インフィニット・ストラトス~前世の記憶を持つ者~(完結)   作:ダーク・シリウス

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臨海学校&事件

 

七月―――。

 

「ふっふっふ・・・・・長かったわ。あの屈辱を晴らす為にISも完全に元通りなるのを待ち、私もあれから密かに特訓や織斑先生と相手に訓練をして以来長く感じたわ」

 

不気味に笑う一人の少女。心なしか蜃気楼の現象を目の当たりにしていると思わせるオーラが少女から滲み出ていた。その色は赤で、炎のように夏の真っ最中だというのに燃え上がっていた。

 

「いける、いけるわ。今の私ならどんな敵だろうが『ミステリアス・レイディ』と倒せる気がするわっ!」

 

旗を掲げるは打倒―――織斑一誠っ!

 

「まぁーってなさいよ織斑君!二度の敗北を糧にした私は以前より増して強いわよぉーっ!?」

 

一人、力強く拳を硬く握ってやる気を出しては、勝手に燃え上がる少女こと更識楯無を呆れ混じりで吐息する女子生徒を尻目に行動を開始する。

 

「虚ちゃん、仕事が終わり次第行くわよリベンジをしに!」

 

「・・・・・会長、彼の仕事のスケジュールは分かるのですか?」

 

「職権乱用はこういう時に使用するものだとは思わない?」

 

その一言で全てが物語っている。虚と呼ばれた女子生徒、姓は布仏。名は虚という女子生徒はまた溜息を吐く。

 

 

 

「来週は海で撮影するお仕事があるから水着も新調しないと駄目だからね?」

 

マネージャーの霧生にそう言われ、品揃えが良い駅前のショッピングモールに足を運ぶ一誠。当然ながら目立つ赤い髪を隠さずサングラスも掛けない一誠は今日も大勢のファンに囲まれながら威風堂々と目的地に向かっている。

 

「懐かしいな。兄貴達と弾、鈴とたまにだがよく来たっけ」

 

仕事柄多忙で中々足を運べなかった。過去の記憶を懐かしく思い出しながら駅前のショッピングモールに辿り着く一誠は二階にある目的の男性用の水着売り場へと歩くと―――。

 

「あ、夏兄と秋兄」

 

偶然にも二人の兄が水着売り場にいたことで反射的に声を掛けた。その他にも弾ともう一人の男子、ISを動かせる男の一人こと御手洗数馬もいたのであった。

 

「おおっ?一誠じゃないか。お前も水着か?」

 

「次の撮影が海辺らしいから。そう言う皆も水着を買いに来てるんだよな?」

 

「ああ、他にもシャルと蘭も一緒なんだ」

 

「シャル?ああ、シャルル・デュノアのことか。蘭ってまた懐かしい名前が聞こえたな」

 

一夏と弾を視界に入れてポツリと呟いた。

 

「一家団欒コンビが再結成か」

 

「「おい」」

 

いちか、だん、らん。と人でダジャレを物申す一誠に突っ込みと苦笑いを浮かべる反応が二手に分かれた。

 

「・・・・・で、アレはお前のファンなのか?」

 

「うん?ああ、そうみたいだな」

 

キャイキャイとはしゃぎ携帯を片手に撮影の姿勢の女性達が大勢いることを弾は指摘した。

 

「そっちも俺みたいなもんだろ?弾なんて女しかいない学園に通えて歓喜ものだろう?」

 

「・・・・・そんな夢を見ていた、何も知らなかった過去の俺にぶん殴りたい思いだよ」

 

どうやら実際に想像していたのと違うようで疲れたように溜息を零した弾。IS学園での生活の大変さを知らない一誠にとって小首を傾げる思いだ。

 

「お前、よく平気そうな顔でいられるな」

 

「慣れって怖くないか?」

 

「ああ、そーいうこと」

 

最初は苦労したんだ、と口から直接言わない一誠に兄の秋十は直ぐに理解した。

 

「今は慣れているんだけどさ。今じゃあ俺の存在をアピールして人気度と知名度をUPさせる狙いなんだよ」

 

「「「「こいつ、意外と腹黒いっ!?」」」」

 

「それはそうと」

 

と、一誠が話を切り出す。

 

「兄貴達、箒に何かプレゼントするんだろう?被らない為にも教えてくれないか?」

 

「ん?ああ、そういうことか。別にいいぞ」

 

「別に隠す訳でもないしな」

 

一夏と秋十からプレゼントの内容を聞き、「わかった」と首を縦に振って頷きその辺の水着を一瞥して適当な水着を手にした。

 

「そんじゃ、俺は行くから」

 

「え、何でだよ?今日は休みなんじゃないのか?」

 

「―――あの群れの中にいたいなら別にいいぞ?」

 

群れとは好奇と奇異な視線を向け続ける女性のファンのことで、四人はずっとあの視線を向けられながら街中を歩き続けると思えば、辟易する一日になりそうだと苦笑いを浮かべながら遠慮した。

 

「賢明な判断だ。俺と一緒にいると疲れるだけだからな」

 

一誠も苦笑を浮かべては踵返して一夏達から離れる。人気芸能人が歩くとファンもゾロゾロと後を追い、付いていく様を一夏達は感想を述べた。

 

「お前の方が一番疲れているんじゃないのかって話なんだが」

 

「俺、モテたいと思いたくなくなったかも・・・・・」

 

「アヒルの親子かよ」

 

「一誠よ、頑張れ」

 

 

 

 

「―――見つけたわ」

 

獲物を狙う猛禽類のように楯無は一誠をショッピングモール内で捉えることができた。その傍には虚が追従しており、これからどうする気なのかと思いを口に出す。

 

「これからどうなさるおつもりで?」

 

「決まってるじゃない。近づいてデート(勝負)に誘うのよ」

 

「・・・・・あの状況の中で?」

 

女尊男卑が嘘ではないかと思ってしまいそうに、一誠の周囲には女性のファンで溢れていた。

積極的に行うサービスをする一誠に女性達は色めき立っている。そこへ割り込んで真正面から誘えば嫉妬の嵐が巻き起こる可能性は十分高い。

 

「無理では?しかも、お嬢様を警戒なされているらしいではないですか」

 

「あら、私が何の策も無しに行動していると思っているのかしら」

 

イイ笑顔で虚の肩に手を置いた。嫌な予感しか感じない虚へ楯無は告げた。

 

「織斑君が警戒していない相手で呼び寄せるのよ」

 

「・・・・・それが、私ということですか」

 

案の定、肯定とばかりに笑顔を浮かべ続ける楯無はポケットから可愛らしい手紙を虚に手渡す。

 

「これを渡すだけでいいの。簡単でしょ?偶然、虚ちゃんも彼のファンなんだから怪しまれずに渡せる筈よ」

 

しかも、ファンの一人だと知られていて羞恥の思いで条件反射にて顔を赤らめる虚。

 

「ほら、早く早く!」

 

「わ、分かりました。分かりましたから押さないでくださいっ」

 

半ば渋々と楯無の指示に従う彼女は陰から出てファンの一人として恥ずかしげに交じることに。

どうして自分がこんなことをせねばならないのか、呆れる虚はファンにサービスをし続ける一誠を視界に入れた瞬間、鼓動が高鳴る。写真やテレビ、雑誌ではなく生で見る一誠はより格好いいと思ってしまい、楯無が一誠を誘う為に書いた手紙である筈なのに、自分で書いたラブレターと錯覚してしまい緊張と羞恥で心と頭の中が一杯になる。

 

「うん?お前は・・・・・」

 

「っ!?」

 

声を掛けられ、我に返った矢先に一誠が虚の顔を覗き込んでいた。ファンの姿も何時の間にか消えていて、虚一人しかいなかった。

 

「お、お久しぶりです・・・・・」

 

ドギマギしながらも返事する虚は何故か一誠の顔を直視できないでいると。

 

「久し振り。それで俺に何か用か?」

 

そう言いながら金眼の視線は虚の手の中にある手紙に注がれる。虚も視線の先を察してやるべき事を成そうと手紙を差し出した。

 

「あの、これを・・・・・」

 

「ん」

 

あっさり受け取って手紙の封を開ける。中身を取り出し、書かれている手紙の内容を読むにつれ・・・・・一誠の眉間が皺を寄せ、深い溜息を吐いた。

 

「意外と苦労しているようだな」

 

「・・・・・すみません」

 

「お前が謝ることじゃないだろう。だが、分かった」

 

グシャリと手紙を握り潰した途端。一誠の手が突如燃えだして手紙を焼失。灰と化した手紙は存在を消してショッピングモール内に散った。

 

「い、今のは・・・・・」

 

「最近マジックを始めてな」

 

朗らかに笑いながら五指の先に小さな炎を灯しだす。どんな方法で成し遂げているのか分からない虚の目の前で火は一誠の吐息で消える。

 

「ところで今暇か?」

 

「え?」

 

「暇なら一緒にどこかへ行かないか?家に帰っても俺一人だけでな。家に居てもつまらないんだ」

 

「まあ、外は真逆に騒々しいけど」と一誠からの誘いに最初は何を言われたのか分からなかったが、理解した途端に虚の顔は朱に染まった。

 

「ふ、二人きりで・・・・・?」

 

「ああ、そうなるな。ま、良かったらの話だ。俺と一緒にいると面倒なことが起きてしまう前提で」

 

今さっきまでファンに囲まれていた一誠。それがたった一人の女性と一緒に出かけるということは、特別な関係の女性と世間が認識してしまう恐れが生じる。それを考慮した上で一誠は誘っている。虚もそのことを察している。

 

「―――そこにいる楯無に対して、自分が楽しんでいるところを見せ付けたくないか?」

 

コソッと虚の耳に顔を近づけ声を殺す。読唇術で口の動きを見せないように口元を手で隠した上で。

楯無の存在を気付いている一誠の提案を聞き、頭の中で逡巡する虚の意志とは他所に。

 

「悩むぐらいなら、一緒に遊びに行こうぜ」

 

「へっ!?」

 

徐に手を掴まれる。しかも指と指の間に差し込んだ形で握り締められ引っ張られる虚は間の抜けた声を上げた。

 

「よし、まずはゲーセンだ。その後は俺のお勧めの喫茶店で食事をしようぜ」

 

「ちょ、おり―――!」

 

「あ、俺の事は一誠でいいよ。織斑なんて三人もいるからややこしいだろう」

 

グイグイと楽しそうに笑顔を浮かべ虚を引っ張る一誠を見てしまい、何も言えずに成すがままどこかへ連れて行かれてしまい。

 

「・・・・・何よアレ」

 

すっかり置いてけぼり、蚊帳の外な楯無は一人、ポツリと呟く。

 

それから後日―――必然的に一誠と映る虚が雑誌や週刊誌に載せられ、『織斑一誠の恋人か!?』と世間が騒ぐようになったのは遠くない未来である。同時に楯無からの誘いは完全に無視された。

 

「虚ちゃん!何でちゃんと釘も差してくれなかったのよぉっ!?」

 

「ならば、今度はお嬢様自身がお誘いすればいいだけです」

 

「私じゃあ警戒されて駄目なんだってば!」

 

「警戒されることをしたお嬢様がいけないかと」

 

「うっ!?」

 

「・・・・・失礼」

 

徐に携帯を操作し出す虚の顔は・・・・・とても嬉しそうであった。

 

―――♢―――

 

「ふんふ~ん、ふふんふっふっふ~♪」

 

真っ青なワンピース、白いエプロンに背中の大きなリボンはとある童話に出てきそうな服装を着込む女性は楽しげに首を肩ごと左右へ動かし、巨大な物体の上で一人作業を行っていた。

 

「いっくんいっくん、もっといっくんのこと知りたくなっちゃったな~♪」

 

これが本当に機械なのかと誰もが目を疑う。機械でありながら鋭角で有機的な形状。何かの元となっているフォームで束はコレを作る為に一日三十分間しか寝てないというのだ。全ては一誠の底を知る為に。

 

「神話なんて古臭い歴史には興味なかったけど、いっくんを見てからちょっとだけ興味が湧いちゃったよー」

 

素材は場所によって様々だ。脆くて柔らかい部分は鋼鉄で覆い、全てを引き裂かん鋭利な部分には束特製であり特注の代物。現行兵器を上回るISを更に上回っている物を束は作り出している。千冬がこれを見たら米神に指を摘まんで頭を痛くなる思いをするかもしれない。―――無駄に才能と技術を詰め込むなと。

 

―――♢―――

 

「海っ!見えたぁっ!」

 

トンネルを抜けたバスはIS学園一年生全員を乗せて臨海学校、校外特別実習を行う場所へ向かっていた。天気は爽快で眩しい太陽光の日差しと共に広がる青い空。陽光を反射する海面は穏やかで、心地良さそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。臨海学校初日は丸々自由時間なので十代女子は海での遊びに楽しみでテンションは最高潮。ISを学ぶ特別学園の生徒とはいえ、女の子であることは変わりない。女子しかいないバスの中には当然四人の男達もおり、

 

「夏なんて・・・・・暑いだけだろう」

 

「秋十、お前は夏の季節は嫌いだったなぁ」

 

「夏なんて五月蠅い、煩い、熱い、暑いしか感じない・・・・・駄目だ、やる気が出ない。家に帰ってクーラーで整った環境の中でゴロゴロしてテレビを見つつお菓子を食べてネットゲームをしてだらけたい」

 

「お前、どこのエロゲーの引き籠りの某国の天才少女なんだ?」

 

「言うな弾」

 

「こいつ、この季節だけは人が変わったようにだらけるんだよなぁ」

 

冷房の状態の小さなエアコンから吹く風でバスの中はそれなりに涼しくも、気分の問題で秋十はグテーと情けない姿勢と態度、言葉をする。一夏達から話しかけれれば億劫そうな顔を浮かべることも止めない。

 

「それに比べ、一誠の奴は海での仕事をするんだろう?」

 

「ああ、そう言ってたっけ。海と言えば沖縄と思うんだが実際はどこの海でやるんだろうな」

 

「鳥取じゃね?踏むと音がする砂丘があるし」

 

「俺的には湘南の江ノ島じゃないかなぁ?と思ってるぜ」

 

「・・・・・あいつが族をコテンパンにしている想像しか浮かばないのは俺だけか」

 

秋十のだるそうな声と共に出た言葉は一夏達にとって忘れ難い思い出の一つだった。とある夏の日、一誠の身に変化が起きてしばらく経った頃。男五人だけのちょっとした長旅をして旅先は神奈川県で宿泊込みの海遊びを楽しんでいた。が、夜になれば走り屋の族が夜中になっても五月蠅い。先に寝ていた一誠がバイクの音で不機嫌そうに起き上がり、四人の制止を無視してどこかへ行ってしまった。後を追い掛けた四人が見た光景に、山積みにされた人と鉄屑となり果てたバイクの塊ができていたがそれは一ヶ所だけではなかった。その日の湘南は乱闘事件と警察の判断で解決されたが、住民の何人かが乱闘事件の事で『赤い悪魔を見た』と証言したいた。

 

「・・・・・あの原因が今でも俺達の弟だとは思えないんだが」

 

「俺達が探し回っている間にあいつ、旅館に戻って寝てやがったしな」

 

「今でも謎に包まれているんじゃね・・・・・?」

 

「取り敢えず、あいつの睡眠を妨害することだけは危険だとわかった」

 

湘南の乱闘で負傷した人数は軽く百人を超えた。同時多発事件と捜査が行われた日の内、一夏達は面倒事に巻き込まれない為、逃げるように離れたので人気芸能人の一誠が何かしたのではないのかという話はお茶の間や雑誌に載らなかった。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

千冬の言葉で全員がサッとそれに従う。指導力抜群であった。

 

「それと、先に言っておくことがある」

 

と、千冬は注意事項のようなことを言いだす。

 

「私達がこれから三日間お世話になる旅館に仕事の都合上で既に宿泊している者達がいる。くれぐれも出会ったりしても迷惑を掛けてはならないぞ」

 

きっとISに関係している仕事の人達なのだろうと誰もがそう思って返事をする。

 

「・・・・・まさか、なぁ?」

 

「いやいや、有り得ないって」

 

この二人、一夏と秋十だけはある予想を浮かべていた。脳裏に過ぎる真紅の髪を持つ弟の顔を―――。

 

 

 

「―――ドラゴン・ブレスッ!」

 

「お、おのれぇえええええええええっ!?」

 

赤い龍を模した龍の鎧を全身に装着する者が怪人を倒したシーンで撮影が終了した。

 

「カーットッ!」

 

監督が撮影終了の合図を鋭く発し、緊張の空気は和らぐ。鎧を纏っている者もベルトを外すと鎧が一瞬の閃光を放ち、装着者である人間、一誠が姿を晒す。

 

「お疲れ一誠君。後数話でこのヒーロー番組も放送終了だねぇ」

 

「はい。名残惜しいですけど最後まで頑張りますよ監督」

 

「次は来年の映画の主役として撮影もするんだってね?しっかり頑張りなよ」

 

「ははは、初めて映画の主役なんで緊張するなぁー」

 

苦笑いを浮かべ、ベルトを片手に監督との話を打ち切りパラソルの下に設置された椅子を座らずテーブルに置かれたタオルを手にして汗を拭いていると、霧生マネージャーが陽光で煌めく銀髪を靡かせながら近づいてきた。夏故に薄いワンピースを着て日射病対策に麦わら帽子を被っている。容姿も美しく、一誠が今まで接してきた女性の中で―――。

 

「・・・・・綺麗だ」

 

「はわっ!?」

 

真っ直ぐ金目を向けられて自分(きりゅう)のことを言われているのだと耳まで瞬時に赤く染まった。

霧生に対して称賛の言葉を言うのは一度や二度ではない。芸能界で好きな人の特徴と言えば?という番組に出演した際に一誠は。

 

『月光に幻想的に浴びた儚くとも美しい銀色の髪・・・・・かな』

 

と、答えた結果。銀髪の女性が一誠の好みだと世間は知れ渡り、一番身近に一誠の傍にいるマネージャーは自分の事でもないのに顔を赤らめた。

 

「あ、ありがとう・・・・・」

 

「・・・・・」

 

モジモジと恥かしそうに赤くなった顔を隠すように俯いて、蚊が鳴いたような声で発したマネージャーは気を取り直して一誠に告げる。

 

「今日の撮影はもうお終いだよ。残りの時間は自由時間だから旅館に戻るなり海に泳いだりとかしても大丈夫だからね?あ、でもIS学園の生徒さん達と一緒に遊んじゃ駄目だからね?私達は私達で行動をしているんだから」

 

「霧生さんは?」

 

「私はまだお仕事があるから旅館に戻らないといけないの」

 

「なら、一緒に旅館まで」

 

一人で遊泳をしてもつまらないと判断し、マネージャーと旅館へ戻る選択を選んだ。IS学園の生徒と接触、発見されないよう気を配りながら旅館へ戻り、マネージャーとは別に宛がわれた部屋に入る。

 

「・・・・・」

 

ただ一人しかいない空間。一人だけという認識をさせられるが、あまり気にしたことがない。親しい者達と一緒ではない寂しい感じはするが、一誠はどうしても孤独感は覚えなかった。それは一人になった途端―――。

 

『道化を演じるのも疲れるなぁ?』

 

どこからか一誠へ当然のように話し掛ける声が聞こえてくる。一人でいると一誠に話しかけてくる声が聞こえてくるのだ。一誠はその声の正体を既に把握し、受け入れている。

 

「別に、道化を演じているつもりじゃない」

 

『お前がそうであっても、周りはお前に騙されている気分でいる』

 

「・・・・・」

 

『俺達は知っている。お前はこのまま終わる者ではない。―――いつか必ず本来戻るべき場所へ帰還することを、我々は願っている。その為の力を求めるならば、お前を邪魔する者が現れるなら・・・・・力を惜しまず協力する。お前と我らは家族なのだからな』

 

家族―――。この世界に生まれた一誠は少なからず前世の一誠とは違う。それでも、前世の一誠の想いを、力を、魂を引き継いでいる。一誠に声を掛けている者は一誠にとって家族と認識し難い存在だ。

 

「・・・・・仮に戻るべき場所に帰りたいと思ったなら、もう少し先になる。やり残していることを全てやり遂げてからだ」

 

『ああ、それでも構わない。何時までも我々はお前と共に在る』

 

声が途端に止み、一誠は静かに息を吐く。

 

「・・・・・元の世界に帰りたい、か」

 

―――♢―――

 

次の日の朝。専用機持ちの一夏達は臨海学校二日目は、一日目と打って変わって真面目な話になる。

二日目はISのデータ取りなどを行うので、第一学年全員がISスーツに着替えて砂浜に集合していた。

しかし、丸一日自由時間で羽目外し過ぎたのか、約一名だけ寝坊して遅れていたものが体や気持ちを萎縮させながら現れた。

 

「ようやく遅刻者も現れたことで全員集まったか。おい、ISのコア・ネットワークについてわかりやすく説明してみろボーデヴィッヒ」

 

「は、はい」

 

そんな生徒達の他にも砂浜でIS学園教師であり鬼教師と恐れられる織斑 千冬に鋭い視線を向けられるドイツの代表候補生で特殊部隊の隊長でもあるラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

「―――――以上です」

 

「その通りだ。遅刻の件は、まあこれで許してやる」

 

あからさまにほっと一息つくラウラ。その昔、千冬が上官だった時に、色々と叩き込まれたのだろうか。

 

「では各自データ取りを開始しろ。決してふざけるんじゃないぞ」

 

『はーい!』

 

元気よく返事した生徒達は、それぞれの持ち場に移動していく。専用機持ちはここに運ばれてくる新装備のデータ取りである。

 

この臨海学校に部外者は立ち入り禁止なので、装備は揚陸艇でそれぞれ送られてくる。

イギリス・中国・フランス・ドイツと、大国の国旗がはためいているのは壮観だ。

 

「ち~ちゃぁぁぁんっ!!」

 

それぞれが粛々とデータ取りに真剣で勤しんでいると、強い砂煙を巻き上げながら猛烈な勢いでこちらに迫ってくる人影があった。人が走るだけでは到底ありえないほどの巻き上げっぷりだ。

そしてその砂煙をあげているのは、関係者以外立ち入り禁止の臨海学校を堂々と侵入してくるのは、現在の世界で最も有名な科学者である篠ノ之束だったが、

彼女の登場と同時に事件が発生するとはこの時まで千冬すら想像もしなかった。

 

しかも、代表候補生でもない束の妹の箒に束自身が作った世界各国がようやく第三世代型の試験機をできた段階だと言うのに現行ISを上回る第四世代型の紅いISが七月七日、箒の誕生日のプレゼントして用意されたのだった。

 

 

ISでの事件はここまでも影響を及ぼしている。旅館から数キロ離れた場所で撮影所としてドラマの撮影をしていた一誠達。爽快な天気の中で事件解決の鍵を握っている少年役として他の出演者達と出演している最中だった。

夕焼けで染まる空と海を背景にクライマックスへと迎えようとしていたところで、カメラマンが異変に気付いた。カメラ越しで夕日から見える黒い物体が徐々に大きなって太陽が闇に覆われた時には、ソレが目の前に現れた。

 

「こ、こいつは・・・・・っ!」

 

黒光りする装甲、巨大な体躯、対象を威圧させる雰囲気、鋭利な牙と爪を窺わせ恐怖を抱かせる。

 

「まさか、IS・・・・・なのか?」

 

見た目も形も元来のISとは異なっている。三つ首は長く、頭部は爬虫類の蜥蜴のような形をして四肢型の体に三対六枚の黒く光る翼が展開している。

 

「これが、IS・・・・・?」

 

疑問を漏らし疑念を抱く一誠。この巨大な機械は明らかに物語っている。―――お前のこと知っていると。そして、これがISであるとすれば、ISコアを作ることができるのはこの世でただ一人―――。

 

「束ねーちゃん・・・・・俺に何を望んでいる」

 

その答えは・・・・・黒いISが横薙ぎに手を振るって、四本の指だけで一人の女性を鷲掴みにした。

 

「きゃあああああああああああっ!?」

 

「―――っ!?」

 

霧生マネージャーを捕まえたISが翼を羽ばたかせ、スラスターにエネルギーを溜めた後に瞬時で朱色の空の彼方へと飛んで行った。一誠達はただただ愕然と、唖然と開いた口が塞がらないまま見守ることしかできなかった。

 

「・・・・・た、大変だ・・・・・!し、至急に警察―――警察に報告するんだ!」

 

我に返る監督がスタッフに指示を下すそれよりも早く、既に動いていた人物が一人いた。一人だけいないことを一人のスタッフが気付く。

 

「あれ、織斑君はどこに・・・・・?」

 

「はっ?」

 

―――♢―――

 

旅館から三十キロ離れた沖合い上空にて複数対一の戦闘が行われていた。戦闘は無論ISでだ。その戦闘は会議兼観察室用に様々な機械で設けられた旅館の一室にいる千冬達教員達も把握していた。

 

一夏、秋十、箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラと天使を彷彿させる銀色のISが激しい攻防を繰り広げている様子を映すモニターに真剣な眼差しを送る。

 

「あの子達、大丈夫でしょうか・・・・・」

 

「作戦を終えたら厳しい処罰が待っているがな」

 

「そ、そこはお手柔らかにお願いしますね・・・・・?」

 

命令違反は確実。肉体と精神が疲労しているところで千冬の説教と罰でさらに心まで疲れ果てるだろう。厳しく在りながら優しい麻耶はやんわりとこの後の一夏達の事を思って苦笑いを浮かべるその時だった。

突如鳴り出すけたたましい音に千冬達は直ぐ様対応を始める。

 

「こ、これはっ!?」

 

麻耶が信じられないと目を見開く。その理由は有り得ないことに。

 

「大変です先生っ!織斑君達がいる空域に向かう未確認のISが!」

 

「モニターに映せ」

 

千冬の指示に未確認のISの姿をモニターに映し出される。そのISを見た千冬は驚きの色を顔に浮かべた。

 

「これが、ISだと・・・・・」

 

人型ではなく、獣のような姿をしているIS。大きさもISの二倍は上回って超音速で移動している。しかも、千冬は獣型のISの手に注目した。

 

「・・・・・あれは」

 

赤いメッシュが入った銀髪の女性が捕まっている。未確認のISが一般人を巻き込んでいる事実に千冬だけでなく麻耶も愕然の面持ちで言葉を失った。

 

「・・・・・一誠のマネージャー・・・・・だが、どうして」

 

見覚えがあり面識したこともある女性。千冬は旅館に仕事で宿泊している者達は誰なのか分かっていた。

敢えて、一夏達にも教えず一誠へ会いに行こうともしなかった。お互い仕事で旅館に宿泊している者同士。不要な接触は避けることを心掛けてもいる。だからこそ、今回の事件に巻き込まれていないと考えていた。―――その考えが甘かったことを突き付けられ、奥歯を噛み締める。獣型のISはどんどんと一夏達がいる戦闘空域へ近づこうとしている。

 

「不味いですっ!?一般人まで戦闘に巻き込んでは危険すぎます!」

 

「っ・・・・・直ぐに空域および海域を警戒している教員に通達を」

 

「は、はい―――!」

 

と、麻耶が頷いて通信を入れようとしたところで獣型のISに動きが。三対六枚の光る翼を展開している背中の装甲が開き、二十七の小型ミサイルを後方へ放ったのだった。―――誰かが追い掛けている。あのISの攻撃でそう物語っている。

 

「・・・・・ステルスと後学迷彩のISと戦っているのか?」

 

他にISの反応は無い。見えない敵にミサイルは計三回も撃ち出されたが、撃墜にまでは至ってない様子で二つの首が後ろへ向きレーザーを撃ち続ける。

―――その仕返しとばかり光の極太のビームが獣型のISの回避によってかわされ、どこまでも伸びていった。

 

そう、一夏達が未だに戦い続けている空域にまで伸びていった。突然の光柱に一時攻撃を中断してしまうほど極太で、まともに食らえば装甲が破壊される恐れと攻撃される警告が生じなかったので誰もが驚きを禁じ得なかった。

 

「な、なんなの今のはっ!?」

 

「わ、わかりませんわ・・・・・突然、本当にいきなりですもの」

 

「新手か・・・・・?」

 

半分正解で半分不正解。後に光柱が現れた方角から獣型のISの姿を捉えた七人はギョッと目を大きく丸くする事実を知った。

 

「ちょっと待て、何なんだアレはっ。しかも、人が捕まっているぞ!」

 

「嘘でしょう!?」

 

「一夏、どうしよう!」

 

敵ISと一般人を捕まえている未確認のIS。優先すべきなのはどちらなのか。この時、千冬ならどう指示を下すのだろうかと一夏達は考えた。

 

「二手に分かれるしかない」

 

軍人で隊長であるラウラの意見に誰も異論はなかった。主に近接型のISで一般人を救助する作戦で決行を臨んだ。零距離で密着、動きを封じてから腕を斬り落とし、腕ごと一般人を救助するラウラの作戦を開始しようとした。

 

―――が、接近してくる獣型のISの背後に忽然と現れた者があろうことか、三つ首の内の一つを両断した。

 

「はっ?」

 

海へと落ちる首は途中で燃え上がり、焼失する。突然のことで一夏達は我が目を疑う。首の一つを斬られたISも瞬時加速で銀色のISへと急接近。否、まるで追ってから逃げるように横切って遠ざかる最中、獣型のISを追うように周囲の空間に歪みが生じ、ポッカリと開いた穴から幾重の鎖が飛び出し、全身に絡みついて空中で拘束、動きを封じたのであった。

 

「・・・・・誰が、あんなことをする」

 

見えない相手はどこにいるのだろうかと銀色のISですら周囲を警戒するように見渡し始める。金属音を激しく鳴らし拘束を解こうとする獣型のISに―――。

 

「まったく、ISってのは本当に速いな」

 

夜空に浮かぶ満月から一つの影が降ってきては、獣型のISの上に着地をした。真紅の髪をたなびかせ、意志の強い光を金の瞳に宿し、片手に黄金の刀身の剣を持つ少年が呟く。

 

「え・・・・・」

 

「な・・・・・」

 

その少年は一部を除いて良く知っている少年だった。そしてここにいる筈もない少年でもあった。しかし、信じ難いがこの場に確かに存在している。

 

「い、一誠・・・・・?」

 

「ん?ああ、夏兄か」

 

今更気付いたと風な言動をするのは、一夏と秋十の弟の一誠であった。一誠は視線を二人の兄だけでなくこの場にいる少女達にも視線を向ける。

 

「おお、懐かしい奴もいるな。感動の再会をしたいが、こっちはそれどころじゃないからなぁ」

 

苦笑を浮かべ、視線を拘束しているISへ落とす一誠に当惑が籠った声が掛かる。

 

「ちょ、ちょっとあんたっ!?どうしてここに、というか、どうやって来たのよ!」

 

ツインテールの少女の言葉を一誠は無視して捕まっている一般人、霧生へ近づく。

 

「大丈夫か?って・・・・・気絶しているのか」

 

ぐったりと頭を垂らして瞑目している女性の状態を確認して、ISの腕に一閃。ラウラの考えた作戦を一人でこなしマネージャーを助けた。

 

「さて、後はこいつを壊すだけだな」

 

空高く跳躍して発現する幾何学的な光る円陣に乗り、マネージャーを横たわらせて再び飛び降りた一誠と同時に拘束していた鎖が限界を超えたかのように引き千切られて獣型のISは自由となった。剣を構える一誠に迎え討つISは背中から小型のミサイルを一斉射出。

 

「―――はっ!」

 

光る刀身を十字に振るったことで放たれる斬撃が二十七のミサイルを全弾撃墜して、無力化されたミサイルはブラフだと高出力のエネルギーのビームが射出。一誠に伸びるビームは一誠の眼前に開いた穴に吸い込まれ、獣型のISの左右に同様の穴が開いたと思えば、そこから二つのビームが飛び出してきて回避する暇もなく直撃する。

 

「自業自得ってやつだとは思わないか?」

 

『ガアアアアアアアアッ!』

 

獣のような咆哮を上げ、超音速の飛翔を始める獣型のIS。それを金目が追うように視線と顔を向けた一誠は、

 

「逃がすか」

 

ベルトから真紅の光が迸り、装着者の全身を覆う光は鎧へと具現化してヒーロー戦隊として着ている真紅の龍を模した全身鎧を装着した。背中に生える二対四枚のドラゴンの翼で獣型のISを追う。その速度はISを上回っていた。

 

「速いっ!?」

 

あまりにも凄い速度で唖然と見つめる少年少女達も戦いの火蓋は切って落とされている。

 

剣撃と打撃でダメージを与え、徐々に装甲を破壊していく。獣型のISも反撃を試みているものの完全に機動力が上回っている相手に攻撃は当たらず、背部スラスターを斬られ破壊されてしまい重力に逆らえず海へと落ちていく。

 

「―――トドメだ」

 

海面に立ち剣を上段に構え出す一誠が鎧を解除して、また別の姿へと成り変わった。

真紅が金色に塗り替わり、頭上に金色の輪っか、背中に金色の六対十二枚の翼を生やし瞳は翠と蒼のオッドアイと変わると剣に黄金の輝きが増していくにつれ、闇夜に支配される空間が神々しく照らされる。温かくて眩しい、まるでもう一つの太陽がそこにあると思わせる。

 

『未知なる攻撃を対処する為。最大攻撃力を使用する』

 

銀色のISが一誠に対して機械的な音声を発し、攻撃態勢になった。

 

「そうは」

 

赤と

 

「させるかぁっ!」

 

黒が銀色のISを阻んでくれたことで一誠も次の動作をすることができる。浮力を失い海に落下しながらも一誠に対する攻撃の意志は途絶えていない獣型のISはミサイルやビームを最後の攻撃として一斉に放出した。対して一誠は瞑目して心を静かに、微動だにせず輝く剣を上段に構えたまま命を奪う攻撃の接近を許し続けている。

 

「・・・・・あれは」

 

モニターで見る千冬は一誠の構えに呟く。一度だけ、たった一度だけ幼い頃の一誠が気を抜いていたら負けていたと思わせた技だと心の中でも呟いた。モニターに映る一誠がゆっくりと瞼を開け、目と鼻の先のビームとミサイルを見据え―――刀身を大きく伸ばしだし、

 

エクス(約束された)―――」

 

躊躇いも戸惑いも揺らがず。ただ目の前の敵を屠るのみと、一誠は剣に魂を込める思いで海へ叩きつけるように振るう。

 

勝利の剣(カリバー)ぁああああああああああああああああああっ!!!!!」

 

二つの凶弾ごと海を裂く奔流と化しながら前へ前へと走る金色の極光の斬撃と衝撃波。獣型のISをあっという間に呑みこんで直撃した瞬間に天を衝くような夜空へと伸びる極光の柱が生じる。

 

「・・・・・なんて綺麗な」

 

全身を照らすほど眩い金色の極光は一夏達の目を釘付けにする。獣型のISはコア諸共破壊し尽くされ破れた。しばらくして光も消失して元の夜の海の静けさに戻る。

 

「・・・・・残りはそいつだけか」

 

剣を腰に佩いている青い鞘の中へ収める一誠が忽然と姿を消し、銀色のISの前に音もなく現れた。

 

「中に操縦者がいるようだな?しかし、面白いな」

 

『!』

 

銀色のISは光のエネルギー翼を大きく広げて攻撃しようとしたが、それよりも大きく、巨大な金色の翼に広げた一誠に包みこまれる。

 

「安心しろ、お前の大切な人に傷つけるつもりもない。―――良く頑張ったな。守ろうとしていたんだろう」

 

優しく語りかけ、銀色のISを抱き締める。この抱擁から逃れようと上げた手を一誠の頭部に向かって―――。

 

「信用してくれるならば、後は俺に任せてくれ。お前も大切な人も俺ができる限りの事をしてまた飛べるようにするからさ」

 

『・・・・・』

 

「だから、もう休んでいい。お前の行動はきっと操縦者も心から分かってくれている筈だから」

 

銀色のISは一誠の言葉にゆっくりと、腕を下ろした。

 

―――約束だよ。

 

声は聞こえない。だがしかし、思いは伝わった。銀色のISから見つめられる視線にそう感じた。だから、一誠は純粋に笑った。

 

「ああ、約束だ」

 

その言葉を聞けて満足だったのか、銀色の装甲が一瞬の閃光と共に消失。スーツだけの状態となった操縦者が一誠の胸の中に収まった。気を失っているようで目を覚ます気配は感じない。でも、一誠は嬉しそうに笑みを浮かべ続ける。

 

「ありがとうな。信用してくれてよ」

 

自分ごと覆っていた翼を解放して―――面倒くさそうな顔を浮かべた。

 

「一誠・・・・・どういうことだ?」

 

「あんた、説明してくれるわよね?」

 

七人と七機の操縦者とISに囲まれていた状況に億劫そうな表情をした一誠だった。

片翼で女性操縦者を包み、頬をポリポリとどう言い訳しようかなーと考えた矢先。

 

「あー。箒?ちょっと来てくれるか?来ないならこっちから来るけど」

 

自然体で紅を纏う箒へと近づこうとした。が、完全に警戒している箒本人だけでなくセシリアやシャル、ツインテールの少女に得物を突き付けられる。

 

「・・・・・うわ、物凄く警戒されてるよ俺」

 

「当り前よ!あんた、本当に一誠なんでしょうね!?」

 

「おー、一年振りか鈴。あのクソ不味い料理を兄貴達に食べさせていないだろうな中華もどき」

 

「中華もどきって言うなッ!料理も上達したわよっ!」

 

鈴と呼ばれたツインテールの少女は怒髪天が衝く勢いで怒りだす。

 

「初めましてですわね。織斑一誠さん。一夏さんと秋十さんの弟さんと聞いていらっしゃいましたが、随分と人間離れをしたお人のようですわね」

 

「イギリス代表候補生のセシリア・オルコットか。何気に棘のある言い方をするな。言っておくが、俺は敵対する意思はないぞ」

 

「・・・・・なら、私と達一緒に来てくれるか」

 

「いや、絶対に面倒事が起きるってラウラ。特にこうしている間にも旅館にいるであろう織斑先生が見ているんだ。一緒に説教なんてご免被る」

 

黒いISを纏う銀髪眼帯の少女の同行の誘いを遠慮する。

 

「で、やっぱり女だったかシャルル・デュノア?」

 

「・・・・・一夏に居場所を作ってくれたからね」

 

「おい、夏兄!また鈴みたいに無自覚で女に好意を抱かせたのかよ!」

 

「ちょっ!何を言ってるのよぉーっ!?」と羞恥で叫ぶ少女の声は怪訝に小首を傾げる一夏には一誠の言葉を理解できないでいた。

 

「・・・・・まあ、超朴念仁で唐変木で超ド級の鈍感兄貴だけど、相手が異性である認識だけはしっかりあるから一緒に風呂入ったり添い寝でもすれば何時か気付いてくれると思うんで。頑張れ」

 

「―――っ!?」

 

耳まで火が点いたように顔は真っ赤に染まったシャルの内心は。「ど、どうして一緒に風呂を入ったことをっ!?」とテンパっていた。

 

「箒、今日は七月七日だよな。お前にプレゼントを用意したんだけど」

 

幾何学的な円陣を展開すると小さな箱が出てきた。

 

「誕生日おめでとう箒」

 

「・・・・・」

 

小さな箱を持つ手を箒へ伸ばす。目の前に突き出されるプレゼントを箒の目はその箱に視線を送ったが、一瞥して一誠に視線を注ぐ。その目は困惑と動揺の色が孕んでいる。

 

「一誠・・・・・お前は、人間なのか・・・・・?」

 

箒からそんな問いを掛けられ、箱を持っている手を引っ込めて困ったように頭を掻く。答え辛そうに逡巡して口を開きだす。

 

「一応人間のつもりだけど、俺はISを上回る力を有している。さっき見ていたならもう理解しているだろうけどな」

 

「人間なら人間だとはっきり言えばいいじゃない。なんで曖昧なことを言うのよ」

 

「この姿を見ても、俺は人間だと鈴は断言してくれるのかよ?」

 

「・・・・・それは」

 

「だから曖昧に言ってしまうんだ。正直、俺も今でも当惑している。この力を手にしたのは第二回モンド・グロッソの時なんだからな」

 

過敏に一夏と秋十が反応する。髪と目の色が変わった、千冬の試合放棄の為に誘拐されたあの時のことを思い出したのだ。

 

「ま、俺は人間だけど人間じゃないって割切っている。俺の事を受け入れないならそれでもいい。だけど、これだけは」

 

武器を突き付けられても一誠は平然と自ら進んで箒に近づく。一度引っ込めたプレゼントを再度、箒へ差し出す。

 

「これだけは受け取ってくれないか?」

 

「・・・・・」

 

目の前のプレゼントを差し出す幼馴染。だが、目と髪、姿が箒が知っている一誠と異なって別人のように見えてしまう。本当に一誠なのか、一誠を偽っている何者かではないかと箒の頭や心の中で疑念や当惑で支配される。

 

「・・・・・ん、そうか」

 

小さな箱を寂しげに引っ込め手の中で突然燃え上がる火によって消失する。

 

「俺を俺として見るのも難しいよな」

 

「一誠・・・・・?」

 

マネージャーを乗せた幾何学的な円陣を傍にまで寄せて腕で抱える。大事そうにマネージャーを一瞥して一夏達に視線を向く。

 

「お待ちなさい。その方をどうなさるのですか」

 

「どうも何も、この人は俺のマネージャーだ。俺はこの人を助ける為にここまで来たに過ぎない」

 

「・・・・・もしかして仕事で花月荘って旅館に泊ってる人達がいるってのはお前なのか?」

 

「ああ、そうだぞ」

 

一夏と秋十は霧生マネージャーとは面識がある。なので、二人がいると言うことは=仕事で、直ぐに納得できたと同時に直ぐ近くに家族がいるということに驚いた。

 

「この操縦者もそこへ運ぶつもりだ。問題は無い筈だが?」

 

「それは・・・・・」

 

「ていうか、どっちにしろあんたは千冬さんに見つかって説教される運命じゃないの」

 

「は?俺は別にIS学園の生徒じゃねーし。何言ってんだよ鈴」

 

「いやぁ、織斑先生の弟だから・・・・・可能性はあると思うよ?」

 

「俺とちぃ―ねーちゃんはお互い仕事に関して口を挟まない暗黙の了承をしているんだ。仕事として来ている俺にちぃーねーちゃんが顔を出してきた瞬間。俺も仕事中の姉に顔を出す権利があるということになる。お互いの仕事の邪魔をしない為にだ」

 

―――絶対、千冬は一誠のもとに現れる。一夏達は賭けてもいいと断言する思いがこの瞬間一致した。

 

「それじゃ、先に帰らせてもらうぞ」

 

それだけ言い残し、十二枚の翼を羽ばたかせる一誠は一夏達を置き去りに光の軌跡を残して飛翔した。

 

「はやっ!?」

 

「ちょっと待って、ハイパーセンサーが追いつかないんだけどっ!?」

 

すると、少年少女達の頭の中に直接一誠の声が聞こえてくる。

 

『上位三位以下になった奴は―――誰にも言えない秘密を暴露するから頑張って戻って来いよー。因みに鈴は自室で一人―――、―――、―――をしていましたぁー』

 

突然のゲーム、しかも本人しか知られていない秘密を明かすという罰ゲーム付きが始まり、暴露された鈴は般若のような表情を浮かべ一誠を追い掛けるように旅館へ戻った。一夏達も秘密を暴露されまいと必死に鈴と合流、追い越して旅館に戻った矢先。

 

「おい、ガキ共。取り敢えずそこに正座しろ」

 

「「「「「「「・・・・・」」」」」」」

 

旅館の出入り口の前で、腕を組み仁王立ちをしている鬼がいた。

 

「あ、あの・・・・・織斑先生。一誠は・・・・・?」

 

「今関係ない者の事を聞くとは随分と余裕じゃないか?ええ?織斑?」

 

駄目だ。今この人に何を言っても自分達は地獄を味わうだけだ。疲労困憊の体で石畳の上に正座をさせられる未来は直ぐ近くまで迫っている。地味に痛い。特に正座が慣れていない外人は拷問でしかない。

 

因みに一誠は・・・・・・。

 

「あ、あのぉ・・・・・織斑君?ちょっと私と来てほしいなぁーなんて」

 

「誰ですかあなたは?ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」

 

一誠の自室で二人の女性が寝かされて、一誠や監督、スタッフが話し合いをしているところに麻耶が現れスタッフ達が追い返されてしまう様子に苦笑いを浮かべた。

 

―――♢―――

 

一誠にとっては三日目の朝。操縦者の女性とマネージャーは一晩で目を覚まし、説明すると感謝と謝罪の言葉を送られた。

 

「霧生さん。昨日の今日で悪いけど出発するって」

 

「はい。分かりました。では、急いで支度をしますね」

 

それだけ言い残し、一誠は女性と二人きりになった。

 

「・・・・・織斑、一誠君ね」

 

「まあ、知られて当然だけど。ん、そうだよ」

 

「助けてくれてありがとう」

 

改めて感謝されるが、IS学園の生徒が助けてくれたと説明したので一誠が感謝されるのはお門違い。自分が助けたわけじゃない、そう伝えようと口を開けた瞬間。

 

「あの子を通じて知ってるわ。眠っていた間にもあなたが天使の姿で声を掛けている夢も見たから」

 

あの子、とは。銀色のISの事なのだろうと察する。

 

「あくまでついでみたいな感じだったけどな」

 

「彼女を助ける為に?」

 

「ん、そういうこと」

 

申し訳なさそうに乾いた笑い声を発する一誠に女性は気にしていないように笑みを浮かべる。しばらくお互い喋らず、沈黙を保っていたが一誠は徐にどこからともなくある物を取り出した。

 

「取り敢えず、これをあげるよ」

 

「―――これって」

 

彼女が目を張るほどの代物だった。しかも譲渡するというのだから信じられないと心境ものだ。

 

「事情は分からないけど、これで利用すれば何とかなるんじゃないか?」

 

「でも・・・・・これはどこで?」

 

「それは秘密かな。でも、約束をしたからにはこれを渡す必要があると俺は考えている。だから受け取ってくれ」

 

一誠の提案に驚き、「・・・・・いいの?」と問うてしまう女性操縦者。

 

「いいさ。俺はあまりISが好きじゃないんだ。数年ぐらい前に、そして今でもISに襲われているから尚更な」

 

「・・・・・それなら学園に通った方が良いんじゃないの?」

 

「俺、大人の都合に巻き込まれたり一方的な命令をされるのは好きじゃないんだ」

 

というか―――。

 

「あんたこそ、軍人じゃなくてIS学園の教師にでもなれば?そうすればまた銀色のISを纏って空を飛べると思うけど」

 

「・・・・・」

 

そう言われてしまう女性操縦者は口を閉ざし無言となる。

 

「一誠君。準備が整ったから出発しましょう?」

 

「わかりました」

 

マネージャーが顔を出して一誠を促させる。手短に置いてある荷物を手にし立ち上がっては金目を女性操縦者に見下ろす。

 

「それじゃ元気で。多分二度と会うことはないだろうけどな」

 

別れの挨拶を済ましたつもりで顔を部屋の外へと向け歩き始める。

 

「ちょっと待って。忘れ物よ」

 

「ん?」

 

呼び止められ、忘れ物なんてあったか?と内心小首を傾げる感じで振り向いたら華奢な腕に肩と頭が巻きつかれ、

 

「ちゅっ」

 

「・・・・・」

 

女性操縦者の唇が一誠の唇と重なった。

 

「助けてくれたお礼よ。それに・・・・・会えないなら自力で会えるようにすればいいのよね?」

 

ふふっと、綺麗に笑う彼女は・・・・・。

 

「私はナターシャ・ファイルス。銀色のISの名前は『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。きっと遠くない内にあなたのもとへ来てみせるわ織斑一誠君」

 

そう宣言をしたのだった。

 

 

そして一誠が旅館からいなくなって次の日の夜―――。

 

岬の柵に腰かけた状態でぶらぶらと足を揺らす女性と木に背中を預けながら佇む二人の女性がいた。二人だけ、特にISを誰よりも深く関わっている人物達の密会。

 

「ねえ、ちーちゃん。いっくんって凄いねぇ」

 

「・・・・・なんのことだ」

 

「きっと気まぐれな神様がもっと世界を盛り上げる為に用意した神の申し子かなって思っちゃうね。生身の体でISを倒しちゃうんだからさー」

 

「・・・・・」

 

「きっときっと、世界がいっくんの事を知ったら・・・・・」

 

そこで言い掛けた束が手を首辺りに回して飛来した木の枝を二つの指で挟み止めた。

 

「一誠に手を出すな、束・・・・・っ」

 

敵意と殺意が孕んだ鋭い目つきで束を睨む千冬はドスの利いた声で発する。それでも束は楽しげにニコニコと笑みを浮かべる。

 

「あいつは、一誠はできる限り普通の人間として人生を歩んでもらうつもりだ。お前がそれを邪魔するならば、私は絶対に許さないぞ束」

 

「あはは、もーちーちゃん。最後まで束さんの話を聞いてよ?束さんだっていっくんを世界中にいる馬鹿な人達に教えたくないよ?そうなったらいっくんは―――最悪、こんな風になって暴れちゃうよ」

 

千冬の眼前に空中投影のモニターが浮かび上がり・・・・・過去の映像が流れている。一匹の獣がISを纏う操縦者や十数人の人間達を残虐なまでの事をしている光景を。それは、千冬が今でも覚えているあの惨劇―――。

 

「・・・・・これが、一誠だと言うのかっ」

 

「さぁね。いっくんの体をナノ単位まで分解しても分からないかも」

 

明らかに声が震えている千冬に夜空の星を束は見上げる。

 

「怪物になったり天使になったり・・・・・いっくんは一体何者なんだろうねぇ」

 

「・・・・・っ」

 

織斑一誠は何者か。確かに一誠は母体から生まれた千冬の弟の一人。それだけは確実で間違いのない事実。

だが、どうして一誠が化け物のような力を手に入れ、姿になれるのか千冬も束も知らない。きっと、一誠だけが知っている秘密かもしれない。

 

「束・・・・・もう一度言う。一誠に手出しするな」

 

「うーん。ちょっと無理かなー?束さん、いっくんの事物凄く興味があるし、一人の男の子として好きでもあるからねー」

 

「っ・・・・・」

 

「それに、私達だけじゃないよ。いっくんはただの人間じゃないって知っている人達が他にもいるよ?」

 

「・・・・・なんだと」

 

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