インフィニット・ストラトス~前世の記憶を持つ者~(完結)   作:ダーク・シリウス

5 / 18
悪の組織&訪問

「なあ、秋十よ。一誠も学園に来るかなー」

 

「来ないじゃないか?あいつはあいつで忙しいし、ここ(がくえん)に来たら仕事どころじゃないだろ」

 

「だよなー。何故だか携帯が繋がらん。どうなっているやら」

 

「多忙のあまりに出れないんじゃないか?というか・・・・・一誠の言う通り、ここは肩身が狭い」

 

一夏と秋十の二人が学園に来てからそれなりに日が経つ。幼馴染と再会を果たし、クラスの代表として勝負をすることになったりと無人機の襲来事件に巻き込まれたりと色々なことが起きて、大変な目に遭っていた。

それ以降、平和の学園生活を満喫している。

 

「一夏さん秋十さん。どんな話をされておられますの?」

 

金髪縦ロール、碧眼に優雅な立ち振る舞いをする女子生徒はどこかの貴族の出身の者として窺わせる。

左耳に蒼いイヤリングを付けているが、それは待機状態のIS。話しかけられた二人は何とでもなさそうに答える。

 

「ああ、弟のことを話していたんだ」

 

「弟、ですか?」

 

「ほら、五人目の男の操縦者」

 

「・・・・・ああ、あの方。ですが、お二人の弟さんは学園に来られませんわね?どうしてですの?」

 

世界中に新たな男の操縦者の発見は知れ渡っている。彼の有名人が五人目の男の操縦者と知った時の生徒達の反応は凄まじかったと、二人の兄は未だに鮮明に覚えている。ここに来ない理由は、一夏と秋十は顔を見合わせてから説明する。

 

「あいつ、小さい頃から大人に交じって仕事をしてるんだ。俺達家族の為にさ」

 

「今でも仕事をしていてな。しかも、飛び級をしてとっくの昔に高校を卒業してるから仕事に専念」

 

「「だからこそ、俺達は頭が上がらないんだよなぁ・・・・・」」

 

姉の千冬同様に学校を通いながら頑張って仕事をしている一誠の苦労を考えれば、一時期バイトをしていた二人だが千冬以上に稼ぎが多い一誠に劣り、大黒柱のような存在として千冬ですら場合によって逆らえないのだった。

 

「そうですの・・・・・そう、小さい頃から」

 

意味深に二人の話を聞いた女子生徒は呟いた。

 

「セシリア?」

 

「いえ、とても頑張っている弟さんですわねと、そう思っていましたわ」

 

興味が湧いた、と付け加えずにただ小さくても綺麗に笑う。

 

「やはりご兄弟でもありますし、弟さんも来てほしいのですか?」

 

セシリアの質問に一夏は「うーん」と悩む仕草をする。

 

「来てほしいと思うが、そうでもないとも思える」

 

「はい?どういうことですの一夏さん」

 

「どっちでもいいってことさ。一誠には仕事があるし、無理して学園に来なくてもいいと思っている」

 

「そう、それだ」

 

秋十のフォローに称賛する一夏。生涯の別れというわけでもないので、一誠の気持ちに尊重し、弟が元気でいてくれればそれで十分だと、秋十がそう考えているだろう一夏に助け船を出した。

 

「ですけれど、弟さんもISを動かせる事実は変わりないですし。このままIS学園に来なければどこかの企業で働くか、政府の保護下になさられるかもしれませんわよ?」

 

「「ないない」」

 

「・・・・・はい?」

 

兄弟のコンビネーションに半ば翻弄されそうになるセシリア。

 

「一誠の奴はあんまり大人の指図に受けない奴なんだ」

 

「千冬姉は論外だ。家族だからなぁ」

 

「しかも、理不尽なことをされればあいつは頑固になる」

 

「しかも、自分が必要で周りの為になること以外、興味を持たないわけだから」

 

「「自分の周辺に何が起きようと我が道を貫く弟だということを、俺達は分かっているからなぁ」」

 

 

 

「クシュンッ!」

 

撮影中でありながら不意を突かれたようにくしゃみをしてしまい、NGとなってしまった。周囲の仕事仲間の人達から苦笑いと微笑ましい視線を感じ気恥ずかしい思いをする。

 

「珍しいね。撮影中に一誠君が失敗するなんて。もしかして風邪?」

 

「いや・・・・・多分誰かが俺をネタに話していると思う」

 

「あはは、君も人気者だからねー。その気持ちはよく分かるよ」

 

人気俳優の男性と会話を中断して撮影の実行を臨む。因みに撮影内容は―――ヒーロー番組である。

 

「うおおおっ!ドラゴンキィーック!」

 

「「「「「うぎゃああああああああああっ!」」」」」

 

 

「はぁーい、お疲れー!道具を片付けて撤収ぅー!」

 

無事に最後まで撮影が終われば監督の声が撮影場に響き渡って、わらわらと自分の仕事を始める他所にマネージャーが手帳を片手に一誠へ近づく。

 

「一誠君一誠君。次の仕事はグルメリポートの番組のお仕事だよ。遠いけど京都の方だから直ぐに車に乗らないと」

 

「ん、わかった。皆さん、お疲れ様でしたー!」

 

銀髪の綺麗なマネージャーと車に乗り込み、次の仕事場へと移動をする。運転はマネージャーがして、後部座席に

座る一誠はのんびりと休憩。

 

「一杯仕事をして偉いねー。一誠君のマネージャーとして働くようになってもう十年が経つよ」

 

「十年・・・・・何時の間にかそんなに長く付き合いをしていたんだなぁ」

 

「も、もうやだっ。一誠君ったら、付き合いをしていたって・・・・・」

 

何か変に受け取ってしまったマネージャーの運転は大丈夫なのかと心配になった一誠。だが、照れているように聞こえるものの、実際に微笑んでいるマネージャーを見て言葉とは裏腹な反応であったこと安心した。

 

「霧生マネージャーは、誰かと付き合ったりしないの?」

 

「私は仕事一筋で生きることを決めた女だよ?誰かと付き合うなんてことはまだないかなー」

 

「ふーん、じゃあ、好きなタイプは?」

 

「一誠君みたいな子かな?」

 

「俺かいっ!」

 

「おー、鋭い突っ込みだね!お笑いの道もアリかなぁ~?」

 

「いや、もうこれ以上は勘弁。今でも寝る時間が少なさ過ぎて」

 

雑談のように会話の花を咲かせ、目的の仕事場までそれは続く。車の大きさに比例して広い上に空調の利いた車内、二人だけの会話の他にも最近販売された音楽は退屈さを殺す。

 

「今回の食べる店先のメニューは?」

 

「あのブラックホールと一緒に大食いイベントをするお仕事だから、メニューの方はまだ分からないなぁ」

 

「おおう・・・・・あの人とか」

 

「うん。そうだよっと話し合っている内にもう着いたよ」

 

車はマネージャーの手足で停車し、一誠と一緒に降りる。仕事場に直接停車していた訳ではなく、パーキングエリアで停められた車から離れ移動をする際、

 

「あ、織斑一誠君だっ!」

 

「キャー!一誠く~ん!」

 

有名人の闊歩に人々は気付かない筈もなく、早速群がるファン達。

 

「人気者は辛いですね」

 

「はははは・・・・・」

 

 

同時刻。携帯でとある生中継の番組を見て食事をしている女子生徒がいた。艶のある長い黒髪をポニーテールに緑色のリボンで結い上げ、番組を見ている目付きは日本刀を思わせる鋭さだが、少女にとっては瞬きすら惜しいと真剣に見ているだけであって、そんな少女を見ている女子達からすれば近寄りがたい雰囲気を醸し出しているのだった。

 

「・・・・・一誠」

 

ブラックホールと異名を持つ少女の隣で大盛りの料理の味に感想を言いながら食べる仕事をしている少年を見て、モヤモヤと心は穏やかではなかった。仕事でそうしているだけであるのに、一緒に食べている少女と会話を経て笑う一誠に苛立ちが覚える。

 

「一誠め、鼻の下を垂らしおって・・・・・ッ」

 

当の本人が聞けば、「アホか」と一蹴するだろう。そんな少女の想いを露知らない一誠は完食して次の店へと移動している。

 

『ねね、一誠君は今会ってみたい人っている?』

 

『そりゃあいるさ』

 

『へぇ~、どんな人?』

 

『そうだな。家族は会いに行こうとすれば会いに行けれるから論外として・・・・・女の子の幼馴染かな』

 

ドキッ!と心臓が激しく脈を打って熱くなる顔を自覚しながら何故か緊張感を覚えた。

 

『女の子の幼馴染?』

 

『ああ、今年で六年目だけど家の事情でどこかに引っ越しちゃって会っていないんだ。多分、IS学園に通ってると思う』

 

そうだぞ一誠。私はここにいる。なのにどうしてお前はそこにいるのだ。お前もISを動かせるならばここに来るべきではないのか。

 

少女の恋焦がれる想いを一蹴する言葉が一誠の口から出てくる。

 

『そうなの?じゃあ、一誠君もIS学園に通えば会えるよね』

 

『いや、絶対にIS学園に通いたくないな。飛び級で高校も卒業したのに何でまた高校生活を送らないといけないんだって話だよ』

 

ガーンッ!とショックで気分も気持ちも奈落の底に落ちた少女。

 

『でも、ISを動かすことができる五人目の男としていろんな人達が注目していると思うよ?』

 

『だろうな。でも、俺の中で優先順位が違うんだ。ISに関わると碌なことが起きないかもしれない。別にISが嫌いわけじゃないけどさ。俺、人に命令されるのが好きじゃないんだ』

 

『なるなる。一誠君は自由に生きたいんだね?』

 

『ん、そうだな。だから政府に保護を求める気もないし応じる気もない。―――知らないだろ?俺、ここ最近しつこく政府に付き纏われて話し合いの他にも実力行使だとばかり誘拐やISでの武力という圧力を掛けられたんだ。最近じゃあとある地域での一時封鎖があったんだけど。あれ、俺を力尽くでも保護をしようとしていた政府の思惑だったんだ』

 

その衝撃的な発言は後に日本政府に対して批判が殺到、ネットの世界では爆発的に炎上を起こす。

 

『そ、そうなの?』

 

『嘘じゃないけど、まあ、自己判断でよろしく。この番組を見ている人達にもな?』

 

「・・・・・」

 

少女にとっても一誠の発言は他人事のように聞き捨てることはできなかった。一誠も一誠で大変な思いをしていることを知り、何とも言えない気分となる。

 

『んで、話を戻させてもらうが。その幼馴染は剣道をしていてな。とても強くて試合をすると楽しいんだよ』

 

『どっちが勝つの?』

 

『フハハハッ!百回以上試合して全部俺が勝った!』

 

ドヤ顔で胸を張る一誠に対して対抗心を燃やす。―――久々に剣道部に顔を出して部長に稽古を付き合ってもらおうか等々と。

 

『そんでなぁ?一回だけ何でも従わせる権利を得た際に、猫の着ぐるみのようなパジャマを着させたんだ。これがまあ、可愛くて一晩中抱きしめながら寝てたよ』

 

『ほほう。可愛い物好きなんだね』

 

『おう。可愛いは正義だ!―――おっ、あれは』

 

一誠が見つけた先にはグルメ番組とは関係ない店であった。俗に言うオタクが入りそうな店である。その店の表に飾られている商品を見つけ、

 

『すいませーん。これ売って下さーい』

 

『ちょ、一誠くーん!?』

 

なんと自腹で買いに行ってしまったのだった。少女はその商品を見て悟った。再会した際にアレを渡されるだろう・・・・・と。しかし、この番組の視聴率は思いのほか高く、主に一誠の言動が楽しく見れると言う視聴者が多い。

 

『一誠君・・・・・それ、どうするの?』

 

『無論、幼馴染に来てもらうんだ。多分、このぐらいの身長にまで成長しているかもしれないしな』

 

『嫌がったらどうするの?』

 

『うーん。俺が着るしかないのかなー』

 

『あははっ。面白いね。実際に来てみたら?』

 

その何気のない発言に破天荒な行動をするとは誰も思いもしなかった。

 

『そうだな。面白半分に着てみるとするか』

 

『・・・・・えっ?』

 

―――一分後。

 

街中で歩く黒猫が突如として現れた。

 

『こんなことあろうかと、俺の分も買って良かったニャン♪』

 

『ほ、本当に着ちゃうんだ・・・・・冗談だったのに』

 

『普段できないことをやってみたくならない?今の俺はその気分ニャン』

 

『・・・・・ぷふっ』

 

語尾にニャンと言い始める一誠に笑ってしまう共演者同様、見ている少女も笑うのに堪えていた。

テレビだからこそできる言動だが、プライベートで実際にされて隣で歩く人にとっては恥ずかしい思いだろう。しかし、そんな一誠といたいというファンは大勢いるのである。

 

『一誠君と一緒にいると何か落ち付くね?良心地が良いというか何というか』

 

『おいおい、俺に惚れると火傷じゃ済まないニャンよ?』

 

『あはっ。じゃあ、火傷をしない程度のお付き合いをこれからもして貰っちゃおうかなー』

 

『だったら友達になってくれないか?今、番組に関係なく個人的に友達百人できるかな?ってのを密かに挑戦中なんだ』

 

『そんなことをしているんだ一誠君って。うん、いいよ?友達になってあげるね』

 

番組中でありながら赤外線でメルアドと電話番号をし合う二人。

 

『そういえば、一番目の友達って誰なの?』

 

『うん?決まってるだろう。最初の友達は俺の幼馴染であり―――かの有名な天才科学者にして博士、篠ノ之束の妹の篠ノ之箒だ』

 

『・・・・・マジ?』

 

本当だ、と少女は一人でドヤ顔を浮かべる。―――その一誠の幼馴染であるのが今、一誠の番組を見ている少女こそが篠ノ之箒なのだ。

 

『因みに、小さい頃だけど篠ノ之束の助手として作業を手伝っていた時期もあったんだ』

 

『じゃあ、重要な作業も手伝っていたこともあるの?』

 

『やー、そういうのは流石に見ていた方だな。今でも作り方は覚えているけど、あれは筱ノ之束本人しか作れないさ。特にISのコアは』

 

『・・・・・それ、めっちゃ重要じゃない?』

 

『そう?作れないから別に重要でもないじゃないか?見ていたと言っても、作り方を教えろと言われたら無理だな。小学校の頃だった上にISコアを作る技術と道具、材料なんて全然分からないんだ。俺がしていたと言えば装備の開発と整備、調整といった方の技術が主だった』

 

お前は私の知らないところで何をしていたんだ。箒は怒りが籠った突っ込みを今すぐ生の一誠にぶつけたかったが無理な為、物に八つ当たりをすることにした。

 

『じゃ、じゃあ・・・・・筱ノ之博士と今も会っているの?』

 

『いや、姿を暗ましてから全然会ってないな。たまに連絡程度ならしている方だけど』

 

『・・・・・一誠君、絶対に狙われるってそれ』

 

『狙ってくるなら大歓迎だな。迎撃するだけだし』

 

止めろバカ、そこは逃げろ。その思いは箒ではなく、同じく別の場所で見ていた一誠の一人の家族の心の中の呟きだった。

 

『さてさて。話しはここまでにして本来の仕事である大食い挑戦に戻ろっか。丁度目的の店に着いたし』

 

と、朗らかに言いだす一誠に共演者も気持ちを変えて本来の仕事に臨もうとする姿勢で店の中に入る。

 

―――♢―――

 

そんな一誠の仕事は終わり、家に帰る―――ことはせず、近くのホテルで一日過ごすことを決めた。またあんな騒動を起こされて近所の住民達に迷惑を掛けさせるわけにはいかないと仕事として来ていた京都の高級ホテルに向かった。雅の町を一望できるホテルに自腹で二人分の部屋を借りたのだが、

 

「ごめんね一誠君。ちょっと仕事の打ち合わせをしなくちゃいけないから先に食べててくれる?」

 

とのことで、マネージャーにそう言われ一人高級ホテルの中にある食堂で食べることにした一誠の食事中にある出来事が起きた。

 

「こんばんわ織斑一誠君。まさかこんなところで会えるなんて嬉しい限りだわ」

 

豊かな金髪に赤いドレスで豊満な体を包む綺麗な外人女性との接触。明らかに普通の、ただのセレブではないことを本能的に察し、演技をすることにした。

 

「・・・・・どちら様で?」

 

「スコール・ミューゼル。以後お見知りおきを、織斑一誠君」

 

相席いいかしら?との彼女の要望に了承して、テーブルを挟む形で座るスコールとの会話が始まる。

 

「ISの操縦者か何かか?」

 

「あら、どうしてそう思うのかしら?」

 

「自信に満ちた顔と無駄のない身のこなし。というか隙を窺わせないから、ISの操縦者に関わらず軍と関わっているんじゃないかなーって思っている」

 

座らせて開口一番に推測する一誠に対して、意味深な笑みを浮かべるスコール。

 

「出会った瞬間に気付くなんて意外と鋭いのね。仕事柄の影響?」

 

「いや、俺の姉もそうだったし」

 

「ふふっ。そういうこと・・・・・」

 

少しの動きと表情で大人の裏の事情を把握できてしまう一誠の才能は、姉である千冬で通じて得たものだった。

相手がISの操縦者であるということはスコールはどこかの外国の代表か候補生なのだろう。また面倒な・・・・・と心中溜息を零す一誠に人を魅了させるではないかと艶笑を浮かべるスコールの口が開く。

 

「あなた、IS学園や政府の庇護も望んでいないようだけれどどうしてなのかしら?」

 

「どうしても何も、俺は高校を飛び級で卒業したから高校に通う理由もないぞ。それに俺自身が望んでいるわけじゃないのに一方的に押し付けられるのは嫌いでね。反抗的になっているだけだ。所謂思春期ってやつ?」

 

「けれど、君を狙う悪い大人が近くにいるかもしれないわよ?」

 

「・・・・・例えば、あんな人とか?」

 

一誠の指差す方へ視線を向ければ、視線だけで人を殺しそうな睨みを向けてくる亜麻色の長髪の女性がいた。

離れた場所で座っているのだが、否が応でも殺意が籠った視線に気づかない一誠ではなかった。

 

「あれ、スコールの仲間だろう。すげー睨まれているから誰でも気付く」

 

「・・・・・ええ、まあ」

 

自分が男と接触するだけであんな反応をするとは、と今後の行動に支障が出るかもしれない危険性を危ぶむ。

一誠の促し、「彼女のところに戻れば?このままだと暴れかねない」との言葉でスコールは受け入れる。

 

「また、会いましょう?」

 

スッと何かが書かれた紙を去り際に置いて離れるスコールと擦れ違うようにマネージャーが近づいてきた。

 

「今の人、誰だったの?」

 

「俺のファンみたいな人、かな」

 

見知らぬ美人のお姉さんに誘惑されてはならない。幼い頃からそう千冬から言いつけられた一誠はそう言うしかなかった。名前しか知らないのでマネージャーに納得してくれる説明をするのだがその日の深夜。

 

「・・・・・何時の間に俺は拉致されたんだ」

 

手足が縛られ、椅子に座らされた状態で目が覚めた一誠。しかも拉致した相手が目の前にいるときた。

 

「また会えたわね織斑一誠君」

 

「・・・・・」

 

スコール・ミューゼルの他に亜麻色の髪の女性が揃って一誠と対面する位置で座っていた。周囲に視線を配れば、どこかの倉庫らしい。証明が点いているので建造物の構造を見れば何となく把握できる。

 

「寝ている間に狙われただなんて・・・・・気付く方が無理だろう」

 

「うふふ、可愛かったわよ?あなたの寝顔は」

 

「・・・・・で、俺に何を求めるんだよ。誘拐してまでするほどのことなんだろう?」

 

男の寝顔を見ても何が良いのだろうかと思いながら問いだたす一誠を、スコールは好奇心が孕んだ瞳で口を開く。

 

「本題に入る前に聞きたいことがあるの。これは私達にとって今でも分からないことで疑問が尽きないの」

 

「・・・・・?」

 

「第二回モンド・グロッソ。君は何者かに誘拐された。―――覚えているわね?」

 

心臓の鼓動が跳ね上がるほど脈を打ち、一誠の心情を表すように目が大きく見開いた。一誠の反応に心当たりがあると察して、質問を続ける。

 

「その中にISもいた筈なのだけれど、織斑千冬が来る前に何者かによって殺された。あなたがまだ捕まっていた時によ?」

 

「・・・・・どうして今さらそんなことを聞く」

 

「あなたしか知らない筈のことを聞く理由も知りたい?」

 

スコールを見る目が変わり、興味をそそらせることを言う彼女の口からとんでもない言葉が出てきた。

 

「織斑一誠を誘拐して織斑千冬の試合放棄を促したのは、某国から多額の大金で依頼を受けた私達の組織なのだと言えばどうかしら?」

 

「―――――っ!?」

 

あの誘拐犯達の元凶は裏の組織。その組織の一員が目の前の二人。

 

「まだISを動かせる男として世間に広まっていない時期。そして事前に得た情報では赤い髪と金色の瞳の少年ではなかった。あの時の誘拐時にあなたが何かしらの劇的な変化を遂げてそうなったのかしら?」

 

「・・・・・」

 

「沈黙は肯定と受け取るけど、教えてくれないかしら?あなたの秘密を」

 

ISを持たぬISを動かすことが可能な男。抵抗できる力を持っていないだろうけど、油断はしないスコールの問いに一誠は沈黙を貫き続ける。予想していたのか、そんな一誠に本題の話に変えた。

 

「まあ、言いたくないならいいわ。これから時間がたっぷりあるからゆっくりと聞きましょう。本題に入るけど・・・・・織斑一誠君。私達の仲間にならないかしら?」

 

「・・・・・仲間?」

 

訝しむ少年に対してスコールは首を縦に振った。

 

「もう分かっているだろうけど。あなたは、あなた達男の操縦者は女性しか動かせない破壊兵器を手足のように動かせるイレギュラー。当然国や政府はISを動かせる秘密を無自覚に、無意識に抱えているかもしれない五人の男性をどんな手を使ってでも、喉から手が出るほど欲する人材、研究対象。秘密を明かすことが可能になれば、世界のパワーバランスが変わるかもしれないし女尊男卑から男尊女卑と再び戻るかもしれない」

 

「・・・・・」

 

「世界を自分の手で変えたいと思いたいなら私達―――亡国機業(ファントム・タスク)の一員となり、仲間に成りましょう?優遇は期待してもいいわ。あなたの望みを叶えてあげる」

 

スコールからの勧誘。一誠は眉間に皺を寄せて一言漏らす。

 

「面倒くさいから断る」

 

案の定の答えが返ってきた。表情は変えず、「どうしても?」と訊ねた。

 

「うん、わざわざ悪役になる理由もないし世界がどうなろうと知ったことでもない」

 

「正義の味方とは思えない発言ね」

 

「俺が正義のヒーローを望んでいると思うか?寧ろ、ダークヒーローの方が好きなほうだ」

 

椅子と直接拘束されていないが、縛られたまま立ち上がる一誠にスコールは静かに様子を見守る姿勢を崩さない。

 

「帰らせてもらうよ。明日も仕事があるからさ」

 

「あら、釣れないわね。まだいてもらわないと困るわ。どうしてもというなら・・・・・」

 

意味深に指を弾くスコールに応じて亜麻色の髪の女性が動く。

 

「その体だけ置いて死んでくれないかしら?」

 

スコールの横でバンッ!と発砲音が鳴り響く。数秒もしない内に額に穴が開き、絶命する光景は日を見るより明らかな未来を見据え―――。

 

「よっと」

 

「・・・・・」

 

軽く体をよじらせて銃弾を躱す一誠の未来は見据えていなかったスコール。片手に銃を持つ女性も唖然と目を丸くする。

 

「あはは、初めてだけど銃弾って遅く見えるんだな」

 

「っ!ふざけんじゃねぇーぞガキッ!」

 

連続で銃弾をぶっ放されても、例え気持ち悪くクネクネとした動きで銃弾を躱し切る一誠に驚かずにはいられない。

全ての銃弾が撃ちなくなってしまうと不敵な笑みでドヤ顔を浮かべる一誠が、

 

「下手くそ。身動きできない相手に掠りもしないなんてどんだけ命中率が低いんだ?」

 

嘲笑う。亜麻色の髪の女性に対して千冬達が見たことのない馬鹿にした言動をする。

 

「こ、このっ。クソガキがぁあああああっ!」

 

完全にブチキレた亜麻色の髪の女性の体から閃光が迸る。その光はISの展開時に発する瞬間であり、一誠の頬が引き攣って冷や汗を流し始める。

 

「ガキ、ISの怖さを教えてやるぜぇっ!」

 

亜麻色の髪の女性は蜘蛛を連想させる大型のISを纏い、有利に立つ強者の愉悦感に浸る。毒のようにジワジワと恐怖を植え付け、恐れ戦くか、戦慄する相手の顔を見ながら嬲り殺す気でいる相手に一誠は引き攣った笑みで話し掛けた。

 

「いや、遠慮させてもらってもいいかなぁー?なんて・・・・・」

 

一誠の話を聞き、口元が表情と共に歪んだ笑みを浮かべる亜麻色の髪の女性。

 

「NOだ」

 

「ですよねー!?」

 

装甲脚の銃口から八門の集中砲火による実弾射撃を行ってくる相手からギャグマンガみたいにピョンピョンと跳ね上がっては回避をする。

 

「おらおらおらっ!とっとと逃げないと蜂の巣だぜぇーっ!」

 

「蜘蛛のくせに蜂だとかおかしいだろう!次は蝶々かっ!?」

 

「何おかしなことを言っているんだテメーは!」

 

―――よく、あの状態で逃げられる。半ば感嘆の思いで二人のやり取りを見守るスコール。

千冬の弟だから、なんて考えはスコールには無い。常識外れの身体能力を持つ人間がこの世にどれぐらいいるのか少なくとも誰も把握できていない。

 

「オータム?そろそろ遊びはその辺りにしなさい」

 

時間は有限。何時までも一誠と構っている暇もあまりない。できるだけ無傷のサンプルを手に入れて、効果的に利用をするのがスコールの思惑。味方になってくれれば万々歳だが、自ら好んで闇堕ちする人間はこの世に何人いるだろうか?少なくとも一誠は悪になる気は無いらしい。味方にならないなら将来、厄介な敵となる前に排除しておくに越したことがない。スコールからの催促にオータムは返事の変わりに、

 

「ぐああああああああああっ!?」

 

突然の火炎に包まれ、激痛に苛まれる悲鳴をあげた。

 

「・・・・・えっ?」

 

何がどうなったのか、スコールは何度も瞬きして頭の中の処理と同じく理解が遅れる。ISでの攻撃ではない。本当に自然発火したように炎がオータムを包んだのだった。その原因は不明―――。

 

「遊びをその辺りにするのは、俺も同じ気持ちだぞスコール?」

 

「っ・・・・・」

 

オータムを包む炎から、拘束が解かれた一誠が悠然と現れる。

 

「確かにISは強い。だが、金属と機械の塊だ。絶対に壊れないなんてことは無い」

 

そう言う一誠の背後から、炎の中に影のシルエットが浮かび上がる。

 

「―――この私に、何をしたぁああああああああああああああっ!?」

 

装甲が黒コゲに、露出している肌も火傷の痕がある。それでも尚、ISを操って一誠に襲いかかる亜麻色の髪の女性は―――。

 

魔剣創造(ソード・バース)

 

床から突き破る数多の大小の刀剣類が鋭くISの装甲を貫き、女性の体も貫いては串刺しに。

 

「それと シールドエネルギーを突破する攻撃力があれば、本体にダメージを貫通させられるよな?こんな風に」

 

「が・・・・・あっ・・・・・!?」

 

彼女の血が刀剣類に伝わり、出血する量も危険である。直ぐに治療をせねば、命に関わる。

 

「・・・・・それが、あなたを誘拐したIS乗りを殺した・・・・・」

 

「いやいや。これとはまた別のだ」

 

敵の体を串刺しにしていた刀剣類が突如として砕け散り、彼女は床に落ちて横たわる。

 

「言っておくけど」

 

今砕けた刀剣類がスコールの周囲の床から突き破り、脅しとばかり刃を華奢な体に突き刺す寸前に停止し、突き付ける。

 

「っ・・・・・!?」

 

「こんなことができる範囲は俺の視界に入るところまで可能だ。つまりは、その気になれば俺は何時でもスコールを殺すことができたいたんだよ」

 

三六〇度、周囲を見渡す限り武器の刃がスコールを突き付ける。一誠が会話中にこんなことをしていれば、二人の体を意図も容易く貫いて命を奪われていた。それを認識されたスコールは冷や汗を頬に流すほど恐れ戦いた。

 

「あなた・・・・・一体何者なの。こんなこと、ISでもできやしないわ」

 

「そりゃそうさ。今現在ISなんて持ってもないしここへ連れてくる際にチェックしただろう?」

 

何とでもなさそうに言い放つ一誠に平伏しているオータムが、ゆっくりと腕を上げて呼び出したマシンガンを背を向けている少年に向けて引き金を引こうとしたその直後。

 

「バレバレだって」

 

展開する幾何学的で立体的な陣が実弾を完全に防いだ。見たことのないやり方で攻撃を防いだ一誠に驚きを隠せないスコール達。

 

「断言する。お前らじゃ俺には勝てんよ。ISを使ってでも」

 

背後にいる亜麻色の髪の女性へ腕を伸ばし、腕を掴めばスコールの方へ放り投げる。完全に対立させて戦いに臨む一誠へスコールは目の色を変える。

 

「・・・・・本当にそうかしらね?」

 

「なんなら、試してみるか?上にいる奴も含めてさ」

 

その指摘にスコールは無言で指を弾くと、ISを装着した状態の相手が舞い降りてきた。蝶の羽根にも似た巨大なスラスターユニットが蝶と印象を付けさせるISを纏う小柄な少女。

 

「最初からお見通しのようね。本当、仲間に加えたい思いだわ」

 

「俺を倒せたならなってもいいぞ?」

 

「その言葉、偽りではないことを願うばかりね」

 

スコールもISを展開、黄金の装甲を纏い周囲の刀剣類を炎の鞭で蹴散らす。

 

「エム、殺す気で掛かりなさい。彼は奇妙な力を使うわ」

 

「・・・・・」

 

無論そのつもりだとばかり、無数のビットを展開して臨戦態勢に入る少女エム。ISを同時に二機も相手にするのは今回が初めてな一誠は、

 

「さて・・・・・俺も少しはやる気を出すかな」

 

一瞬の閃光を全身から放ち、スコール達に「ISっ?」と思わせたが実際は違った。頭上に金色の輪っか、真紅の長髪は金髪へと変色し、瞳が金色から翠と蒼のオッドアイ。そして背中から金色の六対十二枚の翼を生やし出した一誠が・・・・・天使の姿に成り変わった。

 

「―――何よその姿は・・・・・っ!?」

 

そう言わずにはいられないスコール。ISを動かせるただの男の人間ではないことを今しがた知ったばかりだというのに、更にそれ以上のことを仕出かす一誠はもはや正体不明、アンノウンだ。

 

「天使だが?」

 

と、それだけ言う一誠は翼を羽ばたかせ、スコール達へ肉薄する。ISではできない瞬発力で次の動きをする前にはあっという間に懐に潜り込まれていた。

 

「平伏せ、天使の力の前に」

 

「「っっっ―――――!?」」

 

 

 

 

―――スコール達と一誠の戦いを、一誠もISを動かせると世界に知らしめた篠ノ之束は歓喜極まった笑顔で、慈愛に満ちた瞳で見つめている。天使の姿になった一誠は間違いなくイレギュラー。一誠だけがこの世界にとって唯一特別な存在だと思った時間はあっさり早く、もっと知りたくなった。興味津々、知的好奇心に。

 

「いっくん・・・・・束さんにもっともっと、いっくんのこと教えてねー?うふふ、あははっ」

 

純粋な思いは時にして悪に変わる。それは束も例には零れない。

 

「おおっ?この着信メロディは!」

 

携帯へ手を伸ばす束は満面の笑みを浮かべ携帯を通信状態にする。

 

「はろはろ~!皆のアイドル愛しの束さんだよ~!」

 

―――♢―――

 

赤い共通郵便箱の前に一人の少女がいた。両手に持つ白い手紙に何を籠って差し出し人に対して書かれているのか少女しか知らない。儚い希望、それでも一筋の光に縋る気分で確率が低いとある番組に送る為、手紙を郵便箱の中にスッと差し込んで入れた。

 

「(・・・・・どうか、見てくれますよーに)」

 

 

 

とある日の朝、とある番組に一誠が出演している。番組の内容は『ふらり旅』とぜひ我が家に、ぜひ我が地域へと手紙で一誠を呼んでその場所とその周辺を旅する番組である。今日も今日とて応募してくる手紙は箱一杯に詰まっている。何百分の一と言う確率で引き当てられた招待券もとい手紙はサイコロの数によって一誠の手で引かれる。

 

『さて、織斑君。次回行くふらり旅はどこでしょうか。今日はサイコロの目が六つ出たので六通引いてください!』

 

『分かりました。俺が引いた場所の皆、俺がそこに行くから待っててくれよ!』

 

明るく笑顔で仕事をこなす一誠は手紙一杯の箱に手を突っ込んで一通一通手にしては読み上げる。その最中、一枚の手紙を読み上げた一誠。

 

『初めまして。私はNと言います。この手紙を読んでくれているなら私のお願いを聞いてください。私のお嬢様は織斑君主役のヒーロー番組が大好きなので、ぜひお嬢様を喜ばせて欲しいです。―――場所はIS学園です』

 

IS学園・・・・・一誠にとって因縁の場所にも等しい。

 

『おや、ついにあのIS学園に行くことに決まったね!』

 

『綺麗で可愛い女の子達が織斑君を待っていると考えたら同じ男として羨ましいねぇ』

 

ほのぼのと一誠の心情を気付かない共演者達に作り笑いで相槌を打つだけだった。

 

 

―――IS学園―――

 

 

「まさか・・・・・虚ちゃん?」

 

「いえ、私ではございません。きっとあの子かと・・・・・」

 

「どちらにしろ、あの子が来ることは間違いないのよね・・・・・ふふ、ふふふふっ」

 

「自重してください会長。あの人は仕事をしに来るのですから」

 

 

「(おお~、お願いが叶ったよ~。これでかんちゃんが喜んでくれる~)」

 

 

「おいおい、一誠が仕事で来るって・・・・・」

 

「一騒動が起きそうだなぁ・・・・・」

 

「何事もなく終わってほしいもんだな」

 

「ああ、あいつの為にもな・・・・・」

 

「ふむ・・・・・あいつが来るのか」

 

「(来る、あいつが、一誠が学園に来る・・・・・!)」

 

 

「(嘘・・・・・あの人が・・・・・来るの・・・・・?)」

 

 

「織斑先生・・・・・どうしましょう?」

 

「誰だか知らんが・・・・・面倒事を起こしてくれたな・・・・・まったく」

 

様々な思いを胸に抱き、来るべく日まで何時もの日常を過ごすIS学園。

 

―――♢―――

 

そして、ふらり旅撮影当日が迎えた。カメラマンを引き連れ、内心渋々とIS学園に訪れた。到着した場所は休日だけあって撮影をしにやって来た一誠達に野次馬と化した女子生徒達が最初に出迎えた。この中に差し出し人のNという女性がいるのか挙手して口を開いた。

 

「この中にNという人はいますかー?」

 

と、問うとざわめきが生じる中、のほほんとした雰囲気を纏い服のサイズが合っていないようで、わざとサイズをそうしたのか手が見えないほど袖がダボダボに長く、髪に狐の髪飾りを付けている女子生徒が一誠の前にピョンと現れる。

 

「はーい、私だよー」

 

「Nさんかな?」

 

「うん、布仏本音でーす」

 

布仏・・・・・Nさん、しかも一誠の頭の中に浮かぶある女性と同じ名前だった。

 

「もしかして、お姉さんがいたりする?」

 

「そーだよー?」

 

意外だ。と、一誠は心の中で呟いて仕事に専念をすることに。

 

「それじゃ、手紙に書いてあったお嬢様はここにいるかな?」

 

「ごめんねー。寮にいると思うからここにはいないのー」

 

「そうなんだ。じゃあ、呼んできてくれるかな?男の俺が寮に入っちゃあ駄目でしょ」

 

「うーん、大丈夫じゃないかなー?かんちゃんは部屋に籠っているか、アリーナの整備室でまだ完成していないISを弄っているかもしれないからー」

 

完成していないISと興味深い話を本音は発した。

 

「完成してない?」

 

「ちょっとした事情でねー。日本の代表候補生だけど、まだ未完成なんだー」

 

「なるほど。だとしたら、いま整備員と一緒に完成を目指しているのなら邪魔しちゃ迷惑かぁ」

 

遠慮気味に言い、本音に学園の案内でもしてもらおうかと思ったところで一誠にとって信じられない事実が知らされる。

 

「ううん、一人で頑張っているんだよ」

 

「・・・・・なんですと?」

 

 

どうしようどうしようどうしようどうしよう・・・・・。

 

かんちゃんと本音が呼ぶ少女は寮の自室に籠るようにいた。大好きなヒーロー番組の主役がこの学園にやってくる。何時やってくるか分からない。会ってみたいけど恥ずかしくてできない。羞恥心で消極的な考えをしてしまう少女は緊張で布団の中に包まう中、やはり・・・・・会いたいという気持ちは湧く。会って・・・・・会って・・・・・。

 

「(・・・・・私も・・・・・)」

 

ヒーローのヒロインのように助けられたい。そう切なげに憧憬を抱いた少女がいる扉が叩かれた。

 

『かんちゃーん。入るよー』

 

「え・・・・・っ!?」

 

聞き慣れた声と共に扉が開き、布団に籠っている少女を部屋に入って来た本音が目を細め見つけたーとばかりに笑みを浮かべた。

 

「かんちゃんみっけー。やっぱり部屋にいたねー」

 

「ほ、本音・・・・・?」

 

「ほら、早く早く。かんちゃんの好きなヒーローが表で待ってるよー」

 

「え・・・・・え・・・・・っ!?」

 

腕を掴まれ、グイグイと部屋から連れ出される少女は引っ張られるまま本音によって廊下に数人のカメラマンと一誠の前に会わされた。

 

「「――――――」」

 

片や心の準備もままらないまま憧れの人と対面して思考が停止し、片やあの生徒会長と似ている女子生徒にまさかと目を疑って息を呑んだ。

 

「布仏さん。この子がかんちゃんと言う子?」

 

「そうでーす。名前は更識簪ー。かんちゃんだよー」

 

やっぱりそうだったのかぁあああああああっ!一誠の内心は新たな事実に叫ばずにはいられなかった。しかも、姉はあの楯無だと悟ったのだった。

 

「あ、う・・・・・ほ、本音ぇ・・・・・」

 

それにどうやら人見知りのようで、本音の背中に隠れる簪をどうしたものかと頭の中で考える。

 

「人が大勢見つめられると緊張しちゃうかな?」

 

「ごめんなさーい。そうなのでーす」

 

「うーん・・・・・そういうことならしょうがない」

 

カメラマンを一時引き下がらせ、片手でカメラを持って撮影を続行することになった。

 

 

「改めて、俺は織斑一誠だ。よろしく」

 

「布仏本音でーす」

 

「・・・・・・」

 

場所を変えて大食堂。カメラを片手に仕事をする一誠と接する本音と簪。食堂には女子生徒達が遠巻きで様子見で見ていて、生の一誠をみたいが為に集まっていた。仕切り直しと一誠が挨拶をすると本音が応じるも簪だ固まったまま場の流れに乗れないでいる。

 

「さて、布仏さんの手紙にはお嬢様を喜ばせて欲しいと書かれていたけれど、俺はどんなことをすればいいんだ?」

 

「えっとねー。かんちゃんがしてほしいことをしてほしいなー」

 

「と、こう言っているけど更識さん。何かリクエストはあるかな?」

 

「―――――っ」

 

顔を俯いて、「ぁ・・・・・ぇ・・・・・・」と蚊の鳴くような音もとい声が聞こえるだけでリクエストらしい言葉が出てこない。

 

「あらら、まだ恥ずかしいか。初心で可愛いなぁー」

 

「そうだよー。かんちゃんは可愛いのだー」

 

「その可愛い女の子が羞恥心に堪えているから何か質問をし合いないか?」

 

「おー、いいのー?色々と聞いちゃうよー?」

 

「どうぞどうぞ。逆に俺も聞いちゃうから。更識さんもな?」

 

質問コーナー的な展開に発展した。

 

「じゃあ、私から質もーん。おりむーはどうしてIS学園に来ないのー?」

 

「あはは、その質問は本当に多いな。同じ答えで返すけど、俺はもう高校を飛び級の形で卒業したんだ。だから今更また高校生のように通うなんておかしいだろ?」

 

「でもー、IS乗れるのに乗りたくないのー?」

 

「乗りたくないと言えば嘘になるけど、俺は今の立場と状況が心地良いと思っているんだ。―――だから」

 

一誠の口から芸能人とは思えない発言が出た。

 

「無理矢理、俺をどうこうする奴は真正面から全力で叩き潰す。大人の都合で勝手に俺達未成年(きょうだい)の人生を全て左右するほど偉いってんなら、元凶のISを壊したいと思っているよ」

 

―――――っ。

 

簪や遠巻きで見ていた女子学生達は息を呑んだ。そこまで思っているほど学園に行きたがらない理由は一誠の中で強く、岩みたいに硬く、そして重くなっているぐらい―――。

 

「なーんてな。一芸能人の俺がそんなことできる筈ないじゃん」

 

ははは、と茶を濁す一誠に場の雰囲気は女子達の苦笑いだったり本人の言う通りだと冗談を受け入れる風に包まれる。ただし、一誠の心情を去ったかもしれない極一部の生徒達がいたのを露も知らず。

 

「さて、布仏―――」

 

「私のことは本音って呼んでいいよー」

 

「おお、フレンドリーだな。そんな君とは携帯の番号とアドレスを交換を申し込んじゃおうかなー」

 

「いいよー」

 

あっさりと初対面であるにも拘らずすんなりとその後交換し合った。

 

「さてさて、次は大本命の更識さん君だ。俺に何か質問とかあるかな?」

 

「・・・・・」

 

温かな眼差しを向け、優しい声音で質問する一誠を簪は何度も横目でチラチラと視線を送る。真正面から憧れの人の顔を見れないといった心境で簪は顔を赤らめた状態でポツリと口を開く。

 

「・・・・・あ、あの」

 

「うん」

 

「・・・・・お願い、が、あります」

 

「俺がこの場でできることなら何でも応じれるよ?」

 

と、そう言う一誠に簪はおずおずと要望を言った。

 

「・・・・・変身するところを、みたいです」

 

―――♢―――

 

場所はアリーナに移り、簪、本音は一誠が変身するその瞬間を今か今かと待っていた。目の前にいる一誠は変身に必要なベルトを装着して準備万端の状態で二人の前に佇んでいる。

 

「それじゃ、よーく見ててくれ」

 

不敵に笑む一誠がヒーロー番組でする同じポーズをして力強く「変身ッ!」と機械的なベルトを弄りながら発したその直後。装着者の全身が眩い真紅の光に包まれ、光が鎧へと具現化して一誠の全身を纏い始める。その姿はドラゴンを模した全身鎧。体の各部分に金色の宝玉があり、強さを表すかのような鋭い一本角が頭部に生えている。

 

「か弱き者達の盾となり矛となる為、悪しき者達と戦う為に紅い龍の騎士、ここに参上!」

 

「おお~!」

 

「・・・・・っ」

 

生で見るヒーローの変身はテレビで見るよりも迫力があった。CGを使わず、まるでISを装着するような感じで鎧を纏う一誠に感嘆の一言で目を丸くする。その一誠が二人に近づき、簪へ手を差し伸べた。

 

「大丈夫か?もう安心しろ。悪は必ず俺が倒して守って見せる!」

 

「―――――っ!」

 

多幸感極まりない。ヒーロー番組が好きだと本音によって知られてしまったが、ヒーロー好きな簪だけに言われた事実にその日の夜。自室のベッドの上でゴロゴロと転がり続け、嬉しいあまりに眠れないでいるルームメイトを見るルームメイトがいた。

 

「ねぇねぇ、触ってもいい?」

 

「OK」

 

本音が興味津々に鎧を触れると簪も恐る恐ると触れる。手の平に伝わる感触は硬質で温もりを感じる。それがとても不思議でたまらないとペタペタと触れ続ける。

 

「これ、本物?ISみたいだねぇ~」

 

「本物だけどISじゃないんだなー」

 

マスクの部分がシュバッと開いて一誠の顔が晒す。

 

「これで更識さんの要望に応えられたかな?」

 

「は、はい・・・・・ありがとう、ございます」

 

「ん、もしも喜んでくれているなら何よりだ」

 

水色の髪の頭に手を置いてポンポンと優しく撫でるヒーローに顔を赤らめる少女。

 

「ところで本音から聞いたんだが代表候補生なのにISはまだ未完成何だってな?」

 

「・・・・・」

 

嬉しい気持ちが一気に暗くなってしまった。自分(かんざし)のこと知らない一誠に非がないとは言え、気にしていることを真正面から言われると気分が滅入るものだ。

 

「もしも良かったら俺に見せてくれないか?俺、篠ノ之束の助手をしているんだ。ISの整備ならできるぞ」

 

「・・・・・えっ?」

 

簪の気持ちを知らない一誠が簪にとって驚きの言葉で言われた。ISを見てくれる?あの憧れのヒーローが?

信じられないと一誠を見つめると自然と顔を近づけられ耳元で呟かれた。

 

「アドバイスができるかもしれないし・・・・・あれだ、兄貴達も悪気がないとはいえども政府の思惑や計らいによって更識さんのISの完成を遅らせている原因だ。だからせめて兄貴達の尻拭いと兼ねて謝罪の念も込めて完成の手伝いをさせてくれないか?」

 

「―――――っ!」

 

学園から離れ、芸能人として活動している一誠がどうしてそこまで知っているのか驚きで一杯だった。

 

「・・・・・どうして?」

 

「ふふん、俺はこれでも学園にいる兄貴達の周囲にいる生徒、特に代表候補生のこと調べているんだ。その中に当然、更識簪という少女も含まれている。だから知ったのさ」

 

全ては兄の安全第一。兄に害する生徒がいればそれなりの対処をする考えだと付け加えられた簪は―――まるであの姉みたいな人だと思ってしまった。

 

「いいかな?更識さんのISを見せてくれても」

 

「・・・・・」

 

迷惑を掛けている訳でもないのに、自分のことを気にしていたヒーローに動揺する。甘えてもいいのか、こんなでき過ぎた状況に身を任せても・・・・・。

 

「かんちゃん、見せてあげようよ。かんちゃんが好きなヒーローがアドバイスをしてくれるんだよ~?」

 

「本音・・・・・」

 

「私も手伝ってあげるからさ~」

 

ニコニコと笑む本音が簪の背を押すように「お願いしまーす」と「了解」と頷く一誠に頼んだことで簪は自分のISをヒーローに見せることになってしまった。

 

 

「変わった形だな。アーマー重視のISっぽい感じがする。これが更識さんのISか?」

 

第三アリーナの整備室。三人は完全展開の簪の未完成のISを見つめる。

 

「うん・・・・・」

 

「それじゃ、ぱぱっと見せてもらおうよ」

 

興味津々と簪のISに近づく一誠。そんな少年の背を見て、思わずと簪の口から「どうして私を気にするの?」と出てしまった。自分の発言を気付いてハッと両手で口を塞いでも遅かった。足を停めて簪に振り返る一誠と目があった。

 

「何、放っておけなくなったんだよ。本音から聞いたんだが、誰の手も借りず一人で完成させようとする努力家の少女をさ」

 

「・・・・・」

 

「だから俺も手伝う」

 

「・・・・・頼んで、ない」

 

「おう、身勝手で傲慢で、偽善者な奴が勝手にそうしたいだけだ。気にするな」

 

屈託のない笑みを浮かべる。

 

「それにさ、優秀な身内を見返したくないか?」

 

「っ・・・・・」

 

「見返して、自分も凄いんだと証明したくないか?」

 

それは簪が密かに一度は考えていた想いだった。どうしてそんなことを言うのだろう。少女はジッと一誠を見つめるようになっていることに気付き、ハッと慌てて顔を逸らす。

 

「更識さん。どうして一人でISを完成したがっている?整備科の協力もしないで」

 

今の状況を指摘する彼の少年。別に身内の問題だから教える必要もないと思ったのだが、本音の計らいで来てくれたヒーローに労いの意味で吐露する。

 

「・・・・・お姉ちゃんが、一人でISを完成させたから」

 

「でも、それはゼロから完成させたわけじゃないだろう?整備科の意見も受けていたはずだ。天才でもできないことはあるんだ。ヒーローも完全無欠じゃない」

 

当然、俺もその一人だと笑顔で言い切った。

 

「・・・・・」

 

「この世には完璧な人間なんて存在しない。人間ってのは何か一つや二つの欠点があるから面白いんだ。因みにあいつ―――楯無は苦手なことがあるか?」

 

苦手なこと、あるとすれば・・・・・一つだけ。

 

「編み物が・・・・・へた」

 

「編み物?」

 

きょとんと隻眼の目が点になった一誠は後に吹いた。

 

「ぷっ、はっはっはっはっ!編み物がへたって、手の込んだ細かい作業が苦手か!やば、久々にツボが・・・・・っ!」

 

しばらく簪と本音は笑い続ける一誠を見続けることになった。腹を抱え、目尻に涙を浮かべている少年は心から笑っているのだと、つられて無自覚に自分も笑っていることに気付いた時は頬を桜色に染めた。

 

「はー・・・・・笑った」

 

「・・・・・笑い過ぎ」

 

笑い終えた一誠に小さい声で突っ込む。悪い悪いと苦笑いを浮かべながら一誠はこう言った。

 

「なーんだ。更識さんにも楯無という天才に勝てるものがあるじゃないか」

 

「・・・・・でも、それぐらいで」

 

「良いんだよ小さなことでも姉に勝てる自慢なことがあれば。言っただろう?人間は完璧じゃないって」

 

一誠は簪の瞳を覗き込むように発する。

 

「だから怯えるな」

 

「っ!」

 

「誰かが助けに来るまで怯え続けているなんて甘えたことはそろそろ卒業するべきだ。姉の凄さに何時までも恐れてはいけない、羨ましがるな。更識簪という少女は天才の更識楯無の背中を追いかけ、何時か手を取り合って前に進む事が出来る努力家の少女の筈だ。だから、お前も前に進まなきゃいけない。それは今この瞬間から始めるべきだ」

 

スッと簪に手を差し伸べる。

 

「だからさ。一人で完成させようなんてつまらないことはしないで皆で完成させようぜ」

 

―――そして、お前の背中を押させてくれ。姉の隣に歩くことができるまで・・・・・・。

 

「・・・・・」

 

一誠の言葉は簪から怯えを取り除く温かさがあった。厳しくありながらも優しく、自分の為ばかりの言葉をくれる少年から視線を反らすことは無くなった。

 

「(織斑、一誠・・・・・)」

 

自分を前に進ませる言葉を発する一誠の言葉に力が宿っている。勇気と名の言葉の力を聞いて更識簪という少女の心に不思議な活力が奥底から湧いてくる。制服の上からでもあまり大きくないその膨らみに手を触れるとドキドキと胸が高鳴っている。

 

「(がんばって、みる・・・・・)」

 

織斑一誠というヒーローから勇気を貰ったからだろうか。更識楯無という完全無欠の姉の隣に立ち歩くことをこの瞬間から久し振りに目指そうと言う意欲が湧いた。

 

「織斑、くん・・・・・」

 

少女は胸に添えていた手を、差し伸べてくる手を見つめながら静かに伸ばした。

 

「お願い、します・・・・・」

 

父親以外初めて異性の手を触れた。大きく感じる手の温もりは心地好さを覚える。俯いて小さく求めた。

頑張る自分に勇気を欲し、姉に相応しいぐらいの強さを得る為に。握った手は優しく、しっかりと握りしめられた。

 

「おう、よろしくな更識さん」

 

「・・・・・簪、で、いい」

 

「ん?そう言うことなら俺も下の名前で呼んでくれ。織斑って三人もいるから」

 

「い、いいの・・・・・?」

 

「そうだ。まあ、なによりもお互い下の名を呼び合う仲になりたいしさ」

 

温かい笑みが零れる。更識簪もつられて小さく笑みを浮かべた。

 

「これからよろしくな簪」

 

「う、うん・・・・・。よろしくね、一誠」

 

はにかむ一誠と恥ずかしげに返事する簪の手はしっかりと握り合っていると・・・・・。

 

「よかったねーかんちゃーん」

 

のほほんとした声と共に簪に抱きつく。

 

「ほ、本音っ!?」

 

「えへへ~やっぱりヒーローは凄いねー。かんちゃんを笑わせるなんてさぁ~」

 

「うっ・・・・・」

 

指摘されて気恥ずかしくなり、本音の顔を見るに堪えないと視線を反らす簪を他所に、

 

「さーてと、撮影時間はもう少ないけど今日中にできるところまでヤっちゃうか本音」

 

「お~、色んなところを触っちゃうよー」

 

―――ちょっと待って。

 

「や、やめて・・・・・勝手に変なところ、いじらないで・・・・・。あっ、あっ・・・・・」

 

ISににじり寄り、手をわきわきといやらしく動かす二人を止めるべく動かざるを得なかった。 その様子だけは撮影されていないが、テレビ的にはIS学園の撮影は後に政府から放送禁止を受け、お蔵入りとされた。

そしてさらに、

 

「こんばんわー簪と本音。今日も完成を目指して頑張ろう」

 

「りょうかーい」

 

「う、うん・・・・・」

 

一誠はIS学園に訪れ整備室にいる二人と密会して簪のISの完成の協力をし続けた。

 

 

―――♢―――

 

 

その日の撮影兼仕事が終わり、夜遅く帰宅する一誠。帰り道でも人気の芸能人が闊歩している様子を見てファン達が集まってファン達にサービスしながら住宅街にある織斑家まで五十メートルもしたところで、意外な人物が暗闇を灯す電柱の向こうから待っていたかのように近づいてくる姿を視界に入った。

 

「・・・・・お前は」

 

「・・・・・」

 

黒を基調とした服を身に包み、あの時見えなかった素顔が晒している。一誠にとって、いや、一誠達だからこそ驚きを禁じ得ない相手の顔は―――千冬がそこにいるかのような同じ顔だった。幼くした千冬がそこにいると錯覚しても仕方がないほどに。

 

「私は―――お前だ。織斑一誠」

 

「なに?」

 

「私の名前は、織斑マドカ」

 

織斑・・・・・千冬や一夏、秋十以外にも織斑と名乗る人物がいることに、千冬の顔で織斑と名乗る少女に目を張る。

 

「・・・・・妹がいるなんて、俺の記憶上、無い方だけどな・・・・・まさかだと思うがお前・・・・・」

 

「そんなことはどうでもいい。私は、他の二人よりもお前を殺せば私は私である証明を得ることができる」

 

「っ」

 

瞬時で臨戦態勢に身構える一誠―――だったが。相手は、織斑マドカから敵意や殺意が感じなければ武器を構える素振りもしないことに内心怪訝な気持ちを抱く。

 

「流石はあの女の弟だけあって対応も早いな。だが、警戒するな。私はお前と話しをしに来ただけだ」

 

「話?」

 

「他の三人とは明らかに異なっているお前と言う存在を知りたい。ただそれだけだ」

 

「・・・・・」

 

「私の独断だ。オータムとスコールはこの場にいない」

 

警戒する一誠の杞憂を無くす言葉を言い、それが事実だと理解したところで構えを解く。

 

「ここで立ち話もなんだ。俺の家で話しをしよう。そのつもりだったんだろうがな」

 

「・・・・・ふん」

 

「それと、隠し持っているものを全部出せよ」

 

警戒心だけは消しておらず、マドカから銃を受け取り家に案内をした。

 

「ただいまーっと」

 

「・・・・・」

 

一人虚しく誰もいない家に声を掛けて上がる一誠に続き、マドカも靴を脱いでリビングキッチンに向かう一誠の背を追う。部屋の中に入れば生活感がある雰囲気に包まれていてキッチンに向かいながらマドカに質問をした。

 

「コーヒーとお茶、麦茶や紅茶とかあるんだが何を飲みたい?」

 

「いらん」

 

「あっそ」

 

要らないならキッチンに行く必要はないとばかりソファに腰を下ろす一誠、マドカは一誠とテーブルを挟んで反対側のソファに座りだす。テレビを付けず静寂が包まれた家の中で二人は互いの顔と目を見つめ合う。千冬の顔をした幼い少女、千冬と一夏、秋十とは異なる織斑の身内と再認識する。

 

「で、俺に聞きたいことって?因みに言うが、俺は俺だからな。そこだけは理解している上で質問してくれ」

 

マドカを催促しながら指摘する。マドカは千冬と同じ色の瞳をジッと観察する感じで一誠を見据え口を開いた。

 

「お前だけ何故違う。髪も目も、その力も」

 

「・・・・・」

 

ふう、と鼻で息を漏らした。単刀直入に近い質問を受けた一誠は疑問をぶつけた。

 

「俺がその質問に答えても、信じてくれないと思うが?」

 

「それは私が決めることだ」

 

「どうだかな・・・・・これは、ちぃーねーちゃんにも具体的に言ってない秘密でもあるんだが」

 

マドカが知ったところでどうすることもできないか等と思い、一誠は今まで抱いてきた秘密を明かした。

 

「なあ、人の前世ってのを分かるものか?」

 

「・・・・・前世?」

 

「ん、そうだ。お前は自分の前世ってのを分かるか?」

 

問われた前世について。千冬の顔で怪訝な視線を一誠に送るマドカは意図を掴めないと「それがどうかしたか」と話を催促する。前世がどうだろうと生を受けた自分達には関係のないことだといわんばかりに。

 

「―――俺は前世の記憶を持っている。前世で得た力もな」

 

「・・・・・ふざけているのか?」

 

「おいこら、俺がふざけて言っていると思うのかよ。本気と書いてマジな話をしているんだぞこっちは」

 

不満げな顔を浮かべ、真紅の髪を弄りだす。

 

「俺の目と髪は兄貴達と同じ色だった。それが第二回のモンド・グロッソの時、俺が誘拐されて死に掛けた際に前世の記憶と力が覚醒した。ゲームじゃよくある話だけど、それが現実的にも起こるなんて信じられなかった」

 

「・・・・・」

 

「俺を誘拐したISの操縦者は―――俺が殺した。覚醒した力でな」

 

やはり、と一誠の異常な力はISを上回っている経験を得ているマドカはその話だけ納得した。

 

「それからだな。俺だけ周りとは違う何かだと感じながら今日まで生きていたのは。ま、それを利用してのうのうと過ごし続けてきたけど最近は周囲が煩くてしょうがない」

 

「・・・・・政府の保護を真正面から突っぱねているようだな。だからこそ、狙われていると分かっていながらなぜあの学園に行こうとしない?」

 

「ISは好きじゃないんだ。俺達家族を普通じゃない世界にして引き離したんだからな。狙われていても、それを対処できる力と自信があるから政府の保護を受けないし学園にもいく気すら無い」

 

もうその身で味わっただろう?とそんな意味の視線をマドカに送る。

 

「それに、保護するって完全に守る対象を守ることはできないだろ。現に裏組織が侵入を許している時点で安全性がなっちゃいない」

 

「日本の警備は平和ボケしている故に緩いからな。賄賂の一つでもすれば楽に事を進められる時もある」

 

―――駄目じゃん!

 

「・・・・・お前の前世とやらは一体どんなものだった?」

 

マドカが興味を示した。一誠は頭の奥深くにある記憶を糸で手繰り寄せる風にして思い出していく。

 

「うーん・・・・・口に出して説明しても時間掛かる上に信用してくれないと思うぞ」

 

「さっきも言った。信じるか信じないかは私が決めると」

 

別に信じて欲しいとは思ってもいない。そう一誠の心情を知らないマドカに天井を見上げ考え出す一誠は十数秒後、立ち上がって徐にマドカに近づいてた。

 

「・・・・・なんだ」

 

「論より証拠。俺と一緒に前世の記憶を見た方が早い。ちょっと頭を貸せ」

 

マドカの腕を掴み、立ち上がらせて何もない空間のところで二人の足元や囲むように複数の幾何学的な円陣が展開した。

瞑目し出す一誠はマドカの額に自分の額と重ねるようにくっつける。

 

「マドカも目を瞑れ。これから俺の前世を見せてやる」

 

「・・・・・」

 

「前世の俺こそが今の俺だ。―――織斑一誠として存在する前の俺、兵藤一誠として生きていた違う世界を見てもらう」

 

そう言う一誠と目をつむるマドカを、眩く光る幾何学的な円陣が二人を包みこむ―――。

 

 

―――数時間後。

 

 

「エム、織斑一誠との無断接触の件を説明してもらえるかしら?」

 

「・・・・・奴の本質を見極めに行ったに過ぎない」

 

「本質、ね。それで、何か分かったのかしら?」

 

「ああ・・・・・私達は絶大的な力を持つ奴の前では抗えないと理解した」

 

「絶大的な力・・・・・?それは天使になる彼のことかしら?」

 

スコールの疑問に答えず、マドカはさっさと自室に戻って扉に背中を預けてた。部屋の暗さは彼女の心を表しているかのようで、マドカは黒い絵の具で塗りつぶされたような暗闇で染まっている天井を見上げた際、狂気や歓喜の色が混じった光を瞳に浮かびだす。

 

「はははっ・・・・・織斑一誠・・・・・私にこの感情を抱かせたお前が悪いぞ。―――いつか必ず責任を取ってもらう。お前を倒した暁にな・・・・・っ!」

 

そしてマドカの表情は恍惚としていて、冷めない興奮と止まらない震えに自身の体を抱き絞めながらベッドの沈む。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。