時は、1958年六月二十七日(金)に戻る。
遅れていた梅雨がようやく訪れ、連日の雨に見舞われた帝都は、山に囲まれた盆地故に風通しが悪く湿度が高くなりがちであった。
朝から雨時々晴れを繰り返す天気のせいで、お昼を迎える頃には、帝都の気温は急上昇し、不快指数も鰻登りに高かまっていた。
五月の通う小学校の運動場も水溜まりに占領され、蒸発した大量の湿気が熱を持った空気と一緒に、彼女のいる教室にも入り込む。
「ギブミー、クーラー~っ」
梅雨のないロンドン育ちで汗腺働きが低い五月は、呪文を繰り返す。彼女の白い肌の顔や首筋──腰まである長い髪は、うなじが出るシニヨン(髪を編み込み、後頭部にねじり編み)でまとめていた──には、珠のような汗が浮かんでいた。五月はは、右手に持つハンドタオルで何度も汗を拭きつつ、左手で木製の椅子を引きずり移動させる。
緩慢な動作の五月と違って、他のクラスメイト達はこの程度の不快さに馴れているのか、機敏な動きでワイワイ言いながら机や椅子を並び替え、昼食会の準備をしていた。
このクラスでは、遥先生の決定で昼食──五月の中の人のいたα世界と違って、β世界では早めに戦争に降伏した結果、危機的食料不足に陥らずに済んだため給食制度がない──は、仲良しグループで楽しく食べる事に決まっていた。
「さっちゃん、大丈夫?」
同じ商店街集団登校グループで仲の良い、夏子が心配げに声をかけ、ハンカチを持った手を五月──机の上に、顎をのせてへたっている状態の彼女──の顔に伸ばし、鼻の頭の汗を拭く。
「「涼しくなぁ~れっ!」」
同じ商店街集団登校グループで、仲良しの鈴子と美子が、両手を団扇代わりにして、左右から五月を扇いでくれる。
「ううっ……何時もすまないねぇ~、あたいの身体が病弱でなければ……ヨヨヨヨ」
「「「それは言わない約束でしょ、おとっつあん」」」
本日は、このグループと一緒に食事をとる番の遥先生が、少女達の不思議なやり取りに疑問を抱き、意味を尋ねる。
「う~ん? 五月ちゃんが、こういう時のお約束のセリフなんだって」
夏子の良く分らない返事に、苦笑する遥先生であった。
「「「「「いただきます」」」」」
そう言って、各自が持参したお弁当箱を開く。
「あっ! 遥先生のお弁当は火星丼なんだ!」
「? ……有栖川さん、これはハヤシライスって言う料理なのよ」
丼発言した五月を、変な子を見るような目をした遥先生が、間違いを訂正する。
遥先生のお弁当箱の中身は、ハヤシライス(薄い牛肉とタマネギをドミグラスソースで煮たものを御飯にかけた料理)に、赤色のタコさんウィンナーや緑色のグリンピースがトッピングされていた。
「あわわわ──間違えました。タコさんウィンナー、かわいいですね、遥先生!」
話を誤魔化そうと、五月は口では謝りつつも、内心で思った。
(どう見ても火星丼だよね? グリンピースは余計だけど……これって、私の因子が機動戦艦ナデシコのキャラをβ世界に呼び寄せてしまった影響かしら?)」
五月が、じっと遥先生のお弁当を見つめていると、「一口食べてみる有栖川さん?」と、聖母のような優しい遥先生の言葉に、五月の答えは一つしかなかった。
「ハイ、よろこんで!」
五月は、中の人によるα世界での居酒屋バイト経験から、ついお約束の返事を口にする。
遥先生が、銀のスプーンですくったハヤシライスを、五月は雛鳥のようにパクリと食べ、美味しい発言をすると、五月以外の少女達も同様に強請るのであった。
なお、遥先生へのお返しに、五月はポン・デ・ケイジョ(白玉粉とチーズで作った一口サイズのパン)、他の少女は五月から伝授されたα世界の美味しい物(焼き明太子、手羽煮、天むす)が供され、好評を博す。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「「「「「ご馳走様」」」」」
お弁当を食べ終わると、お金持ちの家ぐらいにしかない冷蔵庫で作った氷で冷やして飲み物を、遥先生は食後のお茶替わりに五月らに振る舞う。
五月を始め少女達は、「冷やし飴だ(生姜汁と水飴を溶かした飲料)!」「冷たくて美味しいね」等と言って、遥先生と一緒に昼食する特典に喜ぶ。
「ところで遥先生。帝都はこんなに暑い所なのに、何で学校にはプールが無いんですか!?」
お弁当を食べて少しは元気が出た五月が、二杯目の冷やし飴で喉を潤しながら、少々憤懣気味な口調で問い掛ける。
「プールなら学校の北門近くにあるけど?」
「? ……北門には駐車場はありますが、プールはありませんよ?」
「それがプールよ……」
訳がわからない顔をする五月に、遥先生は右手を顎の下に左手は右肘に添えて考え込む。その左腕が、遥先生の着ている白いブラウスの下で、うっすらと透けて見えるブラに包まれた大きな胸(乳房)を押し上げる。
「もしかして、五月ちゃん誤解していない? こちらではプールって、進駐軍の人の言葉で駐車場(モータープール)の事を指すのよ」
「えっ?!」
遥先生の指摘に、五月は口をポカ~ンと開け間抜けな顔をさらす。
認識のズレを理解した五月は、自分の思っていたプールがどういうものかを、皆に手振りを交えて説明するも、そんな施設は帝都にないと言われてしまう。
そもそも、五月の中の人がいたα世界で、全国の小中学校で水泳の授業が採用され、水泳用プールの整備が普及したのは、1955年に多くの子供が溺死する水難事件が相次いだ事が切っ掛けである。戦争の賠償や軍事費等、財政が厳しい帝国では、水泳用プール施設の整備が進むはずもなかった。
「そ、そんなぁ~。美人な遥先生のビキニ水着姿が、見られないなんて……」
がくっと、うなだれてしまう五月であった。
「美人と誉められるのは嬉しいけど、ビキニとか胸を強調し肌の露出の多い水着なんて、はしたないのは先生には無理よ」
恥ずかしそうな顔をする遥先生に対して、五月達ちっぱい連合は、遥先生の二つの巨乳を羨ましげに凝視する。
「遥先生は、いつ頃から胸(乳房)が大きくなったの?」
鈴子が、ちっぱい連合を代表して質問を投げる。
「女の子だから、そういうの気になる年頃か……先生は、そうね~ぇ……小五の頃だったかな?」
遥先生が、色っぽい唇に人指し指を添えながら答える。
「「「「……」」」」
ちっぱい連合が、各自の胸に両手をあてがい、格差に落ち込んだ顔をするのを見て焦る遥先生。
「え~っとね、胸の成長は人それぞれだから余り気にする必要はないわよ──それに胸が大きいと、周囲の視線が気になって困るし、肩もこって大変なのよ」
遥先生のフォローするつもりの言葉が、益々ちっぱい連合の胸(心)をえぐり、どよ~んと落ち込ませる。
「そ、そうだ! 朝の教職員会議で、貴方達六年生が夏休みに行なう水泳教室は、白ひげ浜(琵琶湖)に決まったわよ! 楽しみにしていてね」
場の空気を変えようと、話題を逸らす遥先生であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
小学校の授業(半日)が終わり、下校時間になると、雨はすっかりあがっていた。
集団下校する五月達は、学校近くにある交通量の多い道路──アスファルト舗装の片道一車線──を歩く。帝都と言っても、α世界の平成日本のように車道と歩道が分離している訳でもなく、 道路を我が物顔に猛スピードで走る自動車やオートバイを避けるため、五月達歩行者は自然と道路の一番端を歩くしかない。
五月達の集団下校グループは、朝の隊列を組んでの集団登校とは違って、隊列は緩み友達とおしゃべりやふざけて遊んだりしていた。
夏子の弟の秋男達悪がき三人は、歩きながら授業で作った紙風船を手の平でポンポンと打ち浮かせ続けるリフティング競いに興じていた。
「あっ!」
秋男が打ち上げをミスった紙風船は、横を走り抜けた大型トラックの巻き起こした風にひっぱられ、車の走る方へ流れてしまう。
秋男は、後続車両の有無を確かめず、紙風船を慌てて追いかけるように飛び出す。
「「「「あぶない!」」」」
下の子の面倒を任されている夏子ら年長組が叫ぶ。
真っ赤な色のアメ車が、クラクションを鳴らすも、恐怖にすくんだ秋男は、車を見つめたまま身体が動かない。
アメ車が、急ブレーキ音を鳴らすより前に、ランドセルを後ろに放った五月が、ナノマシンで強化した脚力で秋男の元に駆けつけていた。
そして五月は、秋男の腰を両手で掴むも、直ぐ間近にアメ車の鼻先が迫っており、衝突回避は免れない状況にあった。
夏子ら子供達が、「秋男!」「さっちゃん!」と悲鳴を上げる。
(ちっ!)
五月は、刹那の時間で決断し、回避行動を起す。
秋男の紙風船を踏みつぶしたアメ車が、キキ──ッという音を発して十m近く通り過ぎてから停車する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
数秒前に時間を巻き戻す。
五月は、自分と同じぐらいの身長の秋男を抱いたまま、アメ車に向って脚から飛び、ボンネットをジャンプ台にしてアメ車を飛び越えると、後続車を避けて道の端に退避する。
駆け寄って来た夏子が、五月と秋男に抱きついて、「よかった、よかった」と言って無事を喜ぶ。
「秋男の馬鹿!」
そう言って、夏子が特大の拳骨を秋男の頭に落すと、車にひかれそうになった恐怖の再発か拳骨のせいかは不明だが、彼は大声で鳴き出す。
そんな子供達の集団に、道路の端にアメ車を停め、車から降りてきた男が、肩をいからせて近づいて来た。
「道路に飛び出すなんて、危ないだろチビ達!」
高級そうな白いスーツを着た長髪の青年が、怖い顔をして秋男と五月を叱りつける。
更に、長髪の青年は、外見が外人である五月に対して、その長身で威圧するように一層接近し、『良くも僕の大切な車を凹ませたな! 高額な修理費請求を覚悟したまえ』と、怒を含んだ声の英語で話しかけてきた。
五月が、長髪の青年の顔を見上げ、アレ?という顔をする。
長髪の青年は、子供だからといって容赦はする気はないのか、五月の非を鳴らして修理費を求め親の名前を教えろと脅す。
『……お~い! 聞いているのかチビ! 親の名前を教えたまえ!』
「両親は、共に死んでいませんが?」
五月の淡々とした日本語と、言葉の意味を理解した長髪の青年が虚を衝かれている間に、彼女はくるっと背を向け、タイヤ痕を確認しに行く。
「……いいかげんに、保護者の名前を教えるんだチビ!」
長髪の青年を無視していた五月であったが、タイヤ痕の確認を終えると、彼の方を向いて目を合わせる。
「タイヤ痕の距離は、約二十mもありました」
「ふん、それがどうした?」
「車の制動距離──ブレーキが作動して止まるまでの距離──は、速度の二乗に比例して長くなります。この道路の法定速度である時速四十kmならば約九mで停止しますので、遵守していれば衝突はありませんでした。しかし、貴方の車のタイヤ痕の距離から逆算すると、法定速度を超過する時速六十km──速度違反を犯した貴方の方に、非がありますよね?」
「……」
長髪の青年と五月が、黙ったまま睨み合う。
「アカツキ、ナガレ」
見知らぬ相手から、己の情報を突然指摘された長髪の青年、アカツキはギョとした顔になる。
「暁財閥当主の次男という地位を利用して、傘下企業に勤める美人を性的に食いまくり、ついたあだ名は大関スケコマ師」
「なっ、何を言い出すんだ!」
プライベートまで指摘されて、アカツキの顔が引き攣る。
その様子に、五月はにやりと黒い笑みを浮かべ、更なる口撃を放つ。
「財閥傘下の企業において要職の立場にある貴方が、速度違反の車で幼い子供を轢き殺しかけ、それを機転で救った少女に対して車の修理費を求めた。そんな噂が世間に流れたら、貴方だけでなく財閥の評判も傷がつくのでは? 昇り調子の目障りな財閥を叩きたい、他の財閥の格好のネタになりますよ?」
「……ちっ!」
舌打ちしたアカツキが、「余計なおしゃべりは、君のためにもならんぞ!」と捨てぜりふを吐き、踵を返してアメ車へ戻って行く。
五月は、ほっと胸をなでおろす。
(プロスさん情報が、あって助かったわ)
五月と長髪の青年のやり取りを、心配そうに眺めていた夏子らに、五月は微笑みながら、「問題は解決したわ」と言って安心させる。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
秋男や五月が被害に遭いかけた交通事故について、帝国では前年だけでも約十七万件発生し、死者数は八千人を超えていた。年々増加する交通事故死者数は、日清戦争での日本側の戦死者数(二年間で一万七千人)に迫る勢いがあり、α世界では一種の戦争状態であるとして"交通戦争"という言葉が生まれた程である。
この背景には、帝国が戦後復興して経済が成長する中で、物流の要としてトラック等自動車の保有台数の急増──戦争終結から四年後の1948年に約二十三万台だったものが、1957年には約二百三十万台──があり、交通事故件数も増加の一途を辿っていた。
また、帝国における自動車保有台数の急増は、交通事故以外にも排気ガスによる大気汚染をもらたしていたが、経済最優先な財閥は、マスコミ等による問題化を握り潰していたため、公害という認識を民衆が持つに至っていない。なお、同盟国である米国では、1947年頃からロサンゼルスで発生する白いスモッグ(光化学スモッグ)が、自動車の排気ガス等石油類の燃焼が原因と判明し、既にその対策のための研究に取り組んでいた。
閑話休題。
交通事故による死者数が急増する中、帝国における交通安全対策に目を向けると、歩道や信号機の整備は非常に遅れており、自動車の取り締まりも不十分であった。交通事故の死者は歩行者が多く、特に幼児や学童が犠牲者となる痛ましい事故の多発に、世間は対策を望む声が高まっていた。
しかしながら、帝国の財政は非常に厳しく──未だに重い支払いが続く戦争賠償と反共の防波堤たる軍事費捻出等──、道路整備に対する国の予算はGNPの〇.七%に過ぎず、ガードレール等交通弱者保護の対策に振り向ける余裕はなかった。
帝国の道路は、帝都でさえ未舗装道路は幾らでもあり、国全体の道路舗装率は二割以下と低く、借款による高速道路建設に当たって派遣されて来た世界銀行の調査団が、工業国としてあるまじき道路網の劣悪さと指摘している。
こうした指摘を受け、帝国は道路という基幹インフラ整備予算を確保するため、最近になってスタートした道路特定財源(揮発油税)による道路整備、また世界銀行からの融資による高速道路(東京-神戸)整備に、ようやく着手出来るようになった。
しかし、自動車交通量の増加ペースに道路の整備が追いつかず、交通安全設備・施設の整備に向けられる予算が後回しになった結果、交通事故による死者や負傷者は増え続け、帝国は"交通戦争"状態にあった。
◇ ◆ ◇ ◆
五月達集団下校グループが、商店街近くの未舗装の路を歩いていた。
「あら?! 皆お帰りなさい」
横道から自転車(α世界のミニサイクル)に乗って現れた、白いエプロンに長いスカート姿の中年の女性が、自転車(軽快車)を一旦止め、娘の美子らに声をかける。
この軽快車は、五月の父の友人である鳳の会社から最近売り出された物で、主婦向けの工夫(おしゃれな色、大きな前籠、バランスが取り易い低重心や長いスカートでも楽に乗れる乗車性、購入し易い月賦制度等)が受け、売れに売れている人気商品であった。
「こんにちは、弓子おばさん。(出前の)器回収、お疲れ様です──出前機(出前品運搬機)は問題ありませんか?」
そう言って五月は、軽快車の後部荷台に備えつけられた出前機──吉乃食堂の名前の入った岡持(食器を棚に入れる金属箱)を釣り下げている物──に視線を向ける。
「ええ、五月ちゃん。道が凸凹でガタガタと揺れても、岡持の中の丼が駄目になる事が全くなくて、本当に助かっているわ」
弓子の好評価に、出前機の”発案者”である五月は顔を綻ばせるとともに、実用品に仕上げた鳳を始め会社の技術者達に感謝の念を抱く。
なお、五月が特許申請中の出前機は、鳳の会社だけでなく他社の自転車やバイクにも取り付け可能であるが、メインターゲットと考えた蕎麦屋よりも、最近店が増えつつある中華店で売れている。その原因は、この時代の蕎麦屋の出前は、十段以上ものそばの入った”せいろ”を肩と片手で支え、片手でハンドルを操作した自転車で街中を走る配達名人を雇っているため、導入を躊躇う店が多かった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それじゃ、解散!」
商店街の西側入り口で、リーダーである夏子の号令により、集団下校グループの子供達は、別れの挨拶を交わしながら蜘蛛の子を散らすように、各自の家に向って元気に駆けて行く。
何人かの子供は、直ぐに家に向かわず、近くのせんべい屋──秋男の悪ガキ仲間の実家──の店先に並ぶ。
店内にあるレトロな扇風機(羽根も本体も鉄製)が風を送って、味付けされたばかりの揚げせんべい(五月が伝授したぼ●ち揚)を冷まし乾燥させており、醤油の良い香りが店の外まで漂っていた。
白い割烹着のおばあさんが、一番安い”おやつラーメン”──ベビー●ターラーメンの物真似品。五月の会社の即席ラーメン製造で出る切れ端や不良品を、この店独自に味付けした物──の小袋を、子供に代金と引替えに渡す。
この”おやつラーメン”は、五月の会社が利益なしで、あちこちのせんべい屋に原料を提供しており、子供らに即席ラーメンを知らしめ、将来消費者にするための策の一環であった。
「秋男、これあげるから元気だせ」
せんべい屋の店先から戻ってきた悪ガキの一人が、未だ泣きべそ顔の秋男に”おやつラーメン”の小袋を差し出す。
すると、泣きべそをかいていた秋男は、コロっと笑顔に変わり、お礼を言って”おやつラーメン”を食べ出す。その現金さに、夏子をはじめ五月らはそろって苦笑する。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それじゃ、また明日」
美子が、五月達に別れを告げ、通りを挟んでせんべい屋の反対側にある吉乃食堂の方へ小走りで向う。
店の前では、白い前掛けをした男が座り込んで、下準備に大量の玉葱を剥いており、切った玉葱が金属製寸胴に山盛りとなっていた。
娘の帰宅挨拶に、包丁をもった手を止めた店主の雄二は、顔をあげて娘に返事を返し、更に通りを歩く五月に気がつくと、立ち上がって頭を下げる。
雄二が、五月に頭を下げたのは訳があった。
料理人としての雄二の腕は凡庸なのに、新しい料理に飛びつくも味は不評で食堂は流行らず、そんな負の連鎖の繰り返しで食堂の経営は厳しい状況にあった。
そんな中、美子を介して外国帰りの五月を知った雄二が、五月に洋食料理を教えて欲しいと言って尋ねて来た。
雄二の他に弓子からも事情を聞いた五月は、洋食よりも受け入れられ易い牛丼を提示し、食堂の経営改善(主に仕入れコスト削減)するため、牛丼にメニューを絞ってはどうかと提案した。
雄二は、子供の提案に難色を示すも、牛丼の美味しさと採算見込みの良さに感心した弓子による強い説得があって、五月の提案を実施する事になった。
吉乃食堂の牛丼は、注文して直ぐ食べられる上に、安くて美味いと評判になり、昼前は大量の出前、昼や夕方・夜は食堂前に行列が出来る程に繁盛するようになった。その恩人である五月に、雄二は毎回頭を下げるのであった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「父ちゃん、ただいま!」
「おう、帰ったか!」
魚屋宮沢と看板のある店の前で、夏子が元気な声で帰宅の挨拶をすると、店にいた角刈り頭に捩り鉢巻の中年男──大介が、威勢の良い返事を返す。
「うん? ケンカに負けたのか、秋坊?」
大介は、秋男の顔に涙の跡が残る事に気づいて尋ねる。
「父ちゃん、聞いてよ」と言って、夏子は秋男が車の前に飛び出し五月に助けられた件を、身振り手振りを交えて説明を始める。
「五月ちゃん、ありがとな!」
「本当に、ありがとうね」
宮沢夫妻がそろって何度も、五月に頭を下げ、感謝を口にする。
「お礼に、店にある好きなのを持っていってくれ!」
大介の言葉に、五月は代金を払うと言って固辞するも、彼の押しに負けて、彼女は店内に並ぶ鮮魚等の商品を眺める。
「……じゃあ、揚げアジの南蛮漬けを二つ下さい」
「たったそれだけか? ──遠慮は無用だ! 辛子明太子も六つ付けてやろう! 五月ちゃんの教えてくれた、揚げ魚の南蛮漬けや辛子明太子は、旦那も子供も喜んで食べると奥様方に大好評で、笑いが止まらないぐらいに売れているお礼だ!」
いい顔で豪語する大介に、五月はそんなに食べられないと断った上で、南蛮漬け等彼女が伝授した商品に対する最近の客の反応を尋ねる。
「このところ暑いから、酢でさっぱりした南蛮漬けは非常に良く売れているわね……それと、官舎(公務員宿舎)の奥さん達は、タルタルソースもかかった物を好む人が多いわね」
五月の質問に、大介に代わって初子が答える。
初子の返事に、五月は地元の人々にタルタルソースがまだ受け入れられていない課題があると、脳内にある補助脳コンピュータ用の生体分子素子メモリーに記憶する。
お礼の品を受け取った五月は、大介と初子にお礼を述べ、鈴子と一緒に通りを進む。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
五月と鈴子が、商店街通りを半ば過ぎまで歩き、でっかく”米”マークが軒先の下の白い壁に描かれている田中米屋の前に来ると、店内から大きな声が聞こえる。
鈴子と五月が、何事かと入り口から中をそっと覗き込むと、高身長な鈴子の父──隆夫に、気質とはいい難い派手な服装の坊主頭の男がくってかかっていた。
「お前ん所で買った米(精米)に小石が入っていたせいで、俺の大事な前歯が欠けちまったんだぞ! 謝罪して慰謝料を寄越せ!」
坊主頭の男は、米粒よりやや小さくて白い石を、右手のひらに載せて証拠だと言わんばかりに隆夫に見せつけ、更に己の口を開いて上顎の前歯が欠けているのを見せつける。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
米屋が精米処理した米の中に、何故小石が混じっているのか。
この当時、コンバイン等の便利な収穫機はまだ登場しておらず、稲の収穫は人が鎌を使って行なう人力作業であった。収穫する稲の中には、雨風で倒伏し田んぼの泥が付着している物があり、その泥の中に交じる小さな石が、米と一緒に米屋へ出荷されてしまう。そうした小石の中には、米屋での精米時における異物除去さえもくぐり抜けてしまう物があり、家庭で米を研ぐときに注意し取り除くしかなかった。
それでも見過ごされる場合があり、ごはんを食べた時に小石を噛んで歯にダメージを受けるのは、日常茶飯事であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「うちの米に限って、そんな事はないな」
隆夫が、坊主頭の男を胡散臭そうに見下ろして告げる。
「己の不始末を誤魔化すな! 土下座して頭を床に付けて詫びろ!」
「そんな必要はないな」
「何だと──っ! 俺様をなめているのか!?」
「詐欺をするなら、相手を良く調べてから来い──うちの精米は、最新式の石抜き装置で選別しているから、そんな小石が交じる事はありえん!」
隆夫が、自信満々な態度で断言すると、坊主頭の男はくっかかかる。
「こんな小さな石を取り除く事が、出来るはずがない!」
「いいだろう、証明してやる。持っている小石を貸せ!」
隆夫は、坊主頭の男から小石を取り上げ、小皿に精米済みの米粒に件の小石を混ぜ、稼働させた石抜き装置の投入口に入れる。
石抜き装置の異物排出口からは、件の小石が見事に分別されて出てきたのを見せられ、坊主頭の男は驚くが、まぐれだと言ってやり直させる。三度やり直させたが、結果は同じであったため、坊主頭の男は、すごすごと帰って行った。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
精米した米に小石が交じる事に関しては、葛葉家に五月がお世話になって直ぐに彼から注意を受けたので、彼女は米を研ぐ時に注意して小石を取り除くようにしていた。
しかし、ある日、白い小石を見過ごして、ごはんを噛んだ拍子に五月の歯が欠けてしまう事が起きた。この時は、デコが保存していた五月の肉体に関する情報体との差分を補う事で、歯欠けを治す事が出来た。
歯欠け事故以降、五月は米研ぎに当たってデコを呼出し、米粒以外を収納により完全に除去するようになって、石噛み事故の再発はなくなった。
その一方で、五月は世間の石抜きの現状が気になり、友達の鈴子の家業が米屋だったので、店主の隆夫に石抜きをどうしているのかと尋ねた。そして、教えられた石抜き装置の限界──ほぼ米粒以下の大きさの物は選別不可能──に呆れてしまう。
お金儲け──ゴホン、日本の米文化のために立ち上がった五月は、α世界の文明の証”Am○zon”のデータセンターに記録してきた特許情報を元に、高性能な石抜き装置を作る事を決意した。
即席ラーメン工場の稼働に目処がついたので、設計図を作った五月は紅井ママの了承を得て、社員の瓜畑に鳳の工場で石抜き装置を試作させた物が、今月(六月)上旬に出来上がり、テストするために鈴子の実家の米屋に持ち込んだ。
今の所、利用者からのクレームは一件もなく、田中米屋の隆夫の評価も文句なしで、全国のお米屋約四万二千店弱に対して売れると判断した鳳は量産に着手する。
なお、石抜き装置の特許は五月と瓜畑の名義で既に出願済みであるが、権利は鳳の会社に譲渡しており、売上げに応じてロイヤリティが二人に支払われる──瓜畑は会社(紅井&N)が立て替え分の借金が減る──事になっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
1958年七月四日(金)
八時五十一分、ヴァイキング1号(軌道船)から分離した着陸船は、火星に向って降下を開始する。
着陸船は、火星の薄い大気圏に突入すると、パラシュートとロケット噴射で減速しながら、北半球の中緯度地方にあるユートピア平原への着陸を試みる。
一方、火星から約五万km以上も離れた地球において、NASA(アメリカ国立航空宇宙局)にある地上管制室では、全員が固唾をのんで火星からの信号(約十分遅れ)を待っていた。
時計の針が、十二時三分を示す。
「!? ──着陸船より信号が届きました! ユートピア平原への軟着陸に、無事成功しました!」
興奮した職員の男が、大声をあげると管制室内は爆発したかのように歓声が起こり、そして人々は拍手をしたり、互いに肩を抱き合って喜び、世紀の大プロジェクトの成功を喜び合う。
そんな中、別の職員の男が、「来たぞ! 来たぞ! 火星の地表映像信号が──っ!」と叫ぶ。
着陸の二十五秒後から、着陸船のカメラがとらえた火星の地表の映像信号が、刻々と地球に届き始める。
翌日、ヴァイキング1号の火星着陸成功の報せは、世界を駆けめぐり人々に驚きを与えたが、特に米国では独立記念日における人類史に残る快挙に国民はお祭騒ぎとなった。
一方、東側の雄であるソ連では、月面到着レースに続いて火星でも西側に遅れをとった事で、クレムリンの筆頭書記の不興を買った火星着陸計画の関係者がシベリア送りとなった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
時は、1958年七月七日(月)に戻る。
大阪にある、倉庫を改造した即席ラーメン製造工場の薄暗い部屋で、男女が作業に熱中していた。
「むっふふふ、この尻と脚線──たまりませんなぁ」
眼鏡をかけた怪しい中年が、鼻息を荒くして、尻から脚にかけてお触りを繰り返す。
「……ウリP、いつまで遊んでいるのよ! 今日は、友達と一緒に七夕祭するから、(会社の)マスコット・キャラ候補である天馬親子の色塗りをさっさと終わらせるわよ」
五月に尻を蹴られた瓜畑は、名残惜しそうに手に持った天馬のフィギュアを、机の上に並ぶ駿馬達の中に戻す。
「なあ~、会長のお嬢ちゃん……新聞で紅丸商事合併記事が出て以降、社長も黒井も姿を見かけないんだが?」
「色々と忙しいみたいよ」
五月が、天馬の子馬の色塗りを止めずに生返事する。
「幾らなんでも、二人とも一度も工場に顔を出さないのは、おかしくないか?」
「?」
五月は作業を中断し、瓜畑の方に顔を向けると、彼は何やら不安そうな顔をしていたので、彼女は彼に言いたい事を促す。
「……従業員の間で、噂が広がっていてなぁ」
「噂──どんな?」
「うちの会社も暁財閥に身売りされ、首切りされるんじゃないかってやつさ」
「身売りなんかありえないわ」
「しかしなぁ……社長の旦那が社長をしていた紅丸商事は、近いうちに暁財閥系の総合商社に吸収されてしまうんだろ?」
「……」
「米国流の容赦ない経営で、急成長中の暁財閥なんかに身売りされた日には、この会社に借金を肩代わりしてもらっている俺なんか、真っ先に首になった上に借金を取り立てられたら、一家で首をくくるしかないんだが?」
心情を吐露した瓜畑に対して、五月は彼を含め従業員の懸念払拭が必要である事を理解した。
「身売りに関しては、全く心配無用よ。紅井家としては、間違っても造反を唆した暁財閥に、金の卵を産むこの会社を売るようなことはしないわ」
「しかしなぁ、会長のお嬢ちゃん。紅井家が、紅丸商事株を全部手放すともっぱらの噂だぞ?」
「それは、紅丸商事の新経営陣側が、合併に伴い示した大幅な人員削減計画に関して、一定の配慮──人数の緩和や転職活動猶予期間を与える事──を条件に、紅井家の持分株全てを安く売却しろと持ちかけて来ているのよ」
「そいつは、幾らなんでもあくどい話だろ──そんな厚顔極まりない申出なんか、社長の家は蹴るんだろ?」
五月が、頭を左右に振る。
「社員を大切にする紅井家としては、紅丸商事の後ろで糸を引いている暁財閥の策に応じるのは業腹だけど、条件を飲んで全株売却する可能性は高いわね」
「そいつは……」
「それだけ社員を大切にする、紅井家のママが社長のこの会社を、暁財閥へ身売りするような事はありえないわ」
「それに……即席ラーメンのテスト販売が良好な中、九月から正式発売に向けて準備を進めているうちの会社は、営業や総務等人材確保が急務。今回の紅丸商事の人員削減は、うちの会社に足りない人材を得る大きなチャンスだし、紅井パパを慕っている紅丸商事の優秀な人材を引き抜く絶好の機会でもあるわ」
「成るほど──今の話を聞いて、安心したぜ」
「子供の私では説得力がアレだから、後日、社長から従業員に説明してもらうようにするけど──多忙で説明が遅れるかもしれないから、貴方の方から従業員に身売りはないと、噂を流しておいてくれない?」
「おお、いいぜ」
「そもそも、私と英国の親友の二人で、この会社の株の過半数を占めている以上、絶対に安売りなんかさせないから安心して」
「おいっ! 高値なら売るつもりかよ!」
思わず、つっこみを入れる瓜畑であった。
「冗談よ、冗談。売らないわよ」
そう言ってテヘペロする五月に、ジト目を向ける瓜畑であった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ユートピア平原に軟着陸した着陸船は、二台のテレビカメラで周囲のパノラマ映像を毎日撮影する他に、大気の温度・気圧や地震を毎日計測して、それらを毎日地球へ電波で送り続ける。
そうした長期的観測とは別に、着陸船は火星表面の土壌サンプルを分析し、人類の大きな関心事項であった異星生命の痕跡探しも行なう。
地球に届いたヴァイキング1号(着陸船)からの情報を、NASAはジェット推進研究所(JPL)他関係機関及び専門家の協力の元で分析を行い、新たな発見のニュースは世界のマスコミを賑わせる。
特に、火星の地表映像をカラー化した写真──砂塵の舞っていない火星の青空──が公表されると、一部の学者が唱える火星運河(赤道付近の長い直線の溝)説とも相まって、青い地球と同じく火星にも生命がいるとのではと、世界的に大騒ぎとなった。
米国の有人月面着陸成功程ではないが、世界に火星ブームが巻き起こる。
そんな中、NASAが最初の火星の青空写真公表から一月も経った頃、急遽火星の空が青色なのは、RGB(赤、緑、青)に分解されたデータの解析ミスであるとし、空一面が夕焼けのような赤い空に公表写真全てを訂正する一幕が起きた。
これ以降、不思議な事にNASAは火星の地表に関する新たな写真を公表する事はなくなり、代わってマスコミが、公表された大量の写真から微妙な形をした石や影が生命や遺跡ではないかと、想像逞しい記事やニュースを報じて、人々に火星生命の存在を期待させ続けた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
NASAが火星の青空写真の訂正を発表する半月程前、ヴァイキング計画の各チーム責任者や専門家が密かに集められ、会議が開かれていた。
「通信不能となった着陸船に関して、通信機能の回復を試みているが、もはや奇跡を祈るしかない状況だ……さて、通信故障の原因究明の手がかりになると思われる、着陸船から届いた最後の映像画像を写真にした物が、各自の手元に配布している。それを見て、意見を求めたい」
「おいおい、こいつが着陸船の通信故障の原因だと? ジョークは止めてくれないか」
白人の肥満男が、一枚の写真──火星の大地を背景に、左側に着陸船の脚の一つが、右側に謎の物体が写った物──を見て文句を言う。
「それは、間違いなく着陸船から最後に送信された映像信号を写真にした物だ」
画像チームリーダーの男は、真剣な声で肥満男に告げる。
「二枚目の写真を見てくれ。それは、同じ地点を一時間前に撮影した物だ」
男達が、二つの写真を見比べる。
「こちらの写真の右側には火星の大地しか写っていない……最初の写真に入り込んだ、この奇妙な形の赤い物体は、近くから転がって来た岩か?」
「このような岩は、着陸船の周囲には存在しない事は確認済みだ」
「では、火星の火山が噴火して飛来した岩又は宇宙から来た隕石の可能性は?」
「地震の計測データから、それはありえませんね」
「この赤い物体が、岩か隕石か議論するとは──優秀な君達が、現実に目を背けるとは、実に嘆かわしい事だ」
新進気鋭の天文学者パーウェルが、両腕を開いて肩を揺らす。
「肩から伸びる右腕と曲げられた手、丸い腹部、そして脚──赤い肌を持った火星の生物と見るのが、最も自然な観察眼ではないかね?」
「パーウェル博士、早計な意見は困ります。着陸船の土壌分析でも、微生物やその痕跡は未だに検出されていませんし」
「迂遠な議論をして時間を浪費するよりも、火星の生物と考えて議論した方が、より早く正解に辿り着けると思うのだが?」
「パーウェル博士! 貴方の学説──火星表面にある沢山の運河等は、知的生命体が建設した物である──は、学者の多くが否定的ではないか」
「諸君! ヴァイキング計画の一番の目的を思い出したまえ! ──そう、地球以外での生命の存在を明らかにするという使命を! 我々は、人類史に残る偉業を成し遂げる手がかりを掴んだのだぞ!」
室内のメンバーの何人かが、パーウェル博士の発する雰囲気に飲まれ、共感したのか何やら考え込む。
「……パーウェル博士は火星の生物だと唱えますが、赤外線がとらえた赤い物体の表面温度は周囲とそれほど変わりなく、生命活動の特徴である熱反応はありませんが?」
「ふん! 火星の生物が、地球の生物と同じく生体反応するとは限るまい」
「それはそうですが……」
「右半身しか写っていない写真ではなく、火星の生物──知的生命体がいる決定的な証拠が必要だ。一号のオービタ(火星の軌道を回る船)に搭載されたカメラは、過去の計画の物よりも高性能であり、火星を移動する生物あるいは人工的な建造物をとらえる事が可能。先ずは可能性の高い、通信途絶した着陸船のあるユートピア平原の地表を綿密に観測すべきだ」
「オービタのカメラによる撮影能力を考えると、それは広い砂漠の中から、たった一粒の宝石を探すようなものだ」
「火星の生物探索を優先した運用は、本来の目的である地形情報の収集に、漏れや遅延と言った問題を招くから反対だ」
「火星における生物探索の方が、学術的意義は高いだろ? 二か月後に到着する2号機のオービタで、地形情報の収集の漏れや遅れはある程度リカバーは可能だ」
「そんな議論より、今は1号の着陸船の通信途絶をどう処理するかだ! あれだけ着陸成功を大々的に宣伝しておいて、一か月もしないうちに故障し観測不能となりましたでは、我が国の面子を汚す事になり兼ねないぞ」
室内に重苦しい空気が漂う中、メンバーの議論は延々と続く。
結局、着陸船の通信故障と火星の生物らしき写真の件は、NASA長官及び大統領まで巻き込んで対応が話し合われ、二つの件は関係者に箝口令がひかれた。
NASAは、着陸船の観測継続を偽装し、オービタによる火星の生物や彼らの建造物の探査も兼ねて、ユートピア平原等の地形情報収集を開始した。また、既に公表した火星の地表写真に関して、赤色を強調する事で生物の存在を気づかれないように色訂正を行なう一方で、マスコミを通じて人々が火星に生物が存在する事への期待を掻き立てる情報操作に腐心する。
一年半以上放置し、申し訳ありません。
別ペンネームで、なろうでオリジナル作品書きに注力していました。
時間が開き過ぎたので、第一話から読み直しつつ全話、誤字脱字、設定
とか修正しています。
なろうの方の作品と並行しつつ、ポチポチとこの作品を更新(多分
亀速度)して行く予定です。
なお、劣等生の作品の方は、たまりにたまった未読本を解消しない
と、書き出せない状況です。なろうの作品が完結してからかな?