β世界に生きる   作:銀杏庵

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01 βとαの世界

 1973年 β世界

 全長約三十mの宇宙往還機が、高度四百km弱の地球低軌道(宇宙空間)を弾丸よりも数倍速い秒速約八kmで飛んでいた。

 無重力状態の往還機のコクピットには、銀色の長い髪をゆらゆらと宙に浮かせた女性──外観から十代半ばの美少女──がいた。彼女の金色の目は、コクピットの計器ではなく何もない宙に向けられていた。照明がオフにされているにもかかわらず、漆黒色の強化スーツに身を包んだ彼女の身体(髪を含む)全体からは、青白い散乱光が溢れ出てコクピット内を淡く照らしていた。彼女の美しい顔には、幾何学模様のラインが幾つも輝き走り、また、両手の甲にもC(上向き)と∴が重なった模様が浮かび上がり、イメージフィードバックシステム(IFS)により思考のみでコンピュータ群と直接情報のやり取りをしていた。

 そんな彼女が注目しているのは、地球と月の間のラグランジュ点L1に配置された電波天文衛星からの通信データであった。その無人の衛星は、月面のサクロボスコクレーターに建設されたH1ハイブから、約二十四時間前に打ち上げられ、地球に向ってくるBETAの着陸ユニットを追跡観測し、その情報を往還機に送っていた。

 そんな中、彼女の補助脳コンピュータが、往還機に備えられた可視光宇宙望遠鏡によるBETAの着陸ユニットの観測情報を解析した結果を、明瞭な映像として彼女の脳の視覚野へ投射する。

 その画像は、彼女に驚きと困惑を齎す。画像には、当初一つと思っていた着陸ユニットが、実は三つが団子状態で編隊を組んでいる姿があったためである。

 「……確か着陸ユニットは、百mあるかどうか。容量的に搭載できるBETAの数は大したことはないから、三つ一緒なのかしら?」

 彼女は、アニメのトータル・イクリプスのプロローグシーンにおいて、月面上空を地球に向かって飛んで行く三つの着陸ユニットのことを知らなかった。

 のんびり考察していられたのも束の間、三つの着陸ユニットが、突然分かれて別々の地球軌道進入コースを取り始めたのである。

 「そんな! ……カシュガルへ一緒に落着しないというの!? まさか落着点が三カ所に分かれるなんて……ツァーリ・ボンバは一つしか用意していないのよ」 

 対BETA着陸ユニット殲滅作戦の前提条件が崩れ、彼女の顔は酷く青ざめてしまう。

 「落着した着陸ユニットを二十時間以内に潰さないと、ユニット内のBETAが活性化してしまう。一カ所は用意した物で何とかなるけど、今から某国の核ミサイル発射システムにハッキングしても、せいぜい追加で一カ所を飽和攻撃できるかどうか──しかもそれを実行した場合は、第三次世界大戦の引き金になり兼ねない……」

 ジレンマに悩む彼女は、眉を寄せ苦悶の表情を浮かべていると、三つの着陸ユニットについて、地球への落着点を計算させていた補助脳コンピュータが結果を彼女に知らせて来た。

 「……えっ?!」

 彼女は、補助脳コンピュータに再計算を指示するも、結果は変わらなかった。

 「ユーラシア大陸中央のカシュガル。北アメリカ大陸北部のアサバスカは、一年早くに落着するけど──そもそれ一年遅れること自体おかしいと思っていたから──まだ納得できる範囲だわ……だけど、三つ目の着陸ユニットが帝国に近いカムチャッカ半島に何で落着するのよ──っ!」

 このβ世界の因果律のズレに、切れた彼女が吠える。 

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 1973年4月19日

 カムチャッカ半島の北部において、大規模な爆発が発生し、爆発に伴い発生した巨大なキノコ雲は千km以上離れたサハリンでも確認され、また、発生した衝撃波は地球を1周以上する程のものであった。

 当初、ソ連は1908年に発生したツングースカ大爆発と同じ小惑星の衝突によるものと考えて科学アカデミーを調査に派遣したが、現地の報告から水爆によるものと判明し、米ソは戦争一歩手前の緊張状態に陥った。最終的には、異星生命体の着陸ユニットの落着観測情報が帝国から提供され、"着陸ユニットの爆発"が原因ということで、戦争は何とか回避されることになった。

 なお、カシュガル及びアサバスカに落着した着陸ユニットは、フェイズ1のハイブを建設するに至り、ついに地球上でのBETA大戦の戦端が開かれることになった。

 BETAの殲滅よりも、惑星間航行等異星の技術獲得を優先した中国と米国の行動は、東西冷戦で技術競争せざるを得ない事情があったとしても、地球に最悪の災厄を招き入れた愚行と世界中から非難を浴びることになった。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 1999年8月6日 β世界 横浜

 横浜ハイヴ攻略の明星作戦最終局面において、突如米国は一方的にG弾(五次元効果爆弾) 攻撃を通知し、低軌道上に待機していた装甲駆逐艦から二発のG弾の投下を実行する。二発のG弾は、午前八時十五分横浜ハイブ上空において、ほぼ同時に起爆した。

 臨界制御解放に伴い発生した多重乱数指向重力効果域は、暗紫の膜となって爆発的に拡大を続け、その内部では次元境界面と接触した物体がナノレベルで壊裂・分解されて行った。しかし、抗重力場を有するモニュメントと呼ばれるBETAの地表構造物は、暗紫の膜に覆われても壊裂・分解に暫し抗い、唐突に発生した次元歪曲空間に飲み込まれ消え去ってしまう。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 2012年5月X日 α世界 横浜

 「うっ! ……朝から元気一杯な太陽が恨めしいぜぇ~」

 徹夜明けの中年男が、桜木町駅の改札を出た所で立ち止まり、眩し過ぎる太陽を見上げて文句を垂れる。

 ノーネクタイでワイシャツ姿の男ではあるが、仕事で徹夜をした訳ではない。出張仕事は昨日のうちに終わり、本日のオフ会参加のために?か月振りに年休を取ることに成功し、つい調子に乗ってネット配信の懐かしのアニメ鑑賞で徹夜してしまったのである。

 男は、目の下に隈をつくり、やばい人な雰囲気を放っていたため、行き交う人々から避けられていたが、彼はそれに気づかず横浜ランドマークタワー近くのけやき通りをノロノロと歩く。

 ゴオ────ッ!

 突然の轟音と共に、男は強烈な風に襲われ、枯れ葉のように身体ごと地面から舞い上がってしまう。

 奇跡的に街路樹の枝に引っかかった男のすぐ横を、看板を始め様々な物や人が横浜駅方向に向かって次々に飛んで行く。数十m先の道路では、突風に煽られた大型貨物トラックが、車数台を巻き込んで事故を起こしていた。しかし、男の大きく見開いた目は、大型貨物トラックの事故ではなく、その百m程先から広がっている荒れ地──それも一km以上も続く広さ──に釘付けになっていた。

 風が止むと、横浜駅があったと思しき地点を中心に、直径が約二kmの円内は建物も全て消えて荒れ地に変わっていた。その中心には、尖った岩が交互に積み重なり、高さ約五十m、幅は約百五十mもある奇怪な岩山が存在していた。更に不思議なことに、その岩山は揺らめく光と暗紫の斑に覆われていた。

 「嘘だろ……横浜の街が跡形もなく消えちまっている!」

 余りの異常な光景を目にした男は、街路樹から降りると、周囲の怪我人の救助も手当てもせずに、何かに導かれるようにふらふらと荒れ地に向かって歩きだした。

 荒れ地の外周部に足を踏み入れた男が、爆発の影響でできたものとは思えない岩山に首を傾げていると、突然、岩山付近の地面が幾つか吹き飛び、何かが次々に地上に現れてきた。

 「なんや?」

 男が目を凝らしてじっと見ていると、土煙をあげながら何かの群がこちらに向かってくるのが分かった。輪郭が見る見る間に明瞭になる。それは緑がかった体に、赤紫の丸い目のような模様が幾つものある、奇怪な怪物達の群であった。

 (やばい! やばい! 逃げろ──っ!)

 男は荒れ地に背を向けて、横浜ランドマークタワーに向かって脱兎の如く駆け出した。

 ズン!

  ズン!

   ズン!

 必死な形相で走る男の後ろから、地響きを伴った足音が幾つも近づいてくる。 怪物の群れが、奇跡的に男を踏みつぶすこともなく彼の両横を抜きさって行った。

 ド──ン!

  ド──ン!

   ド──ン! 

 象の倍はある怪物が、横浜ランドマークタワーの基部に突撃する度に、タワー全体が震え、基部の鉄筋コンクリートの壁が削られて行く様を、男は逃げることも忘れて見いってしまっていた。

 (嘘だ! 嘘だ! 嘘だ!)

 男は、目の前の非日常な光景を何度も否定しようとする。

 「化け物だ――!」 

 「ギャ──ッ!」 

 「助けて──、お母さん!」

 男は後ろから聞こえた悲鳴に振りかえる。そこには、甲羅のない蟹のような巨大な怪物が両腕で障害物をなぎ払い、また、腕を持つ大きな赤い怪物がその腹にある大きな口で人間を次々に喰らっていた。その光景は、男が読んだことがあるマンガの怪物を思い起こさせた。

 「べ……BETA!」

 生々しい死に直面した恐怖で、男は腰が抜けてしまう。それでも、男は生存本能に突き動かされアスファルト道路を這いずり、少しでも惨劇の場から離れようと足掻く。

 突然、横合いから大きな赤い手が伸び、男の身体を掴み持ち上げる。恐怖で気が狂いそうになった男には、赤い怪物の腹に生えた巨人の口がニャリと笑ったように見た。

 「うっ、わわわああああ──!」

 上下に開いた巨人の歯が、悲鳴を上げる男の首から下を一口でかみ切った瞬間、男の意識と頭が同時に消えてしまう。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 朝八時、東京駅を発車した新大阪行きの新幹線のぞみ299号が、新横浜駅を通過した直後、先頭車両から最終車両の十六号車までが、何かによって車両を上下に一刀両断されしてしまう。

 上部だけとなった車両群は、二百km近い速度で人間や荷物を車両の外へ吐き出しながら線路外に飛び出して行く。

 のぞみに乗っていた千三百人以上の命に加え、線路外に飛び出した車両がマンションや商業ビルへ激突したことで、更に多くの命を奪うことになった。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 横浜駅から直線で十km強の距離にある羽田空港は、国内で最も過密な空港であり、その上空には多数のジェット旅客機が常時飛んでいる。

 「羽田管制塔、こちら**空739便。着陸許『ガッ!』……」

 上空のジェット旅客機からの通信が、唐突に途絶える。

 「どうした? **空739便、応答しろ!」

 管制官は、視線をレーダー画面に向けるも当該機の機影はなく、慌てて双眼鏡で上空を探すも見当たらなかった。

 管制官が、再度レーダー画面に視線を向けると、着陸順番待ちで上空を旋回している多数のジェット旅客機の機影が、次々に消える。

 「故障か?」

 「飛行機が爆発したぞ!」

 双眼鏡で上空の様子を見ていた他の管制官が叫ぶ。

 その叫び声に続いて、四方の空に双眼鏡を向けていた管制官達からも同様な報告が次々にあがる。 

 「空でいったい何が起きているんだ?」

 管制室の責任者は思わず呟いた。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 「そろそろ、中ノ瀬が近い。注意を怠るな!」

 東京湾本牧沖約六kmを航行中の大型原油タンカーの船長は、数年前の底触による原油流失事故現場に近づいたことから、見張りの船員らの気を引き締めさせる。

 「船長、九時方向の海に飛行機らしきものが落下した模様です!」

 見張りの船員の報告に驚いた船長が、双眼鏡を取り出して艦橋の窓に近づいた瞬間。

 ドォ──ン!

 大型原油タンカーの横腹を直撃した何かが、ぶ厚い鋼鉄の壁に穴を開け、積載していた原油を瞬時に燃料へ変え引火して爆発し、巨大な炎と黒い煙が上がる。

 やがて、大型原油タンカーの船体は真っ二つに折れ、沈み始めるものの、浅瀬に船体が底触したことで、波の上に船体上部が残り、裂けた船腹から大量の原油を東京湾へ垂れ流す。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 日本有数の長さを誇る、東京湾のアクアブリッジの高速道路を百台以上もの車が走行していた。

 人工島の海ほたるPAで休憩した後、木更津側へ大型貨物トラックを走らせていた運転手が、突然ラジオで流れていた曲が途絶えたことに訝しむ。

 「緊急ニュースです。羽田空港上空のジェット旅客機が、次々に墜落しています。走行中のお車の皆さんは十分注『ザザザザ──ン!』」

 突然、人工島の海ほたるPA施設及びそこから約四km続くアクアブリッジの鋼製橋脚のほとんどが切断され、支えを失った巨大な白い橋梁は、車と人間並びに橋梁下を通過中の船舶も道連れに東京湾へ沈む。

 橋梁落下で発生した大波が、上部施設の大半を失った人工島へ津波となって押し寄せ、川崎側に続く海底トンネルへ大量の海水が流れ込み、トンネル内を水没させ、死者の数を更に増やしてしまう。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 官邸危機管理センター内は、慌ただしさと緊張が交差していた。横浜に現れた怪物、新幹線の大破、羽田上空の旅客機の墜落、東京湾のタンカー炎上、アクアブリッジの崩落等、次から次ぎに入ってくる大事故の情報を、険しい表情で職員達が忙し気に応対している。

 壁に埋め込まれた複数の大型ディスプレイには、各現場周辺から送られてきている、信じられない光景が映されていた。ビルの三階程の高さがありそうな、装甲車のような六本足の怪物(突撃級)の執拗な攻撃で、横浜ランドマークタワーはピサの斜塔の如く傾き、ついに限界を迎えたタワーは轟音と共に海へ倒れてしまう。

 出現した荒れ地には、ビルの四~五階の高さがありそうな、腕のないトカゲの様な一つ目玉の怪物(重光線級)が二本足で立って、目玉から北東の空に向かって光線を何度も放っていた。光線が放たれる度に、横浜から約五十km離れた成田国際空港上空のジェット旅客機が次々に爆散する。

 また、一つ目玉の怪物よりも遥かに小さい、二本足で立つ腕のないカエルのような怪物(光線級)も、その二つの目玉から光線を放って、横浜から三十km圏内の上空の飛行機を何機も撃墜したり、東京湾に浮かぶ船舶をも多数撃沈する。

 装甲車のような怪物(突撃級)の別の群が、神奈川区及び中区の二方向に別れて、荒れ地の外周部の街に侵入する。幾つものビルや住宅を粉砕し、線路や道路に停止していた電車や車を踏みつぶしたり弾き飛ばしたりして行く。

 その後から、甲羅のない蟹のような巨大な怪物(要撃級)が、残っているビルや電柱を両腕でなぎ倒し、亀の様な頭らしきものが、その凶悪そうな歯で、むき出た鋼材を貪り喰らう。

 破壊の饗宴が続く街で逃げ惑う人々を、赤い怪物(戦車級)がその大きな両腕で次々に捕まえて、腹にある大口で喰らう。

 短い足をしたキノコの様な頭の白い怪物(兵士級)は、壊れた家やビル等に身をひそめていた人間をその腕で引きずり出して、生きたまま齧る。

 二本足で立つ象のような灰色の怪物(闘士級)に、金属棒を振り上げて立ち向かって行った何人もの男達は、怪物の長い鼻の先の指で頭を掴まれて、頭部を引き抜かれ血飛沫を上げて倒れる。

 こうした生物というには余りにもグロテスクな怪物達が、横浜の街を蹂躙し、逃げ惑う人々を喰らう凄惨な光景に、官邸危機管理センター室内の職員が何人も倒れ、室外へ運び出されていった。

 室内に残った職員の誰かがつぶやく、「横浜の街は地獄だ……」と。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 官邸危機管理センター内の一段と高い場所で、大型ディスプレイを苛ついた様子で見ていた男が、声を張り上げる。

 「おい、防衛大臣! 自衛隊の阿呆共は一体何をやっているんだ!」

 「はい、総理! ……き、君。直ちに状況を報告したまえ」

 眼鏡の男が、傍らに立つ防衛省の制服組幹部に状況説明を命じる。

 「消失をぎりぎり免れた横浜駐屯地から陸自の部隊を出動させましたが、赤い怪物の群に襲撃を受け、対戦車ミサイルで応戦したものの、数に圧倒され部隊は全滅してしまいました。通常の火力では対応できないと判断し、横須賀基地から海自の哨戒ヘリコプターを出動させようとしたのですが……飛び立って直ぐに全機がレーザーによって撃墜されてしました。先程、横浜から七十km離れた百里基地より飛び立った空自のF-15Jも同様に撃墜されてしまいました」

 「怪物にレーザー攻撃がある限り、空や海上からの攻撃はほぼ困難です。期待される陸自の戦車については、御殿場の駒門駐屯地に配備された数台を現在、横浜へ緊急輸送を行っています。なお、怪物が東京方面へ侵攻した場合に備え、予測ルートの多摩川に防衛ラインを設ける遅滞作戦を準備中です」

 「おい! 総理の俺をなめているのかお前ら! 首都を守るのに戦車が数台っぱっちしか用意できないだと──何をやっているんだ馬鹿野郎共!」

 怒りで顔を真っ赤にした総理が、制服組幹部達を口汚く罵る。

 「「「……」」」

 「陸自の戦車は、ほとんどは北海道に配備されているためです」

 制服組幹部の一人が、総理の疑問に答える。

 「はぁ~ん?! 何でそんな辺鄙な所に配備しているんだど阿呆!」

 念仏のように戦争反対を唱え、米軍や自衛隊の基地廃止を声高に叫んだ過去を持つ市民運動家出身の総理が怒鳴る。

 「いいか、ゴミ共! あそこにいる怪物を直ぐにぶっ殺せ! 特攻してでも何とかしろ!」

 「……レーザー攻撃能力を有する怪物の群を速やかに倒すとなると、横須賀の在日米軍と協力して、怪物がいる周辺をミサイルで飽和攻撃するしかありませんが?」

 制服組幹部の一人が、恐る恐ると言った様子で総理に尋ねると、総理のこめかみに太い血管が浮き上がる。

 「駄目だ! 駄目だ! 生きている人間が居るかも知れない所に、ミサイルなんか打ち込んでみろ、俺の責任問題になるだろ。そんなことは絶対に認めん! それと米軍なんか出動させたら、九条を改憲しろとか言うやつが増えて**党の支持率が上がるのは絶対に許さん! 自衛隊だけで何とかする別の方法を考えろ!」

 髪を逆立て、まなじりをつり上げた総理が口泡を飛ばし、制服組幹部に向かって怒鳴る。そんな国のトップの様子に、センター内の職員達は冷めた視線を向け、呆れた表情を浮かべる。

 「横浜駅跡の岩山直上に、謎の光が衝突した模様!」

 職員の鋭い声が室内に響いた。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 自衛隊は、多大な犠牲を払ってBETAを滅ぼすことに成功した。

 しかし、横浜駅跡を中心とした荒れ地は、草木も育たない重力異常地帯となり果て、都市復興は断念され、十万を超える慰霊碑が立ち並ぶ巨大な墓地となり、人類と異星生命体による悪夢のファーストコンタクトを永く語り継ぐ事になった。

 


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