インフィニット・ストラトス~前世の記憶を持つ者~(完結) 作:ダーク・シリウス
女性は畏怖の念を抱いた。女性は恐怖をした。眼前の超越者に挑んで己の武器が凄惨なほどボロボロになっても挑み続け、歯牙すら掛けずに敗北した。周囲の建物が崩壊し尽くされようと、その被害が甚大だろうと女性は関係無しに超越者を挑んだ。底知れない相手の天変地異を起こしかねない力、人類が持つことを許されなかった自由の象徴を持つ相手が上回る飛翔。
「君・・・・・何者なの?」
地に沈む己を見下ろす者は異形の六対十二枚の翼、頭に青白い輪っかを浮かしている。
外見は人の姿であり、歳はまだまだ十代にも見える。だと言うのに人とは思えない物を各部分に生やしており今では現代兵器を凌駕しているはずの武器を相手に打ち破った。実力は自分を超えていることはもう明らかだ。このまま命を狩ることも容易いだろう。なぜなら攻撃を仕掛けたのは自分だ。奇跡的な確率で遭遇し、捕縛しようと襲撃したのだ。なのに―――そうしようとしないのだ。目の前の異形は。
口角を吊り上げ、女性の問いを異形は人の形を崩して全長百メートルはある真紅の龍へとなり、ニ対四枚の翼を大きく羽ばたかせ空へ飛び去って雲の向こうへと消えた。
「・・・・・ドラゴン・・・・・ッ!?」
最後に見た女性の瞼に焼きつく生物界の最強種、空想上の生物。そんな危険極まりない生物と戦っていた自分は何と不運な、何と幸運なことであろうか。女性を中心に大きな獣の引っ掻き傷の痕がハッキリと戦場の痕跡が残っていた。それが物語るのはもはや明白しているだろう。
「この世界に存在しているなら・・・・・また出会える時が来るはず。その時こそは・・・・・」
意識を失う直前、女性の中で強い想いが宿った。
―――――それから時が流れ。それから月日が経ち―――。
「綺麗だなー。月から見る地球って」
頭部、胸部、腕部、脚部と体の各部に機械の装甲を装着して地球から三十八万四千四百KMも離れた月に一人佇んでいる少年が絶景と片手に巨大な兎の旗を月面に刺し、月面に描いた巨大なとある女性の顔の他、少年の背後には巨大な石と鉄の塊が創られていて酸素が一切ない宇宙空間での活動を完全にしてみせている少年にプライベート・チャンネルが展開した。
『やぁやぁ、いっくん。調子はどうだい?』
「順調だよ。どこにも問題ない。この通り、束ねーちゃんの顔だって描けるほど宇宙空間の長時間の活動だって可能だった」
『うんうんっ!この天才束さんといっくんと開発した今までのIS―――インフィニット・ストラトスを凌駕する今まで開発してきた中で一番の出来栄えだよー!いやー、魔力って凄いね!機械と魔力を融合したことで宇宙空間の環境でも人間に必要な物を全て補い、人体の影響すら―――』
弾んだ声の上に喋り出したら止まらない女性の声に苦笑を浮かべる少年は真紅の装甲を見下ろす。
束という女性と出会ってから、少年は様々な知識と経験を得て今、面白可笑しく堪能をして満喫している。
『―――って、いっくん。聞いているのかい?』
「聞いているよ。だけど、ここまで機械に魔力を伝達させることができるとは思わなかったぞ。百回以上失敗したのにさ」
『しょうがないよー。この束さんだって未知のエネルギーを手足のごとく扱えるわけ無いもん。でもでも、その胸部にある魔力コアをISのコアの開発の要領で作ってみれば案外できちゃったねー』
「普通、魔力と言うエネルギーを科学者の人間が扱えるようなものではないんだがな」
『そこはほら、束さんだから!でもまあ、そのISは邪道だねー。ISをベースにしているけれど、ISじゃないISだから。467機もあるISの中で唯一のイレギュラーなISだよ。整備だって束さんだけしかできないよそれ』
魔力を持つIS、インフィニット・ストラトス。故に束が言った467機もあるISの中でイレギュラーのISと呼ばれても過言ではない。それは少年自身にも魔力を有しているからなのだ。
「それと、ISって女しか動かすことができないんだろう?俺の場合はどうなんだ?」
『それは束さんも分からないなー。それとそのISは他のISと一緒にしない方がいいよ。ううん、それはもう別次元のISだと思う。創りは同じでも、素材が同じでも、束さん達にとって未知のエネルギーでしか動かすことができないソレはISじゃないね。さっきも言ったようにスペース・ストラトスって呼んだ方が格好いいよ!』
スペース・ストラトス。インフィニット・ストラトスとは異なるパワード・スーツ。少年はソレを装着して宇宙空間にいるのである。元々宇宙空間での活動を想定し、開発されたマルチフォーム・スーツであったが、とある事件によって軍事転用し、今では各国の抑止力の要となってしまっている。
「ま、ISであろうがなかろうが、目標は達成した。そっちに戻るよ。テストも終わったし」
『うんっ!早く戻ってきてねー。クーちゃんがいっくんの帰りを今か今かと待ってソワソワしているからさ。勿論、私も早くいっくんの帰りを待っているからね?』
「ははは、愛されているなー。了解、五分で戻るよ」
大型のドラゴンのような四対八枚の翼型スラスターに魔力を伝わらせ、三十万以上も距離がある地球へ向かって飛翔を始める。
十万kを過ぎた頃には一分が経過し、大気圏を突破し地球に辿り着いた時には三分、凄まじい空気抵抗と熱は完全に遮断、負荷も感じないまま地球に戻ってきた少年は真っ直ぐ大海原に向かって飛び込んだ。
生身の人間では海の中で呼吸はできず、酸素マスクを必要とするがスペース・ストラトスはありとあらゆる環境に耐性を持ち、それこそマグマの中、海の中、嵐の中と過酷な環境の中でも活動できる。深淵の海底に眩い光を照らし、水圧を感じないまま深海にいる深海魚達と遭遇しつつ―――深海一万mに存在する楕円形の要塞型潜水艦へ辿り着いたのだった。
一部だけ光る膜があり、少年はそこへ接近して中へ入ると海水と隔離されている空間だった。
装着していたパワード・スーツを解除。少年の全貌が表に晒され、閉まり切っている扉を開け放った途端。
「おっかえりぃー!」
少年と会話をしていた女性は全身ずぶ濡れの少年へ思いっきり抱きついた。眼の下に隈があり眠たげな印象を与え、胸元が開いたデザインのエプロンドレスと独特のファッションセンス。頭にウサギ耳を連想させる機械を身に付け、少年に対して豊満な胸を押し付けつつ抱きついた女性は科学者の束こと篠ノ之束。
「宇宙からとんぼ返りして深海まで来ちゃったいっくんはもう人を超えてるよ。あ、人じゃなかったね」
「・・・・・というか、離れてくれ。手遅れだけど濡れる」
「だいじょーぶだよー」
自分の服が濡れようがお構いなしに抱き締める。眠たげな印象の表情は柔和に微笑み、少年のことを可愛がっている模様で離れようとはしなかった。そんな彼女に仕方がないと抱きしめ返した。こうすると嬉しそうに笑うことを知ってしまったからだ。
「やっぱり、他の装備を解除すれば速くなる」
「逆に言えば火力が凄いんだけどねー。まるで虫の脱皮だよ」
「例えが何か嫌だぞ」
「―――お帰りなさいませ、一誠様」
束の背後から聞こえる声。背中まで伸びている銀髪に黒い花の髪飾りをし、眼を閉じたワンピースを身に包む少女に少年は束の肩越しから「ただいま、クロエ」と返事をした。
「言われた通り、月面に刺してきたよ。おまけに束ねーちゃんの顔を描いてきた」
月にいた理由と目的、そして頼まれたことを成し遂げてくれた少年の頭を胸元へ抱えながら口を開く束。
「御苦労様!あの旗を刺しておけば束さん達の所有物だって証明できるからねー」
「月に基地でも構えるつもりなのか?それはそれで面白そうだけど」
でしょー?とぴょんと少年―――一誠から離れ、分かってくれて嬉しそうに微笑んだ束はどこかへと一誠と少女の手を掴んでは引っ張って行く。
「それじゃー、いっくんも戻って来た事だし家族水入らずのんびりとお昼をしようっか」
「え、次元の調査は―――」
「また今度!」
OH・・・・・とこれからする予定をすっぽかして寝ようとする束に肩を落とす一誠に少女は申し訳なさそうに見つめるだけだった。束の行動理論は自分勝手、思うがまま、楽しい事、束縛されない自由なのだ。何時も三人で寝る寝室へ赴く最中、銀髪の少女が一時別れ、一誠の為に新聞紙を持ってきてくれた。
「昨日のですが、世界中はあることで注目をしていますよ」
「ふーん、どれどれ」
新聞紙を広げた頃は寝室に辿り着き、川の字で横になっていた。手で使わず新聞紙を宙に浮かせて少女の言う世界が注目している部分を見て復唱する。
「『世界初、唯一ISを纏う男子現る!』・・・・・これか」
「はい、名前は織斑一夏と織斑秋十。束様の御親友、織斑千冬の弟です」
「・・・・・はっ?」
その名は、良く知っている人物達の名前だった
織斑一誠の誘拐事件から―――数年後。
「・・・・・一言言っていいか愚兄共」
「待ってくれ一誠。これは何かの陰謀なんだっ!」
「て言うか今、兄に対して酷いことを言わなかったか一誠」
「誰が喋っていいと言った?」
兄弟仲の順位が逆になってしまったほど三兄弟は成長してしまった。二人の兄が弟の前で正座をして、怒りのオーラを放って腕を組んでいる兄の前に立つ弟がいた。
「二人とも、15歳の年齢なのにどうして道に迷った挙句、ISを起動させちゃうのかなー?ええ?」
「「・・・・・」」
「分からなかったら人に尋ねることすらできない二人の愚兄に俺は凄く悲しいよ。―――よりにもよって他の友達も一緒にだなんてさぁ」
電源が入ったままのテレビに視線を向ければ、『ブリュンヒルデの弟とその同級生がISを動かした!』と今週で一週間連続のニュースで報道されている。
「二人のせいで俺も迷惑しているんですが?」
「「・・・・・すまん」」
主に仕事に関してだと言いたげな一誠に一夏と秋十は委縮する。現在の一誠は天才子役から一変してアイドル、レギュラー番組に何本も出演、映画にも出演して不動の人気を誇って一誠は織斑家の大黒柱と化している。
「二人の小遣い、三分の一まで減らすか」
「「それだけは許してくれっ!お願いしますっ!」」
頭が上がらない兄二人に溜息を零す弟。今日仕事がOFFな為に家で寛ぐつもりでいたが外野が五月蠅くてしょうがない。
「・・・・・二人を生贄に差し出せば静かになるか・・・・・?」
「「お前、俺達の扱いが酷いとは思わないか・・・・・っ!」」
「日頃仕事で大変な俺とつい最近まで学生だった二人の兄、どっちが休息を得るのに必要なのか分からないと言わせないぞ?」
ぐうの音も出ない二人の兄に「冗談はさておき」とテーブルに置いてある弁当を手にした。服装も私服で有名人が表に出るのに変装すらしない一誠は玄関に赴きだす。
「昼食は作ってあるから外には出ないよにな。それと表にいる面倒な輩と接しないように夏兄、秋兄」
「出たくても出れないって」
「お前は俺達の母親か」
お互い軽く言葉を交わし、一誠は二人から姿を消して表に出ようとする。扉をガチャリと開ければ、織斑家の家の前に人、人、人と大勢のマスコミが大挙して集まっていた。
「あっ!織斑一誠君が家から出てきました!手には何やらお弁当のような物を持っています!これからお出掛けになるのでしょうか!」
一人の女性がカメラに向かって若干興奮気味にお茶の間の家庭に伝える。
「織斑君!織斑君コメントお願いします!」
「えーと、ちょっと用事があるんだけどなぁ」
「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、ね!」
「じゃあ、一分ぐらいで。弁当が冷めちゃうからそれ以上は無理なんで」
ヨシッ!と報道陣は心の中でガッツポーズをする。一誠のこうした状況には必ず応じるので、マスコミもメディアも千載一隅のチャンスとばかりここぞと質問をする。
「それじゃ、あなたからの質問は?」
「で、ではっ。女性しか動かせないISを動かした二人の兄に対する気持ちはどうですか?」
「当の二人も驚きを隠せないようで、これからIS学園に通うことになると、色々と大変な思いをすると思います。だって、女学院みたいな学園なので、私生活にも気を使うことがあるでしょうしね。はい、次はそこの人」
「織斑一夏君と織斑秋十君がISを操縦できるということはやっぱり君も操縦できるのかな?」
「うーん、残念がらそれ以前にISと触れる機会は全然ないんで無理だと思うなー。もしも操縦できるなら世界を一周飛んでみたいです。次は美人なお姉さん」
「二人にもコメントをしたいのだけれど駄目かな!」
「あー、それはご遠慮お願いします。さっきも言ったように、自分がISを動かせるとは思ってもみなかったみたいだし、自分でも分からないことを質問されると困惑するのであの兄貴達は」
一分間可能な限りの質問に応え、制限時間が過ぎれば凄まじい跳躍で別の家の屋根の上へ。
「それじゃ、用事があるので失礼させてもらうよー」
アクション映画よろしくみたいに、屋根から屋根へと飛び移って移動する一誠はまるで忍者のようだったと日本滞在の外国人の間で話題になった。
「・・・・・あいつ、身体能力は化け物だろ」
「俺達より絶対あいつのほうが凄いって」
家の中でテレビに映る一誠を見て唖然とする一夏と秋十だった。
「・・・・・人気者は辛いって言葉を考えた人は凄いかな」
街中を歩ければ、有名な人間がそこにいると一人が気付けば、水の波紋のごとく周囲にまで知れ渡り、
「きゃー!織斑くーん!」
「一誠君、握手してください!」
「サインをくださーい!」
「いやん!兵藤君、私を抱き締めてー!」
若い女の子から熟女まで、一誠の魅力に魅かれて集まる。
「ああ、押さないでくれ。可能な限り相手をするから。―――ほら」
「はうっ!」
抱擁を求めた少女が優しく抱きしめられると甘い衝撃が襲って恍惚と表情を浮かべだす。
「ひょ、兵藤君の髪って綺麗だね。どんなシャンプーやコンディショナーを使ってるの?」
「髪に潤いがあるものかな。触ってみるか?歩きながらで」
「い、いいの!?」
思いもしなかった接触に素っ頓狂に声を上げる少女は歩みを止めない一誠の鮮やかな赤い髪を触れた。
「凄い・・・・・さらさらしてる」
「自慢の一つなんだ」
サインをしたり握手をしたりとサービス精神を発揮する一誠の自慢を触れることできた少女は歓喜極まった。
そんなこんなな状態が長く続くも予定通りの電車に乗ることができた一誠は、
「「「「「・・・・・」」」」」
どこにいても落ち付く場は無かったのだった。
「・・・・・ふう、やっと乗り切った。毎度毎度あんな騒ぎじゃ身が保たないぞ」
電車から降りて溜息を零しながら目的地の場所の中を歩く。捻じれた塔のような建造物が見える他、様々な建物も窺える。知っている道なのか、堂々とした歩みを続け、本当の目的の場所へ近づく一誠の前に
「また来たか一誠」
黒いスーツにタイトスカート、すらりとした長身、長い黒髪を一つに結っている女性が一誠を出迎えた。女性の背後には学園らしき建造物があって、女性は教師として勤めている様子だった。
「わざわざ弁当を作ってここまでこなくてもいい。お互い面倒だろうが」
「いいじゃん。俺がそうしたいだけだからさ。それにこうでもしないとちーねーちゃんとは会えないし」
「・・・・・まったく」
姉離れができそうにない弟に表情は呆れ顔だが、その反面では満更でもなく嬉しく思っていた。
千冬に弁当を渡し受け取ってもらえば用が済んだとばかり踵を返して背を向ける一誠。
「それじゃ、また何時会えるか分からないけどお互い元気でいようなちーねーちゃん」
お互い仕事を持つ者同士、休日が重なる日はあまりないことを二人は分かっている。一誠が千冬に弁当を私に来る日は休日でしかできない。だから一誠は千冬と合う口実を作る為に弁当を用意し、―――IS学園まで足を運ぶのだ。千冬もそれを分かってて昼食の時間を利用して弁当を持ってくる一誠とわざわざ必要ないと言いつつも会っているのだった。
「・・・・・」
中々会えない弟の背中を見つめる千冬。手の中にある弁当の重みよりも一誠が抱えている重みとどっちがあるのか秤で比べるまでもない。
「・・・・・待て」
いきなり襟を掴まれ、そのまま千冬に引っ張られる形で一誠はIS学園へと思いもしない形で―――体験入学をすることとなった。
―――♢―――
緑髪に緑目、黄色い本来のサイズより大きいワンピースを着ている眼鏡を掛けた女性の教員、山田真耶は今、この場にいるはずのない、関係者ですら許可なく入ることすら禁じられているこの学園内に教員としての先輩が一人の男と食事をしている現場に出くわしてしまった。
「あ、あのぉ・・・・・織斑先生?その子は一体・・・・・」
「私の弟です。半日だけ体験入学をさせるので気にせずにいて欲しい」
「・・・・・」
弟と紹介された男の顔は困惑の表情しか浮かんでいない。きっと、理由も聞かされずここに連れて来られたのだろう。
「学園の上層部の方にはなんて説明を?」
「IS学園の広告塔となってもらうべく、IS学園の良さを知ってもらうには直接目と耳で確かめてもらうしかないと学園に招き入れた」
広告塔など必要ないのだが、もっともそれらしいことを考える千冬には苦笑いを浮かべるしかなかった真耶。
「えっと・・・・・織斑一誠です」
「あ、織斑先生の後輩の山田真耶です。あの有名な織斑一誠君とこうして出会えるなんて嬉しいですよ」
因みに場所は大食堂。IS学園に通う生徒は女だけであり、食堂にいる男の一誠に向けられる視線は数多く、
『ちょっとっ!あれって一誠君じゃないの!?』
『な、何でこの学園に織斑先生と食事をっ!?』
『凄い!テレビや雑誌で見るより格好いいじゃない!』
注目を浴びるのはあっという間だった。
「・・・・・あの二人、絶対に大変な思いをする」
「あの二人・・・・・?」
誰の事を差して言っているのだろうと小首を傾げる童顔の麻耶に千冬が説明した。
「これから入学してくる私の弟の織斑一夏と織斑秋十のことです。一誠は三男ですので」
「え、そうだったんですか。凄いですね三人とも有名人だなんて、織斑先生も鼻が高いでしょう。自慢の弟さんで」
純粋に褒める麻耶に無言で弁当を食べる千冬が照れていると察して、一誠は微笑んだ。
「えっと先生。姉は教員としてどうですか?何分、職業の事を教えてくれないんで分からないんですよ」
「とても凛々しくて頼もしく、生徒の皆から尊敬と憧れを抱かれていますよ。人気も凄く高いです」
「へぇー、そうだったんだ」
教師を務める千冬の事を聞けて問題ないと、逆に生徒達から慕われていると知って安心した表情、笑みを浮かべた。
「ん、ここでもやっぱり姉は俺達の兄弟の誇らしい姉で嬉しいや」
「・・・・いいから食え」
何時もより口数が少なく、特に一誠から褒められると無表情で貫こうとする感じが伝わってくる千冬。
麻耶は微笑ましく二人の邪魔をしないよう共に食事をしてさり気なく姉と弟に質問をする。
「織斑先生、やっぱり二人のお兄さんがISを起動させたのなら一誠君もISを動かせるのでは?」
「・・・・・さあな」
「仮に動かせてもIS学園に通う気はないなぁ」
「え、何でですか?」
「飛び級って便利ですよね」
―――既に一誠は高校を卒業している身で、いち早く職に就いているのだった。
「・・・・・私の弟は既に高校を卒業している。だから今は仕事に専念できる環境なのだ山田君」
「・・・・・あはは、そ、そうだったんですか・・・・・」
「故にIS学園に通いながら仕事なんてしたくないから両立とか考えてもない。仕事が手一杯だし」
とっくに飛び級に寄って高校を卒業していたことに驚きと苦笑いするが、一誠の仕事の多忙さが薄らと察する麻耶は労いの言葉を心の中で呟いた。
「・・・・・山田先生」
「はい?」
千冬が手話のように手で会話を始めると翻訳できた麻耶は緑の目を丸くした。一誠がそれはどんな意味なのかまだ理解できていなかった。
それから千冬の教師としての立ち振る舞いを担当の教室の後ろから見ることができ、終始興味津々で眺める一誠は思った。
―――狼の群れに放り込まれる四匹の羊が瞼の裏に浮かび上がる。
帰ったらささやかな応援の言葉を掛けよう。この美少女しかいないクラスに入れさせられる二人の兄に。
「諸君。今日までよく私の授業についてくれた。君達は二年生となるが、それは必然的にこれまで以上の知識と経験を否が応でも身に付けることになる意味も含まれる。IS学園の生徒として来たお前達から弱音が聞くことがないことに願うばかりだ」
静かに耳を傾ける一誠が聞こえる千冬の言葉は厳しくも有りながら一年間共に過ごした生徒への思いやりが籠っていることを感じ取った。
「―――話はここまでにして授業を終えようか」
そう宣言を切りだす直後、チャイムが鳴りだした。生徒達は一斉に立ち上がって千冬に対して敬意を表す挨拶をする。二度と会えないわけではないが、もう千冬の指導を受けれなくなる。今日まで指導をしてくれた恩師に感謝の念も放って腰を折って頭を垂らす女子生徒一同。
「おいおい、まだそんな事をするのは早いぞ。私からのサプライズを受け取ってからにしてくれ」
・・・・・サプライズ?不思議と満ちた目で姉に視線を向ける一誠だったが、視線を向けている姉の顔に悪戯を思い付いた子供のような笑みを浮かぶのを見てしまった。
「今日の為―――ではないが、ここにテレビで有名なアイドルがいる。私の権限でお前達、時間の許す限り接して良いぞ」
「・・・・・はい?」
何を言っているのか、一誠も女子達も最初は理解できなかったものの、千冬の発言を脳内で復唱して―――。
数秒後、教室に色めき立つ女子の声と、
「ちょっと待てちーね―――うおぉっ!?」
抗議とばかり異論を唱えようとする一誠だが、風を切る音と共に四角い物体が飛んできた気配を察知して真剣白刃取りの構えで防ぐ。これは―――と思いながら確認すると、出席簿であった。
「危ないだろうちーねーちゃんっ!アイドルの顔に傷つけたら仕事ができなくなるだろうがっ!それ以前に教師の道具を凶器扱いするな!」
「ここでは織斑先生と呼べ馬鹿者が」
「何か理不尽だっ!」
出席簿を躊躇いもなく投げ返されても千冬は余裕で片手だけ受け取った風に防ぐ。
「ち、ちーねーちゃん・・・・・?」
「あの超有名なアイドルと織斑先生の関係って、もしかして姉弟?」
「千冬様、そんな可愛らしい名前で呼ばれていただなんて・・・・・」
「というか、織斑先生と織斑君の家って実は凄い?」
教室にざわめきが立つ他所にパンッ!と凄まじい破裂音が発生した。その発信源へ振り向くと。
「言っておくが、今の言動を上級生やこれからできる下級生に伝えるなよ?伝えたらその瞬間―――どうなるか分かっているだろうな小娘共」
世界最強のIS乗りから放たれるプレッシャーは鬼が逃げ出すんじゃないかと思うぐらい怖ろしかったと後に一人の女子が漏らした。