魔法の使い魔   作:R.O.M

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新刊発売との事なので(今更)一巻から改めて読み直そうと思います。
内容が尻切れトンボなのは、次が多分遅れるので、とりあいずいま出来てる分だけでも投稿しようってことで。

プロット作れれば纏まると思います。


第二話

しばらく毛布に包まったまま、椅子の上でじっとしていた。そうすれば、そのうち瞼も重くなって眠気に身を任せられるに違いないと考えていたのだが、一向にその気配は無かった。

 それもその筈、先程まで初対面の人に興奮の余り様々な質問を一方的にして得た情報があまりにも……ファンタジーだったからだ。確かに魔法を使う事が出来るという点では俺もファンタジー人間に見られる側だ。でも少なくともドラゴンやサラマンダーなんかに出会う事は絵本やゲームの世界でしかできない事であったし、魔法が使えるといっても日々の職場通勤は自転車だ。

 魔法使いって言われると大体皆が想像するのは、ビーム撃ったりテレポートしたりさせたり、花を咲かせたり物を浮かせたり。空を飛ぶ。身体能力強化とか使って派手な格闘戦をしたりだとか。……本当にその通りだったら、自転車通学なんて辞めてやる。

 

「(ここが異世界って事は何となくだけどわかるんだよな)」

 

 でも確かに魔法はあって、俺はその魔法使いの一人でもある。日々弱体化していってる、らしい。だけど。祖父もまた魔法使いだったのだが、結局魔法についての詳しい事はまるで教えて貰えなかった。魔法使いは政治に関わるな!だとか誰かに親切にするときは自分の力だけでやれ。魔法に頼るんじゃない!(魔法は自分の力じゃないのか)とか耳にタコが出来る程、魔法について尋ねた時は言われた。

 

「(帰ったら爺さんとこ挨拶行かなくちゃな)」

 

 死んだ祖父の事を思い出して、なんだか悲しい気分になってしまった。親切にしてもらったキュルケには悪いが、眠れないし、部屋を出て気分転換がてら外を練り歩く事に決めた。出来るだけ音を経てないように椅子から立ち上がり、そっと毛布を畳んで机の上に置く。

 天蓋付きのベッドで眠る部屋の主人はぐっすりと眠っているが、出来るだけ音を経てないように努力したのに、その傍に寝転がるサラマンダーの片目がゆっくりと開いてしまった。

 散歩に行かせてくれと口パクで訴える。伝わったのか伝わらなかったのかは分からないが、フレイムは興味を失ったように再び目を閉じた。

 尻尾の火のおかげで、部屋の出入り口まで何もぶつからずに部屋の中を移動出来た。そっと扉を開け、やたらと明るい窓の外からの光に照らされた廊下に出る。お邪魔しました、お休みと言いつつ。

 

 

 

「異世界って何のことかしらね、フレイム」

 主人の言葉に首を傾げるフレイムだった。

 

 

 

-

 

 

 「えー」

 

 廊下の窓から外の様子を伺って、開口一番。俺は夜の廊下である事も忘れて間抜けな声をあげてしまった。

 城壁のようなもの。広がる草原、更に奥には広がる森。そして満天の星空に二つの巨大な月を目にしたからだ。月が二つ。すごい。

 

 そうではなくて。

 重力がアレだとか潮の満ち引きとか色々頭に浮かんでは素通りして消えていく。確かにそんな疑問が浮かんでもおかしくないような異常な光景であったのだから仕方がない。だが、異常だとしても、此処が異世界であることを決定的に示すその光景は、見惚れるのもまた仕方ない光景だった。

 何と言うか、雰囲気というのだろうか、日本の……というか自分の住んでいた場所とは空気が違う。前に一度、海外へ修学旅行に出た事があるがその旅行先でも空気の違いというものを感じた事があったのを思い出して、懐かしい気分。

 

 「……異世界ってことは分かったんだよな」

 

 その事実を明確に認識するのに時間は掛からなかった。寧ろこれ以上の証拠は無いような気がする。

 俺の住んでいる世界は魔法自体はあるものの、その存在が表に大きく出る事は先ず無いし、実際あるのと無いのとで何かが大きく変わる訳でも無かった。

 もしかしたら、この世界でなら、祖父に聞いても得られなかった魔法についての知識が得られるかもしれない。

 何度尋ねてもついぞ返答の帰って来なかった疑問をこの世界の誰かにぶつければ、帰ってくるはずだ。とりあえずは、家に戻る方法を考えなければいけない。バイト先や家族には非常に申し訳ないが、出来るだけ早く帰る為にも魔法が必要な筈。情報を集めてみよう。

 

 とりあえずの目標が決まり、若干ではあるが落ち着きを取り戻して眠気も来たのでキュルケの部屋に戻る事にした。と、その時である。

 

「うー……寒い。 アイツもう寝てるかな」

 

 開かずの扉が小さな音を経てて開いた。ついでに部屋の主の声も聞こえた。

 二の腕辺りをさすりながら出てきたのはルイズだった。すぐさま、窓の前に立つ俺に気づいたのか、気まずそうにする。

 

「寝てたんじゃなかったの」

 中々話しかけて来ずにもじもじしている彼女を見かねて先に一声。一瞬怯む彼女だったが、ムスッとした顔で否定。

「ね、寝てないわ。そ、その十分もう寝たし。アンタの看病の疲れは少し残ってるけど」

 顔こそは強気だが、夕方あった時とは違って、瞳からは気の強さを感じられなかった。

「その節は大変ご心配をおかけしたようで……ありがとう」

 面を喰らったような顔になる彼女。それから慌てたように

「別にアンタの心配はしてないわよ!えっと、わ、私のせいで死んだって事になったら寝覚めが悪くなるから」

「本当にそうだとしても助かった。おかげで命拾いしたよ」

 

 実際、意図的ではないにしろ助けられているのだ。残念ながら俺の魔法で高所からの落下を防げる訳ではないし。

 

「アンタ、怒ってないの」

「別に怒ってない。 不安とかはあるけど……ついでに言うと締め出されたのも特に気にしてない」

「うっ。 それは悪かったわよ、私だって気持ちの整理がつけたかったのよ」

「と、まあ部屋から出てきたって事は整理がついたって事でいいの?」

 

 俺の問いに彼女は話す余裕は出来たわ。と頷く。

 

「えーっと。あーそうだ。まだ名乗ってなかったな、村上浩介(むらかみこうすけ)。宜しく」

「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。本当は平民に呼び捨てなんて許されないけど、ルイズで良いわよ」

 

 やっぱり変な名前ね、と言われたとかなんとか。うーん。

 あと平民ってなんだろうか。いや確かに平民だけど。

 

 

-

 

 

 

「信じられないわ」

「んー、やっぱそれが普通の反応だよな。俺は信じたけどな」

「アンタ頭大丈夫?やっぱりぶつけたんじゃないの」

「かもしれないが多分大丈夫だと思う。別に痛まないし……大丈夫だよな」

「私に聞かないでよ。一応学園の先生の腕は確かだから」

 

 俺の部屋よりも遥かに贅沢な12畳ほどの部屋が彼女の自室の大きさであった。

 窓、ベッド、大きなタンス、椅子と机。ランプ。どれもこれも綺麗なホテルに置かれているようなアンティークな物だった。因みに俺の部屋の家具は大抵兄弟の御下がりの物か、ホームセンターで買ってきた安い奴である。気に入ってるから別に良い。

 彼女はベッドに腰かけ、俺は本人いわく『特別』に椅子に座らせてもらっていた。

 あの後、本格的に寒がり始めたルイズの許しを得て部屋の中へと場所を移した。そして、キュルケの時と同じように質問をし。今度は相手側からの質問にも答える。ご主人と使い魔の情報交換会という訳だ。

 

 ベッドに座るルイズに怪訝(けげん)そうな目で見られ、バッサリと俺の説得を叩き斬られた。肩をすくめるしかない。

 元世界(げんせかい)(そう呼ぶ事にした)生まれで育ちな身としては、異世界人的にどれほど元世界をファンタジーに思っているか理解しづらい。常識がこうも違うと困惑もこれほど大きくなるのかとなんだか新鮮な気持ちだった。

 

「月は一つ。そして月に人間が行った事がある。そしてその月の裏には都市が隠れているだなんて」

 

 すまん、最後はガセだ。ほんの出来心だったんだ。

 

「…まあ、アンタが信じるって言ってるし、私も少しなら信じてもいいわ」

 

 大変申し訳ない気分になってしまった。余裕そうな顔で信じられてしまった。何と言うか、この短い間の会話で何となくではあるがこのルイズという少女の人となりが分かった気がした。何と言うか、分かり易い人だ。

 情報交流会始まってすぐに分かるぐらいには。

 

 

「結局のところ、どうやったら俺は元の世界に戻れるんだ」

 ずばり単刀直入に聞く事にした。先に帰りの手段があるという事でも確認しておけば、後が楽だから。だが、思ったような返事はかえって来なかった。視線の先の彼女は、澄ました顔で言った。

 

「無理よ」

「え……」

「だって、あんたの世界とこっちの世界を繋ぐ魔法なんて無いもの」

 

 否定。おうちに帰れない。さっきまでのスムーズとは言えないものの続いていた会話の流れが途切れた。しばらくの沈黙。彼女は、ルイズは世界を繋ぐ魔法は無いと言った。だが、それだと。

 

「ちょっと待ってくれ。現に俺は世界を飛び越えて召喚されたんだぞ。おかしくないか」

「そんなの知らないわよ。大体私はあんたから話を聞くまで、異世界なんてこれっぽっちも知らなかったのよ。勿論、異世界と繋ぐ魔法なんて聞いた事もないし」

 

 それに、と彼女は続ける。

 

召喚の魔法(サモン・サーヴァント)はハルケギニアの生き物を呼び出す魔法だから、普通は動物や幻獣が召喚されるのが普通。人間が召喚されるだなんて初めての事よ……ちっとも嬉しくないけど」

 

 さらに。

 

召喚の魔法(サモン・サーヴァント)一度成功したら使い魔が……この場合はあんたね。死なない限り、もう一度使えないのよ」

「な、なんだそりゃ……。つまり、何が原因かその召喚魔法が本来召喚対象でない筈の、異世界の俺にピンポイントで命中したって事か」

「そういう事になるわね。その人物に最も相性の良い者が召喚に応じるって書いてあったんだけど、多分関係ないわね」

 

 死にかけた所を助けて貰ったという点で見れば、何と言うか凄まじい幸運のようにも考えられたが、同時に魔法が何らかの理由で誤作動を起こして世界を越えて他の星の数程の生き物の中から選ばれた上に帰れなくなるという不運にも考えられる。どちらにしても、やばい。

 もう両手で顔を覆って笑うしかない、そんなレベル。

 

「なんてこった……ってうわっ!なんか手についてる」

「ああ、それね。私の使い魔ですっていう、印みたいなものよ」

 

 何故いままで気づかなかったのかという程大きく左手の甲に、文字が浮かび上がっている。うっすらと光を帯びている文字は一体何語で書かれた物なのだろうか、何と書いてあるのかまるで理解が出来なかった。ルイズも何と書かれているのか分からないらしい。

 だけども、今はそれがどんな意味を指すのかどうでもよかった。ルイズが嘘をついている線は考えにくい。分かり易いし。可能性があるとすれば、彼女がメイジとしては未熟でまだまだ数ある魔法についてどういう物があるか知らないという事。彼女の知らない、帰還の魔法があるかもしれないのだ。

 

そして、異世界事情が右も左も分からない俺がこの世界で一人で生きていくのは正直言って無理だ。大体まだ独り立ちすら出来てないっていうのに。

 

 

 

「つ、使い魔って具体的には何をすれば良いんだ」

 つまりは悲しい話、自分より年上か年下かも分からない少女に命だけで無く、生活まで助けて貰う事になる他ないのだった。

 目の端に涙を浮かべ、鼻を啜りながら、ご主人に尋ねる。男だって泣きたい時はある。

 

「……えっと。ま、まずは使い魔は主人の目となり耳となる能力が与えられるわ」

 それはつまりプライバシーも何もないという事であろうか。

 

「そういう言い方はやめなさいよ、でも何も見えないわ。きっとあんたじゃダメね」

 ちょっとホッとした。

 

「それから、主人の望むものを見つけてくる事。例えば……薬の素材とか?」

 この世界の地理全くわからないです。

 

「げ、元気出しなさいよ……。ってなんで私が気遣わなくちゃいけないのかしら」

 ごもっともです。

 

「あとこれが最後にして一番大切な事なんだけど、主人の身を守るのも使い魔の役目!でも……あんた……うん」

 使い魔は泣いた。

 

 確かに使い魔に必要な能力は一つもマトモに持ち合わせていないかもしれない。目と耳にはなれないし、地理を知らないから何かを取に行こうにも学び始める所から始めなければならない。そして戦闘能力に至っては、空手やら剣道やら武術を習っていたなんて事は全くないし、殴り合いの喧嘩もしたことがないくらいの人間なのだ。そしてそういったことでも魔法はまるで役に立ちそうにない。

 実際、あのキュルケの使い魔であろうフレイムに勝てる気がしない。炎なしでも腕を食いちぎられそうな気がする。それにこの世界にはあれよりももっと獰猛な生き物が居るらしい。ドラゴンやらグリフォンやら。猛烈に家に帰りたい気分になった。

 

「能力がなくても、薬の素材を見つけられなくても、頼りなくても、洗濯と掃除。その他雑用ぐらいはこなせるだろうから、やらせてあげる」

「それなら家の手伝いで毎日やってたし、大丈夫」

 

 でも、それぐらいなら魔法で何とかなるんじゃないのだろうか。……多分、本当はどうにでもなるんだろうけど洗濯と掃除はこなせるから非常にありがたい。

 そこまで決まると、ルイズは小さな欠伸をしてベッドへ潜り込んだ。

 

「喋ったらまた眠くなってきたわ」

「えっと……、俺は」

「床」

「……はい」

 

 彼女が指をさしたのは床だった。せめて椅子と机を貸してくれれば、と言おうとしたが、面倒を見てもらう以上仕方ない。しばらくは床と毛布でなんとか凌ぐしかない、寝床の事はあしたから考えればいいさ。

 なんとか使い魔という仕事が決まり、少し安堵感が出たのか、眠気はすぐに来た。

 あれほど明るく感じたはずの二つの月は、元世界と同じような優しい明るさになっていた事もあってそれにもまたなんだか安心するのだつた。

 

 

 

 

「じいちゃん、魔法使いだって本当?」

「……そうだ。世界を渡った事だってある。ドラゴンとお話ししたこともある」

「すごい!ねえじいちゃん、どんな魔法ができるの?」

「……質問ばっかなヤツだ。そうだな、動物と話せるだろ、空を跳べるだろ、それから」

「すごいすごい!ねえじいちゃん、それって今できるの?俺にも出来る?」

「……、」

「じいちゃん?」

 

「今は無理だ。いつかできる」

 

 

 

「んー……何で俺は床に寝てるんだっけ……あー」

 

 翌日。どれほど眠ったのか、分からないが、窓の外を見るに早い時間帯のようだ。寝相で毛布がはだけてしまったせいで、寒い。そのせいで目が覚めた。朝起きたら自分の部屋という事があったりすれば万々歳だったが、異世界に召喚されたというのは夢でもなく現実で間違いないらしい。

 そういえば、長い事見なかった祖父の夢を見た。毎回同じような感じではぐらかされ続けられてたんだっけか。

 何故俺が子供の頃は兎も角、成長した今になっても使えるかどうかわからない魔法について拘っているのかというと、実際に魔法を用いて作られた物を見たことがあるからだ。昼でも夜空が見られる望遠鏡だったり、風を出す宝石があったり。全て祖父の家の地下倉庫に隠されていたもので、見ては、触れてはいけないと言いつけられていた物たちだった。

 毛布を畳んで立ち上がり、伸びをする。床で寝たせいか背中が痛い。

 使い魔勤務一日目の朝やってきた。洗濯や掃除をするのは良いが、何を洗濯して良いのか、掃除道具は何処にあるのかを聞いて無かった事に気づいた。多分洗濯物はカゴの中のヤツだろう。

 

「魔法学院の授業って大体何時からなんだ?」

 

 そういや、とポケットに入っていた懐中時計を思い出して引っ張り出した。上着のポケットに入っている物も含めて、今の状況で役に立つのはこれぐらいだろう。御下がりで譲り受けた頑丈なのが取り柄の時計の針は午前6時半程を指示している。秒針はいつも通りに動いているし、間違っていないようだ。日本時間のままで良いのだろうか。

 

「後はメモ帳と家の鍵、鉛筆…あー、折れてるし。携帯と財布と自転車の鍵以外は無事みたいだな」

 

 なんとまあ、役に立たない物ばかりだった。携帯はあっても充電出来るか分からないし、そもそも電波的に無理だろう。後は眠気覚まし用のガムもあるが、うーん。

 とりあえず所持品を戻して、主人に早起きしてもらう事にした。

 ベッドの上でぐっすりと気持ち良さそうに眠るルイズは、あどけない顔をしていた。やはり見ていて何故か懐かしさを覚える。肩を優しく叩いて声を掛けるが、あーだがうーだが言うだけで起きない。仕方ないので毛布を剥いだ。

 

「さむっ!何するのよあんた!というか誰」

「ちょっと早いけど、朝になったので。昨日貴方様の使い魔となった者です」

「ああ。そうだったわね……、ふぁああ」

 

 また随分と大きな欠伸だことで、と思わず苦笑する。女の子的には気にする所じゃないのだろうか。

 俺に妹がいたとしたらこんな感じで面倒をみてたんだろうか、とか思う。

 

 突然ルイズがネグリジェを脱ぎ始めた。

 

「服」

「いくらなんでもそれははしたないだろ……、あと自分で着替えたほうが」

 出来るだけ視界に入れないようにしながら、椅子に掛かっていた制服を手渡す。

「あと下着。そこのクローゼットの一番下の棚。さむいから早く」

 容赦なく床で寝かせたりあたりこの子使い魔使いが荒い!渋々下着をクローゼットの中から適当に引っ張り出して同じく手渡す。

 ひどく怠そうな顔をして下着を身に着けたルイズ。本当に全く意識されていないのか、それとも寝起きはいつもこうなのか。わからない。そしてまさかのそこに追加オーダー。同じくだるそうな顔で。

 

「服」

「はいえ?」

「着せて」

「それぐらいは自分でしてくれ」

「平民のあんたは知らないだろうけど、貴族は下僕が居るときは自分で服なんて着ないのよ」

「ええ……」

 

 まじかよ。貴族すげーなと思いつつ、ベッドに座ったまま動かないルイズを見る。……下着は自分で履いてくれたし、仕方ないと割り切る事にした。ルイズはまだ妹っぽいというか、色々子供っぽいからマシだがこれが例えばキュルケだったりしたら。煩悩を振り払って、制服のシャツを手に取る。

 

「立ってくれ」

「立ってくださいでしょ」

「……立ってください」

 

 何故か勝ち誇った顔でフフン、と無い胸を張るご主人様に俺は思わず溜め息が出たのだった。

 

 

 

 ルイズと共に部屋を出る。結局あのまま、浩介は人生初となるスカート履かせとマント装着までさせられてしまった。

 廊下は春の温かい陽気に照らされ、夜とは違った雰囲気になっていた。窓の外をちらりと見たが、流石に太陽が二つある、なんて事は無いらしい。

 三つ並んでいる扉の一つが開いた。中から出てきたのは燃えるような赤い髪の特徴的なキュルケだった。昨日は服装といい暗かった事といい、良く姿を確認できていなかったがルイズより背が高い。そしてなんといってもあのバスト。すごい。

 彼女はルイズの姿を見るなりニヤっと意地悪そうに笑う。

 

「おはよう。ルイズ」

 その笑顔にルイズは不機嫌な顔で返事を返す。

「おはよう。キュルケ」

 声が低い。一目でルイズがキュルケに対してどんな感情を抱いているか声と目線でわかってしまった。

 

「あなたの使い魔、それ?」

 浩介に一瞬だけウィンクしてみせて、キュルケはバカにしたようにルイズにそういう。

「そうよ」

「あっはっは!本当に人間なのね!すごいじゃない!」

 

 不機嫌オーラが寝起きの比ではない。これ以上焚き付けられてもこちらに飛び火しかねないと思った浩介は、尋ねる。

 

「そういえば、使い魔ってのは動物なのが基本らしいけど、過去に人間が召喚された事とかないのか?」

「ええ。平民を呼んだのは恐らくこの学園ではこの娘が初めてよ。平民を呼ぶ失敗だなんて、流石よね」

「……何キュルケとご主人様の許可なく話してるのよ」

 恐れていた通り、不機嫌オーラがキュルケから使い魔へと向かう。ルイズの顔には最早、青筋すら浮かんでいた。

 まずいと思った浩介は慌てて言う。

 

「すまん。だけど、失敗っていうのは変じゃないか。だって、現に俺を召喚できてるんだし、失敗なら何も起こらないはずだろ」

 その言葉にキュルケは考える素振りを見せて、ルイズは鳩が豆鉄砲を喰らった顔をした。

 少しの間が空き、キュルケが口を開く。

 

「…そうね、悪かったわルイズ。『今回』は成功したのよね。おめでとう」

「ぐっ……そうよ!人間も動物みたいなものよ!ふん!」

 

 笑いながら言うキュルケ。その顔には先程までの意地悪さは抜けて、例えるなら、妹の成長を喜ぶ姉…のような笑みだった。

 そんな様子に気づいていないルイズは、白い頬を赤くしながら威張る。その発言はどうかと思うが。

 と、キュルケの部屋から続いてペタペタとフレイムが出てきた。しゃがみ込んで迎えると、むんと熱気が顔にくる。相変わらずでたらめなデカさだ。成程確かに、彼女の燃えるような髪の毛の赤といい勝負をしている。彼女の使い魔だとすれば、納得のセレクトだ。

 煽り合いに熱が入っている主人たちをわき目に、舌をチロチロとしながらそばまで歩いてくる。

 

「おはようさん……うおっぷ」

 

 挨拶の返事は顔の一舐めだった。蛇のように長い舌は顔に触れると普通に熱くて吃驚した。盛大に顔によだれがついてしまった。ちょっと汚いが後で洗濯すればいいや、と袖で拭う。少なくとも、昨日のように服に噛みつかれて駄目になるよりかはマシだと思う浩介だった。

 ルイズが驚いたように尋ねる。

 

「これって、サラマンダーじゃない」

「そうよ。火蜥蜴よー。しかもただのサラマンダーとは違うのよ!なんといってもこの尻尾の炎を見れば分かると思うけど、炎の大きさからして間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ。好事家なら喉から手が出る程欲しがるでしょうね」

「そりゃ、良かったわね。アンタにぴったしだわ。……おめでとう」

 

 今度はキュルケが驚く版だった。苦々しい声ではあったが、記憶している限りでは万年喧嘩腰であったあのルイズが『おめでとう』と言ったのだ。

 

「ツンデレルイズがおめでとうだなんて、一体どういう風の吹き回し?」

「別に、これっぽっちも凄いなんて思ってないわよ。でも、その。いくら嫌な奴でもおめでとうって言ってくれたら返してあげるのが大切じゃない、うん」

「今日は雨が降る……いえ、槍が降るわね」

「誰がツンデレよ!人が折角褒めてあげたのに」

 

 ぷんすか怒るルイズを浩介はまあまあ、と宥める。

 

「そろそろ向かった方が良いんじゃないか?その…なんだっけ何とか食堂」

「アルウィーズの食堂」

 とっさに名前が浮かばなかった。

「でもあそこ、貴族ばっかよ?使い魔くん的には肩身の狭い思いをするんじゃない」

 キュルケがルイズに尋ねる。本来は、特別にアルウィーズの中に入れてあげて、主人の寛大さを示してやろうとでも思っていたルイズだったが、使い魔のおかげで少しだけだが気分の良くなったもんだから

「厨房の方に行かせるわよ。あそこなら平民しか居ないだろうし、同じ平民って事で面倒みてくれると思う」

 

 確かにそっちの方が気が楽で良さそうだ。なんというか浩介的には貴族の食事というのは礼儀とかマナーがきつそうなイメージがある。貴族っていうぐらいなのだからそれが当たり前なのだろうけど。

 

「そ。じゃあフレイム、ご飯を食べに行くついでで良いから、使い魔君を食堂の厨房まで案内してあげて」

 

 主人の言葉に頷いたフレイムは、一度浩介の方をチラ、と見てからついてこいと言わんばかりにペタペタと歩き出す。先に行ってしまっていいのだろうかと、尋ねると。

 

「仕方なくだけどこの娘と一緒に行くわ」

「仕方なくだけどこの女と一緒に行ってあげるわよ」

「じゃあお言葉に甘えて」

 

 おいていかれないようにフレイムの後を追う。背後で再び始まった煽り合いに苦笑しながら。




誤字脱字矛盾点は気が向いたら指摘してください。

着地地点決めてないからこんなガバガバな切れ方してるんだろオォン

15/5/4 残念な誤字とぶったぎり(こちらは少し前に)を修正
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