四月、桜が満開となり暖かな風が吹く頃、パワフル高校の体育館で入学式が行われていた。新入生が大勢いる中に一際目立つ一人の銀髪の青年がいた。身長もまあまあ高く170cm後半ぐらいの高さに見える。体つきはごつくはないがしっかりしているといった感じだ。顔はイケメンに分類されるであろう。そんな青年は入学式を退屈そうに過ごしていた。
「入学式っていうのはやっぱり退屈だな…パイプ椅子に長時間座ってるの好きじゃないんだよな…」
そう独り言をつぶやくほどに…
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「そうでやんすね。オイラもそう思うでやんす」
俺が独り言をつぶやいたらそれに返すように声が聞こえてきた。声のした方を見てみると丸い眼鏡をかけた奴がいた。見かけたことない奴だよな。俺が忘れたりしてなければ。まあ忘れるもなにも他県からきた俺にはここに知り合いなんているはずもないんだが。
「えっと…どなたかな? 会ったことあるっけ?」
「いや、初対面でやんすがオイラは君を知っているでやんす。オイラは矢部 明雄というでやんす。よろしくお願いするでやんすよ、
フルネームで俺のことを知ってるのか…あの試合を見たことがある人物なのかな?
「よろしく、矢部君。ところでなんで俺の事を知っているんだい? 俺は県外に知られるほどの有名人ではないと思うんだけど」
「オイラは去年の狼本君の試合をたまたま見たでやんす。凄かったでやんす。なんで全国区で知られてないかが不思議でやんす。というよりここに居ることにも驚いてるでやんすよ」
やっぱりあの試合を見ていたのか。凄いと言われてもあれは負けた試合だ。個人的な勝負には勝ったと思うけど試合に負けてちゃな…
「まあ俺は一回も全国の舞台に行ってないしな。それどころか関東大会にも出てないのに有名なわけないじゃないか」
「それはそうでやんすけど…まあそれを気にしててもしょうがないでやんすね。それは置いておいて狼本君は野球部に入るでやんすよね?」
「うん、俺は子供の頃からここに来て甲子園に行くのが夢だったからね。だからわざわざ県外から来たんだよ。昔見たこの学校が甲子園に行った姿が忘れられなくてね」
俺が小学生の時パワフル高校は甲子園出場の常連校で凄まじい活躍をしていた。最近は殆ど甲子園に行く姿が見られなくなってしまったが俺に夢は変わらなかった。
「そうなんでやんすね…なんだか狼本君と一緒なら行ける気がするでやんす」
「そっか。じゃあお互い頑張ろうぜ。甲子園目指してな」
「おー! でやんす」
「とりあえず席に戻ろっか。そろそろ戻らないと怒られそうだし…クラスも違うみたいだから放課後にでも」
「わかったでやんす、また後ででやんす」
そうして俺は席に戻っていった。
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入学式が終わり教室に行くことになった。クラスメイトとの顔合わせをやるらしい。正直面倒なんだけど…最低でも一年は一緒に生活していく仲だからな。嫌な印象を持たせて気まずく過ごすのはもっと面倒だからちゃんと参加するか。そうして荷物を持ちながら教室に入っていった。教室に入り自分の席に座ったはいいがSHRが始まるまでにはまだ時間があった。だが県外から来たこともあり知り合いは一人もいない。さっき声をかけてくれた矢部君は別のクラス…クラスのやつらは前の学校から知り合いだったやつらと話している。完全に今は孤立状態だ…やることもないのでとりあえず鞄から硬球を取り出して暇を潰すことにした。硬球を指の上で回転させバランスをとっている。中学まで軟式だったが引退してからはずっと硬球を触っていたので扱いには慣れてるからこれぐらいのことは出来る。そうしてずっと回して遊んでいると…
「君、野球やってるんだね」
横の方から声が掛かった。声のした方を見てみるとおさげが特徴的な緑色の髪をした女の子が立っていた。
「まあね。ここでもやるつもりだよ。もちろん甲子園目指してね」
そう言うとその女の子の目が輝くように変わった。
「そうなんだ! ボクも甲子園目指してるんだ! この高校は女性選手の入部もみとめられているし、ボクは女性初の甲子園出場とプロ入りをすることが夢なんだ!!」
なるほどね…女性初の甲子園出場か。今の世の中じゃ女性の高校野球への出場は認められている。社会人野球で女性選手が活躍したり小学生や中学生に女性でも野球をやる人が増えたり世の中が変わってきたこともあり去年から高校野球への女性選手の出場は認められるようになった。しかしながらあまり女性選手の入部が認められている高校も多くないし、認められていても基本ベンチにいるようなことが多かったらしい。まあ突然変わったことだから仕方ないのかもしれないけどな。
「なら、一緒に甲子園目指そうぜ。俺は狼本 朔陽っていうんだ。よろしく!!」
「ボクは早川 あおい。これからよろしくね。ちなみにポジションはどこなの? ボクは投手なんだ」
「俺は基本的には捕手だ。まあサードや外野もできるぜ」
「捕手なんだ!!じゃあバッテリー組むかもね!!」
「ああ、そうだな。改めてよろしく、早川さん」
「よろしくね、狼本君」
そうして握手を交わした。女性投手か。どんな球を投げるんだろう。捕手として楽しみが出来た。リードしがいのある投手ならいいな。
SHRも終わり放課後となった。部活は一週間後から仮入部が始まるらしくまだ入部はできないそうだ。なのでとりあえず野球部の練習の見学に行こうと準備をしていると…
「狼本君、野球部の練習見に行くでしょ?」
早川さんから声が掛かった。
「うん、行くよ。早川さんも見に行くなら一緒に行く?」
「うん!!じゃあ行こうよ」
そうして二人で並んで教室を出ると…
「狼本君、野球部見に行くでやんすよね?」
「もちろんだよ矢部君…で隣にいる子は誰だい?」
矢部君がいると思ったら隣に野球帽を被った女の子がいた。身長は155cmぐらいだろうか。ツインテールの似合うピンク色の髪をした子だ。
「川星 ほむらッス。ほむらも野球部を見に行くっす。出来れば選手として頑張りたいッス。よろしくお願いするッス」
「よろしく。俺は狼本 朔陽だ。それにしてもよかったね、早川さん。もう一人女性選手を目指す子がいたよ」
「うん!!ボクの名前は早川 あおい。ボクも選手志望なんだ!!よろしくね、ほむらちゃん」
「あおいちゃんってあの猫手シニアでエースだったあおいちゃんッスか!?うわー!!会えて嬉しいッス!!」
ね、猫手シニア? やっぱり地元じゃないと分からないことがあるな…シニアに所属してなかったこともあるけど…
「そうなんでやんすか!?あの有名な女性エースがこんなところにいるなんて驚きでやんす!」
や、矢部君も知ってるのか…話についていけそうにないぞ…そんなことを考えていると川星さんがこちらを見ていた。ん? 俺の顔になんかついてるのか?
「そして…あの全国でも注目されている猪狩君から去年唯一、一人で三本もヒットを打ったにもかかわらず世間にはあまり注目されてない隠れた天才捕手の狼本君までいるとは思わなかったッス。ほむら会えて感激ッス!!」
「なんか俺の事知ってるみたいだね。矢部君もあの試合を見てたらしいけど天才は言い過ぎだよ。結局全国にはいってないしね」
「何言ってるッスか!!県大会であかつき大附属中に負けはしたものの結果的に三年生での成績が打率八割超えてるのに天才と言わないわけないッス!!」
またマイナーな記録を…それは確かに去年の俺の記録だ…県大は途中で負けたから成績残ってないはずなんだけどな。どうやって手に入れたんだ…
「狼本君ってそんなに凄い人だったんだね!!」
「オイラもここまでとは思わなかったでやんす!!」
「そんなに褒められるようなもんじゃないって。捕手として本格的にリードを学ぶようにしてから相手の配給がかなり正確に読めるようになって、中学のチームメイトも協力してくれたからなんかたまたまできたような記録だよ。まあこの記録を見たときは自分でも驚いてたんだけどね」
打者として、捕手として真剣に取り組み始めたのは中二の夏だ。それまでが真剣じゃなかったわけではないが本当に真剣になったと言えるのは自分の中だとその時期だ。まあ中二までは未練というかなんというかあったしな。
「へー…なんか意外ッス。狼本君は見た目からするともっとお調子乗りのような気がしてたけどそうでもないッスね。むしろ謙虚すぎるくらいッス」
「よく言われるよ…まあ話はここまでにしてとりあえず野球部の見学に行こうよ」
「そうだね」
「行くでやんす」
「そうッスね」
そうして四人でグラウンドに向かっていった。
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