も涙を流して千冬を抱き締める。

 

「謝らないでくれよ・・・・これは俺がしたことなんだから・・・・・ちーねーちゃんが泣くことじゃないよ」

 

「馬鹿者が・・・・・お前は背負い過ぎなんだ。少しは、姉にも背負わせろ」

 

「・・・・・嫌だ。男は逞しく生きる生き物なんだ。ちーねーちゃんを幸せにすることだって俺達兄弟の役目なんだ」

 

「・・・・・抜かせ、私の幸せを願うよりもお前達の幸せを願う。早く彼女の一人や二人作れ」

 

「・・・・・俺は無理だ。人を殺したんだから。後、秋兄はともかく夏兄は難しいだろ。鈍感だし」

 

人殺しの男と付き合いたい女はいないだろうと言外する。ISが世界中に発表され、ISは女性でしか操縦できないことから女尊男卑の世界と変わってしまった。だから、そんな世界で犯罪を犯した者と付き合いたい女などいるはずもなく、いたとしたらその女はお人好しを超えた何かだろう。

 

「・・・・・束とあいつの妹なら受け入れてくれると思うぞ」

 

「・・・・・」

 

いるとしても後ろめたさで心から異性と付き合うことはできない。無言を貫く一誠の考えを察したのか、千冬は心の中で呆れる。どうしようもないこととはいえ、何時までも罪悪感に囚われるのではこの先、一誠の為にならない。せめて少しでも和らげなければ一誠はずっと過去の事を引きずる可能性がある。

 

「・・・・・一誠、覚えているか」

 

「ちーねーちゃん?」

 

「私と勝負して、私を負かしたら結婚を前提に付き合って欲しいと。あれは、本気なのか?」

 

随分と昔の話だが、一誠は小さく首を縦に振った。

 

「本で知ったんだ。好きな女の人にどうやって告白するのか。だから、ちーねーちゃんが好きだから」

 

「それは、私を異性として告白をしたのか?」

 

「うん、そうだけど」

 

キッパリと言われて千冬は度肝を抜かれた。そんな素振りや反応など一切していなかったのに姉の事を異性として好きだと断言した一誠に戸惑ってしまう。

 

「・・・・・何でそう思うようになった?」

 

「綺麗でたまに見せてくれる可愛いところ、そんな魅力的な人の特別になりたいと感じたから。そんな気持ちを分かった瞬間、ちーねーちゃんのことを異性として好きなんだって知ったんだ」

 

「他にも」と一誠はまた自嘲的な笑みを浮かべる。

 

「・・・・・分かったことがあったんだ」

 

「分かったこと・・・・・?」

 

「自分でも不思議と疑問を抱いていたんだ。どうして俺は何かに急いで色々と物事を進んでやってきていたのか。どうしてまだ幼かったのに誰よりも早く強くなれたのか」

 

千冬にとって一誠は衝撃的な告白を告げた。

 

「俺・・・・・前世の記憶と身体能力、超能力的な力を受け継いだままこの世界に生まれたんだよちーねーちゃん」

 

「―――っ!?」

 

 

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