東方霊歌録   作:栂池

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ゴメンナサイ………………


第11話 〜千年の記憶、千年の祈り〜

 

 

 

 

 

 ………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ここは……………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………何故世界が緑一色なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 西行妖はどうなった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 妖夢と幽々子様は………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だ朦朧とする意識の中でそこまで考えた時、こちらに近づく少女が映った。

憂えげな、というよりどこか思い詰めたような表情を浮かべ、見慣れぬ和装をやや引きずりながらこちらへ歩いてくる。でも何故か僕に気づく様子はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 僕に気づかない…………?

 

 

 

 

 

 

 

 そう疑問を抱いた時、唐突に意識のもやが取れたように感じた、そうして鮮明になった意識を再び少女へ向け…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕ははっきりと感じた。あの少女は間違いなく幽々子様だ……服装が違うのはあの時先へ行った赤いのと戦ったためだろうか?だとすれば、一体何があったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「幽々子さ………………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 どういうことだろう。自らの意思に背き、その言葉は意識の域を越えることはなかった。あり得ざる裏切りに困惑する間にも幽々子様はこちらへと歩み、手を伸ばせば届きそうなほどの距離で立ち止まると、衣の内から一振りの飾り刀を取り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、白玉楼にあんな飾り刀あったっけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふと浮かんだ疑問は、一瞬のうちにそれを上回る驚愕によって霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 鞘から抜かれた短刀が、幽々子様の首筋を抉った。

 

 

 

 

 

 

 

 幽々子様の身体が糸の切れた人形のように力無く崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

 首筋から溢れる血が胸元まで濡らしていく。

 

 

 

 

 

 

 奇妙な体勢で倒れたまま身じろぎすらしないことが彼女が既に絶命していることを物語っている。

 

 

 

 

 

 

 僕はその光景をただ見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その時だった。

 

 

 

「これで判ったか?」

 

 

 

 どこからともなく語りかけてくる声。

 

 

 

「……どこのどいつか知らんが、今ので一体何を判れてんだ。それに、何故声だけで姿を見せない?」

 

 

 

 

 正直なところ前半は半ば虚勢だ。あんなものを見せられたら、よほど鈍感な奴でもない限り幽々子様が死んだのだと――あれが真実だとするならば――嫌でもわかる。

 

 

 

「まだ解らんのか?西行寺幽々子は死んだ。今から一千年前にな。そしてその原因は私、『西行妖』に在る」

 

「そ、そんな馬鹿な話があるか!そもそもまだ西行妖の封印は解けていない筈だ!」

 

「然り。私の封印は解けていない。故に貴公の面前に立つことは無い」

 

「しかしこうやって声は伝えられたじゃないか」

 

「それはどこぞの阿呆が霊気を奪おうとするからだ。尤も、其奴は自分が何をしでかしたか考えもしとらんようだがな」

 

「何をって、黒いのを倒すのに霊気が必要だっただけだ。桜が妖怪だなんて知らなかったぞ!元々は西行妖の封印を解いて桜を咲かせようとしたんだ」

 

「その封印を解こうとしたことを言っているのだ。私を封印しているものが何か知っているのか?」

 

「何かって、術を使ったんじゃないのか?」

 

「西行寺幽々子の亡骸だよ」

 

「………………」

 

「その様子だと知らなかったようだな。ならもう一つ教えてやろう。西行妖が満開となった時、亡骸は再び地上に現れる。そうなれば幽々子の魂は千年もの時の流れに耐えきれず消滅する」

 

「……………………!!」

 

「さあどうする?初志貫徹して封印を破るかね?それとも…………」

 

「……決まっているだろう」

 

 

 右も左もわからない中で得られた安寧の地をどうして壊すことが出来るだろうか。

 

 

「幽々子様には僕から失敗したと伝えておく。それでいいか?」

 

「それが良かろう。誰も喪わず、傷つけない」

 

「そうか。…………一つ聞かせてほしい。何故あれを僕に見せたんだ?」

 

「………………私はただ、千年前の悲劇を繰り返させたくないだけだ。千年前、私は自身の能力を制御できずに暴走し、結果的に多くの人を喪った。能力の多くを封じられて、私は自身の暴走で何かを喪うことが無くなったのだ。私も今更封印を解こうなどと思ってはおらんし、誰かに解かれても迷惑なだけだ……」

 

「なるほど。ところで、そろそろ元に戻してくれないか?いい加減にしないとあの黒いのが追いついてくると思うんだが」

 

「ああ、それならとうに追いついているぞ」

 

「なんだって?」

 

「随分乱暴に解決しようとしたのでな、暫く相手してやろうと思ったんだがこれが存外しぶとくてな。そろそろ交代してもらおうと思っていたところだ」

 

「それはまた面倒な奴だな。……では、僕はこの辺りで元に戻ろうと思います。この件が片付けばまた話せる機会もありましょう」

 

「まあそう慌てるな。まだ言うこともあるし、第一、どうやったら戻れるか知らぬではないか」

 

「ぐ……」

 

 

 言われて見ればそうだった。

 

 

「……それで言うこととは何だ?」

 

「貴様の『能力』のことだ。その能力でスペルを創り出す発想は悪くない。だが、独力で霊気を集められない以上、そのままでは幾度行っても暴発するのが関の山だろう」

 

「つまり、最初暴発したのは……」

 

「左様。さらに言えば貴様自身も極めて不安定な環境に置かれていたぞ。だからこうして今話している訳だが」

 

「つまり、僕の能力でスペルを創るのは不可能ということか」

 

「そうだ…………だが、無駄にするのは惜しいからな」

 

 

 言うや否や、右目に違和感。

 

 

「今何をしたんだ?」

 

「私の能力の一部を与えた。貴様の言い方に倣うと『気を集め、奪う程度の能力』とでも呼ばれるだろう」

 

「つまり、この能力を組み合わせればスペル創造も?」

 

「まず問題無く出来るだろう。さあ、そろそろ元に戻すとしようか。用があったらまた来るといい。与えた能力が媒介するだろう」

 

「はい。……また参ります」

 

「ついでに言っておくが、今貴様が名乗っている名の真実はいずれ知られるぞ。そうなる前に手を打つんだな」

 

 

 返答する間もなく、再び視界が暗転する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数秒の闇を経て、乗っ取られた時の逆回しのように突然視界が開けた。今度は身体の感覚もあり、金髪の少女がかなり疲弊しながらもどうにか弾幕をかわしきろうとしていた。

 

 

「大分派手にやったらしいな。尤も、僕としてもいい加減終幕にしたいんだけど。どうだ?そろそろ終わらせないか?…………えーと、黒魔女さん」

 

「どうだってな……お前らのせいでこんな鬱々しい処まで来たのにただで帰れるか」

 

「ただって…ここに溜め込んだ春くらいまとめて返すって……言わなかったか?」

 

「言ってないな。だいたい、今まで散々お前らに振り回されて、このまま決着もつけずに帰るつもりはないぜ」

 

「決着つける必要は無いんだけどね」

 

「お前は、な。あいにくと一度始めた喧嘩は最後まで終わらせる主義だぜ」

 

「随分と面倒な奴に絡んじゃったかな、これは」

 

「失礼な。別に時間稼ぎしてるわけじゃないぜ」

 

「これ以上長引かせるわけにもいかないし……」

 

「決着つけるついでで良いが、」

 

「さっさと決着つけてやるさ、黒魔女!」

 

「その『黒魔女』をやめやがれ、料理番!」

 

 

 

 

 互いに通常弾で相手を牽制しながら、少しずつ移動していく。相手は彼女の持つ最大火力のスペルカードを出してくるはず。ならば…………

 

 

「奇想『鏡写しのマスタースパーク』!」

 

「魔砲『ファイナルスパーク』!!」

 

 

 スペル宣言自体は殆ど同時だった。だがスペルカードとしての弾幕を創造する分僕のスペルの発動が遅れた。

 

 僕のスペルは彼女が最初に放った「マスタースパーク」の形を真似て最大限の霊力を乗せたものだ、いくらなんでも押し負けるということは無いはず。僕は虹色の奔流を押し流し黒魔女を吹き飛ばすと信じていた。

 

 

 

 

 

 

 …………だが、2つのスペルのせめぎあいを見てもほぼ拮抗、或いは僕のスペルが若干押されてしまっている。

 

 このままでは相討ちが関の山だけど、今はもう維持だけで限界。成り行きをただ見守ることしかできない。

 

 

「中々やるじゃねえか」

 

「な……中々…………?」

 

「これ相手にここまで耐えた奴は久しぶりだぜ。でも、これで終いだ!」

 

 

 パァァァァン!

 何か破裂したような音を生じさせて、僕のスペル弾幕は消滅してしまった。

 

 障害を排除し急速に迫る虹色の光。もはや回避不可能……!!

 

 

「ぐ…………おぉ!?」

 

 

 直撃を食らってもさほど痛くはない。むしろ問題は高速で弾き飛ばされたせいか結構気持ち悪い。何とかして止まら

 

「ぶげっ……ぐぃ、うぅぅ…………」

 

 止まるんじゃなかった……何か叩きつけられた上にまたどこかぶつけられたせいで声も出せないほど痛い。衝撃で気絶していた方がいっそ楽だった。

 

 

「……い。おい、聞こえてるかー?」

 

「……あぁ…………何とか……」

 

 

 にゅっと出てきたとんがり帽子と金髪の少女が僕の顔をのぞきこんできた。

 

 

「僕の負け……目的は、達成、したはず……」

 

「目的って、何が目的か分かってて言ってるのか?」

 

「ほら、上を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女が見上げた先で、西行妖についた花が散っていく。その花びらは光の粒を散らして、どれも地表に積もらずに消えていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幻想の桜が散ってゆく。

 

 

 

 

 

 

 

 風変わりな春も、今日限りで終わる。

 

 

 

 

 

 

 

「……これで、よかったのか?」

 

 

 

 

 

 元の枝ばかりになった西行妖からは、何の気配も感じられなかった…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういや、お前さん名前は何て言うんだ?」

 

「私?私は霧雨 魔理沙だぜ。そういうお前は誰なんだ?…………の前に立てるか?肩ぐらいは貸すぜ?」

 

「ああ、しばらく貸して……痛くて仕方ない」

 

「ほら、掴まりな」

 

「……おぉ痛え。……で、名前だっけか?」

 

「ああ」

 

「…………佐田(さだ) 清弥(せいや)。呼び方は好きにすりゃいい」

 

 

 

 積もることのない桜吹雪の中を、二人歩いてゆく。

 

 

 

 後に「春雪異変」と名付けられる事件が、幕を閉じた。




妖夢「妖夢と」

幽々子「幽々子の〜」

妖&幽「あとがき座談会〜〜」

妖「……って、何で作者がいないんですか!」

幽「それならそこに作者の書き置きがあったわ」

『遅れてごめんなさい』

妖「………………」

幽「……まあ、今回の更新までほぼ11カ月空いた理由も本人の口から聞きたかったけれども、多分次回にはちゃんと出てくるでしょうし書き置きにもいろいろと「幽々子様」……どうしたのかしら?妖夢」

妖「どうも急用ができたようです。まだ始まったばかりですが今回はこれまでにさせて頂きたいと思います。それでは皆様、また来月お会い致しましょう」

幽「…………よ~む~、まだあの書き置きに続きが~……って、行っちゃったわ。」

幽「作者さん、過労死してないといいわね~。それでは、また次回」

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