では、最新話をどうぞ。
俺達がベンチに着くとみんなに声を掛けられた。
「ナイスランだったね!!狼本君!!」
「あそこでスクイズなんてやるなぁ!!」
「狼本君の三盗凄かったッス!!」
「二人共ナイスプレーでやんすよー!!」
賞賛の声を掛けられ宇渡は少し照れ気味にベンチに入っていくのが見えた。俺は軽く手を上げながら数人とハイタッチしながらベンチに座った。欲しかった二点目が入ったからここからは守りに集中しよう。そうすれば勝てるはずだ。心配があるとすれば早川さんのスタミナと内野の守備かな…硬球に慣れてないのかボールを怖がってるような感じがあったからな。一回のサードゴロの処理見てて少しハラハラしてたんだよね実は。でも次は二巡目だから先輩たちも本当に本気でくるだろう。そんなことを考えていると6番の前田が三振してチェンジになったらしい。さて気合入れますか。
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これから四回表の守備が始まる。ボクが投球練習の三球を投げたところで狼本君がマウンドに近づいて来るのが見えた。何か変なところでもあったのかな?
「どうしたの狼本君? 気になるところでもあった?」
こちらから聞いてみた。
「そういうわけじゃないけどここからの配球について少し話しておこうと思ってね」
「配球変えるの?」
「そうだね。一巡目は緊張もあると思って試合では投げ慣れてるストレートとカーブだけで組み立ててたんだけど二巡目からはマリンボール使ってくからね」
そういえば一巡目にマリンボールのサインが出ないと思ってたんだけどそういうことだったんだ…ちゃんと考えてくれてたんだね。確かにボクのウイニングショットだけど試合では一回も投げたことなかった。捕れる人がいなかったからなんだけどね。試合で試すのか…うう少し緊張してきたな。
「まあマリンボールは練習通りに投げてもらえば大丈夫だからね。そこまで気負わなくていいからね」
「う、うん!!わかった!!」
ボクの心の中でも読んでるのかな? 緊張がなくなっちゃったよ。
「マリンボールを使うとなると三振を狙う配球が多くなると思う。球数増えちゃうけどスタミナは大丈夫? なるべく増えないようには努力するつもりだけどさ」
「大丈夫だと思う。ここまであんまり球数投げてないから最後までもつと思う」
「そっか。きつくなってきたら我慢せずに言ってね。その時はまた一緒に配球考えよう」
「了解!!」
本当に頼りになるキャッチャーだなあ…よし頑張って抑えるぞ!!
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思ったより早川さんは大丈夫そうだな。マリンボールは問題なく投げられそうだ。少し心配なのはスタミナかな…大丈夫とは言ってたけど気を配っておこう。あの感じだと肩で息してても大丈夫とか言いそうな気がする。勘だけど。とりあえず先頭打者をしっかり押さえますか。
「プレイ!!」
審判から声がかかった。一番打者の田辺先輩を見ると一回の時のような舐めた感じは一切ない。完全に本気モードだ。とりあえず一球は見てきそうな気がするな。
一球目、内角低めにストレートを要求した。早川さんはサインに頷き投げた。低めではあるが軽く浮き上がるようなボールが向かってくる。田辺先輩はバントの構えを取ったがバントせずにバットを引いた。判定はストライク。やっぱり見てきたか…さて次はどうしようかな。
二球目、内角高めにストレート。バントもしづらくアンダースローの浮き上がる感じを一番生かせるはずのコースに要求した。田辺先輩はパワーはあんまりなさそうだしこのコースはそこまで得意じゃないはず。ボールは要求したところより少し高く来ているがいいコースには来てる。田辺先輩はバントしようとしたがボールは転がらず後ろのフェンスに当たった。
「ファール」
「くそっ」
田辺先輩が悔しそうな顔をしてる。要求通りのコースだったら転がされてたかもな。さっきのはボール球だったけど浮き上がる軌道が選球眼を狂わせてるのかな? アンダースローなんて滅多にいないしそんなところだろう。さて球数増やしたくないし次で決めよう。
三球目、決め球として内角低めへのマリンボールのサインを出した。これなら確実に三振を取れると思う。あのボールはストレートとあまり変わらない速度でシンカー方向に大きく変化する。初見だったら大抵の打者は打てないはず。早川さんの綺麗なフォームから放たれたボールは真ん中付近に向かっていく。それを見た田辺先輩はしめたとばかりにボールを振りにきた。しかしボールはバットに当たることなく内角低めに構えた俺のミットに収まった。
「ストライーク!!バッターアウト!!」
三球三振。なんとかうまくいってよかった。早川さんの方を見ると嬉しそうにしている。
「ナイスボール」
そう言って投げ返すとさらに嬉しそうにしながらボールを受け取った。まあウイニングショットで初めてとった三振だもんな。嬉しくないはずがない。それにしても三球で決めに行くのは怖いな。本当はもっとボール球も使っていきたいけどそれは後続に投手が入ればの話だ。贅沢は言ってられない。この状況で出来ることを精一杯やるだけだ。
早川さんのウイニングショットはいいように決まり四回の後続の二人を続けて三振にとった。三球三振とはいかなかったけどかなり無駄球は減らせているはずである。四回裏の攻撃は川星さんがなんとかバットに当てるもピッチャーフライ。その他の二人は三振に終わった。五回表も早川さんのマリンボールは炸裂し三者三振に仕留めた。しかし流石に4番5番は少し多く球数を使わされてしまった。クリーンナップは伊達じゃないか…ストレートには平然とついてこれるようになってたからな。五回裏は矢部君が頑張ってセーフティバントで出ようとするもバント失敗。他の二人は三振してしまい俺には打席が回ってこなかった。
六回表、親善試合は特別ルールによりこの回で最終回だ。ここを抑えれば勝ち。行けるかな? 早川さんのスタミナは持つか? 見たところ肩で息してるようには見えないけど結構疲れてるはず。この回で終わりなんだ…踏ん張って欲しい。ベンチを出る前に声掛けるか。
「早川さん、最終回頑張っていこう!!抑えれば勝ちだよ!!」
「うん!!頑張ろう!!」
アドレナリンが出てあんまり疲れを感じてないのかもしれないな。アドレナリンが切れないうちにどうにかしよう。
六回裏の一人目の打者は何の問題もなく三振で仕留めた。けど…少しボールのキレが落ちてきたな。下位打線だからどうにかなりそうではあるが…上位打線には繋げさせたくない。あと二人できっちり切りたい。
8番の速水先輩が打席に入る。一打席目はすごく簡単に抑えた記憶がある。足は早かったからそこは注意しないといけないか。初球は外角低めにカーブ。速水先輩は左打者。外から大きく入ってくる軌道になる。キレが落ちてるところで怖いがこのコースならそうそう打たれない。早川さんもサインに頷きボールを放った。しかしボールは要求したコースより真ん中よりにきている。まずい…これじゃ絶好球に…そう考えていると速水先輩がバットを振るのが見えた。
“カキンッ”
打ち損じたような音が聞こえた。絶好球がきたから焦って肩にでも力が入ったか? ボールはサード方向に転がっていく。よし、これならサードゴロで仕留められ…
「ああっ!?」
セカンドにいる川星さんの悲鳴のような声が聞こえた。サードの前田がボールをグラブで弾いてしまっていたのが見えた。マジかよ…ここでエラーかよ。後ろにそらさなかっただけ良かったけど…ランナー出ちまったな。ワンアウト一塁。とりあえず声掛けないとな。
「ドンマイ、ドンマイ気にすんな!!切り替えてけ!!ピッチャー、バッター集中!!内野ゲッツー体制!!バントもありえるから備えておくように!!」
早川さんは…集中は切れてないようだな。しかしコントロールが少し乱れてきてるな…変化球減らした方がいいかな。ストレートの方がコントロールしやすいだろうし。でも1番に回したらそれは通用しないか…ランナーは俺が刺すか。そんなことを考えていると山道先輩が打席に入ってきていた。
「このまま負けるわけにいかねえ。こっからが勝負だぜ」
「いえいえ、ここでスリーアウト取らせてもらいますよ」
短い会話を交わした後プレイが再開した。ランナーの方を見てみると少し大きくリードをとっている。走る気か…その前に刺させてもらおう。外角高めにストレート。早川さんはセットアップからボールを放った。ランナーは走ってはいない。山道先輩もボールを振らずに見送った。判定はストライク。
ランナーが少し油断してるのか戻るのが遅いように見えたからファースト目掛けて思い切り送球した。ボールは矢のように飛んでいき“バシィッ!!”と大きな音をたてファーストのミットに収まった。ランナーは焦ったようにヘッドスライディングをして戻った。ファーストの宇渡も急いでタッチをした。判定は…
「アウト!!」
タッチの方が早かったみたいだ。これでツーアウトランナーなし。かなり有利な状況になった。早川さんがなんか驚いたような顔してるけど大丈夫だろう。後はバッターを抑えれば勝ちだ。
二球目、内角低めにマリンボール。山道先輩は動揺していたのか中途半端なスイングをして空ぶった。これで0-2。あと一球で決めにいこう。
三球目、最後に要求したのはマリンボール。コースはど真ん中である。早川さんは一瞬固まっていたがその後に頷いた。まあ真ん中っていうのは怖いからな。一瞬ためらうのは仕方ない。でも早川さんのボールなら大丈夫。俺は信じてる。そうして早川さんの手からボールが放たれた。ボールは外角の高めに向かっているような感じだ。山道先輩はスイングを開始してフルスイングをした。
“ズバンッ!!”
ボールはバットに当たることなく俺のミットに収まった。
「ストライク!!バッターアウト!!ゲームセット!!」
ふう…なんとか勝てたな。先輩がストレート読みで振ってきてくれてよかった。マリンボールはなかなか打たれにくいとは思うけど終盤変化量が落ちてき始めたら狙い打ちされるかもな…球数節約してこの結果だから早川さんにはもっとスタミナをつけもらわないとね。
「やられたよ…まさか負けるとは思ってなかったぜ」
「いえいえ、こちらもギリギリでしたから。いい試合でした」
「とりあえず整列するか」
「はい」
そう言葉を交わして整列に向かった。
「親善試合0-2で新入生の勝ち。ゲーム!!」
「ありがとうございました!!」
全員で挨拶が終わるとそのまま監督から話があるようだ。どうやら主審をしてくれていたのが監督だったらしい。
「私が監督の松本だ。新入生の諸君、いきなりこいつらに勝利するとはなかなかに頼もしいぞ。だがこれで満足することなく精進していくように。各々に反省するべき点があったはずだ。それと山道!!お前ら上級生はたるんどる!!この後グラウンド十周だ!!新入生はそのまま帰っていいぞ。明日から練習開始するからな。よろしく!!以上」
「ありがとうございました!!」
解散になったあと俺は着替えて帰ろうとしていると…
「や、お疲れ様。狼本君」
早川さんに声を掛けられた。
「早川さん。お疲れ様、肩とか大丈夫?」
「うん、平気。アイシングもしたし痛みもないから平気だよ」
少し心配だったんだけどよかった。
「今日すごかったね、狼本君。二打数二安打一盗塁。今日の打率十割だよ!!ボク吃驚しちゃったよ!!」
「それを言うなら早川さんの方がすごかったじゃん。六回までだけどノーヒットノーランの完封勝利。三振も九つ取ってるしそっちの方がすごいって」
サードのエラーさえなければ完全試合になったかもしれないくらいだしね。
「それは狼本君のリードのおかげだって。中学でもこんないい成績とったことないよ…」
「俺が今日のようなリードが出来たのは早川さんのコントロールが抜群に良いのと変化球のキレや緩急の使い方が上手いからだよ。そんなに謙遜しないでも大丈夫だって」
もしピッチャーが山道先輩みたいなタイプだったら全然違うリードになってるだろうしね。
「そうかな…自信持っていいのかな?」
「うん。自信を持っていいよ。早川さんのピッチングは全国でも通用するさ。って言っても全国行ったことのない俺が言っても説得力ねえか…」
「ううん。そんなことないよ。ありがとう」
お礼言われるようなことは行ってない気がするんだけど…まあいいか。
「ねえ、その…狼本君。下の名前で呼んでいいかな? その…バッテリー組むことも多くなるだろうし…信頼関係を築く上でもそっちの方がいいと思って…ボクのことも下の名前で呼んでくれていいからさ、ね?」
「そうだね。いいよ、俺はこれからあおいちゃんって呼ぶようにするね」
「う、うん!!じゃあ改めてこれからもよろしくね。朔陽君」
そうしてその後はたわいのない会話をした後、お互いの帰路につくのであった…
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