隠れた天才~陽の当たる場所に向かって~   作:みさごん

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GWなのでもう一話投稿します。
では、最新話をどうぞ。


3.新バッテリー誕生

「狼本君の打球は鋭かったッスね!!」

 

「オイラじゃあんな打球飛ばせないでやんす。凄いでやんす」

 

「あ、ありがとう」

 

 四人で下校しているのだがさっきから矢部君と川星さんに褒められまくっている。悪い気はしないんだけど…なんていうかむずかゆくなるというか。中学でもこんなに褒められたことはなかったな。早川さんはというと少し考え事をしているのかさっきから静かなままだ。どうしたんだろう。

 

「狼本君、お願いがあるの」

 

 突然早川さんから声が掛かった。それにしてもお願いってなんだろう?

 

「今からボクの球を受けてくれないかな?」

 

「別に構わないけど…どうしたの急に?」

 

 さっき考え込んでた事って…絶対これに関係あるよね?

 

「さっき君のプレーを見て…どうしても確かめたいことが出来たの」

 

「そっか。まあ何を確かめたくなったのかは知らないけど…早川さんにとって大切なことなんでしょ?」

 

「うん。もう少しいったところに河川敷のグラウンドがあるからそこまで行こう」

 

 そうして俺達は河川敷のグラウンドに向かっていった。

 

 

~~~

 

 

 ボク達は河川敷のグラウンドに来た。ボクが狼本君に頼んだんだけどね。矢部君もほむらちゃんも見に来るというので皆で来てる。ボクのあの球を取れる人…シニアの時は誰も取れなかった。関東大会は常連、時折全国にも行くようなチームにいた。うちにいた捕手も名門と言われる高校に入っていった。そんな捕手にも取れなかったあの球。さっきの狼本君のプレーを見て君ならって思った。きっと取ってくれるよね。

 

「俺の方は準備出来たけど、早川さんは?」

 

「うん、ボクの方も準備出来たよ」

 

 スカートのしたにハーフパンツも履いたから不測の事態は起きないよ。

 

「じゃあキャッチボールを少しやってからやろうか。いきなり投球して肩痛めちゃうのもあれだしね」

 

「分かったよ」

 

 そうして狼本君とキャッチボールを始めた。

 

 

~~~

 

 

「肩暖まったから座って受けてくれるかな?」

 

「分かったよー」

 

 そうして俺はキャッチャーミットを構えた。どんな球を投げるのかな。楽しみだな。どうして今受けて欲しいのかは分からないけど俺はキャッチングに集中しよう。早川さんの方を見るとワインドアップから投球動作に入っていた。

 

「あ、アンダースローでやんす!?」

 

 矢部君が叫んだように早川さんのはアンダースローだった。そして地面すれすれから放たれたボール。浮き上がるように飛んできたボールは俺のミットに届いた。あんな低い位置から放たれるアンダースローは見たことないかも…球速は125km/h以上130km/h未満といったところか。女性の球は久しぶりに受けたけど…いい球投げるなぁ。

 

「ナイスボール」

 

 そう言ってボールを投げ返した。

 

「どんどんいくね」

 

 早川さんがそう言ったので俺はミットを構え直した。いろんなところに構えたがほとんどミットが動くことはなかった。コントロールは良さそうだな。そんな感じで直球を十数球受けていると…

 

「次、カーブいくよー」

 

「了解」

 

 そうして特徴的なアンダースローから弧を描くように曲がって俺のミットに収まった。あの低い位置からこんなに綺麗なカーブを投げるのか…レベル高いな。球速は100km/hくらい。緩急もいい感じで付けられるな…あとは何が投げられるんだろう。

 

「いいボールだね。緩急がきいていい感じ」

 

 そう言ってボールを返すと一瞬ニコっと笑って次の瞬間にはかなり真剣な表情に変わった。きっと次投げるボールが俺に受けて欲しいって言った理由なのかな? 根拠はないけどそんな気がした。

 

「次はボクのウイニングショットを投げるよ…シンカー系の変化球なんだ。じゃあ…いくよ!!」

 

 そう言うと早川さんが投球動作に入った。さっきと同じように低い位置からボールが放たれる。変化球にしては速い球速で向かってくる。ベースより少し手前付近で変化を始めると俺から見て左下に大きく変化した。これは凄いぞ…

 

 

~~~

 

 

“パシッ!!”

 

 ボールがミットに収まるいい音がした。ボクがこのボールを投げて今まで聞けなかった音。聞きたくても聞けなかった音。それがたった今ボクの耳に聞こえた。前を見るとしっかりとボールをキャッチしている狼本君の姿が見える。ボクが一人で特訓して完成させたこのボール。でも取れる人がいなかったから試合では未完成の変化球として使えなかったボール。それがたった今狼本君のおかげで完成したよ。

 

「なんでやんすか、今の変化球は!?」

 

「速いのにあんなに曲がるボール初めて見たッス!!」

 

「凄い変化球だね!!なんていう名前なの?」

 

 狼本君が聞いてきた。ようやく完成したこの変化球の名前は…

 

「マリンボールって名前だよ。シンカーを改良してみたんだよ」

 

「これは三振が狙えるボールだね!!凄いなぁ」

 

 狼本君が褒めてくれてる。ボクは君が捕ってくれて完成して嬉しいんだよ。気づいてくれてるのかな?

 

「は、早川さん!?どうしたの!?泣いてるけど…」

 

「え!?」

 

 目のあたりを触って確認してみると本当に涙がでてる…

 

「あー、狼本君が泣かしたでやんす」

 

「駄目ッスよ。女の子泣かしちゃ」

 

「え、え!?俺のせいなの!?」

 

「違うよ…嬉しくて…」

 

 狼本君がすごい焦ってる…このまま見てても面白いと思うけど釈明してあげないと可哀想だよね。

 

「う、嬉しい?」

 

「うん、ボクがマリンボールを完成させてから今日まで誰も取れなかったんだよ。ボクはもうこの変化球を封印しなきゃいけないのかもと思ってたの」

 

「でもそこに俺が現れ捕ってくれたってことかな?」

 

「うん!!狼本君のバッティング見てもしかしたらって思って…なんだか試すようなことしちゃってごめんね」

 

「いや、気にしなくていいよ。こんな変化球めったに見られるもんじゃないし…期待に応えられて俺も嬉しいかな。捕手としてね」

 

 親指を立てながらボクに言ってくれている。狼本君は優しいな。

 

「ありがとう、これからよろしくね」

 

「うん、よろしく」

 

「ここに新たなバッテリーが誕生したッスね」

 

「うおー!!でやんす」

 

 ボクはいい人達と巡り合えたのかもしれない。これからが楽しみだな。

 

 

~~~

 

 

 いろいろなことが起きた入学初日から一週間が経った。ようやく野球部への入部ができる。仮入部期間と言われているけどやると決めているなら直ぐに入部も可能らしい。俺は即入部届けを出そうと思ってる。早川さんや矢部君、川星さんも出すと言っていた。とりあえず早く放課後になって欲しいが今はまだ朝。まだ学校にもついてない。登校途中なのだ。

 

「おはよう、狼本君」

 

「おはよう早川さん。今日は早いんじゃない?」

 

「それは狼本君も同じでしょ」

 

「ああ、そうだな」

 

 早川さんと遭遇するなんて思わなかったな。うずうずして今日はいつもより三十分早く家出たからな。

 

「今日の放課後が楽しみだね」

 

「うん、ようやくだからね。早く放課後になんねえかな…」

 

「ふふふ、まだ朝だよ狼本君」

 

「分かってるって、とりあえず早く学校に行こうか」

 

「うん」

 

 そうして二人で学校に向かっていった。

 

 学校に着いて靴箱を開けると数枚の紙が入っていた。

 

「またか…なんとか朝のうちに済ませたいな」

 

「…モテるんだね狼本君。まだ入学して一週間だよ。それなのに連日手紙が入ってるのはすごいと思うよ」

 

 早川さんがこっちを見てちょっとテンションが下がったトーンで話しかけてきた。なんでテンションが下がってるんだろう? 気にしてても仕方ないかな。

 

「なんで俺みたいのがいいんだろう…みんなよっぽどのもの好きなのかな?」

 

「それ男子の前で言わない方がいいと思うよ…殺されるかも」

 

「え!?なんで!?」

 

 俺はそんなことで殺されたくはないよ!!

 

「まあ無自覚なのがいいところなのかな…まあ頑張ってね」

 

「うん…」

 

 最初の方はあんまり聞き取れなかったけどとりあえず頑張るか。放課後早く入部するために断るのを。

 

 

~~~

 

 

「やっと放課後だ…」

 

「見てて大変そうだったよ。お疲れ狼本君」

 

「ありがとう、早川さん。今日いたわってくれたのは早川さんだけだよ…」

 

 今日は一段と凄かった。手紙が来ていた分はなんとか朝のうちに断ったんだけど…まさか休み時間ごとに襲撃を喰らうとは…中学でもここまでのはなかったはず。はあ疲れた…

 

「じゃあグラウンドに行こうか。はやく野球がやりたいよ」

 

「うん、ボクもだよ」

 

「あおいーもう行くの?」

 

 早川さんの後ろから声が掛かった。そっちの方を向くと茶髪の女の子が近づいてきた。

 

「あ、はるか。うん今から行くところだよ。はるかも?」

 

「うん、どうせなら一緒にって思って」

 

 この人は…同じクラスの七瀬さんだっけ。早川さんとよく話してる人だよな。

 

「あ、狼本君にも紹介しないとね。こちらは七瀬 はるか。ボクの中学時代からの親友で野球部にマネージャーとして入部するんだよ」

 

「七瀬 はるかです。これからよろしくお願いします」

 

「よろしく。俺は狼本 朔陽だ。じゃあ改めてグラウンドに行こうか」

 

「うん!!」

 

「はい」

 

 そうしてグラウンドに向かっていった。

 

 グラウンドにつくと先輩達が待ち構えていた。向かう途中に矢部君と川星さんとも合流したんだけど合流した時に矢部君が七瀬さんを見て「女神でやんす、キュートでやんす!!うおぉぉぉおでやんす!!」とか言いながら叫んでたなぁ。その直後に早川さんと川星さんから鉄拳を喰らってたけど…自業自得だよね、矢部君の。そんなこともあったけど今はおいておいて…どうして先輩は待ち構えてるんだろう。

 

「ふっふっふ…よくきたな」

 

「…山道先輩、一週間前とキャラが違いませんかね」

 

「…そこは突っ込まないでやってくれ狼本。山道先輩は気合が入りすぎて変になってるだけだから気にしないでくれ」

 

「了解です、松田先輩」

 

「なんだか後輩達が冷たい気がするが気にしないでいくぞ。今日は入部する新入生を歓迎するために毎年恒例の親善試合を行うんだ」

 

 親善試合か…早速試合が出来るなんてラッキーだな。

 

「まあ親善試合は特別ルールで六回までだ。だからといって俺達は手を抜く気はないからな。全力でかかってこいよ。他の新入生はあっちにいるからな。自己紹介でもしてろ」

 

「わかりました」

 

 そうして俺達は言われた方に向かった。

 

 

~~~

 

 

「お前らも新入部員か?」

 

 なんだか先の方から声を掛けられた。きっと俺達以外の新入部員だろう。

 

「そうだよ」

 

「ってお前の後ろにいるのって猫手シニアの早川!?この学校だったのか…」

 

 なんか早川さんのことを知ってるみたいだな。

 

「知り合い?」

 

「知り合いというかシニア時代に対戦したことのある人だね。ボクは全打席三振にとった記憶があるよ」

 

 ほ、本人のいる前でそれ言うんだ…意外と早川さんは毒舌なのかも。

 

「く…どうせ俺はそんなもんさ…俺の名前は宇渡 幹久。シニアではファーストを守ってた」

 

 ファーストなんだ…さっきの話と見た目から推測するとパワー系でミートが上手くない打者だったのかな。俺は簡単に自己紹介をした。早川さん達も俺に続いて自己紹介をしていった。他にも新入部員はいたが皆中学軟式の出身が多い。まあ県大会でも上位に残ってた奴ららしい。何故か皆が早川さんのことを知っていた。早川さんってこっちじゃ有名なのかな? まあそれは置いておいて…

 

「自己紹介も終わったしオーダー組んじゃおうか。上手い具合にポジションがバラバラだったから守備位置はいいとして打順どうする?」

 

「早川が決めてくれればいいと思う。全員が知ってる奴だ。皆も納得するんじゃないか」

 

 宇渡がそう言ってあたりを見渡すと皆頷いていた。じゃあその案で行くべきだよね。

 

「じゃあ、早川さん。悪いんだけどオーダー組んでくれないかな?」

 

「うん。わかったよ」

 

 そうして早川さんがオーダーを組むのを待った。そして渡されたオーダーがこれだった。

 

 

1番 センター 矢部

2番 ショート 加藤

3番 ライト 阿部

4番 キャッチャー 狼本

5番 ファースト 宇渡

6番 サード 前田

7番 レフト 坂本

8番 セカンド 川星

9番 ピッチャー 早川

 

 

 俺が四番か…チャンスで打てばいいんだよな。でも皆が知らない俺が四番でいいのかな?

 

「こんな感じで組んでみたよ。反対意見はないよね?」

 

 早川さんがそう言うと俺と矢部君以外の男達が全員全力で首を縦に振っていた。なんだろう…過去になにかあったのかな? 聞かないでおこう…嫌な予感がする。

 

「じゃあ準備して先輩達のところに行こうか」

 

 そうしてそれぞれ親善試合にむけてアップやストレッチを始めた…




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