インフィニット・ストラトス~前世の記憶を持つ者~(完結)   作:ダーク・シリウス

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休暇&旅行

八月―――。IS学園は遅めの長期夏期休暇に入った頃。一誠は・・・・・。

 

「やって来たぜイタリィアァーッ!」

 

一誠もまた休暇を取って一人旅を満喫しようとしていた。政府が気付いたら外国への旅行など、ISを動かせる男という獲物が自ら猛獣の群れにやって来たようなもので何が何でも絶対に阻止していただろうが、人は目が届く範囲でしか気付かない。バックや肩に担ぐ大きなケース、キャリーケースを引いて本日初めてのイタリア旅行を満喫しようと空港を後にし移動する一誠は宿泊するホテルへと直行する。

 

その後、ホテルで要らない荷物を置いては広い公園での路上ライブを始める一誠。

 

テーマソングは○○ー○ォー○。

 

楽器は束特性の太陽光で電気を作り出すバッテリーに繋がっているエレクトーン。天気は晴れ晴れとしていて、講演に訪れる人々は大勢。最高のライブ日和で一誠が奏でる曲を知っている人にとっては興味津々で耳を傾ける。

そして、携帯やカメラで動画を取る者は大層驚くことが起きる。一誠の周囲に幾何学的な円陣が複数発現して、一蹴の閃光と共に全身が白い鎧を装着している者達が現れ、腰に佩いている筒のようなものを手にした瞬間。光る棒状のような物が伸びた。他にも大双刃、二刀流等々。振り回せばブンブンと空気を震わせ実体であると認識させる白鎧達は、一誠の演奏に合わせ、光る剣を振るい迫力ある戦いを始め出した。剣と剣がぶつかると散る火花、一瞬の油断を許せない剣戟、瞬きすれば逃してしまう気持ちと高揚感、手に汗を握る思いを抱く面々へクライマックスを告げる―――。

 

「いやー、成功成功!」

 

ケースを肩に担いで歩く少年は満面の笑みを浮かべ嬉しそうだった。金銭の寄付を望んだら安いホテルに泊まることができる金額以上を稼いでいただろう。今回そんなことせず、ただ単に自分の演奏を聞いてもらうことが目的であった為、一誠は達成感を得て喜びに浸る。

 

「・・・・・ん?」

 

鳴りだす携帯を手にして耳元へ寄せる。

 

「もしもし?」

 

『織斑一誠君。至急日本に戻りなさい』

 

聞き覚えのない男の声の相手に帰国して来いと開口一番に言われて気分は最低になった。大方、日本政府の役人なんだろう。単独で外国に入国したことを政府の耳に入ったのかもしれない。徐に溜息を吐き、億劫そうに言い返す。

 

「理由は何だよ?」

 

『単独で外国へ行かれると困るのだよ。仕事ならいざ知らず、プライベートで行かれては君を狙う者達が必ず現れるからね』

 

「面白いことを言うなあんた?日本でも俺を狙ってくる日本人や日本のISがいたってのによくそんなことを口にすることができる。庇護だが保護だが何だか知らないが、俺は兄貴達と違ってお前ら大人や政府の言い成りになんてなるつもりもないし、従うつもりもない。いい加減に諦めて俺の事はほっといてくれよ」

 

『・・・・・』

 

相手の口が閉じたのか最初は黙ったものの、やがて一誠が通信を切ろうとしたその時。

 

『そこまで我々政府の指示に従わないのは何故だ?』

 

「俺の人生を指図するからだ」

 

素朴な質問に疑念を込めてぶつけた政府に対し、それだけ言って通信を切る。

 

―――しかし、このやりとりの後に日本へ帰国した一誠は衝撃を受ける事件を目の当たりにすることをこの時、気付きもしないまま、

 

「さぁて、フワフワモコモコを心ゆくまで堪能するぜぇええええええええ!」

 

スキップをしながらとある動物と触れ合うことができるカフェへ活き活きと足を運ぶ。

 

 

 

月に数回はこの動物も一緒に食事できる店へ赴く。数少ない店でもあり、ペット好きな人にとっては他のペットと交流をさせることができ、外食でも共に食事ができる嬉しさが胸の奥から湧き上がる。なので独身、もしくは散歩の寄り道に寄り道する人はペットを連れてくることは良くある。例え、ISの操縦者でもだ。

 

「シャイニィ、久し振りにあの店に行くのサ」

 

楽しみだと言わんばかり鳴く白猫を肩に乗せて歩く赤髪の女性。右目に眼帯、右の隻腕と凄惨な事故に巻き込まれたと窺わせる体で街中を歩く女性は―――アリーシャ・ジョセスターフ。IS世界大会モンド・グロッソで千冬と二度も優勝争いをした唯一のライバルでもある彼女は勤務中の休憩時間を利用してやってきている。まあ、勤め先とはかなり離れているので遅刻上等でシャイニィの為に此処まで赴くアリーシャの足は目的の店の扉を開けて店内の中へ一歩踏み入れた。

 

店員の招き入れる声。相も変わらずと我が物顔で空いている席へ自ら進む隻眼のアリーシャはふと視界にある者が映り込んだ。人の邪魔にならない空間で腰を下ろし、頭や肩、胡坐を掻いた脚の上など猫を被っているように乗せている歓喜極まりないと和んでいる赤髪の少年を見つけた。

 

「・・・・・」

 

あまりにも思いもしなかった光景やここにいる筈もない人物、そして何とも面白い姿をしているのかと―――。

 

「くっ・・・・・」

 

笑いが込み上がってしまうのは仕方のないことだと自己完結した。

 

 

「中々面白いものを見せてくれたのサ。ブリュンヒルデの弟。まさかこの国に来ていたとはな」

 

「しばらく顔を見ない間に随分と変わってるなあんたも」

 

テーブルを挟んで席に座る二人と一匹は窓際でいるため店の外に歩く人々の姿を窺える他太陽の日差しが差しこんできて照らされる。

 

「ああ、これは事故でなくなったのさ」

 

「・・・・・ISでか」

 

それしか思い浮かべないと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる一誠。右目と右腕を指摘されたアリーシャの目に映る一誠の表情を察して苦笑する。

 

「弟君が気にすることでもないのサ。これは予想だにしなかった事故でしょうがなく失ったが、私は健在サ」

 

朗らかにそう言うが一誠は一夏と秋十も下手をすれば大怪我を負う事件や事故に巻き込まれる危険性をアリーシャで感じ取り、やはりISと関わることを避けたいと改めて思った。

 

「しかし、揃って織斑千冬の弟君はISを動かせるとんでもないことをしたのサ。君達の事はこの国でも知れ渡っているのサ」

 

「じゃあ、俺の事を狙っているんだろう?

 

「だろうサ」

 

隠す必要性もないとあっさり告げるアリーシャを怪訝な気持ちで眉根を寄せる。政府がそうであって自分はそうでないと聞こえてしまう一誠。

 

「俺を捕まえる気はないのか?」

 

「私にそんな命令も出てなければ、今の私はシャイニィと休憩の最中なのサ。自分から余計な仕事を増やすマネはしたくもないサ」

 

テーブルの上で注文した猫用の餌を夢中で食べるシャイニィを柔らかく笑い優しい眼差しで見つめるアリーシャ。

 

「で、君はどうしてこの国にいる?噂じゃあまだIS学園に通っていないみたいだがそれはどういうことなのサ?」

 

「プライベートで旅行をしに来ているんだ。目的はここに来ることだった。それとあの学園に通ってない理由は、今している仕事を専念する為に飛び級で高校を卒業してるから行く理由がないだけだ」

 

と、説明する一誠。

 

「それでよく狙われないのサ」

 

「いや、これでも何度か政府にIS学園に行けだの通えだのとしつこく言われたり強行手段を取られたりしてるぞ。中には裏組織の幹部に誘われた」

 

「・・・・・」

 

それでよく狙われないなと言った自分が阿呆だった。こうして他国に入国して旅行を満喫している一誠は肝が据わっているのか、それとも狙われても余裕で対処ができる自信があるのか、それともその両方か、アリーシャはパスタを食べる一誠を興味持つ。

 

「まあ、鬱陶しい連中がいる日本から飛び出して一人のんびりとしたい気分が駆られたんだ。勿論、外国でも狙われる可能性を考慮した上でな」

 

「もしかして、専用機を持っている?」

 

「いや、持ってないぞ」

 

不思議とアリーシャは小首を傾げる。IS学園に通ったとしても、代表候補生だろうと専用機を持っていない者はいる。だが、一誠を含む五人の少年はISを動かせるイレギュラーで希少な人材。実験としてISを渡して男が動かせる秘密をデータ収集するつもりでいる。しかし、一誠は当然学園には通ってないのでISは無い。襲撃、奇襲などの対処方法をどうやってしているのか、気にならない訳がないアリーシャは問いを投げた。

 

「狙われたらどうやって対処をしているのサ?」

 

「実力で」

 

「仮にISが襲撃してきたらどう対処をする?」

 

「実力で倒すか逃げるかなぁ」

 

どちらも実力で対応すると言う。千冬の弟なのだから特別なトレーニングや修行をしているからか、と半分納得し―――。

 

「弟君。まだ時間はあるか?」

 

「は?まあ、旅行をしている身だから時間はあるが」

 

「だったら話が早い。―――ちょっと君の実力を知りたくなったから暴れる場所まで一緒に来て欲しいのサ」

 

アリーシャ・ジョセスターフは一誠に笑みを浮かべながら両者同意の上で拉致をすることを決めた。

 

―――♢―――

 

「またあいつはどこかほっつき歩いているのか」

 

基地の上層部、司令官が深い溜息を吐いた。国家代表の放浪癖や勤務態度はよろしくなく、気まぐれでまるで猫そのもの。休憩の時間はとっくに過ぎており、軍人として如何なのかと呆れる。

 

「今度という今度は許せん。帰ってきたら謹慎処分を下してやる」

 

と、意気込む司令官に報告をしに来た兵士が現れる。

 

「司令官、ただいまアリーシャ・ジョセスターフが戻って参りました」

 

「やっとかっ!もう一時間もサボりおってからに!あいつは今どこにいるのだ!」

 

待ち望んだ人物と報告に司令官の怒りは留まることを知らない。八つ当たり気味に叫ばれる兵士は慣れているのか上司の怒りを軽く受け流し報告を言い続ける。

 

「はっ、織斑一誠の実力を知りたいと模擬戦をする為に訓練所へ・・・・・・」

 

「直ぐに連れ戻せ!あの猫みたいな女に一言ギャフンと―――」

 

そこで言い掛けて不自然に言葉を止めた。今、アリーシャ以外にも名が挙がった気がしてならないと。

 

「おい、今なんて言った」

 

「模擬戦をしたいからと訓練所へ」

 

「違うわっ!その前だっ!」

 

「織斑一誠の実力を知りたいと―――」

 

兵士の復唱でようやく理解した司令官は口より体を動かし始める。訓練所へ行く気満々な司令官の言葉が再び発せられた時は、訓練所へ辿り着いた時だった。

 

「何故織斑一誠がここにいるのだっ!?」

 

 

「酔狂かよあんた。ISを纏って生身の俺と勝負したいって」

 

「大丈夫サ。多少の打撲で住む程度に手加減をするサ」

 

アリーシャ・ジョセスターフの専用機、嵐を意味する『テンペスタ』を装着している状態で生身の一誠と対峙する。訓練所にいる二人の周囲には兵士達が佇み、基地の中では織斑一誠の存在に政府へ通達している者がいれば基地内でも訓練所の様子を窺える姿勢を整えている。

 

「ISでも生身の実力で対応するなら問題なく戦える筈サ。無論、地上での戦闘オンリーで飛行はしないのサ」

 

「純粋な格闘勝負ってことか」

 

「一本勝負。君が私に一撃を与えたらそれで終わり、もしくは君が降参するかまで模擬戦は続ける」

 

「ん、分かりやすい。だけど戦うなら」

 

一撃与えればそこで終了としか頭にない一誠の手が光に覆われる。

 

「本気で来てもいいぞ」

 

不敵な物言いを発する一誠の姿勢、低くした腰の辺りに両手を合わせる間に光の球体が出来上がる。アリーシャからもその光が見え、何らかの攻撃だとみなし警戒すると同時にISを持っていないのではなかったのかという疑問もこみ上げる。

 

「さて、始めようか弟君」

 

「ああ」

 

合図は無い。どちらも準備が整っている時点で戦闘は始まった。最初に動き出したのは一誠だった。光をアリーシャに目掛けて放出。極太の柱として伸び進むそれは横へかわした相手がいなくなったことで的のない地の果てまで向かい、どこかで着弾したようで大爆発が起きた。

人間の力とは思えない未知のエネルギー放出を仕出かす一誠。今度は両手を動き続けるアリーシャへ突き出してはビームではなく、散弾銃のように広範囲がある数多のエネルギー弾を放った。一体、どんな方法でそんな攻撃をしているのかアリーシャは予想がつかない。一撃を与えたら―――。それで模擬戦を終わらすと発言した先ほどの自分を内心舌打ちし一誠に近づくことができない時、射撃を不意に止めた少年は徐に虚空へ正拳突きをし出した。離れた相手に向かって拳を突き出す動作。そんなことしても当たらないとアリーシャも兵士達も確固たる思いでいた。

 

「っっっ―――――!?」

 

テンペスタ越しで伝わる凄まじい衝撃と殴られた感覚を全身で覚え、数メートルも下がらせられた本人とその光景を認識するまでは。

 

「今、何を・・・・・」

 

「ただの拳圧だ」

 

拳を突き出す姿勢のまま淡々と述べる一誠が、

 

「そして―――今のはジャブだからな?」

 

にやりと不敵な笑みを浮かべる。牽制(ジャブ)の後は、本命(ストレート)と相場が決まっている―――。

誰が気付くか?誰が思うか?アリーシャがいる周囲の地面から数多の武器、様々な形状の刀剣類が顔を出して突き刺さんと生える光景を目の当たりにして。装甲を貫くが本体には絶対防御で守られている為に体は貫かれずに済んでいる。

 

「な、なんなのサこれはっ!?」

 

「そのまま動くなよ」

 

驚いている刹那に一誠が何時の間にか懐に飛び込んでいた。装甲を貫く刀剣類が作った空間にはアリーシャの腹部が丁度見える。脚や腕、背部のスラスターユニットに刀剣類が深く突き刺さり、直ぐには次の動きをすることができない相手に光を集束している両手が突き出される。

 

「終わりだ」

 

左眼が光の閃光の輝きを見た瞬間。目の前が真っ白に染まり―――アリーシャは零距離から光に呑みこまれた。

 

 

「―――はっ!?」

 

全てが夢だったかのようにアリーシャは目を覚ました。彼女の覚醒に白衣を身に包む者達が安堵の心情で声を掛ける。

 

「どこか痛むところはございますか?」

 

「・・・・・いや、問題ない。だけど・・・・・どういうことなのサ」

 

目を開けた瞬間。右腕におかしいと後に察した。ゆっくりと右腕に力を動かすと本来事故で失った筈の右腕がアリーシャの視界に飛び込んできた。

 

「私の右腕がどうしてある?」

 

「・・・・・右腕だけではございません」

 

一人の看護士が手鏡を持ってきてアリーシャの顔を映す。右腕だけでなく、右目も本来の目に元通りとなっていた。

 

「・・・・・私の身に何が起きた?」

 

アリーシャの不思議と疑問が籠った問いを中年の男性が首を横に振った。

 

「医療班の私達ではあなたの身に何が起きたのかは分かりません。ここに運び込まれた時は既にあなたはその状態でした。右腕に関しては調べましたが細胞からDNA、全て一致しあなたの腕であることは間違いございません」

 

「・・・・・」

 

「それから司令官から伝言です。起きたら直ぐに来い、と」

 

無言で起き上がり、男性の言う通りに司令官がいる執務室へと訪れた。

 

「来たな、アリーシャ大尉」

 

窓の外を佇んで眺める司令官の背中を捉えるアリーシャ。直ぐに問わず、司令官の口が開くまで待った。窓の外は既に暗闇で地上を支配していた。数時間も意識を失っていたことを窓の外の明るさと暗さを見て司令官の開いた口から発せられる言葉に耳を傾ける。

 

「自分の身に何が起きたのか未だに理解しておらんだろう。だが、見ていた我々も理解し兼ねている」

 

「じゃあ、わからないままと言うことなのサ?」

 

「いや、これだけは分かっている。―――織斑一誠が気絶したお前をそんな風にしたのだ」

 

右腕と右目を本来の姿に戻したと今でも感じる熱と血の流れはアリーシャを実感させる。

 

「どうやって?」

 

「この映像を見れば分かる」

 

振り返り机にある機械を操作して立体的なモニターを宙に発現させる。モニターに映る映像は、地面に横たわるアリーシャに一誠が天使のような姿で十二枚の翼でを繭のように包む。それからしばらくして、一誠はアリーシャを翼から解き放ち一瞬の閃光と共に姿を暗ました。

 

「・・・・・」

 

「お前は翼に包まれてその右腕と右目だけでなく、ダメージすら癒されたようだ。それしかこの映像で見る限りそう言えん」

 

「ブリュンヒルデの弟は今どうしている?」

 

「全力で総出で探している。だが、発見することは叶わないだろう。見つけたとしても捕えることができるかどうかも分からん。何せ、国家代表を負かした相手だ。白兵戦だろうとISだろうと天使の姿になる織斑一誠の前ではな」

 

皮肉なことを言われても今のアリーシャは敗北感や悔しさ、ショックなど抱いていない。天使の姿の一誠と今の体の状態の方が色々と衝撃的で勝っているからだ。

 

「このことを政府には報告しているのサ?」

 

「当然だ。しかし、政府は信じてくれるかどうか怪しいがな。信じたところで織斑一誠をどうこうすることは難しい」

 

「なりふり構わず誘拐やら拉致しそうなのサ」

 

「それ以前に織斑一誠の事をアメリカや中国、ロシアといった大国、他の諸国に知れ渡ったら確実に狙ってくるだろう。ISを打ち負かす織斑一誠の秘密を知る為に研究や実験などする為にな」

 

もしかすれば、ISを上回る力を手に入れられることができる。司令官が付け加える言葉にアリーシャも納得する。人類を超えた超越者になれる可能性を一誠が秘めている。

 

「お前にも織斑一誠の捜索に当たってもらうぞ。テンペスタはしばらく使えない。コアは辛うじて無傷だったが装甲が大破しているからな」

 

「ハハハ・・・・・私のテンペスタがそこまで・・・・・。本当に実力で対処していたのだな」

 

「何のことだ・・・・・?」

 

怪訝と見つめる司令官だが踵返して部屋から出ようとするアリーシャが背を向ける。

 

「了解なのサ。見つけ次第、保護をする」

 

「絶対に連絡しろよっ!?お前の気まぐれな性格は―――」

 

背後から聞こえる司令官の声はどこ吹く風か。アリーシャは気にせずに部屋から出てシャイニィを迎える事から始めようとする。

 

「ブリュンヒルデの、織斑千冬の弟君・・・・・織斑一誠、か。・・・・・くくく」

 

この瞬間。千冬の弟として認識していたアリーシャの中で、一誠という存在を改めて興味を持つ。

 

―――♢―――

 

暗闇に包まれた住宅街の家の一つの傍に黒いワンボックスカーが停車していた。横にスライドする扉が開けば数人の黒尽くめの男達が赤いタンクを片手に降りて闇夜に紛れての不法侵入をする。

 

「おい、さっさとやるぞ」

 

「わかってる」

 

男達は玄関から入らず窓ガラスを破ってリビングキッチンに侵入をすると、徐にタンクの中にある異臭を発する液体をばら撒き始める。壁や床、燃えやすい個所を中心に撒き散らして濡らす男達は粗方液体塗れにし終えると家から出た途端に火が点いたライターを家の中へ抛り込んだ。

 

 

 

「・・・・・困ったわ」

 

一人の少女が頭を抱える思いで漏らす原因は机の上にある機密事項の一枚の書類。そこに記されている内容こそが少女を困らせている。

 

「政府もいよいよこんな任務を寄越すほどシビレを切らしているのかしらね」

 

任務であればISを持つ者として全うしなければならない。ISを手にした瞬間、国の為に働く運命(さだめ)を背負うことになり、死と隣り合わせの覚悟もしなければならない。

 

「・・・・・今度という今度は、天罰が下りそうな予感がするわ」

 

―――♢―――

 

三日ぶりに日本に戻った一誠。その目立つ真紅の髪が人々の意識や目を奪いながら空港の出入り口へと向かう時。

 

「あの子・・・・・ふふっ。まさかこんな偶然があるとはね」

 

とある金髪の女性が獲物を狙う目で一誠に微笑み背後から近づく。こうも早く出会えるなんて運命的なものを感じてならない女性はこの偶然に心から感謝した。

 

 

 

 

 

「では・・・・・作戦の説明をする」

 

千冬に招集された専用機持ち達。一夏や秋十達一年生達の他、二年と三年の専用機持ちまでいて作戦を説明する司令官のように佇む千冬に視線と耳を意識する。心なしか、どこか不安そうに声に覇気がない。

 

「政府と学園上層部から通達でお前達にはある任務をして貰うことになった」

 

「任務とは?」

 

真剣な眼差しと共に発せられる作戦の情報を問い掛けるラウラが皆の代表をするように千冬を催促する。

口を閉ざし瞑目する千冬から逡巡の雰囲気を感じ、何かに堪えている気配も窺えるが作戦の内容を告げた。

 

「織斑一誠の保護だ」

 

「「「「「「「―――っ!?」」」」」」」

 

ISでも護送や護衛、世界や国に害するテロリストに対する迎撃―――とは全く異なる最後のISを動かせる五人目の男の保護。しかも対象は一夏と秋十、千冬の弟で家族、箒の幼馴染。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれよ千冬姉っ」

 

「織斑先生と呼べ」

 

拳骨を食らって怯んだものの、それでも食って掛かるように一夏が問いだたす。

 

「あいつの保護って、あいつはそんなこと望んでいないんじゃあ」

 

「今回ばかりは織斑一誠の意志とは無関係に保護をする。それが今回の作戦だ」

 

「・・・・・だけど、このメンバーでですか?過激で過剰過ぎませんか織斑先生」

 

秋十も相手に警戒させるだけではないかと問う。約一名除いてIS学園に所属している専用機持ちが全員揃っている。戦力としては国と戦争ができる申し分ないほどの数だ。

 

「いや、もしかしたらこれでも足りないかもしれない。相手が、相手だからな・・・・・」

 

相手は一誠・・・・・ただの人間だったら政府も苦労しなかっただろう。ただの人間ではないから今の今まで保護を拒まれ、狙われても一人で対処をしてきた。しかも人ならざる姿になれる。生身の相手に対人戦をするなどそのようなことISが世界に知れ渡って十年間。今までない事例だ。

 

「作戦を指揮するのは更識に任せる。だが、無理はするなよ」

 

「はい、お任せを」

 

現地での作戦を指揮する役目を与えられる楯無。作戦決行は―――今日である。

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